労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第60号・第72号、令和4年(不)第19号・第20号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年5月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①A2の労働時間短縮を議題とする令和2年12月10日など4回の団体交渉における会社の対応、②会社が、組合員A3に係る問題についての令和3年11月19日付け団交申入れに対し、会社の従業員ではないとして応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2の労働時間短縮を議題とする団体交渉に係る誠実応諾、(ⅱ)文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和2年7月18日付けで申し入れた組合員A2の労働時間短縮を議題とする団体交渉に誠実に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社         
代表取締役 B1
 当社が、貴組合が令和2年7月18日付けで申し入れた貴組合員A2氏の労働時間短縮を議題とする同3年4月1日、同月28日及び同年6月22日の団体交渉において、協議に誠実に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 A2の労働時間短縮を議題とする令和2年12月10日、3年3月11日、同年4月1日、同月28日及び同年6月22日の団体交渉(以下それぞれ「2.12.10団交」、「3.3.11団交」、「3.4.1団交」、「3.4.28団交」及び「3.6.22団交」)における会社の対応は、不誠実団体交渉に当たるか。(争点1)

 組合は、会社の不誠実な対応として4点を挙げるので、以下検討する。

(1)組合主張①〔2.12.10団交での組合員A2の労働時間短縮に係る合意を令和3年1月7日に反故にした〕

ア 2.12.10団交におけるA2の労働時間短縮についての協議後、B2〔注1〕は、令和3年1月7日の組合からの電話において、「(H工場のオーバーホールによる閉鎖時に〔注2〕A2の担当物件のうち3か所を自分(B2)が回収することで労働時間を短縮するとの団体交渉での約束は月曜日に限定されたものである」旨述べた。
 これについて、組合は、B2が、2.12.10団交では月曜に限定するとは一切述べていないのに、令和3年1月7日にはその旨を述べて2.12.10団交での合意を反故にしたため、同団交での協議が遡って不誠実団体交渉となった旨主張する。

〔注1〕申立外C社(産業廃棄物収集運搬業)を個人事業として営み、また、申立外D社(一般廃棄物収集運搬業)の代表取締役

〔注2〕廃棄物を搬入する大阪市の処理工場は4つあるが、最も近いH工場が使用できないときは、業務に要する時間が変動するとされる。

 そこで、2.12.10団交での合意の成立状況をみるに、そのやりとりから、「H工場が止まった日にはA2の代わりにB2が一部を回収に回る」ことで、労使間に合意が成立したとみることができる。
 また、同団交での組合の発言から、それ以前の団体交渉では、H工場が停止したときのうち、特に月曜日の労働時間短縮が協議の中心になっていたと推認され、B2の発言は、自らが回収に回るのを月曜日に限定することを前提としてなされたとみるのが相当である。
 したがって、そもそも組合が主張する合意が2.12.10団交で成立していたとまではいえないから、組合の主張は前提を欠き、採用できない。

(2)組合主張②〔3.3.11団交において、上記①のA2の労働時間短縮に係る合意を反故にしたことについて主張を二転三転させ、これまでの協議における誤認識を並べ、まともな協議を成立させなかった〕

 3.3.11団交におけるやりとりから、会社は、2.12.10団交の合意では、B2が3か所の回収をするのは月曜日に限定したものであるとの自らの解釈につき、根拠を示しながら説明していたといえる。この点、組合は、会社が主張を二転三転させ、これまでの協議における誤認識を並べ、まともな協議を成立させなかったなどと主張するが、採用できない。

(3)組合主張③〔3.4.1団交において、団体交渉の内容を毎回書面化し双方が調印するとの3.3.11団交での合意を反故にした〕

 3.3.11団交におけるやりとりから、①団体交渉での決定事項について何らかの書面を作成して双方が押印することについては、合意があったものの、②書面の具体的な作成方法や中身については、組合が作成した見本に基づいたその後の協議に委ねられた、とみることができる。
 そうすると、同団交が行われた時点では、そもそも、調印の前提となる合意に係る書面の作成方法等についての合意が成立していなかったとみるのが相当である。また、3.4.1団交において組合が会社に提示した合意書案の内容について、3.3.11団交で合意が成立していたともいえない。
 したがって、組合の主張は前提を欠き、採用できない。

(4)組合主張④〔3.4.1団交、3.4.28団交及び3.6.22団交において、会社が、これまで団体交渉において組合と協議してきた内容を把握しないまま協議内容を反故にしたり、虚偽の発言や議論をいたずらにかく乱する発言を繰り返し行って交渉を混乱させたりするような代理人を出席させ、協議の進行を妨害する態度を取った〕

ア 3.4.1団交より前に行われた団体交渉の状況について

 B2は、2.12.10団交において、団体交渉における自らの立場について、自分の父の死後に義兄である社長B3が名義を引き継いでおり、会社に籍はないが、得意先を減らせとか時間短縮とかいう内容は自分しか知らず、自分が委任を受けている旨述べ、A2の労働時間短縮に関する案として、H工場が止まったときの対応を、短縮となる時間の見込みも含めて具体的に説明した。
 また、3.3.11団交においては、H工場の閉鎖時に社長B2がA2に代わって3か所の回収に回るとの2.12.10団交での合意について、月曜日に限定したものであるかどうかをめぐって実質的な協議に応じている。
 これらから、3.4.1団交より前に行われた2.12.10団交及び3.3.11団交では、A2の回収業務について熟知したB2が会社側出席者として参加することにより、A2の労働時間短縮に関する協議に実質的な進展がみられたといえる。

