概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第57号
日本交通(労評)不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X分会(組合) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社・Y3会社 |
命令年月日 |
令和6年3月19日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、(1)Y1会社及びY2会社〔注〕が、①当初の申立時(注令和3年8月13日)までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったこと、②同年10月25日に、K営業所2階の男子浴室入口付近を掲示板のスペースとして提示したこと、③令和4年2月1日に、掲示板の貸与に当たって合意書の締結を条件としたこと、(2)Y3会社が、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、(1)の①について、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、Y1会社及びY2会社に対し文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
〔注〕ともにY3会社の旧K営業所を分社化したもので、通称は「K第一営業所」、「K第二営業所」(【判断の要旨】において、Y1会社及びY2会社を合わせて「K営業所」という)。なお、これら3社は同じ法人名を使用。 |
命令主文 |
1 Y1会社(本店所在地:東京都北区〔以下略〕。通称:K第一営業所)及びY2会社(本店所在地:東京都北区〔以下略〕。通称・K第二営業所)は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
年 月 日
X組合
分会長 A 殿
Y1会社(K第一営業所)
Y2会社(K第二営業所)
上記二社代表取締役 B
当社が、令和3年8月13日までに貴組合からの掲示板貸与要求に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
2 Y1会社(K第一営業所)及びY2会社(K第二営業所)は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 K営業所が、本件申立時までに、令和2年6月24日に組合が行ったK営業所内における掲示板貸与要求(以下「本件貸与要求」)に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点1)
(1)K営業所内には、3つの労働組合が併存するところ、①昭和47年に結成し、K営業所内における乗務員の約90パーセントを組織するC1組合及び②昭和21年に結成し、同じく約4パーセントを組織するC2組合と、③本件貸与要求の直前に当たる令和2年6月に結成し、K営業所における乗務員597名中1名(分会長A)のみで組織する組合とは、組織力、交渉力や労使関係の集積状況を大きく異にするものであり、K営業所がC1組合及びC2組合(以下「他組合ら)」に掲示板貸与を行っているとしても、そのことから、直ちに組合に対しても掲示板貸与が認められるべきであるとまではいえない。
(2)また、K営業所は、他組合らに掲示板貸与を認めているから、組合への掲示板貸与の検討に当たり、K営業所が、他組合らに貸与している掲示板の一部の提供を求め、協議を行うこと自体には特段の問題はない。
しかし、組合への掲示板貸与の方法として、それ以外の対応が考えられるならば、他組合らが反対しているとの一事をもって、他の労働組合と取扱いを異にし、組合に対してのみ掲示板貸与を認めないことに合理的な理由があると直ちに認めることはできない。
(3)この点、本件貸与要求から約2か月が経過した令和2年8月20日時点において、K営業所2階(C2組合事務所前)の会社掲示板には掲示物がほとんど存在しておらず、少なくとも同日時点において、K営業所内には、使用していない掲示板のスペースが存在していた。
加えて、8月22日時点で、右会社掲示板には掲示物が多数掲示されていたが、掲示した文書自体は、あえて新たに掲示を行う必要性が高いものであったとはいえず、既に掲示物を通じて告知するべき必要性の認め難い掲示物も掲示されていた。
他方で、①他組合らがK営業所内における掲示板貸与を認められるに至った経緯の詳細は明らかではないものの、それぞれ相当程度の労使交渉を経たものであり、かつ、相当程度長期間にわたり継続して認められてきたものと推認できることに加えて、②他組合らも当初から掲示板提供に反対意見を述べていたこと等の事情を併せて考慮すると、K営業所が、他組合らに対して、貸与している掲示板の一部を提供するよう求めたとしても、他組合らが容易にこれに応じるものではないことは想像に難くないといえる。K営業所としては、組合からの本件貸与要求に対して、他組合らから反対意見を受けた時点において、早急に会社掲示板の一部を組合に提供することや、既存の掲示板の設置場所以外での掲示板設置の可否等を検討するべきであった。
(4)それにもかかわらず、K営業所は、組合に対して提供可能な掲示板のスペースについて、他組合の反対を理由としていたずらに時間を浪費する一方で、会社掲示板の一部の提供や、既存の設置場所以外での掲示板設置の可否等について真摯に検討を行った形跡はみられず、かえって、掲示物がほとんど存在していなかった会社掲示板にあえて新たに掲示を行う必要性が高くない文書の掲示を行うなど、本件貸与要求に応じられない外観を殊更に作出するような行動に出ていたとみざるを得ない。
(5)これらの事情から、K営業所が、他組合には比較的大きな面積の掲示板の貸与を認める一方で、組合に対しては、本件申立時まで、〔令和3年2月22日の団体交渉などで組合が求めた〕A4用紙4枚程度という小さな面積の掲示板の貸与すら認めなかったことに合理的な理由があったと認めることはできない。
