概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和4年(不)第41号・46号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年5月31日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合に対し、これまでの労働協約全てを解約する旨を通知したこと、②会社の本店所在地の土地及び当該土地上のプラント等を売却したこと、③希望退職者の募集を行ったこと、④組合が会社の代表取締役を正当な代表取締役と認めていないこと等を理由として、組合の団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、④について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、(ⅰ)労働協約の解約に係る通知がなかったものとしての取扱い、(ⅱ)団体交渉応諾、(ⅲ)文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、令和4年5月26日付け「労働協約解約通知書」により行った労働協約の解約通知がなかったものとして取り扱わなければならない。
2 会社は、組合が令和4年8月5日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
3 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
年 月 日
X支部
執行委員長 A1様
Y会社
代表清算人 B1
当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和4年5月26日付け「労働協約解約通知書」を貴組合に送付したこと(3号該当)
(2)貴組合が令和4年8月5日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったこと(2号該当)
4 組合のその他の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社が、令和4年5月26日付け労働協約解約通知書(以下「労働協約解約通知書」)を組合に送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)
(1)B2氏の行為を会社の行為と評価し、会社に不当労働行為責任を問うことができるか否か
会社が、各争点での行為時点で、組合員の雇用主であったことに争いはなく、また、労働協約解約通知書の組合への送付、本件土地及び当該土地上の工作物の売却など、各争点に係る行為を行ったのが会社であることも明らかである。
会社は、組合が会社の代表者であることを否認するB2氏の行為を会社の行為と評価することは自己矛盾である旨主張する。しかし、組合が、一方では会社の正当な代表者についての自らの主張〔注 B2氏を会社の法的な代表者であるとは認めていない旨〕を維持し、今後、裁判等で争う権利を留保しながら、他方では、B2氏が実際にその権限を行使している状況において、B2氏を代表者として不当労働行為責任を問うことは現実的な選択であるといえ、不当労働行為救済制度の救済を求めることができないほど矛盾した行為とみることはできない。
したがって、B2氏の行為を会社の行為と評価し、会社に不当労働行為責任を問うことができる。
(2)会社が、労働協約解約通知書を組合に送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか
ア 労働組合法第15条第3項及び第4項は、有効期間の定めがない労働協約については、少なくとも90日前までに文書による予告をすれば解約し得る旨定めている。しかし、労働協約の解約が組合の弱体化を企図してなされたもの、又はそれによって組合活動に重大な影響を及ぼし組合が弱体化したと認められるような場合は、不当労働行為に当たる。
そこで、労働協約の解約理由、解約の手続、当時の労使関係から総合的に判断し、会社が労働協約の解約を通知したことは、組合の弱体化を企図してなされたものか否かについて、以下検討する。
ィ 会社の主張する労働協約の解約理由が正当なものといえるか
(ア)会社は、解約の主要な理由として、①労働協約の締結・維持の前提となった労使間の信頼関係を組合が一方的に破壊した旨、②その中核的なものは、令和3年10月11日の株式会社変更登記申請(以下「変更登記申請」)であり、二次的には、同申請が無効であることが同4年2月4日の裁判所の仮処分決定によって明確に判示されたにもかかわらず、組合が何らの方針を改めず虚妄の主張に固執し続けたことである旨主張する。
そして、①変更登記申請が行われ、その申請書類には、組合が会社の100%株主であるとし、臨時株主総会において、B2氏と取締役B3の解任が可決承認された旨等が記載されていたこと、②令和4年2月4日、大阪地裁において、A3氏〔元副執行委員長〕が会社の代表取締役の地位にないことを仮に定める旨の仮処分決定がなされたことから、当該組合の一連の行為により組合との間の信頼関係が破壊されたとの会社主張は、一定理解できる。
