概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第82号
学研エデュケーショナル不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1地方本部・X2組合 |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年2月20日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①X1地方本部(X2組合が組織加入)及びX2組合が、組合員である契約者(学習教室のフランチャイズ契約を会社と締結した者。以下同じ)が支払うロイヤリティの引下げ等を協議事項として申し入れた団体交渉に会社が応じなかったこと、②「お知らせ」と題する文書を全契約者に対して交付したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、契約者は会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとして申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社と学習教室契約書(以下「本件契約書」)に基づきフランチャイズ契約(以下「本件契約」)を締結した者(以下「契約者」)は、会社との関係で労働組合法上の労働者に当たるか(争点1)
(1)労働者性の判断枠組みについて
ア 会社は、①本件契約はフランチャイズ契約であり、契約者は、フランチャイザーである会社から学習教室の名称を使用する権利を付与され、学習塾事業の経営について統一的な方法で支援を受ける一方で、これらの支援等の対価として会社にロイヤリティを支払うフランチャイジーにすぎないこと、②契約者は、会員に対して学習指導等の労務を供給する一方で会社に対して労務を提供するものではないことから、労働組合法上の労働者性の判断の前提となる労務供給者にはなり得ないなどと主張する。
イ フランチャイズ契約において、フランチャイジーが会社とは別個の事業者であることが想定されていることなどからすると、フランチャイジーからフランチャイザーへの労務供給が契約上当然に予定されているとはいえないが、労働組合法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(第3条)に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
ウ 本件契約書等によれば、契約の目的が、会社と契約者とが相互の協力のもとに所期の教育目的を達成し実現することである旨の趣旨が明記され、契約者の業務遂行に会社が一定の関与を行うことが想定されている。
加えて、実態としても、会社は、契約者が円滑かつ安定的に本件契約に基づく各種業務を遂行できるよう様々な形で関与し、契約者に対して労務供給の方法を働き掛ける一方で、契約者も会社の関与の下に各種業務を遂行している。
加えて、実態として、会社は、①テレビコマーシャル等を利用した大規模な広告・宣伝活動等の立案・実施により、契約者の新規会員募集活動をサポートしていること、②作成した独自の教材や、学習指導・教室運営に関する詳細なマニュアル等を契約者に配布していること(契約者も、強制ではないとはいえ、おおむね各種マニュアル等に沿って会員の学習指導や教室運営を行っている)、③学習指導や教室運営に関する相談対応や、各契約者の会員数や入退会状況等の管理を行っていること、④契約者に対して出席を必須とする定期・不定期の研修を実施し、契約者の能力の維持向上を図る等の施策を行っている。
これらから、実質的にみた場合、会社は、契約者による労務供給により一定の利益を帰属させる一方で、契約者は会社の学習教室事業遂行のために労務を供給していると認められる余地がある。
エ また、本件契約における金銭の流れに着目すると、①月謝については、原則として契約者が会員から直接受領することは想定されておらず、また、②会社が(契約者から委託を受けて)受領した月謝の総額が確定した時点で、ロイヤリティの金額も確定するのであるから、実態において、月謝等が労務供給の対価であるとみる余地がないわけではない。
オ このように、本件契約が、実態としては労務供給契約の側面を有するとみる余地もあることから、契約者が労働組合法上の労働者に当たるか否かについては、同法の趣旨及び性格に照らし、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性の有無や事業者性の程度等の諸事情を総合的に考慮して判断することとし、以下において、上記の判断要素ごとに検討する。
