概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和4年(不)第40号・第48号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合・X2支部(「申立人組合ら」) |
被申立人 |
Y法人(「法人」) |
命令年月日 |
令和6年5月10日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、法人が、①組合員Aが有罪判決を受けたことを理由に、同人に弁明の機会を与えず、懲戒解雇としたこと、②X1組合、X2支部及び申立外C分会(以下「組合ら」)が団体交渉を申し入れたところ、これを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 令和4年7月12日に法人が組合員Aを懲戒解雇したこと(以下「本件懲戒解雇」)は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合らに対する支配介入に当たるか(争点1)
(1)本件懲戒解雇が、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか
ア 本件懲戒解雇が組合員であるが故になされたかどうかについては、①当時の労使関係、②当該不利益取扱いに至った理由、③右取扱いに至る手続の相当性等の事情から総合的に判断されるものと解すべきである。
イ 組合らと法人との間の労使関係
本件懲戒解雇の処分事由として挙げられている暴行行為が最初にあったとされる令和3年7月31日頃までは、組合らと法人は緊張関係にはなく、同月31日のAの行為の後に、緊張関係が高まっていったとみることができる。そうすると、本件懲戒解雇当時、組合らと法人との間が、Aに対する処遇を巡って緊張関係にあったことのみをもって、直ちに反組合的意思が推認されるとはいえない。
ウ 本件懲戒解雇に至った理由
(ア)令和4年7月12日のAに対する懲戒解雇通知書(以下「懲戒解雇通知書」)には、①就業規則の懲戒事由に該当するため、懲戒解雇処分に決定した旨、②処分事由として、令和3年7月31日から同年8月23日までの間、(施設入居者である)D氏に対して複数回に渡って暴行行為(虐待行為)を行ったため、との記載がある。また、契約職員就業規則及び契約職員の懲戒について準用する常勤職員就業規則において、懲戒解雇についての規定がある。
そして、①P市(以下「市」)が令和4年3月18日に発出した虐待認定通知書には、「認知症のある高齢者本人に対し、頭や胸を叩いたり、頭突きをしたり、顔を手で抑え込むような不適切な行動が行われたことは、高齢者の尊厳を著しく損なう行為であり、身体的虐待に該当する。」との記載があったこと、②令和3年10月22日、Aは暴行事件で起訴され、同4年7月4日、罰金30万円の有罪判決の言渡しを受けたこと、Aは控訴せず、同判決は確定したことが認められる。
(イ)これらからすると、Aの行為は、市からは身体的虐待に該当すると認定され、また、暴行罪で有罪判決を受けているのであり、AがD氏に対して虐待行為を行ったと法人が判断したことは、理由があるといえる。
そのうえ、法人は、介護施設等を運営しているから、入所者に対して虐待行為を行ったことを重く受け止め、職員に対する処分として、就業規則に基づき、最も重い懲戒処分である懲戒解雇処分を選択したことには合理的な理由があったといえる。
(ウ)申立人組合らは、法人が24日間、Aの行為の撮影を続けたことから、懲戒解雇に値するほどの暴行ではなかったなどと主張するが、市による身体的虐待の認定があり、また、暴行罪の有罪判決を受け、同判決が確定しているのであるから、主張は採用できない。
(エ)これらから、本件懲戒解雇に至った理由は合理的なものであったとみるのが相当である。
エ 本件懲戒解雇に至る手続の相当性
(ア)①契約職員就業規則第42条には、契約職員について、「常勤職員の懲戒規定に準じて懲戒する」旨規定され、②常勤職員就業規則第51条には、「職員に対する懲戒又は懲戒解雇に公平を期すため施設長又は事業所統括責任者と職員代表とが協議して決定する」と規定されていること、③令和4年7月6日、法人において協議(以下「法人協議」。ただし、当事者の表記に合わせて「懲戒委員会」ということがある)が行われ、職員代表として4つの施設の労働者代表が各1名ずつ出席していたこと〔注〕、④法人協議において、職員代表がAに対する処分内容について協議し、協議の結果、全員一致で懲戒解雇処分となったこと、⑤同月12日、法人はAに対し、懲戒解雇通知書を送付し、懲戒解雇処分に決定した旨通知したことが認められる。
