労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年6月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合員Aに対し、①サラリーラダーと称する教員昇進制度(以下「昇進制度」)への参加を認めなかったこと、②次年度の雇用契約更新に係る電子メールを送信したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、組合員A1の昇進制度への参加を認めなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点1)

(1)令和元年11月4日、教頭B2は、A1に対し、昇進制度に参加するのは適当でないと考える旨の記載のある電子メールを送信した。
 このメールが、同制度への参加を認めないことを通知したものであることについて、当事者間に争いはない。

(2)A1の昇進制度への参加を認めなかったことが不利益な取扱いに当たるか

 A1は、昇進制度への参加が認められなかったことにより、次年度に昇進し、昇給する可能性がなくなり、経済的及び精神的な不利益を被ったといえる。したがって、不利益な取扱いに当たる。

(3)法人がA1の昇進制度への参加を認めなかったことが不当労働行為意思に基づくものであったか

ア 「A1が組合員であることを最初に認識したのは令和元年11月10日付け団体交渉申入れの時であり、A1の昇進制度参加不許可を決めた(同年10月の)時点では認識していなかった」旨の法人の主張について

 A1が校長B1(以下「校長」)らに送信したメールから、法人は、遅くとも令和元年8月にはA1が組合に加入したことを認識していたといえる。したがって、法人は、A1の昇進制度への参加を認めない方針を固めていた時点で、そのことを認識していたとみるのが相当である。

イ 法人がA1の参加を認めなかったことが組合員故といえるかどうか

 組合は、法人に不当労働行為意思が存在することの根拠として4点を挙げるが、以下のとおり、いずれもその根拠とはならない。

(ア)「令和元年11月7日の面談において、教頭B2が、肯定的な労働環境を作れていないと主張し、『ユニオンと抗議する』との記載のある令和元年11月6日のメール(以下「1.11.6A1メール」)は脅迫だと発言したことから、法人が、A1が組合とともに抗議することを恐れて、これを昇進制度参加不許可の理由にしたことは明らかである」旨の組合の主張について

 教頭B2は、1.11.6A1メールを受信する2日前には昇進制度への参加を認めないことをメールによりA1に通知している。そうすると、1.11.6A1メールが送信された時点では、法人は既にA1の参加を認めないことを決定していたとみられるから、同メールが法人の決定に影響を与えることはあり得ないし、また、同メールを根拠に、同決定の時点で、法人が組合に対して否定的な感情を抱いていたとはいえない。

(イ)「ラダー「A1」からラダー「B」への昇進制度に参加した者の中で、昇進制度への参加を拒否されたのは、組合加入を宣言していたA1だけであった」旨の組合の主張について

 ①A1が昇進制度への参加を希望した年度には、組合員でない教員1名が参加を希望しながら認められなかったこと、②その後の年度には、当時既に組合加入を公然化していた組合員A2が参加を希望し、認められていることから、法人が、殊更、組合員に対してだけ昇進制度への参加を認めなかったとみることはできない。

(ウ)「法人のA1に対する高い評価が組合加入宣言後には止まった」旨の組合の主張について

 平成30年10月に行われたA1の授業視察の校長によるフィードバック、令和元年6月21日に教頭B3らが署名したA1の平成30年から令和元年の成長ツールと題する書面における記載、令和元年12月10日の折衝における校長の発言などから、法人は、A1が組合に加入したことを認識したとみられる令和元年8月の前後を通じて、A1の教育内容については積極的な評価をしていたとみることができ、A1に対する評価が、組合加入の認識後に低くなったとはいえない。

(エ)「組合加入宣言後の令和元年11月26日の団体交渉で初めて健康問題が昇進制度参加却下の理由として挙がっており、そのタイミングが不自然である」旨の組合の主張について