(2)事業組織への組入れについて
ア「事業組織への組入れ状況」について、①本件契約の性質上、会社がロイヤリティ収入を得る上で、契約者の存在が重要な地位を占めており、②ロイヤリティ収入が、会社の学習教室事業収入の60%程度を占め、③国内における学習教室の約98%がフランチャイズ型である等の事情を勘案すると、学習教室事業は、実質的に契約者が主体的に担っているといえる。
また、会社が、契約者が円滑かつ安定的に本件契約に基づく各種業務を遂行できるよう様々な形で関与する一方で、契約者も会社の関与の下に各種業務を遂行しているなどの事情を勘案すると、実態として契約者は会社の事業組織に組み入れられているといえる。
イ「第三者に対する表示」について、契約者は、原則として会社から提供を受ける学習教室の名称や商標が記載された看板や印刷物等を適宜使用するなど、その表示につき、学習教室事業に従事する会社の組織の一部と思わせる取扱いがなされている。
ウ「専属性の程度」について、契約者は、会社の事前の承諾なしに、学習教室以外の学習塾を自ら経営し、又は、第三者による学習教室以外の学習塾の経営に関与してはならず、事実上、学習教室事業に専属的に従事している。
エ これら事情を総合すると、契約者は、会社の学習教室事業の遂行に質的・量的な面で不可欠ないし枢要な存在として、会社組織に組み入れられているといえる。
なお、それが労働力としての組入れであるとまで評価できるか否かは、広い意味での指揮監督下の労務提供の有無及び程度、契約者の事業者性の有無及び程度を踏まえて総合的に判断する。
(3)契約内容の一方的・定型的決定について
本件契約の締結及び更新に際しては、会社があらかじめ作成した統一的な契約書が用いられるなど、会社がその内容を一方的、定型的に決定している。
(4)報酬の労務対価性について
ア 本件契約の内容及び金銭の流れをみると、契約者は、学習教室を開室し運営することにより、会員からの月謝等を収入として得るとともに、会社にロイヤリティを支払っており、月謝等からロイヤリティや経費等を差し引いた金額を、契約者の報酬と捉えることができる。そして、月謝等やロイヤリティの額は、会社が決定している。
イ 契約者の業務量と収入との関係に着目するに、①会社は、会員数と収入金額との比例関係を前提とした収入の目安を提示していること、②組合員A1、A2及びA3(以下「A1ら」)についてみれば、実態として、会員数、稼働時間及び収入との間におおよその比例関係が認められること、③会社は、毎月20日前後に月謝の総額を契約者に支払っており、毎月1回一定期日払が保障されているとの評価もできること等の事情を考慮すると、契約者の報酬について労務の対価としての性格が認められるようにもみえる。
ウ しかし、本件審査手続で、A1ら以外の組合員の稼働実態は明らかになっていない。また、①契約者がスタッフを雇用して学習指導を担当させることも可能であり、②A1らについてみると、5~14名程度のスタッフを雇用し、相応の時間数に相当する人件費を支払っており、③また、(それ以外の)相当数の契約者がスタッフを雇用していると推認できることなどから、月謝等の収入は、スタッフを含めた集団による労務提供の対価とみることもできる。
そうすると、契約者が受領する報酬の性質について、学習教室を運営する事業者としての事業報酬とみる余地も十分にあり得る。
エ したがって、契約者自身の労務の提供の対価又はこれに類する収入としての性格を有するか否かについては、後記の契約者の事業者性の有無及び程度を踏まえて判断するのが相当である。
(5)業務の依頼に応ずべき関係について
会社は、契約者に対し、随時会員募集を行う責任を課すなどし、契約者は、実態として、おおむね各種マニュアル等に沿って教室運営を行っている。さらに、契約者は、原則として研修会への出席が義務付けられている。
これらから、当事者の認識や契約の実際の運用において、契約者は、基本的に会社による業務の依頼に応ずべき関係にある。
(6)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について
ア 契約者は、学習指導の結果等について会社への報告を行う必要はなく、会社が契約者の日常的な稼働実態について管理していたとまではいえない。
また、会社は、契約者が各種マニュアル等に沿って学習指導や教室運営を行っているかを確認していないから、契約者がおおむねそのような指導や運営を行っているとしても、それは、自らの自由な判断と決定によるものと解することが相当である。