これらからすると、法人は、就業規則で定める手続に概ね則って、Aの懲戒解雇処分を決定したとみるのが相当である。
〔注〕法人協議には、①施設長B1、②施設管理者B2、③職員代表として、4つの施設の労働者代表が各1名ずつ(後出の職員Eを含む)、④事務局として職員B3の計7名が出席している。
(イ)この点について、申立人組合らは、①法人はAに対し弁明の機会を与えず、懲戒解雇した旨、②裁判の場も団体交渉の場も弁明の場ではない旨、③〔令和3年10月11日の組合の団体交渉申入れに対する〕同月15日の法人回答書(以下「法人回答書」)や令和3年10月22日の〔起訴されたAに休職を命ずる等を内容とする〕業務命令通知書(以下「業務命令通知書」)にも、弁明の機会を設定する旨記載していたにもかかわらず、本人への弁明の機会等がなかった旨主張する。
法人回答書に、Aが釈放され次第、速やかに法人がAに対して当該虐待についての聞取り及び弁明の機会を提供したいと考えている旨の記載があったことなどからすると、組合らやAが、Aの弁明を聞くための場を法人が設定すると受け取ったことには一定の理由があるといえる。
もっとも、常勤職員就業規則には、職員への懲戒を決定するに当たり、本人に弁明の機会を付与する旨の規定はない。また、法人回答書や業務命令通知書を送付した後に開催された令和4年3月23日の団体交渉において、法人は、Aに対し意見を確認したが、組合らやAは、係争中であることを理由に回答しなかった。
さらに、その後、令和4年7月4日にAが有罪判決の言渡しを受けている。
これらからすると、法人が、Aの弁明を聞くための場を設けずに、処分の検討を行ったとしても不合理とまではいえない。
以上を考え合わせると、法人が、Aの弁明を聞くための場を設けなかったことは、その是非はともかく、ことさら、同人が組合員であるが故にとった対応であるとはいえず、反組合的意思が推認される事情とはならない。
(ウ)また、申立人組合らは、以下の4つの理由を挙げて、法人側主導の懲戒委員会の決定は無効である旨主張するので、以下検討する。
a 組合主張1〔懲戒委員会の司会である職員B3は、団体交渉に法人側で出席し、組合が話を聞きに行った時も施設長B1の隣にいた人物であり、そのような人物が懲戒委員会を仕切っていた旨〕について
職員B3が、Aの処分を懲戒解雇処分とするよう誘導したと認めるに足る疎明はない。
b 組合主張2〔懲戒委員会に、懲戒処分へ誘導するような資料が配付された旨〕について
配布された資料には、①有罪判決が出たこと、②市も虐待認定をしたこと、③Aは謝罪していないことが記載されていることが認められる。これらの記載は、事実に反するものではなく、かつ、Aの処分内容を決定するのに当たり、必要な情報とみるのが相当である。
したがって、これらが記載されていることをもって、右資料が、懲戒処分へ誘導するような資料とはいえない。
c 組合主張3〔懲戒委員会の開催に当たり、Aの聞取りもなく、開催日時も知らされておらず、Aが不在のまま開催されたものである旨〕について
常勤職員就業規則上、Aの出席までは求められていないから、Aに開催日時を通知せず、同人が出席していなかったことをもって、手続上の瑕疵があるとはいえない。
d 組合主張4〔労働者代表といっても、法人側の人間、上司に忖度する人間あるいは組合が大嫌いな人間で構成されたものである旨〕について
①法人が組合らに氏名を明かさなかったことのみをもって、出席した労働者代表の人選に問題があったとはいえないこと、②職員B3が施設の管理者であることのみをもって、労働者代表となることが不適切であったとまではいえないこと、③団体交渉における、いかなる発言をもって、B3が使用者側の人間であるといえるのかについて、具体的な事実の主張も疎明もないことからすると、出席した労働者代表の人選に問題があったとはいえない。
e 以上のとおり、法人協議に関する申立人組合らの主張は採用できず、同協議での決定が無効であるとはいえない。
法人は、就業規則に概ね則った手続により、Aの懲戒解雇処分を決定したといえ、特段、反組合的意思が推認されるような点はなかったとみるのが相当である。
オ 以上を総合すると、①本件懲戒解雇当時、組合らと法人との間は、Aに対する処遇を巡って緊張関係にあったとはいえるものの、このことのみをもって、反組合的意思が推認されるとはいえず、②本件懲戒解雇に至った理由は合理的なものであり、③その手続においても、特段、反組合的意思が推認されるような点は認められない。そうすると、本件懲戒解雇は、同人が組合員であることを故になされたものとはいえない。
カ 以上のとおり、本件解雇は、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらず、この点に関する申立人組合らの申立ては棄却する。
