事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4年(不)第12号
九里学園不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和6年4月16日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、大学を運営する法人が、組合員Aの懲戒解雇に関する5回の団体交渉が行われて以降、組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 令和3年2月24日、法人は、准教授である組合員Aに対し、①研究業績を偽り、詐術を用いて雇用され、加えて昇任申請にあたり、その経歴内容を偽ったこと、②脅迫ないしこれに準ずる行為を理由として同年3月31日付けで懲戒解雇することを文書で通知した。
組合と法人とは、Aの懲戒解雇に関し、令和3年4月26日以降11月12日まで5回の団体交渉を行ったが、法人は、第5回の団体交渉において交渉を打ち切る旨を宣言し、その後、団体交渉の終了を通知した。
そして、組合が令和4年1月25日付けで団体交渉を申し入れたところ、法人は、これに応じなかった。
2 この点、法人は、計5回の団体交渉を経て、法人が十分に説明した上で、既に双方の主張は平行線にあり、これ以上の団体交渉を重ねても協議の進展が見込めない行き詰まりの状態に至っており、団体交渉を拒否したことには正当な理由がある旨を主張するので、以下、検討する。
(1)組合が協議を求めた事項のうち、組合員Aの懲戒解雇事由の一つである経歴詐称に係る議論は、第1回及び第2回団体交渉においてなされており、第3回団体交渉以降、組合はそれ以上の追及をしていないから、このことについて法人が更に交渉を尽くすべきだったとはいえない。
(2)もう一つの懲戒解雇事由である脅迫に準ずる行為〔注1〕については、第2回団体交渉以降において、Aが刑事告訴ないし被害届を提出した教授Cの暴行の有無や、それがU大学ハラスメント調査委員会〔注2〕の調査結果報告書(以下「ハラスメント報告書」)で検討されたか否か等について議論がなされている。
〔注1〕認定によれば、Aに対する処分理由書において、Aが学長ら4名について告訴ないし被害届の提出を行っているところ、それら対象行為について刑事処罰されるべき事案とは到底認められないものであり、加えて、同人が、刑事告訴されると警察署で写真撮影、指紋採取などされ、前歴となる旨をことさら申し向けて、同じ職場の教職員をして徒らに不安に陥れ、就業環境を著しく害している旨の記載がなされている。
〔注2〕A及び複数の教職員からハラスメントがなされた旨の申告を受けて設置された外部の弁護士3名による第三者委員会
(3)懲戒解雇事由以外の事項としての教授Cの本件発言〔注3〕については、第3回団体交渉以降において、「お前」、「ばか」以外に本件発言がハラスメント報告書で検討されたか否か等について議論がなされている。
〔注3〕Aが、平成27年3月5日に教授CがAに対して行ったと主張する「インチキ野郎」、「教師になっちゃいけない男だ」等の発言
(4)したがって、団体交渉においては、主に(2)の経歴詐称及び(3)の本件発言について、事実関係の有無等をめぐって双方の主張が展開されていたといえる。
(5)そして、第2回以降の団体交渉においては、(2)の経歴詐称及び(3)の本件発言について、自らの認識する事実関係を主張する組合に対し、法人は、ハラスメント報告書等を根拠に事実関係を説明しており、①弁護士B3の「虚偽の」という発言を取り消すかどうか(第2回団体交渉)、②本件発言以外の教授Cの発言(第3回団体交渉)、③(ハラスメント調査委員会の委員長である)弁護士Dが理事長B1の友人かどうか(第3回及び第4回団体交渉)といった本件解雇等の問題解決にとって不可欠とはいい難い議論が繰り返されていた。
したがって、労使の事実関係に係る認識及び主張は、双方が相応の説明を尽くした上で平行線に至っていたというべきである。
(6)そして、①法人は、Aの懲戒解雇事由等について繰り返し説明を行っており、また、②第4回団体交渉後の令和3年11月5日に送付した回答書において次回で団体交渉を打ち切る旨を予告した上で第5回団体交渉に応じたものの、それでもなお教授Cの暴行や本件発言の有無という従前と同じテーマについて事実認識の相違に関する発言の応酬がなされるにとどまっていた。
これら事情を踏まえると、法人は、双方の事実関係に係る認識が異なる中で、組合が協議を求めた事項について組合の理解を得るべく相応の努力をしていたとみるのが相当である。
3 以上の事情に鑑みれば、①少なくとも第5回団体交渉時点では、事実関係の認識について、組合と法人の双方が相応の主張を尽くした上で平行線に至っており、また、②団体交渉において、Aが、(教組ニュース、アメリカの知人の発言、教授Cの他者からの評価、準教授Eの自殺、準教授Fのゼミ生の自殺、ほかの教授の学歴や単独著書、事務局長B2の他者からの評価、教授Gが準教授Fのゼミ生に陳述書を書かせたことといった)Aの懲戒解雇事由とも教授Cの言動とも関係のない発言を繰り返したことや、③(令和3年7月8日に)追加した議題に関することとはいえ、教授Gの暴行について長々と発言したことにより協議が円滑に進行しなかった事情も踏まえると、交渉が進展する見込みのない行き詰まりの状態に達していたといえる。
そうすると、法人が団体交渉に応じなかったことに正当な理由がないとはいえないから、令和3年11月12日の第5回団体交渉以降、法人が団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。 |