イ 3.4.1団交における会社代理人弁護士B4の対応について

(ア)「(会社は)3.4.1団交までの協議の経緯を全く把握せぬまま団体交渉に臨み、B2が出席しない理由について説明義務を果たさなかった」旨の組合主張について

 3.4.1団交は、A2の回収業務について熱知したB2の出席を前提として、A2の労働時間短縮について協議が予定されていたといえるから、会社は、組合から求められれば、B2が出席していないことについて根拠を示して説明する必要がある。
 代理人B4は、①B2が出席していないことにつき、全く説明していないばかりか、②出席していない理由について組合が質問を重ねても、会社とは関係のない人物であるとの回答に終始し、しかも、③3.4.1団交がB2の都合を考慮して設定されたことにつき、今初めて聞いたとまで発言するなどしており、かかるB4の対応は、実質的な協議に応じたものとはいえない。

(イ)「(会社は)調停条項第5項〔注〕を無視する態度をとってA2の回収ルートに係る協議に応じなかった」旨の組合主張について

〔注〕A2が会社を相手方として申し立てた労働審判に関し、令和2年7月17日に成立した調停条項においては、第4項として「申立人(A2)と相手方(会社)は、申立人の1日の所定労働時間が業務開始の6時間40分後までであることを確認する」、第5項として「相手方は、今後、申立人が業務開始の6時間後に業務を終了することができるよう努める」と定められていた。

 3.4.1団交において、組合が、調停条項第5項に基づいて労働時間短縮について協議を求めているにもかかわらず、代理人B4の対応は、6時間40分が就業時間であると第4項の内容を繰り返すのみで、第5項の定める努力義務については、自らの見解を明らかにすらしておらず、実質的に、交渉を拒否したというほかない。

(ウ)「(会社が)業務指示に係る組合との約束について定型句を繰り返すばかりで実質的な協議に応じなかった点が不誠実団体交渉に当たる」旨の組合主張について

 3.4.1団交において、代理人B4は、会社が約束を守っていないことに係る組合の指摘や質問に対して、約束の有無や遵守状況について一切説明もなく、調停条項を持ち出したり業務指示をするとの発言を繰り返すのみで、実質的な協議に応じたものとはいえない。

(エ)以上を併せ考えると、A2の労働時間短縮を議題とする3.4.1団交における代理人B4の対応は、実質的な協議に応じたものとはいえず、不誠実な交渉態度であったと言わざるを得ない。

ウ 3.4.28団交における代理人B4の対応について

 組合が、調停条項第5項に基づいて、A2の労働時間短縮に努めるよう要求しているにもかかわらず、代理人B4は、労働時間が6時間40分に収まっていることを理由に協議に応じないばかりか、H工場が止まった日にはA2の代わりにB2が一部を回収に回る案を説明した.12.10団交でのB2の発言を否定する発言までしている。
 かかる対応は、実質的な協議に応じたものとはいえず、不誠実な交渉態度と言わざるを得ない。

エ 3.6.22団交における代理人B4の対応について

 代理人B3が出席するようになって行われた3.4.1団交及び3.4.28団交においては、代理人B4の不誠実な交渉態度の結果、A2の労働時間短縮についての実質的な協議がなされなかったことから、組合がB4の交渉担当者としての適格性に疑問を持ち、会社の関係者が団体交渉に出席しない理由やB4が団体交渉の場で決定権を有するのかを尋ねるのは当然である。
 しかし、3.6.22団交において、B4は、冒頭から、この点に係る組合の質問や指摘に対して、回答できるものについては回答し、回答できないものについては持ち帰って検討するとの回答を繰り返すばかりで、A2の労働時間短縮の議題について実質的な協議に応じておらず、実質的な交渉を回避しようとしたと言わざるを得ない。

オ これらから、A2の労働時間短縮を議題とする3.4.1団交、3.4.28団交及び3.6.22団交における会社の対応は不誠実団体交渉に当たる。

(5)以上のとおり、A2の労働時間短縮を議題とする3.4.1団交、3.4.28団交及び3.6.22団交において実質的な協議に応じなかった会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 また、A2の労働時間短縮を議題とする2.12.10団交及び3.3.11団交に係る申立て並びに3.4.1団交における会社の対応のうち3.3.11団交での合意を反故にしたことに係る申立ては、棄却する。

2 会社は、組合員A3の労働組合法上の使用者に当たるか(争点2-1)

(1)組合は、組合員A3が会社に雇用された旨主張するが、会社とA3との間で雇用契約書が交わされていないことについて当事者間に争いはなく、そのほか、組合の主張を裏付ける証拠はない。

(2)令和3年11月19日付け団体交渉申入れ(以下「3.11.19団交申入れ」)の要求事項のうち、A3の労働条件に係る要求事項は、①A3の有給休暇の取得、②従業員の新規採用に伴うA3の業務内容の変更に関わるものであったことが認められる。
 そこで、会社が、これらについて、A3の基本的労働条件を雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったといえるかについて検討する。

ア まず、上記①のA3の有給休暇の取得に関して、会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったことについて、組合の側から具体的な事実の主張も立証もない。

イ 次に、上記②のA3の業務内容の変更についてみるに、①A3は、平成23年1月から約1年間、会社の廃棄物運搬業務に従事したこと、②令和4年3月22日から23日にかけてなされたA3と書記次長の通信アプリ上でのやり取りにおいて、A3が会社の仕事を命じられるのはA2が有給休暇を取得した日であることについてのやり取りがあったことが認められるが、これら事実をもって、3.11.19団交申入れの時点において会社がA3の業務内容を決定し得る立場にあったとはいえない。

ウ これらから、会社が、上記①及び②について、A3の基本的労働条件を雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとはいえない。

(3)以上のとおり、会社は、A3の労働組合法上の使用者に当たるとはいえず、その他(注 3.11.19団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2-2)〕について判断するまでもなく、この点に係る組合の申立ては、棄却する。 

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