(2)本件懲戒解雇が、組合らに対する支配介入に当たるか
分会長であるAが解雇されたとの事情は認められるものの、法人が、分会に打撃を与える目的でAを解雇したといった特段の事情があったと認めることはできない。したがって、本件解雇は、組合らに対する支配介入に当たらず、この点に関する申立人組合らの申立ては棄却する。
2 組合らの令和4年9月10日の団体交渉申入れ(以下「4.9.10団交申入れ」)に対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2)
(1)組合らの4.9.10団交申入れに対して、法人が団体交渉を拒否したことについて、当事者間に争いはない。
(2)組合らが令和4年9月10日の団体交渉申入書で申し入れた事項は、義務的団体交渉事項に当たるか
組合らは、①懲戒委員会の開催告知がAに行われておらず、懲戒委員会での弁明が行われていないことについて、団体交渉の場で説明がされていないこと〔申入事項1〕、②懲戒委員会の手続や討議内容について正確に把握したいこと〔申入事項2〕を理由として、4.9.10団交申入れを行っているといえる。
この申入れは組合員の懲戒処分に関することであり、これは組合員の労働条件に関する事項であるから、義務的団体交渉事項である。
(3)法人は、正当な理由なく団体交渉申入れに応じなかったといえるか
ア 法人は、4.9.10団交申入れに対し、法人が団体交渉を拒否したのは、これまで行われてきた令和4年7月20日団体交渉(以下「4.7.20団交」)及び同年8月12日団体交渉(以下「4.8.12団交」)と議論が重複し、これ以上議論を尽くしても妥結や解決の可能性がなかったからであり、上記団体交渉申入れの拒否は正当な理由が認められる旨主張するので、以下検討する。
イ 申入事項①について
4.7.20団交及び4.8.12団交におけるやりとりにおいて、法人は、「懲戒委員会」の開催告知がAに行われていない理由として、Aが裁判でも黙秘を貫いていたからであることを説明している。また、「懲戒委員会」での弁明が行われていないことについては、①裁判の場や団体交渉でも弁明の機会があったことを説明し、さらに、②組合に対し、弁明の機会が与えられなかったと言うのであれば、今、弁明をしてほしい旨述べ、協議を進展させるための提案をしている。
したがって、法人は、自らの主張、提案、説明を尽くしているとみるのが相当である。
一方、組合らの対応をみると、懲戒委員会に本人が出席しなければ弁明の機会を設けたことにはならない旨、繰り返し述べるなど、自らの主張について譲歩する姿勢を示していない。
ウ 申入事項②について
①4.7.20団交及び4.8.12団交において、法人は、組合らの質問に答える形で、懲戒委員会の手続について十分な説明を行っており、②懲戒委員会の討議内容についても、「懲戒協議」として、労働者代表の発言等が記載された議事録を事前に提出した上で、4.8.12団交に臨み、職員Eが、組合らからの懲戒委員会に関する質問や懲戒解雇の理由と基準について回答し、さらに、③議事録で黒塗りとなっている労働者代表の氏名を明らかにするとの組合らの要求や、職員E以外の別の〔懲戒委員会における〕労働者代表を団体交渉に出席させるとの組合らの要求に対して、理由を説明した上で、要求に応じないとの姿勢を示している。そうすると、法人は、懲戒委員会の手続や討議内容について、自らの主張や説明を尽くしているとみるのが相当である。
一方、組合らの対応をみると、懲戒委員会の手続や討議内容について、法人の説明のうち、どの部分が不明瞭であるのか等について具体的に明らかにしないまま、E職員以外の〔懲戒委員会における〕労働者代表が団体交渉に出席した上で協議する必要があるとの見解のみを繰り返し述べ、自らの主張について譲歩する姿勢を示していない。
エ したがって、申入事項①及び②のいずれについても、団体交渉の経過をみるに、組合らと法人の話合いは、互いに自らの主張を繰り返して譲らず、平行線のまま膠着しており、これ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至っているとみるのが相当である。
よって、法人が、これらに関する団体交渉申入れを拒否しても、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
(4)これらから、組合らの4.9.10団交申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たらないので、この点に関する申立人組合らの申立ては棄却する。 |