概要情報
事件番号・通称事件名 |
高知県労委令和5年(不)第1号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和6年7月4日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①法人による、組合員Aに対する訓戒、減給及び出勤停止の各懲戒処分、並びにインターネット閲覧記録の確認と日報の提出及び始末書の提出に係る業務命令、②Aからの書面の受取拒否や受取拒絶、③Aに対する業務命令の履行を促す行為、④Aに対する懲戒委員会にかけることの通告及び書面手交、⑤法人内の電子掲示板への「職員へのご報告」と題する文書の掲示、⑥法人が、上記①等を議題とする組合の団体交渉申入れについて、会場費の折半を主張するなどし、団体交渉が開催されなかったこと、⑦団体交渉の申入れに係る書面について、法人の代理人弁護士に送付せずに直接送付したことを理由に返送や受取拒絶等をしたこと、⑧法人の事務局長Bによる、組合が手交しようとした団体交渉申入書に係る発言などが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
高知県労働委員会は、⑤について労働組合法第7条第3号、⑥の一部について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合から団体交渉の申入れのあった事項(義務的団体交渉事項に該当しないものを除く)についての速やかな団体交渉応諾、(ⅱ)組合の組織、運営に影響を及ぼす可能性のある文書を掲示するなどして、組合の運営について支配介入をしてはならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 法人は、組合から団体交渉の申入れのあった事項(義務的団体交渉事項に該当しないものを除く。)について、速やかに団体交渉に応じなければならない。
2 法人は、組合の組織、運営に影響を及ぼす可能性のある文書を掲示するなどして、組合の運営について支配介入をしてはならない。
3 組合のその余の申立てを、いずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
1 次に掲げる法人の行為は、労働組合の組合員であることや正当な行為をしたことなどの故をもって行われた不利益な取扱いに該当するか(争点1)
(1)組合員Aに対する、①業務外の閲覧の疑いがあることを理由とする、インターネット閲覧に関する業務命令(以下「本件業務命令」)への違反を理由とする令和4年12月16日の訓戒(文書注意)の懲戒処分(以下「懲戒処分①」)、②当該違反を繰り返していることを理由とする令和5年1月26日の減給(給与総額の10分の1)の懲戒処分(以下「懲戒処分②」)、③同じく同年3月24日の出勤停止5日間の懲戒処分(以下「懲戒処分③」)、及び④Aに対する令和5年3月24日付けの業務命令について
ア 使用者は、業務の遂行全般について労働者に対して必要な指示・命令を発する業務命令権を有し、この業務命令が就業規則の合理的な規定に基づく相当な命令である限り、労働者はその命令に従う義務を有する。
イ 本件業務命令は、Aが業務中に、業務に関連性がないと思われるインターネット閲覧をしていることが発覚したため、就業規程第43条第19号に違反する可能性があるとして、就業規程第42条に基づき発せられたものと認められる。
その内容は、①閲覧記録を業務か業務外かに分けること、②個人の携帯電話による閲覧の可能性もあるため、勤務時間中の携帯電話の使用を原則禁止すること、③30分単位で記載した日報を日々提出すること等であり、合理性、相当性がある。また、このような業務命令を、違反行為が疑われる従業員のみに行うか、全従業員に行うかについても、使用者の裁量の範囲に属する。
ウ 業務命令も基本的には義務的団体交渉事項となるが、同事項として団体交渉中であるからといって、業務命令に従う義務がなくなるものではない。そのため、団体交渉中であることを理由にAが本件業務命令に従わなかったことは、就業規程の規定から、懲戒処分事由になり得る。
また、懲戒処分①から③まで及び令和5年3月24日付けの業務命令について、組合員であること等の故をもって行われたと判断し得るような事実は認められず、組合の主張は結局、懲戒処分や業務命令が組合員である労働者に行われたということの指摘にすぎない。
(2)その他について
ア Aからの計8通の書面の受取拒否や受取拒絶について
Aは法人から手交された懲戒委員会への参加諾否や業務命令の履行を促す文書に対し、回答や報告等の書面を組合を通じて法人に郵送等している。これらは弁明の機会の付与に対する回答等として行われたと組合は主張するが、書面の内容を見ると団体交渉等での弁明を求めるものであり、義務的団体交渉事項には当たらないから、法人がこれに応じる必要はない。また、具体的な回答等もしておらず、受取拒否等によって弁明の権利の行使を妨げられたとは認められないから、不利益な取扱いには当たらない。
