労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第54号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年5月31日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合からの3回の団体交渉申入れに応じなかったこと、②団体交渉開催を要求する組合の団体行動(サイレントスタンディング)に110番通報するなどして介入したこと、③右団体行動に参加した組合員A2に自宅待機及び長期間のテレワークを命じたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、③について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)団体交渉応諾、(ⅱ)文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年6月24日付け、同年7月14日付け及び同年9月28日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社         
代表取締役 B1
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合が令和4年6月24日付け、同年7月14日付け及び同年9月28日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったこと。(2号該当)
(2)令和4年9月22日から同年10月31日までの間、貴組合員A2氏に対し、自宅待機及びテレワークを命じたこと。(1号及び3号該当)

3 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和4年6月24日付け団体交渉申入れ(以下「4.6.24団交申入れ」)、同年7月14日付け団体交渉申入れ(以下「4.7.14団交申入れ」)及び同年9月28日付け団体交渉申入れ(以下「4.9.28団交申入れ」)に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点1)

(1)4.6.24団交申入れに対する会社の対応について

 会社は、4.6.24団交申入れに係る団体交渉に応じなかった正当な理由として、①義務的団体交渉事項ではないこと、②団体交渉の場で議論すべき内容がないこと、③議論の前提が整理されていないことを挙げる。
 しかし、①について、申入れに係る協議事項は、執行役員B2による労働基準法第34条違反、専務B3による組合員A2への刑法犯呼ばわりなどであるところ、いずれも義務的団体交渉事項に当たる。
 ②について、特段の事情がある場合を除き、会社の書面での回答をもって団体交渉をしたことにはならない。また、団体交渉が一度も開催されない中で、会社が、議論が平行線をたどることが予想されると一方的に考えたことをもって、団体交渉で議論すべき内容がなかったとはいえない。
 ③について、(会社は、「会社は、抗議申入書の内容を恣意的に抽出して、都合のよいと思われる箇所のみ回答したり、問題をすり替えて述べたりする」という組合の指摘についての会社の質問に対する組合からの回答がなく、議論の前提が整理されていないなどと主張するところ、右引用箇所は団体交渉開催を要求するに至る経緯を説明したものにすぎず)不明な点があれば、団体交渉の場で組合に質問することもでき、議論の前提が整理されていないとはいえない。

(2)4.7.14団交申入れに対する会社の対応について

 4.7.14団交申入れに係る協議事項は、(i)A2に対する顛末書提出命令、(ⅱ)この間の懸案事項、(ⅲ)今後の労使協議の持ち方及び便宜供与、(ⅳ)その他付随事項であった。そして、会社は、団体交渉に応じなかった正当な理由として、①団体交渉の場で議論すべき内容がないこと、②そもそも協議事項が不明であり、組合及び会社側において協議の体制が整っていないことを挙げる。
 しかし、①について、会社が、議論が平行線をたどることが予想されると一方的に考えたことをもって、団体交渉に応じなくてよいことにはならない。
 ②について、協議事項(ⅱ)が4.6.24団交申入れの協議事項を指すことは明らかで、(ⅲ)については、団体交渉での組合の提案を受けてから検討すべきものである。さらに、仮に協議事項の内容に不明確な部分があったとしても、事前確認や、団体交渉の場での質問もできるのであるから、それを理由に、団体交渉応諾義務が免ぜられるものではない。

(3)4.9.28団交申入れに対する会社の対応について

 4.9.28団交申入れに係る協議事項は、この間の懸案事項である(i)執行役員B2のパワハラ的言動、(ⅱ)C会社社長が就労環境を不快にしていること、(ⅲ)ライングループによる労働時間管理、(ⅳ)賃金規程で個別に定めるとされている賃金の決定方法、(v)専務B3の窃盗犯呼ばわり、(ⅵ)上記付随事項に加えて(令和4年9月22日の)自宅待機命令及び(令和4年9月22日から10月31日までの)テレワーク命令(以下「本件テレワーク命令等」)であった。
 そして、会社は、4.9.28団交申入れに応じなかった正当な理由として、①議論すべき内容がないこと、②そもそも協議事項が不明であり、協議の体制が整っていないことを挙げる。
 しかし、①について、協議事項について議論の余地がなくなっていたと認めるに足る事実の疎明はないし、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至っていたとはいえない。
 ②について、会社は、協議事項(ⅳ)、(v)について、組合が約束した書面が提出されておらず、議論の前提が整っていない旨主張するところ、組合が何らかの書面の提出を約朿したと認めるに足る事実の疎明はないことなどから、団体交渉開催の支障になるとはいえない。また、(ⅵ)について、会社は、協議事項の具体的事項が漠然不明確などと主張するが、それらを理由に会社の団体交渉応諾義務が免ぜられるものではない。

(4)以上のとおり、4.6.24団交申入れ、4.7.14団交申入れ及び4.9.28団交申入れのいずれについても、団体交渉に応じなかったことに正当な理由があるとはいえないから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

2 サイレントスタンディングに対するB4課長の対応は、会社による支配介入に当たるか(争点2)

 令和4年9月22日午前8時30分から同9時過ぎまで、組合が、団体交渉開催を求める示威行動として、組合員ら7名が会社前でプラカードを掲げて立つサイレントスタンディング(以下「本件行動」)を行い、この間、これに参加している組合員らとB4課長の間でやり取りがあったことが認められる。
 この間のB4課長の組合員らに対する「恐喝ですか。不法侵入で110番しますね。あなたそこまで入っているんで」などの発言は、会社の業務に支障が生じるのを避けるためになされたとみるのが相当で、組合活動としての本件行動に介入し、これを制止又は阻止しようとしたとみることはできない。
 これらから、本件行動に対するB4課長の対応は、会社による組合活動に対する支配介入に当たるとはいえない。

