労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和4年(不)第18号
氏家工業等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和6年3月15日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合がY1会社及びY2会社(組合員AをY1会社に手配)に対し、Y1会社の工場内で発生したAの労災問題等について団体交渉を申し入れたところ、(1)Y1会社が、①交渉議題については団体交渉当日に回答するとしたこと、②組合の都合により来社して団体交渉を行うことができないのであれば、団体交渉ができる状態になってから改めて連絡するよう回答したこと、並びに(2)Y2会社が、①Aの使用者ではない旨及び組合が提示した日時には団体交渉に応じられない旨を回答したこと、②組合に対し、Aが組合に加入したことを証明する書面を要求したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員Aは、Y2会社との関係において、労働組合法上の「労働者」に当たるか否か(争点1)

 Y2会社は、Aがいわゆる一人親方であり、Y2会社とAが交わした契約は、請負ないし委託契約の性質をもつもので、労働契約を締結した事実はない旨主張する。
 しかし、労働組合法上の「労働者」については、契約形式にかかわらず、同法第3条の定める「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」に当たるか否かという観点から実質的に判断すべきである。具体的には、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束及び⑥顕著な事業者性の各要素について、就労実態に即して、AがY2会社との関係において労働組合法上の「労働者」といえるかどうか、以下検討する。

(1)事業組織への組入れ

 Y2会社社長Bは、Aに対し、業務内容、就労時間、就労場所、報酬等の条件を伝え、Aは、Bから示された条件を前提として、Bが行った就労希望者の募集に応じていることからすれば、Y2会社とAとの間で契約(以下「本件契約」)が口頭で締結されたことが認められる。Y2会社は、溶接作業の技術を有する人材を必要とする会社に対し、会社が提示した条件に該当する人材を手配する業務を行っていたところ、本件契約に基づき、溶接作業の資格を有するAをY1会社で溶接作業に従事させている。このことから、Aは、Y2会社の事業組織に組み入れられていたと認められる。

(2)契約内容の一方的決定

 本件契約が口頭で締結されるに当たり、Y2会社社長Bは、Aに対し、業務内容、就労時間、就労場所、報酬を伝えており、Y2会社が契約内容を一方的に決定していたと認められる。

(3)報酬の労務対価性

 本件契約では、具体的な成果物について特に定められておらず、Aは、溶接作業を1時間行うことの対価として、報酬をY2会社から受け取ることとなっており、Aに対する報酬は仕事の完成に対する対価ではなく、労務の提供に対する対価と認められる。

(4)業務の依頼に応ずべき関係

 業務の依頼に応ずべき関係にあったか否かは、労務供給者が就労開始以降に、使用者の個別の依頼に対して拒否する自由を有するか等の事情から判断されるところ、Aは、令和4年4月25日の就労開始直後に、身体の広範囲に及ぶ熱傷を負った(以下「本件事故」)ため、同人がY2会社との間で実際に業務の依頼に応ずべき関係にあったか否かは不明である。

(5)指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束

 Y2会社社長Bは、Aが溶接作業を開始する前にY1会社(の所在地)を離れており、Aは、Y2会社の指揮監督下で労務提供を行っていたとは認められないものの、本件契約においてAは、就労時間及び就労場所についてはBから指定され、Y2会社から一定の時間的場所的拘束を受けていたと認められる。

(6)顕著な事業者性

 Aは、①Y2会社社長Bから就労時間及び就労場所の指定を受け、報酬を1時間あたりの単価で受け取ることとなっており、②令和4年4月22日から本件申立て(令和4年10月24日)までの間、Y2会社が手配したY1会社以外では就労していないことから、Aに顕著な事業者性を認めるに足る事情はない。

(7)以上のとおり、Aについては、①Y2会社との関係で、同社の事業組織に組み入れられていたと認められること、②同社が契約内容を一方的に決定していたこと、③受け取ることになっていた報酬は、労務提供の対価と認められること、④業務について、同社から時間的にも場所的にも拘束されていたと認められること及び⑤顕著な事業者性を認めるに足る事情はないことからすれば、Aが同社との間で実際に業務の依頼に応ずべき関係にあったか否かは不明であり、また、同社の指揮監督下で業務を行っていたとは認められないとしても、Aは同社との関係において労組法上の「労働者」に当たる。

2 AがY2会社との関係において労働組合法上の「労働者」に当たる場合、組合の令和4年9月6日付け「団体交渉要求書」と題する文書(以下「4.9.6団交申入書」)に対し、同社が同月12日付け文書(以下「4.9.12文書」)を送付し、同社は、同人との関係において「使用者」ではない旨及び組合が提示した日時には、団体交渉に応じられない旨を回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)

 Y2会社が送付した4.9.12文書は、①同社としてはAの使用者であるという認識がないため、同社を使用者と考える組合の見解を示して欲しい旨及び②組合が団体交渉の開催日として提示した令和4年9月13日は、都合がつかない旨の回答をしたもので、いずれの内容も、同社が組合との団体交渉を拒否したものとは認められない。
 以上から、組合の4.9.6団交申入書に対するY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

3 AがY2会社との関係において労働組合法上の「労働者」に当たる場合、同社が組合に対し、4.9.12文書を送付し、同人が組合に加入したことを証明する書面を要求したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