イ Aに対する計8回の業務命令の履行を促す行為について
使用者が労働者に業務命令を発したものの、労働者がこれを履行しない場合に履行を促すことは、使用者としては当然といえる。また、履行を促したことが、組合員であること等の故をもって行われたと判断し得るような事実も認められない。
ウ 令和5年2月1日に法人内の電子掲示板に「職員へのご報告」と題する文書が事務局長名で掲示されたこと(以下「本件文書掲示」)について
掲示の内容を見る限り、Aが組合に加入して本件業務命令に異を唱えていること等を告知するものではあるが、Aの地位や労働条件等に変更をもたらすものではなく、不利益な取扱いには当たらない。
エ 令和5年3月22日のAに対する懲戒委員会にかけることの通告及び書面手交について
これらは弁明の機会を付与する趣旨と認められ、処分の対象者から処分理由について事情聴取し、処分の決定に先立ち弁明の機会を与えること自体は、処分対象者の地位や労働条件等に変更をもたらすものではない上、手続保障の見地から必要なものであり、不利益な取扱いには当たらない。
(3)以上のとおり、法人の上記各行為は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
2 次に掲げる法人の行為は、正当な理由のない団体交渉の拒否に該当するか(争点2)
(1)計4通の組合からの団体交渉の申入れに係る書面について、法人が団体交渉の会場費の折半を主張する等して、団体交渉が開催されなかったことについて〔注〕
〔注〕認定によれば、令和4年12月12日付けで「本件業務命令の撤回等」、同月21日付けで「懲戒処分①等」、同月27日付けで「組合員Aに関する労働条件、身分一切」、令和5年1月10日付けで「本件業務命令、懲戒処分①及び組合員Aの身分、労働条件等」を議題とする申入れがなされている。
ア 業務命令など使用者の業務指示等の労務指揮権に関する事項も、労働条件に関わるものであり、軽微又は細部にわたるものを除いて、基本的には義務的団体交渉事項になる。
一方、懲戒処分や人事考課については、決定後は義務的団体交渉事項に当たるが、決定過程の段階では、事前協議約款があるなどの特段の事情がない限り、義務的団体交渉事項には当たらない。
本件では、そのような労働協約等が存在する事実は認められないことから、組合やAは、懲戒処分①から懲戒処分③までについての発令前及び人事考課に係る個別面談の段階において団体交渉を行うことなど組合の関与を求めているが、これらの段階では義務的団体交渉事項には当たらない。
イ 一般的に、団体交渉の開催場所は、労働者の就業場所で行うことが団結権維持の観点から適当ではあるが、基本的には労働組合と使用者との協議により決定すべきで、双方の歩み寄りが必要である。また、当事者間に合意や慣行が存在しない場合には、それぞれの側が提示する条件の合理性を判断することになる。
組合が指定した法人内の貸会議室の使用には費用が発生するところ、労使間に団体交渉ルールがない場合、使用者が一方的に会場費を負担することにはならないとの法人の主張も一定理解できる。
しかし、①組合は法人の応接室や組合事務所での団体交渉の提案もしていたにもかかわらず、法人がその場所での開催に応じることが困難である合理的な理由を提示した事実は認められず、また、②法人は、これら以外の無償又は廉価で利用できる場所の提案もしないまま、法人が指定した有料の貸会議室での開催に固執した。これらは実質的に団体交渉を拒否したものと評価せざるを得ない。
ウ なお、法人は、スムーズな団体交渉をするため、組合の見解を書面で明確にするよう求めたことに対して組合が回答しなかったことも団体交渉をしなかった理由であると主張する。令和4年12月6日の第1回団体交渉の交渉状況からすると、組合側にも、団体交渉の一方の当事者として誠実さに欠ける面があると言わざるを得ないが、法人が団体交渉に応じないことを正当化する理由とまではならない。
(2)計20通の組合からの団体交渉の申入れに係る書面について、法人が、組合に対して法人の代理人弁護士に送付するよう伝えた後に、組合が法人に直接送付したものであることを理由に返送や受取拒絶等をしたことについて
弁護士が代理人に選任された場合、窓口を弁護士とし、弁護士への書面の送付を求めることは一般的なことと考えられる。
法人は、単に書面を代理人弁護士に送付するよう求めているものと認められ、組合が何ら理由を示すことなくその求めを無視し、かたくなに書面を法人に直接送り続けたことは、団体交渉の一方の当事者の姿勢や態度として、誠実さに欠けると言わざるを得ない。書面を使用者に直接送付しなければならない理由があるのであれば、その理由を説明し理解を求めるなど、組合にも、団体交渉を求めていくに当たっての姿勢や態度に改めるべき部分があると考える。
