概要情報
事件番号・通称事件名 |
愛知県労委令和4年(不)第6号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和6年5月13日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、法人が、①組合が法人に対して行った団体交渉申入れについて、組合との直接のやり取りを拒み、労働局を通すことを求めたこと、②申入れに係る団体交渉議題について、法人の考えを書面化して団体交渉までに組合に提示しなかったこと、③団体交渉において、給与の改善、労働環境の改善措置等の事項に係る協議を一方的に打ち切ったこと、④その他が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 令和4年7月3日、法人は、法人の職員を教唆して執行委員長A1(以下「委員長A」に対して暴行及び誹謗中傷を行わせたか。当該行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するか(争点1)
「法人が教唆して法人の職員を暴徒化させたことにより、法人の職員が委員長A1に対して集団で暴行及び誹謗中傷を行った」との組合の主張については、組合の具体的な事実の主張やこれを認めるに足る疎明がなく、法人が当該行為を行ったと認めることはできない。
したがって、本争点に係る不当労働行為性について判断するまでもない。
2 令和4年7月3日、法人は、上記1の現場において警察官及び救急隊員に対して虚偽の説明をしたか。当該行為は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか(争点2)
「法人が警察官及び救急隊員に対して虚偽の説明をした」との組合の主張については、組合の具体的な事実の主張やこれを認めるに足る疎明がなく、法人が当該行為を行ったと認めることはできない。
したがって、本争点に係る不当労働行為性について判断するまでもない。
3 組合が法人に対して行った令和4年7月3日付け及び同月5日付けの団体交渉申入れについて、法人は組合との直接のやり取りを拒み、労働局を通すことを求めたか。当該行為は、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか(争点3)
令和4年7月5日、法人が、組合とのSMSでのやり取りにおいて、「なにかありましたら労働局を通してください直接やりとりはやめておきます」というメッセージを送ったことなどが認められる。
しかし、当該メッセージは、組合から「労働施策総合推進法配慮申出書」〔注 愛知労働局雇用環境・均等部を宛先とし、法人によるパワハラについて謝罪文の掲示を求める旨を記載〕の送付を受けた法人が、(電話での相談において)愛知労働局雇用環境・均等部から、委員長A1と直接やり取りするよりも、紛争調整やあっせん手続を利用することなどを勧められたことを踏まえ、団体交渉や労働局に係る知識を十分に持たないため、組合と直接交渉をすべきでないと考えて送信したものといえる。
その後速やかに、法人が、社会保険労務士及び弁護士の指示を受け、団体交渉に応じる旨を組合が求めた期限までに回答し、実際に団体交渉が開催されたことからすれば、メッセージを送信したことのみをもって、法人が団体交渉を拒否したとはいえず、また、労働局を使って支配介入を行ったともいえない。
ほかに、法人が、組合との直接のやり取りを拒み、労働局を通すことを求めた点について、組合の具体的な事実の主張やこれを認めるに足る疎明はない。
したがって、令和4年7月3日付け及び同月5日付けの団体交渉申入れに係る法人の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当しない。
4 法人が、上記3の団体交渉の議題について、法人の考えを書面化して令和4年7月25日の団体交渉までに組合に提示しなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点4)
(1)一般に、使用者は、要求事項等に対して文書回答を行う法的義務を負わないが、労働組合法第7条第2号により、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負う。
そして、文書回答を行わなかったことが誠実交渉義務に違反するか否かの検討に当たっては、誠実交渉義務が団体交渉の他方当事者である労働組合の合意達成に向けた努力の程度に応じて内容が画される相対的な義務であることから、文書回答が必要な理由や根拠を具体的に説明したか等、文書回答を求めた際の労働組合の態度についても考慮するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに、①令和4年7月8日に組合が(法人の代理人である)弁護士B2宛てに送付した電子メールにおいて組合が求めた「協定書」、「協定案」及び「文章回答」が、どういった内容の文書を指すのか判然としない上に、②法人に対する文書回答が必要な理由や根拠の具体的な説明について、組合の具体的な事実の主張やこれを認めるに足る疎明はない。
また、同月20日に弁護士B2が組合に送付した回答書において、組合回答書の内容に判然としない部分が多々存すること等から、同月25日に開催予定の団体交渉の議題の整理にとどめたいとし、また、「上記議題全てにおいて意見を有しておりますが、詳細は団体交渉の際に申し上げる予定です。」などと記載されていたところ、これに対し、組合が具体的な応答をしたとは認められない。
(3)以上から、組合は、一方的な要求を行うばかりで、その合意達成に向けた努力の程度は、法人にその考えを書面化して同月25日の団体交渉までに提示する義務を課すほどのものであったと評価することはできない。
したがって、法人が、争点3の団体交渉の議題について、法人の考えを書面化して同日の団体交渉までに組合に提示しなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
5 令和4年7月25日の団体交渉において、法人は以下の事項に係る協議を一方的に打ち切ったか。当該行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点5)
(1)「給与の支払」及び「労働環境の改善措置及び謝罪」について
ア 「給与の支払」について
法人側が、委員長A1が入社時に提出した振込先の口座番号が誤っていたため令和4年5月勤務分の給与が振り込めなかったことなどを説明したところ、委員長A1が「そうですね」と応じたことが認められる。
これは、法人側の説明に対し、組合側が納得したものと評価できる。そうすると、給与の支払に係る協議について、法人側が一方的に打ち切ったとはいえない。
イ 「労働環境の改善措置及び謝罪」について
労働環境の改善措置及び謝罪についてのやり取りは行われなかったことから、これら事項に係る協議について、法人側が一方的に打ち切ったとはいえない。
(2)その他の事項について
「休憩の付与」、「時間外勤務」、「令和4年7月3日に発生した職員間のトラブル」、「次回団体交渉」の各事項について、やり取りを終了させる発言をしたのは、法人側ではなく(団体交渉の出席者で、申立外C労連の)A2氏であったといえる。また、委員長A1とA2氏の間で意見が一致していない場面もあったものの、最終的には、委員長A1がA2氏の発言に対して明確に異議を述べることはなかった。これらの事情を踏まえると、法人側が各事項の協議を一方的に打ち切ったとはいえない。
なお、その後においても、各事項について、組合から団体交渉の申入れはなされていない。
したがって、本争点に係る不当労働行為性について判断するまでもない。
6 令和4年7月29日、法人は、D会社に電話をかけ、同会社における委員長A1の評価を下げる目的でA1の個人情報を漏洩したか。当該行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するか(争点6)
「法人が、D会社に電話をかけ、同会社における委員長A1の評価を下げる目的でAの個人情報を漏洩した」との組合の主張については、具体的な事実の主張やこれを認めるに足る疎明がなく、当該行為を法人が行ったと認めることはできない。
したがって、本争点に係る不当労働行為性について判断するまでもない。 |