しかし、労働協約の継続により、会社が、いかなる不利益を被るについては具体的な主張がない。そもそも労働協約は複数存在し、協約の内容、締結に至る経緯、解約により組合が被る損害等は、労働協約によって異なるところ、会社がそうした事情を考慮した形跡はなく、包括的に労働協約を解約している。そうすると、必要性を十分検討した上で労働協約の解約を決定したのかについては疑問が残り、むしろ、その内容等を考慮せず、これまで構築されてきた労使関係のルールの全てを否定するものであったといわざるを得ない。
(イ)会社は、解約が必要となった副次的な理由として、①前記仮処分において、組合が「営業譲渡契約書」等の書類を仕込んでいたことが判明した旨、②組合役員が会社の実印等を事実上自由に用いることができる実態にあったことから、どのような書類が知らないうちに仕込まれているのか分からず、労働協約を全面的に解約する必要があった旨、③組合の分会員らが協約等の資料の開示・引渡しを拒み、どのような労働協約が締結されていたのかよく分からないため、包括的に解約した旨など主張する。
しかし、会社が、組合に労働協約の開示を求めたとの主張も疎明もなく、労働協約の開示・引渡しを拒まれた事実も認められない。
確かに、①会社が分会員A2に賃金に関する労使間の協定等の送付を依頼したが、応じられなかったこと、②B2氏と会社代理人弁護士が、分会員A2らに労働協約を含む会社の書類の引渡しを求めたが、執行委員がこれを引き渡さなかったことが認められる。しかし、①は組合に対してではなく、会社の会計担当者としてのA2に対する指示であり、②は労働協約解約通知書を送付した後の出来事である。
このように、会社は、組合に対して、どのような労働協約が存在するかの確認も行っていないから、どのような書類がB2氏の知らないうちに仕込まれているのか分からず、労働協約を全面的に解約する必要があった旨の会社の主張は、単なる憶測に基づくもので、具体性を欠き、採用できない。
(ウ)以上から、解約はやむを得ない措置である旨の会社の主張は採用できず、会社に正当な解約理由があったとはいえない。
ウ 労働協約を解約した手続をみるに、会社は、組合に対し一度も連絡、協議、事前通知等をしないまま、一方的に労働協約解約通知書を送付しており、到底、組合と協議を尽くしたとはいえない。
エ これらを総合的に判断すると、会社の行為は、組合の弱体化を企図してなされたとみるのが相当であるから、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
2 会社が、令和4年6月21日付けで本件土地及び当該土地上の工作物を売却したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点2)
(1)会社の経営不振は、組合の弱体化を企図して会社自身によって作出されたものといえるか否か(争点2及び争点3に共通する問題)
会社の経営不振は、生コン製造に必要な原材料の供給が停止し、令和3年11月4日以降は、生コンの出荷が行われなくなったためといえる。
この点、組合は、原材料の供給停止は会社により事前に計画されていた旨主張するが、変更登記申請により、会社の代表者が不明という状態となるなどの状況において原材料の供給が止まったのであるから、会社の代表者不明の状況になったことにより、供給業者側の判断で供給が停止した旨の会社主張は、一定首肯できる。
一方、組合が挙げる、令和3年10月8日頃のB1氏と分会員A4との電話の内容等は、明確な根拠とは認められない。
以上から、会社の経営不振は、組合の弱体化を企図して会社自身によって作出されたとまではいえない。
(2)会社が、令和4年6月21日付けで本件土地及び当該土地上の工作物を売却したことは、組合に対する支配介入に当たるか
ア 本来、保有する資産をどのように処分するかは、企業の経営判断に属する事項といえ、会社の裁量に委ねられるべきであるが、明らかに組合の弱体化を企図したなどの特段の事情がある場合は、裁量の逸脱として不当労働行為に該当する余地がある。
イ 組合は、①売却の相手方がD会社〔注 会社が加入するC協同組合の副理事長が代表者〕で、②低廉な価格で売却され、③組合との交渉などの手続を踏んでおらず、④会社が廉価で売買しなければならないほど経済的にひっ迫していたとは認められず、⑤組合と会社が対立状態にあり、⑥D会社が購入後直ちにプラントの解体工事に着手したことなどから、当該売却が組合を弱体化させるための支配介入に該当する旨主張するところ、
(ア)本件土地等の売却は、生コン製造等を行わなくなって既に8か月が経過した時期であり、何ら稼働してない会社が経済的にひっ迫していないとは考え難い。したがって、組合が主張する②及び④の理由は認められない。
(イ)売買契約書には、本件土地上には、組合が登記名義人となっている建物が存在することを了承し、会社にその撤去を求めない等の条項があるところ、このような特殊な条件のある土地を購入する相手が限られることは想像に難くなく、D会社を売買の相手方としていたことが不合理な行動とは認められない。したがって、組合が主張する①の理由も認められない。
(ウ)そして、土地を売却するのに組合との交渉が必要だともいえず、また、売却した以上、プラントをどうするかは会社ではなくD会社の判断であるといえる。したがって、組合が主張する③及び⑥の理由も認められない。
(エ)なお、組合する主張⑤の理由について、組合と会社が対立状態にあったことのみをもって、会社による本件土地等の売却が、組合の弱体化を企図したものであったとみることはできない。