 校長は、平成30年11月から半年にわたる、A1の業務量の過多に伴う心身の健康の悪化についてのメールや面談による継続的なやり取りを受けて、令和元年5月10日にはA1にメールを送信し、学校として心身の健康について心配している旨を伝えている。
 一方、昇進制度に参加した教員には、通常業務とは別に新たな業務負担(出願等級の基準を満たすことを示す証拠の提出)が生じるところ、令和元年11月26日の団体交渉で校長がA1の健康状態に言及したのは、昇進制度参加を認めなかった理由の一つである参加後の仕事量に関しての説明においてであった。
 これらから、同団体交渉における法人の説明は、不自然とはいえない。

ウ 一方、法人は、A1の昇進制度への参加を認めなかった理由として4点を挙げるところ、以下のとおり、いずれの理由にも合理性が認められる。

(ア)理由①「A1の仕事量増加及び健康面での不安」について

 法人とA1との間では、平成30年11月から半年にわたってA1の業務量の過多に伴う心身の健康の悪化についてメールや面談による継続的なやり取りがなされていた。したがって、法人が、A1の仕事量が増加することでさらに健康面が悪化することを不安視し、昇進制度への参加を認めなかったことには、合理性が認められる。

(イ)理由②「他者を善意に解釈するという教員基準〔注〕5fの欠如」

〔注〕昇進制度においては、学校は、出願した教員が教員基準等の判定基準を満たす否かを判定することとされている。
 右教員基準においては、評価要素として、「4 c 同僚との協働関係」につき「一人一人が協力的な姿勢を持ち、オープンかつ肯定的な教職集団を形成する」等の事項、「5 f 肯定的な職場環境づくりに貢献する」につき「充実した生活を送り、学校の職員協働規範等の内容を実践する」等の事項がそれぞれ挙げられている。

 昇進制度の判定基準の5fで引用された職員協働規範の中に「組織の人ひとりが、たとえ他者の意図することが言葉や行動で明らかでない場合でも、前向きなものであるという前提で業務に当たるべきである」を意味する「肯定的な意図と捉える」を実践することが挙げられている。
 そして、平成31年4月10日以降のA1と校長らとのやりとりからすると、A1は、校長をはじめとする教員らや産業医が業務量の過多による精神面での健康を心配して支援を申し出たり助言をしたのに対し、これを善意に解釈することなく、ハラスメントと解していたといえる。
 そうすると、こうしたA1の態度を、法人が上記5fに該当しないと判断したことには、合理性が認められる。

(ウ)理由③「再雇用をする考えがなく、翌年昇進を検討する昇進制度に参加させる意味がなかったこと」について

 法人は、A1に昇進制度への参加を認めないことを通知する1か月前の令和元年10月には、A1との雇用契約を更新しない方針を固めていたとみることができる。
 そうすると、そもそも昇進制度は次年度の昇進を目的とする制度であるから、次年度の雇用を予定していないことを理由に参加を認めないことには、合理性が認められる。

エ これらから、法人がA1の昇進制度への参加を認めなかったことが不当労働行為意思に基づくものであったとはいえない。

(4)以上のとおり、法人がA1の昇進制度への参加を認めなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いとはいえない。

2 校長が、A1に対し、令和元年12月15日に(現在の契約を続けることで合意することは双方にとって誤りである旨等を記載した)メール(以下「1.12.15校長メール」)を送信したことは、法人による組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点2)

(1)1.12.15校長メールがA1との次年度の雇用契約を更新しないという法人の意思を伝えたものであることについて、当事者間に争いはない。

(2)校長がA1に対し1.12.15校長メールを送信したことは、不利益な取扱いに当たるか

 A1は、1.12.15校長メールで法人の次年度の契約不更新の意思を伝えられることにより、職を失うことへの不安を抱くことになるのであるから、精神的な不利益が認められ、したがって1.12.15校長メールの送信は、不利益な取扱いに当たる。

(3)校長がA1に対し1.12.15校長メールを送信したことは、不当労働行為意思に基づくものであったか

ア 法人が遅くとも令和元年8月にはA1が組合員であることを認識していたことから、1.12.15校長メールの送信時点で、A1が組合員であることを法人が認識していたことは明らかである。