その他、Aの組合結成前後の活動状況等を踏まえると、K営業所が同人及び組合に対して相応の警戒感を抱いていたと推認できる等の事情も併せて考慮すると、K営業所が掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の活動力を低下させ、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものといわざるを得ず、組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 K営業所が、令和3年10月25日に、(K営業所2階の)男子浴室入口付近を掲示板のスペースとして提示したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点2)
(1)K営業所は、本件貸与要求を受けて以降、継続的に他組合との間で、組合に掲示板貸与を行うためのスペースの提供を巡り協議を行っていたと推認できるところ、結果として、C1組合から、男子浴室入口付近の掲示板の一部を組合に提供することにつき同意を得たことから、組合に対し、組合掲示板のスペースとして提示した。
(2)組合は、K営業所の右行為は、閲覧者の少ない掲示板を提供することで組合の組織拡大を妨害し、組織を弱体化する意図による支配介入行為である旨を主張するようである。
しかし、当該掲示板は、利便性に多少の問題があるとしても、C2組合が長期にわたり利用してきた場所であると推認でき、実際に、掲示物が掲示されていたことからすれば、掲示板としての機能に顕著な支障があるとまではいえない。
加えて、①組合が後に提案した貸与希望場所〔注K営業所2階男子更衣室横など3箇所〕との機能の比較において顕著な差異があるとまでは認められないこと、②一連の労使交渉の経過をみる限り、K営業所が、掲示板貸与場所として男子浴室入口付近の場所に固執する姿勢を示したことを窺わせる疎明はなく、K営業所による男子浴室付近の掲示板の提示は、具体的な掲示板貸与場所を巡る労使交渉の契機にすぎないとみるのが相当であること等の事情を併せて考慮すると、組合の主張を採用することはできない。
3 K営業所が、令和4年2月1日に、掲示板の貸与に当たって「掲示物の利用に関する合意書」(以下「本件合意書案」」)を締結することを条件としたことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点3)
(1)K営業所が、他組合との間でも、掲示板貸与に当たって労働協約を締結していたことを裏付ける疎明はない。
(2)もっとも、一般に、使用者が労働組合に対して便宜供与を行う場合に、労働組合との間で、便宜供与を行う上でのルールを定めた合意書の締結を求めること自体は格別不自然なものではなく、本件においても、組合とK営業所との間で主な懸案となっていた、掲示物の撤去を巡る条項を含め、合意書案自体には一定の合理性、相当性が認められる。
また、①組合は、掲示板貸与に当たって本件合意書案を締結することに反対意見を述べることなく、K営業所との間で複数の修正案を作成、検討しながら複数回交渉を行っており、②労使間において掲示板貸与について合意を模索する中で、K営業所が合意書に反する掲示物を撤去する際の手続に関し、撤去に先立って労使間の協議が行われることなどが明確になりつつあったと評価できること、③結果として合意書の締結には至らなかったものの、労使交渉の経過をみる限り、K営業所は組合からの修正案を受け入れるなどの対応を取っており、本件合意書案に固執していたとまでは認められないこと、④組合が、K営業所の関連会社(子会社)であるD会社との間で、本件合意書案とほぼ同じ内容の合意書を締結していること、⑤組合と他組合らとの間では、組織力、交渉力や労使関係の集積状況が大きく異なること等の事情を考慮すれば、掲示板貸与を巡り、K営業所が、仮に他組合らに対しては労働協約を締結することなく掲示板貸与を認めていたとしても、組合と他組合らとの間で取扱いを異にしたことに合理的な理由がないとまではいえない。
その他、K営業所が、掲示板の貸与に当たって合意書の締結を条件としたことが、組合弱体化を企図したものであるとする事情も認められないことからすれば、K営業所の行為は、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。
4 Y3会社は、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たるか、Y3会社が、組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たる場合、Y3会社が本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点4)
本件において、組合は、Y3会社に対し、令和2年6月24日に掲示板の貸与等を含む要求の申入れを行っていたところ、Y3会社は、組合の掲示板貸与要求に応じていない。
この点、掲示板貸与に関する組合との団体交渉にY3会社の社員や顧問弁護士が出席していたことが認められるものの、①本件合意書案の検討の段階の団体交渉は、分会長AとK営業所次長との間で行われていたこと、②本件合意書案の締結当事者は組合及びK営業所となっていたことからは、少なくともK営業所における組合への掲示板貸与の可否については、K営業所が単独で決定できるものであったとみるのが相当であり、Y3会社が、K営業所内の掲示板貸与について、Aの雇用主であるK営業所と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとまでは認められない。
よって、Y3会社は、K営業所内の掲示板貸与について、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者には当たらないことから、その余の争点については判断を要しない。 |