概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第8号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年6月7日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合が、会社に対し、組合員Aが申立外C会社で就労中に(注 求人に直接応募)、会社の代表者から大声で罵られたなどとして、これに係る謝罪や慰謝料等を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社が、自らは有料職業紹介事業者であり、当該組合員とは雇用関係にないとして、これを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社は、組合員Aの労働組合法上の使用者に当たるか(争点1)
(1)組合員Aは、令和4年9月28日から約1週間、神戸市内の百貨店の催事場において、和菓子を製造販売する申立外C会社の製品の販売業務(以下「本件業務」)に同会社のパート従業員として従事した。
本件業務においてAと会社との間に雇用契約関係がなかったことについては当事者間に争いはない。
(2)もっとも、労働者と雇用関係がない事業主であっても、雇用主を実質的に支配するなどして、団体交渉議題となっている労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合、その限りにおいて、労働組合が申し入れた団体交渉に応ずべき労働組合法上の使用者に当たる。
令和5年1月10日付け団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)の要求事項は、「本件業務における社長のハラスメントに該当する言動〔注〕により悪化した労働環境に誠実に対応すること」であると解されるので、会社が、この要求事項について、組合との団体交渉に応ずべきAの労働組合法上の使用者といえるかについて、以下検討する。
〔注〕認定によれば、社長は、上記催事場を訪れ、本件業務に従事していたAに対し、ここで何をしているのか、会社の以前からの紹介先にそのようなことをされると困る、などと述べたとされる。
ア まず、本件業務に係る会社とC会社との関係についてみる。
C会社は、会社の有料職業紹介事業の取引先の一つであり、会社からAの紹介を受けたことがあるものの、本件業務に関しては会社に求職者の紹介を依頼しておらず、Aは直接C会社の求人に応募した。このことからすると、会社は、本件業務について、C会社とAの間の雇用関係の成立に関与していない。
そのほか、会社が本件業務に関与していたことをうかがわせる事実もない。
そうすると、本件業務に関して、会社とC会社との間に、支配関係等何らかの関係があったとはいえない。
イ 次に、会社とAの関係を労働条件の観点からみる。
Aは、本件業務の時点で会社の有料職業紹介に登録している求職者であり、本件業務以前に会社からC会社の紹介を受けたことがあったものの、本件業務については、会社の紹介を受けることなく、C会社と直接、パート従業員としての雇用契約を締結していた。そうすると、本件業務の時点において、会社とAは、有料職業紹介事業者と、そこに登録して紹介を待つ求職者の関係にあった。
会社は、本件業務について、Aの給与を支払っておらず、勤怠管理もしていなかった。そのほか、会社が、本件業務におけるAの労働条件に何らかの関与をしたと認めるに足る事実の疎明はない。
これらからすると、会社は、本件業務におけるAの労働条件について、何らかの関与をしていたとみることはできない。
ウ 以上を踏まえると、社長のAに対する言動は、有料職業紹介事業者の代表者として、その取引先と登録求職者が自らの紹介を経ずに労働関係を成立させたことについて登録求職者であるAに苦情を訴えたとみるのが相当で、本件業務の労働環境に関する事項である本件団体交渉申入れの要求事項について、労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者としてなされた言動とはいえない。
(3)組合は、Aと会社の間に労使関係が存在すると主張し、その根拠として、①社長がAに対して、「会社を通さないで何をしているのか」「こんなことをされては困る、手数料が入らない」などとハラスメントに当たる言動をしたこと、②会社がAに「勤務報告書」を提出させていること、③Aが、親が死亡したときに休暇を申し出たのに対して、社長が、それは困ると述べたこと、を挙げる。
しかし、①の言動が、本件団体交渉申入れの要求事項について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者としてなされた言動であるとはいえないし、②の「勤務報告書」は、本件業務に関してAから会社に提出されていた事実自体が認められず、③の社長の発言は、そもそも本件業務に関するものではないから、組合の主張は採用できない。
(4)以上のとおり、会社は、本件団体交渉申入れの要求事項について、労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、したがって、組合との団体交渉に応ずべきAの労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。
2 本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2)
組合が、令和5年1月10日付けで、会社に対して、本件業務における社長の言動に係るAへの謝罪及び慰謝料の支払を要求事項として本件団体交渉申入れをしたのに対し、会社は、同月18日に組合に回答書を送付し、会社が使用者に当たらず団体交渉に応じる義務がないことを理由に団体交渉を拒否した。
そして、会社がAの労働組合法上の使用者に当たらないことは前記1判断のとおりである。
したがって、本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるといえないから、組合の申立ては、棄却する。 |