イ 次に、校長がA1にl.12.15校長メールを送信した時期を労使関係との関連でみる。

(ア)①組合が、法人に対し、A1の昇進制度への参加を認めること等の要求について令和元年11月10日付けで団体交渉申入れをしてから本件申立てを行うまでのやりとりや、②右団体交渉申入れ以前に組合と法人の間で接触はなかったことなどから、組合と法人の間の労使関係は、令和元年12月10日の折衝において、法人が組合にA1との雇用契約を更新しない意思を伝達して以降、これに組合が反発して対立関係に至ったとみることができる。

(イ)しかし、法人は令和元年10月にはA1との雇用契約を更新しない方針を固めていたとみられ、また、本件雇用契約の契約書第10条には、契約の更新について、雇用主は契約更新の意思表示を12月15日までにするよう努めるとの記載があったことが認められる。
 そうすると、1.12.15校長メールは、組合と法人の労使関係が対立関係に至る前に、事実上決定されていたA1との契約不更新を、契約書が定める努力義務の期限内に通知したものであって、労使関係が対立関係に至ったことを受けて送信されたものとみることはできない。

ウ 組合は、法人に不当労働行為意思が存在することの根拠として3点を挙げるが、以下のとおり、いずれもその根拠とはならない。

(ア)「令和元年11月7日の面談において、教頭B2が、肯定的な労働環境を作れていないと主張し、『ユニオンと抗議する』との記載のあるI.11.6A1メールは脅迫だと発言したことから、法人が、A1が組合とともに抗議することを恐れて、これを契約不更新の理由にしたことは明らかである」旨の組合の主張について

 法人は、令和元年10月には、既にA1との契約を更新しない方針を固めていたとみられるから、1.11.6A1メールが法人の決定に影響を与えることはあり得ない。

(イ)「令和2年8月からの雇用契約を望んで、契約が更新されなかったのは、組合加盟を公にしていたA1だけであった」旨の組合の主張について

 令和2年に雇用契約の契約時期を迎えた組合員のうち、組合加入を公然化していたA1は雇用契約が更新されず、公然化していなかった組合員A2は更新されたことが認められるが、この事実のみをもってただちに、法人が、殊更、組合員とだけ雇用契約を更新せず、その旨通知したとまではいえない。

(ウ)「法人のA1に対する高い評価が組合加入宣言後には止まった」旨の組合の主張について

 法人のA1に対する評価が、A1の組合加入の認識後に低くなったとはいえない(前記判断のとおり)。

エ 一方、法人は、校長がA1に対して次年度の雇用契約を更新しない理由として、本人の精神的不安定さに起因して、教員基準5f「肯定的な職場環境づくりに貢献する」及び同4c「同僚との協働関係を形成する」について重大な不安要因が認められ、これを和らげる信頼関係を構築することも、この状況を解決するのに必要な医療の助けを得ることも不可能であったことを挙げるところ、以下のとおり、この理由には合理性が認められる。
①校長は、A1が法人での就労を始めて2か月後の時点で、既にA1の業務量が健康に及ぼす影響についての懸念を持ち、業務量増加を抑制するようにとの助言をしていたこと。
②その後のA1の対応をみるに、A1は、校長が、業務量の増加を抑制するようにとの助言をし、繰り返し支援を申し出る中で、健康状態の悪化を学校に訴え続け、最終的に学校の支援の申し出を全て拒否していること。
③こうした状況において、法人が行った助言や支援の申し出に反発し、かつ学校や同僚を非難する内容の発言をするA1について、法人が、教員基準5f及び同4cについて重大な不安要因が認められる中、A1との信頼関係を構築することも、問題解決に必要な医療の助けを得ることも不可能と判断したことには合理性が認められること。

オ 以上から、次年度の契約更新に係る1.12.15校長メールの送信は、不当労働行為意思に基づくものとはいえない。

(4)したがって、次年度の契約更新に係る1.12.15校長メールの送信は、組合員であるが故の不利益取扱いとはいえない。 

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