概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第54号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社 |
命令年月日 |
令和6年7月19日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、Y1会社及びY2会社(以下「会社ら」)が、①先行事件に係る大阪府労働委員会の救済命令(会社らに組合員2名の懲戒解雇がなかったものとしての取扱い及び現職復帰等を命じるもの。再審査係属中)の速やかな履行及び②令和5年春闘要求(賃上げ、年間一時金、福利厚生資金など)に係る団体交渉申入れに対し、現時点において組合と団体交渉をする義務はないとして応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社らに対し、(ⅰ)団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付を命じた。 |
命令主文 |
1 Y1会社及びY2会社は、組合が令和5年 8月9日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 Y1会社は、組合に対し下記の文書を速やかに交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y1会社
代表取締役 B1
当社が、貴組合から令和5年8月9日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 Y2会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y2会社
代表取締役 B1
当社が、貴組合から令和5年8月9日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 |
判断の要旨 |
○争点
本件団体交渉申入書に対する会社らの対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか
1 「組合は労働組合法第2条の定める『経理上の援助』を受けているから、救済を求める資格がない」旨の会社らの主張について
(1)労働組合法第2条ただし書及び同第2号は、「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの」は同条本文の定める「労働組合」に該当しないと定める。そこで、組合が労働組合法第2条ただし書第2号の定める「使用者の経理上の援助を受けるもの」に該当するかについてみる。
(2)①申立外C経営者会〔注〕は平成27年12月から同29年10月までの間、組合に対して環境整備費として少なくとも1億3,390万円を支払っていたが、同年11月には支払を停止したこと、②Y2会社から組合員A2及びA3(以下「本件組合員ら」)に対し、欠勤して組合活動を行った期間についても賃金が支払われていたのは平成30年3月度給与までであったこと、が認められる。
そうすると、上記環境整備費や賃金が会社らの指摘する「経理上の援助」に該当するとしても、本件申立て時点においてこれらの支払が行われていなかった以上、組合は「使用者の経理上の援助を受けるもの」には該当しない。
〔注〕近畿2府4県の生コン製造会社等を会員とする団体。Y1会社が所属していたが、平成30年1月に退会した。
2 令和5年8月9日に組合及び分会が送付した、会社らを連名のあて名とする「団体交渉申入書」(以下「本件団体交渉申入書」)に対する会社らの対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか
(1)本件団体交渉申入書に係る団体交渉が、本件申立て時点において、開催されていないことについては争いがない。
(2)本件団体交渉申入書で申し入れられた事項が義務的団体交渉事項に当たるか
本件団体交渉申入書には要求事項として、①先行事件命令を速やかに履行すること、②令和5年春闘要求(賃上げ、年間一時金、福利厚生資金など)、が挙げられている。そこで、各要求事項が義務的団体交渉事項に当たるかについてみる。
ア 要求事項①(先行事件命令の履行)について
(ア)①先行事件命令〔注〕は、(ⅰ)Y1会社に対し、平成30年9月7日付け及び同月19日付け団体交渉申入れの応諾を、(ⅱ)Y2会社に対し、平成30年9月19日付け団体交渉申入れの応諾を、(ⅲ)会社らに対し、本件組合員らに対する懲戒解雇がなかったものとしての取扱い及び原職復帰を命じていること、②本件団体交渉申入書には、速やかに団体交渉を開催し、円満に解決するよう申し入れる旨の記載があること、が認められる。
これらから、本件団体交渉申入れは、本件組合員らの懲戒解雇等に関する紛争を終結させ、労使関係を正常化するために交渉することを目的として申し入れられたものと解される。そうであれば、本件団体交渉事項は、「団体的労使関係の運営に関する事項」に関する交渉を求めるものであり、義務的団体交渉事項に当たる。
〔注〕大阪府労委平成30年(不)第71号・令和元年(不)第16号不当労働行為審査事件(令和2年9月25日決定)
(イ)この点について、会社らは、①先行事件命令の履行の義務を負うか否かは法律上の解釈の問題であり、現に中央労働委員会に再審査が係属している以上、団体交渉によって解決できるものではない旨、②Y2会社が本件組合員らを懲戒処分としたことは適法有効であるとともに、先行事件命令自体が取り消されるべきものであることから、本件団体交渉申入れに応じる義務はない旨主張する。
しかし、本件団体交渉申入れは、本件組合員らの懲戒解雇等に関する紛争を終結させ、労使関係を正常化するために交渉することを目的とするものであって、先行事件命令の履行義務の有無を議題とするものではない。また、労働組合法は、労使間の紛争が労働委員会又は裁判所に係属する間、労使が自主的に交渉して当該紛争を解決することを禁じる趣旨とは解されない。したがって、この点に関する会社らの主張は採用できない。
イ 要求事項②(令和5年春闘要求)について
要求事項②(令和5年春闘要求)については、本件組合員らの賃上げ、年間一時金、福利厚生資金などの要求を含むことから、義務的団体交渉事項に当たる。
これに対して会社らは、D労組連合会〔注X組合を含む5つの労働組合で構成〕と、Y1会社が脱退した後の「経営者団体」との間の合意に、自分達は拘束されないと主張するが、上記要求事項②は会社らに対する要求事項であるから、かかる主張は採用できない。
なお、本件組合員らはいずれも平成30年10月31日及び同年11月18日に懲戒解雇されているところ、これを労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為とする先行事件命令がなされたものの、会社らはこれを不服として中央労働委員会に対し再審査を申し立てたことから同委員会の命令又は同命令に対する行政訴訟の結果如何によっては、本件組合員らの懲戒解雇処分が適法とされ、従業員たる地位を回復できないことも想定しうる。しかし、団体交渉の申入れは、申入れ時点における組合員の労働条件の向上等を目的として行われるものであるから、使用者が、当該組合員が将来、遡って従業員たる地位を回復できない可能性があることをもって団体交渉を拒否することは許されないと言うべきである。
ウ 以上のとおり、本件団体交渉申入書の要求事項は、いずれも義務的団体交渉事項に当たる。
(3)会社らは、上記で判断した事項以外に、団体交渉に応じなかった正当な理由を主張していない。そして、会社らの主張する理由が採用できないことは上記判断のとおりであるから、会社らが本件団体交渉申入れに応じなかったことにつき、正当な理由は認められない。
3 したがって、本件団体交渉申入書に対する会社らの対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるから、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 |