労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第67号
HOPPA三鷹不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社(合わせて、又は区別できない場合「会社」) 
命令年月日  令和6年6月4日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y2会社のエリア長B2が、Y1会社(Y2会社の完全子会社)に雇用され、その運営するC保育園で勤務する組合員A2と面談し、組合が計画するストライキの中止を働き掛けたこと(以下「本件言動」)がY1会社及びY2会社の不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、Y2会社に関し、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、文書交付等を命じるとともに、Y1会社に対する申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y2会社は、本命令書受領の日から1週間以内に下記内容の文書をXユニオンに交付しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
 共同代表 A1殿
Y2会社    
取締役 B1
 令和2年3月24日、当社の保育事業部Dエリア長B2が、貴組合の組合員A2氏に対し、個室で1対1で1時間程度面談を行い、ストライキの中止を働き掛けたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

2 Y2会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

3 Y1会社に対する申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y2会社に係る労働組合法上の使用者性について

 組合員A2の雇用主はY1会社であるが、Y1会社が雇用する保育士の入退社等の人事、賃金、労働時間等の労務管理についてはY2会社のマネジメント推進部が所管し、労働条件を決定していることから、Y2会社はA2の労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと認められる。
 したがって、Y2会社は、A2との関係で労働組合法上の使用者に当たる。

2 Y2会社保育事業部Dエリア長(以下「エリア長」)B2は、使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位といえるか

 エリア長B2が把握した担当保育園に必要な人員に関する情報や、採用活動の面接担当者として把握した応募者に関する情報等が、マネジメント推進部と共有され、同情報が同部の保育士らの人事権を行使するに当たり利用されていたところ、部長代行B3が日常的にC保育園を視察していなかったことも踏まえれば、現場責任者であるB2が提供する人事情報や意見が相当程度参考になったものと認められることから、B2は、マネジメント推進部の職務を補佐し、C保育園の保育士らの人事管理について事実上の権限を有していたとみるのが相当である。
 したがって、本件言動当時、エリア長B2は使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位にあったといえる。

3 本件言動は、使用者の意を体したものといえるか

 会社のビラには組合のストライキを令和2年3月26日に実施するとの予告について大変不本意である旨の言及もあり、また、同月24日の本件言動後に会社が組合に送付した同月25日付「ご連絡」には、組合がストライキに踏み切ることは保護者の理解を得られず、また団体交渉の促進にもならないことを懸念する旨が記載されていたことなどからすると、会社は、可能な限りストライキの実施を回避するという意向を有していたと判断される。
 そして、エリア長B2は、会社における三鷹市〔注認可保育園に対する指導や監督を行う権限を有する〕への対応及び組合対応の担当者としての裁量に基づき、三鷹市の担当部長からの要請と会社の組合対応の方針とを勘案した上で、可能な限りストライキの実施を回避するという会社の意を体して、本件言動を行ったと認められる。

4 本件言動は、組合運営に対する支配介入に当たるか

(1)本件言動がなされた状況

 本件言動は、C保育園の保育士らから、C保育園に直接関係する会社関係者としては最上位の職位にあると認識されていたエリア長B2が、業務終了後に退園しようとしていたA2を呼び止めて、園に戻って話をしたい旨を告げ、話合いに応じなくてもよいとの選択の余地を与えるような発言をすることもなく、園内の個室の事務室において二人きりの状況で、いわば業務上の面談の中で、1時間の長時間にわたり行われている。

(2)本件言動の発言内容

 エリア長B2の本件言動における一連の発言は、ストライキの実施によりC保育園が閉園になる可能性や保育士に対する保護者の信頼が失われる可能性を示唆していること等からすれば、A2に対してストライキを中止するよう説得する趣旨から行われたと認められる。

(3)結論

 以上のとおり、本件言動は、労使の緊張関係が高まる中で、C保育園に直接関わる会社関係者としては最上位の職位にあると認識されていたエリア長B2から、ストライキの回避に影響がある人物ではあるものの、組合ではなく一組合員であるA2に対し、1対1で、約1時間程度、個室の事務室で面談を行うという精神的圧力の掛かる状況下でストライキの中止を働き掛けたものであり、本件言動は、ストライキの回避に影響力がある組合員であるA2に対して威嚇的効果を与えるものであるとともに、組合をないがしろにし、組合の存在を軽視するものである。
 よって、本件言動は、A2の労働組合法上の使用者の地位にあるY2会社による組合運営に対する支配介入に当たる。

5 Y1会社に対する申立てについて

 エリア長B2の本件言動は、Y2会社が責任を負うべき行為である一方、Y1会社がB2に対して具体的な指示や要請を行っていた等の事実は認められず、Y1会社が本件言動に関与していたとは認められない。 

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