 4.9.12文書の冒頭において、Aの早期回復を願う旨が記載されていることから、Y2会社は、対象となる組合員を特定しており、人定に係る要求が必要であったとは認められない。
 しかし、①Y2会社は、4.9.12文書により、Aの組合加入を証明する書面を組合に要求したにすぎず、加えて、②組合は同文書に回答をしていないし、③同社は組合からの回答がなかったことを理由として団体交渉を拒否するなどの行為を行ったわけではない。
 したがって、組合の主張する、組合とAとの関係に疑念及び不安が生じ、組合と組合員の団結が揺らいだという事情は認められない。
 以上から、Y2会社が、組合に対し、Aが組合に加入したことを証明する書面を要求したことは、組合の運営に対する支配介入には当たらない。

4 Y1会社は、Aとの関係において、労働組合法第7条の「使用者」に当たるか否か(争点4)

(1)AとY1会社との間で労働契約が締結された事実は認められないから、同社は、直ちに団体交渉応諾義務を負うものではない。しかし、労働組合法第7条の「使用者」には、労働契約上の使用者のみならず、当該団体交渉議題に関する限り、雇用主と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者も含まれると解すべきである。

(2)組合の団体交渉申入書によれば、Y1会社に対する交渉議題は、①本件事故の原因・背景となる安全管理に関する問題と②Aの労働契約に関する問題であると認められる。

(3)これらのうち、①のAの労働契約に関する問題については、AとY1会社との間で労働契約が締結された事実は認められないことから、その限りにおいて同社に団体交渉応諾義務は生じない。
 一方で、②の本件事故の原因・背景となる安全管理に関する問題については、労働契約が締結された事実はないとしても、Y1会社はAとの関係で、雇用主と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位に当たるか以下検討する。

ア Aは、Y1会社により出勤状況をタイムカードで管理されることとなっており、かつ、同人は、同社工場内の作業場所で、同社から貸し出されたサンダー、溶接機等を使って溶接作業に従事していた。このため、Y1会社は、Aの就労時間、就労場所及び作業環境を管理していたと認められる。

イ また、Y1会社は、Aに対し、①溶接作業を行うために必要な作業指示、②同社製品としての品質を保つために注意すべきこと等に係る指示、③溶接作業などにおける安全管理に関する注意ないし指導を行っていた。

ウ 以上から、Y1会社は、Aの就労時間、就労場所及び作業環境を管理し、同人に対して具体的な作業指示を行い、そのような状況下で本件事故が起きたことを考慮すれば、本件事故に関する安全管理について、同社は現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと認められる。

(4)したがって、Y1会社は、Aとの関係において労働組合法第7条の「使用者」に当たる。

5 Y1会社がAとの関係において労働組合法第7条の「使用者」に当たる場合、組合が4.9.6団交申入書記載の交渉議題について事前回答を要求したことに対し、同社が同月8日付け文書(以下「4.9.8文書」)を送付し、交渉議題については団体交渉当日に回答するとしたことは、不誠実な交渉態度に当たるか否か(争点5)

 Y1会社は、4.9.8文書において、令和4年9月15日に団体交渉を行うことを提案し、約1週間後の団体交渉の場で交渉議題に対して回答する旨述べている。
 また、同文書に対する回答として、組合は、令和4年9月9日付け文書(以下「4.9.9団交申入書」)を送付しているが、同申入書では、Y1会社が交渉議題について団体交渉当日に回答するとしたことに対し、何ら言及しておらず、団体交渉の日程及び場所の調整を行っている。組合が、Y1会社からの事前回答は、団体交渉において必要不可欠と判断しているのであれば、組合は、4.9.8文書による回答を受けて、同社に対して事前回答について何らかの対応をすべきであったといえるが、組合は何らの対応もしていない。
 以上から、組合の4.9.6団交申入書記載の交渉議題への事前回答の要求に対するY1会社の対応は、不誠実な交渉態度には当たらない。

6 Y1会社がAとの関係において労働組合法第7条の「使用者」に当たる場合、組合の令和4年9月9日付け「ご連絡」と題する文書に対し、同社が同日付け文書(以下「4.9.9文書」)を送付し、組合の都合により同社に来社して団体交渉を行うことができないのであれば、団体交渉ができる状態になってから改めて連絡するよう回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点6)

 Y1会社が組合に送付した4.9.8文書には、組合が提示した団体交渉の日程は都合がつかないため、令和4年9月15日に団体交渉の開催を希望する旨記載されており、Y1会社は、団体交渉に応じる意向を示している。
 さらに、同文書には、①本件事故の現場を見てほしいので、改めてY1会社の会議室を団体交渉の場所とすることを求める旨及び②組合が団体交渉を行うことができる状況になってから再度連絡して欲しい旨が記載されており、Y1会社は、団体交渉の場所について調整を求めている。組合とY1会社との間で、団体交渉の開催場所をめぐって意見対立があったものの、組合の求める開催場所以外の場所で行いたい旨を希望したことをもって、同社が団体交渉を拒否したとはいえない。
 以上から、組合の4.9.9団交申入書に対するY1会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

7 以上みたとおり、本件申立ては理由のないものとして、棄却を免れない。 

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