3 会社が、令和4年9月22日以降、A2に対し自宅待機及びテレワーク(以下「本件自宅待機」、「本件テレワーク」。合わせて「本件テレワーク等」)を命じたことは、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点3)

(1)本件テレワーク等が不利益な取扱いに当たるか

 ①本件テレワーク等を命じられる前のA2の担当業務は、商品の受発注及び入出荷業務並びに納品書及び請求書の作成等の業務であったこと、②本件テレワーク等の期間中、A2は、社内の共通サーバーにアクセスできず、社内メールの閲覧と発注の一部のみの業務しか行えなかったことが認められる。
 そうすると、本件テレワーク等の期間中、A2は、社内の情報が共有できない中で、本来自分が担当すべき業務の一部しか行えない環境が1か月以上続くのであるから、精神的な不利益を被ったといえ、本件テレワーク命令等は、不利益な取扱いに当たる。

(2)本件テレワーク命令等は、正当な組合活動をしたことの故をもってなされたものであるか

ア 本件行動は正当な組合活動といえるか

 本件行動の経緯及び目的をみるに、①組合が申し入れた団体交渉を会社が正当な理由なく拒否する中で、会社に対して団体交渉の開催を求めたものであり、②組合がA2の労働条件その他の待遇に関する事項に関して団体交渉の開催を求めることは、通常の活動の範囲内といえるから、本件行動に目的の正当性及び必要性は認められる。また、組合が、プラカードを掲げ、組合員らが課長B4とやり取りをした事実は認められるものの、威圧的な言動は認められず、その態様及び方法に問題があったとはいえない。
 さらに、業務上の支障の程度をみるに、本件行動の中で、組合員らが仕入業者の出入りを阻止する行為などの事実は認められず、また、勤務時間外に短時間で行われ、特段、会社の業務に支障を生じさせたとはいえない。
 よって、本件行動は、正当な組合活動であったといえる。

イ 本件テレワーク命令等と本件行動との関連について

 会社は、A2に対し、本件行動の約1時間後に本件自宅待機を命じ、その後の最初の出勤日に本件テレワークを命じており、本件テレワーク命令等は、いずれも本件行動と時期的に近接してなされたといえる。また、会社は、本件行動が正当な行為でないことを主張し、かつ、これら命令の根拠として、本件行動を見て恐怖を感じて体調を崩した従業員がいたことに言及している。
 そうすると、これら命令は、いずれも本件行動に関連してなされた措置とみるのが相当である。

ウ 本件テレワーク等が命じられた当時の労使関係について

 組合が、A2の労働環境等について令和4年6月8日の抗議申入書で団体交渉開催を求める意思表示をして以降、2回にわたって団体交渉を申し入れるとともに団体交渉開催を督促し、団体交渉開催を求めて本件行動を行うという状況の中で、会社は、一貫して団体交渉を拒否している。
 これらから、当時、組合と会社の労使関係は、A2の処遇や本件行動の是非をめぐって鋭く対立する状況にあった。

エ このように、本件テレワーク命令等は、A2の処遇や本件行動の正当性をめぐって組合と会社の労使関係が鋭く対立する状況において、正当な組合活動である本件行動をしたことの故をもってなされたと言わざるを得ない。

(3)本件テレワーク等を命じた理由に係る会社の主張に合理性があるか

ア 本件自宅待機命令の理由について、会社は、従業員の中に、本件行動を見て恐怖を感じ、当日出社できないばかりか病院にも通うことになった者がいたため、就業規則に基づき、職場秩序維持の観点から発せられた旨主張する。当該従業員の診断書の記載から、本件行動が従業員の精神状態に何らかの影響を与えた可能性がないではない。
 しかし、本件行動は組合が行ったもので、A2が個人として行ったものではなく、また、A2が、殊更、積極的な役割を果たしていたとは認められないことから、A2が本件行動後に社内で勤務することが、当該従業員に出社できないほどの恐怖を感じさせるものであったとは考え難い。
 こうした状況の中で、A2に対し、職場秩序維持の観点から自宅待機を命じる必要性があったとみることはできない。
 しかも、会社がA2に説明した理由は「人数調整のため」であったことが認められ、この事実をあえて否定してなされた会社の上記主張は、不合理であり、採用できない。

イ 本件テレワーク命令の理由について、会社は、当該従業員の体調が落ち着くであろうと考えられる日を期限として、指揮命令権に基づいて発せられた旨主張する。しかし、会社のB5が、「コロナ関係の自宅待機」とA2に説明した事実が認められ、この事実と矛盾する会社の上記主張は、不合理で、採用できない。
 また、診断書の記載内容からは、1か月以上という長期間にわたってA2にテレワークを命じる必要性は必ずしも明らかではない。

ウ したがって、会社がA2に本件テレワーク等を命じたことに、正当な理由はない。

(4)以上を総合すると、会社がA2に対して本件テレワーク等を命じたことは、正当な組合活動をしたことの故をもってなされた不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(5)本件テレワーク命令等は組合に対する支配介入に当たるか

 本件テレワーク命令等は、唯一の組合員であるA2を職場から排除するとともにその組合活動を萎縮させるものといえるから、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 

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