ウ 以上のとおり、会社の行為は、組合の弱体化を企図したものとはいえず、特段の事情は認められないので、裁量を逸脱したとはいえない。したがって、組合に対する支配介入には当たらない。
3 会社が、令和4年7月29日付けで希望退職者の募集を行ったことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)
(1)一般的に、希望退職者の募集自体は、応じるか否かが個々の労働者の自由な意思にゆだねられている以上、希望退職者において募集に応じない対応も可能であり、支配介入に当たらない可能性が高いといえる。しかし、会社が組合員を排除し、組合を弱体化させることを企図して希望退職者の募集を行うような場合には、支配介入に当たる可能性がある。
(2)この点、組合は、①希望退職者の募集を必要とする状態は会社が自ら作り出したもので、②会社が団体交渉に応じようとしないことから不当労働行為意思が推認され、当該会社の行為は支配介入に該当する旨主張する。
しかし、経営不振が会社自身によって作出されたとまではいえない。
また、団体交渉に応じないことのみをもって希望退職者の募集行為までが不当労働行為になるといえるものではないし、会社が希望退職者募集通知を送付した時期は、会社が稼働しなくなってからほぼ9か月が経過しており、会社が希望退職者募集を行うことが不合理、不自然な行動とみることもできない。
そうすると、会社が団体交渉に応じないことを考慮しても、会社の対応が不当労働行為意思によるものとはいえない。
(3)以上のとおり、会社が組合員を排除し、組合を弱体化させることを企図して希望退職者の募集を行ったとまではいえず、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たらない。
4 令和4年8月5日の団体交渉申入書(以下「本件申入書」)に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点4)
(1)組合が、本件申入書により団体交渉を申し入れ、これに係る団体交渉が開催されていないことには争いがない。
(2)本件申入書の要求事項は、①希望退職者募集通知による希望退職者募集を撤回し、従業員の雇用の確保及び賃金の支払等について具体的見通しを説明すること、②その他関連事項であり、これらは義務的団体交渉事項である。
(3)そうすると、会社が正当な理由なく団体交渉申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となるところ、会社は、「主位的主張」として、組合が「代表者」と認めないB2氏の行為をもって会社に不当労働行為責任を問うことはできない旨主張する。
また、「予備的主張」として、①組合は、B2氏を会社の代表者として認めてくれないので協議が著しく困難であること、②団体交渉の目的である労働協約の締結ができないこと、③分会員らはB2氏の使用者としての指示に従わないので、団体交渉によって問題を解決できる状況にないこと、④組合は、団体交渉の前提となる労使の信頼関係を悪意で破壊したことを挙げ、団体交渉拒否に正当な理由がある旨主張する。
(4)そこで検討するに、まず、会社の主位的主張は、前記1(1)のとおり認められない。 また、予備的主張についてみるに、
ア 予備的主張①について
組合は、B2氏を代表取締役と明記した本件申入書をもって、会社に団体交渉を申し入れている。また、その要求事項は、希望退職者の募集や従業員の雇用確保、賃金の支払等に関することであるから、会社の代表者としての権限を行使しているB2氏は、団体交渉において、当該要求事項について、説明や協議を行うことは可能であったといえる。
イ 予備的主張②について
希望退職者の募集の撤回等のような、会社側に義務を負わせる内容の合意を求める要求事項について、協定が締結できた場合に、組合が、B2氏が会社の正当な代表者ではないとして、有効なものではないと評したり、覆滅させたりする、と考えることは、現実的ではない。そのような会社の懸念のみをもって、団体交渉拒否の正当理由とすることは認められない。
ウ 予備的主張③について
そもそも、分会員らがB2氏の指示を聞かないことをもって、どうして団体交渉によって問題を解決できる状況にないことになるのかにつき、会社の主張が明確ではない。また、組合の要求事項からすれば、仮に会社の主張する行為が分会員らにあっても、団体交渉による問題解決を妨げるとみることはできない。
エ 予備的主張④について
会社が組合に対して大きな危機感や不信感を持つのは当然のことといえ、当該組合の一連の行為により信頼関係が破壊されたとの会社の主張は、一定理解できる。しかし、希望退職者募集の撤回や従業員の雇用確保、賃金の支払等に関する事柄は、義務的団体交渉事項であり、たとえ会社の主張に一定理解できる点があるとしても、それをもって、団体交渉を拒否することが正当化されるとまで判断することはできない。
オ 以上から、会社が予備的主張として挙げた4点については、いずれも、団体交渉を拒否する正当な理由として認めることはできない。
(5)以上のとおり、会社は、義務的団体交渉事項に係る本件団体交渉申入れに対し、正当な理由なく応じなかったものであり、かかる会社の行為は、労働組合法第7条第2号に当する不当労働行為である。 |