しかし、法律上は、代理人が付されていたとしても、本人宛の意思表示自体は有効である上、本件において、団体交渉申入書等を代理人弁護士に送付することが、労使間のルールになっていたとは認められない。また、法人が組合から直接送付された書面を受け取った上で代理人弁護士に送付することは、法人に過大な負担を強いるものとはいえないことから、組合側が法人側の要望を理由を示さず無視していたという事情を考慮したとしても、書面の受取拒否等をしたことが正当とは認められない。
(3)以上から、上記(1)アで義務的団体交渉事項に当たらないと判断した事項に関するものを除いて、法人の各行為は、正当な理由なく団体交渉を拒否したものであり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
3 次に掲げる法人の行為は、組合を職場から排除し、弱体化させる行為等であり、使用者との対等な交渉主体であるために必要な労働組合の自主性、独立性、団結力、組織力を損なう行為に該当するか(争点3)
(1)組合からの計27通の法人に対する団体交渉の申入れに係る書面等及び計16通のAと連名の法人に対する報告書等の受取拒否や受取拒絶について
再三にわたって法人が代理人弁護士に送付するよう組合に求めたにもかかわらず、組合が法人に直接送付したため受取拒否等をするようになり、それでも組合がかたくなに法人に直接送付し続けたという事情が認められることから、団体交渉の拒否に当たるとしても、組合の存在の否定など、組合への支配介入を意図したものとは認められず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。
また、計14通の法人に対するAからの報告書等の書面の受取拒否や受取拒絶については、当該報告書等は、特段の事情がない限り、A自身が自らの名義で提出すべきものであるにもかかわらず、組合名義も添えて送付したために団体交渉申入書等と同様に受取拒否等がされた事情が認められることから、組合への支配介入を意図したものとは認められず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。
(2)懲戒処分①から懲戒処分③まで及びAに対する同年3月24日付けの業務命令について
これらの懲戒処分や業務命令を行うことで組合弱体化や反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることの認識や認容が法人にあったと判断し得るような事実は認められず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。
(3)令和5年1月26日、組合が手交しようとした団体交渉申入書について、事務局長Bが「シュレッダーにかける」と発言したこと(以下「本件発言」)について
事務局長Bは、労働組合法第2条第1号の使用者の利益代表者といえるような職にある者であり、その言動が使用者の言動として使用者に帰責できるような立場にありながら、団体交渉申入書であることを分かっていたにもかかわらず、受け取らなかったばかりか、本件発言をしたことは、適切さに欠ける。
しかし、本件では、法人が組合に対し、団体交渉申入書等は代理人弁護士に送付すること等を求めているにもかかわらず、組合が(Aに対する)懲戒委員会の直前になって突然来訪したものであり、さらには、事務局長Bが代理人弁護士に渡すよう組合に言ってもなお渡そうとしたという経緯があり、組合の行動にも誠実さを欠くところがあったと言わざるを得ない。本件発言がそのような状況下で行われたことを考慮すれば、威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼす可能性があるものとまではいえず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。
(4)本件文書掲示について
組合が法人に事前の連絡もなく、突然来訪した事実が認められるため、法人の職員に対し、組合の来訪について、現在の状況や今後の対応を説明する必要があったとの法人の主張は一定理解できる。
しかし、職員への説明のためであれば、今後の対応として、組合が来所した際は管理職が対応する旨及び不在時の対応について記載すれば足りるところである。それにもかかわらず、その内容を見ると、「X組合なる人物が」「目に余る行為を再三行っています」、「この発端は、ある職員がX組合に加入し、業務上の命令等に対して組合が異を唱えている言動であります」、「警察、労働基準監督署、県労働委員会へ相談する」などと、言い回しからしても、組合組織、運営に影響を及ぼす可能性があるものといえ、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 |