したがって、契約者は、広い意味で、会社の指揮監督下において労務提供を行っているとまでは認められない。
イ 契約者は、①学習コースや開室時間・曜日については自由に定めることができ、②スタッフを雇用して業務を担当させることも可能であるから、必ずしも時間的に拘束を受けているわけではない。一方、契約者は、原則として自ら開室場所を決定するが、教室の開室後は一定の場所的拘束を受けている。
ウ これらから、契約者は、業務の遂行に当たり、一定の場所的拘束を受けているものの、広い意味での指揮監督下において労務提供を行っていることや時間的拘束を受けていることまでは認めることができない。
(7)顕著な事業者性の有無や事業者性の程度について
ア「自己の才覚で利得する機会」について、一定の困難が伴うことは否定できないものの、①フランチャイズ型の教室の約9%については法人が契約者となって教室運営を行い、中には最大で12又は13教室を運営する法人も存在すること、②運営できる教室数や会員数の制限はないこと、③A1及びA2の年間総収入額は約1,700万円前後と推認できることから、各契約者の才覚次第で相応の収入を得ることができる余地が認められる。
イ「業務における損益の負担」について、契約者は、月謝を全額受領し、また、自己の責任と負担において教室を準備するほか、原則として教室経営に要する一切の費用を負担する。したがって、自由な規模の教室経営が可能であることを併せ考慮すると、契約者は、自己の判断において損益を一定程度左右することが可能で、原則として業務における損益の帰属主体となっている。
ウ「他人労働力の利用」について、契約者は、原則として、その判断でスタッフの募集・採用、給料などの労働条件の決定、勤務シフトの作成や業務内容の指示を行う。そして、相当数の契約者は、他人労働力を利用して学習指導や教室運営を行っている。
エ「固有の顧客を持つこと」について、契約者は、他の学習塾への関与が禁止されるなど、学習塾経営者として固有の顧客を持つことを制限されている。
オ これらを併せ考慮すると、契約者は、相当程度の事業者性を備えているといえる。
(8)以上のとおり、本件において、①契約者は、会社の業務遂行に不可欠な存在として会社の事業組織に組み入れられ、②会社が契約内容を一方的、定型的に決定しており、③契約者の得る報酬は、契約者の労務の提供に対する対価とみる余地もあるが、事業報酬とみる余地も十分にあり得るものであり、④契約者が会社からの業務の依頼に対して基本的にこれに応ずべき関係にあると認められ、⑤契約者が、広い意味で会社の指揮監督の下に業務を遂行しているとはいえず、その業務の遂行については時間的拘束を受けているとまでは認められないが、一定の場所的拘束を受けていると認められ、⑥契約者は、相当程度の事業者性を備えている。
そして、①の「事業組織への組入れ」の点について、広い意味での指揮監督下の労務提供の有無及び程度(⑤参照)、契約者の顕著な事業者性の有無及び事業者性の程度(⑥参照)を踏まえると、契約者が事業組織に組み入れられているとしても、それは、労働力としての側面のみならず、事業者という側面もあるものと認めるのが相当である。
また、③の「契約者の受領する報酬」については、契約者の事業者性の有無及び事業者性の程度(⑥参照)を併せ考慮すれば、事業報酬としての性格を持つ場合もあり、契約者自身の労務の提供の対価又はこれに類する収入としての性格のみを有するとまでは認められない。
以上の事情を総合的に勘案すれば、本件における契約者は、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないと解するのが相当である。
2 ①X1地方本部及びX2組合が令和3年1月6日、6月29日及び8月18日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及びX1地方本部及びX2組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点2-1)
3 会社が、令和2年7月12日に「お知らせ」と題する文書を全契約者に対して交付したことは、X1地方本部及びX2組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点2-2)
本件における契約者が会社との関係で労働組合法上の労働者に当たらないことは、上記判断のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件で不当労働行為が成立する余地はない。 |