労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和4年(不)第55号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年2月20日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、申立外C法人(会社が地方公共団体から受託したワクチンの集団接種業務の再委託先)と有期雇用契約を締結していた組合員Aの採用経緯、同人へのパワハラ行為、雇止め等を議題とする組合からの団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、組合員Aとの関係において労働組合法上の使用者に当たるか否か。労働組合法上の使用者に当たる場合、会社が、組合からの令和4年4月11日付、同月15日付及び7月6日付団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点1)

(1)申立外C法人が雇用する責任看護師Dによる本件パワハラ行為に関する会社の対応等をみると、K会場の責任者である会社のB1は、C法人が雇用する組合員Aから本件パワハラ行為の申出を受けたり、Dへの厳重注意の場に同席するとともに、Aに対して、Dに厳重注意がなされた旨を伝えたりしている。また、S会場の責任者である会社のB2は、Aに対して、S会場への異動について意見聴取を行ったり、他の接種会場への業務応援の終了を告げたりしている。
 これらの事情をみれば、会社がAの労務管理に何らかの関与をしていたとみる余地がないとはいえない。

(2)しかし、会社のB1がAから本件パワハラ行為の申出を受けたことについては、加害者がC法人の責任看護師であるDであったために、B1が会場責任者として行った看護師らとコミュニケーションを取る面談の機会を用いて申し出られたとみるのが相当である。また、B1は、数日後に、Aの雇用主であるC法人の人事担当者C2にその旨を報告しており、会社が本件パワハラ行為の申出を受ける立場にあったとみることはできない。

(3)また、会社のB1は、Dに厳重注意がなされた旨をAに伝えたり、Dへの厳重注意の場に同席しているものの、①Dに厳重注意を行ったのはC法人の現場担当看護師C3であることや、②加害者DがC法人の責任看護師であるためにB1に申出がなされたといえること、さらに、③C法人のC2がDに再度の厳重注意を行い、その旨及びDの退職についてAに伝えていることなどを踏まえると、本件パワハラ行為への対処はC法人が行っていたというべきであり、それらを会社が実質的に支配、決定していたと評価することもできない。

(4)また、接種会場にはC法人の責任看護師が配置されている中で、S会場の責任者である会社のB2が、Aに対して異動について意見聴取をしたり、他の接種会場への業務応援の終了を告げていることについては、会社がC法人の現場看護師に対して指揮命令をしているのではないかという疑問を抱かざるを得ないものの、B2とAとの上記のやり取りのほかは、Aが従事していた日々の接種業務に係る指揮命令などの実態について、具体的な事実の疎明がなされていない。
 さらに、会社の会場責任者が、複数の企業が関わっている接種会場全体を統括して業務運営する役割を担っていたことを踏まえると、当該責任者が、実態として、Aに指揮命令する立場にあったとまで認めることは困難である。

(5)次に、本件雇止めに関連するAの採用時の事情をみると、Aの採用面接を会社が実施していることが認められるところ、この点、会社及びC法人は、団体交渉等において、C法人には人事部門がないために接種業務の人員に係る採用プロセスを会社に委託したが、採用の可否はC法人が決定した旨を説明している。Aの採用面接を会社が実施していることからすれば、同人の雇用が会社により決定されていたことを疑う余地はあるものの、上記事情のほかには、Aの雇用管理の実態について、具体的な事実が疎明されていない。
 また、本件雇止めにおいては、C法人のC2が、Aに対して雇止めを告げ、その際にAから不満が述べられると、月末までの雇用延長とそれまでの間の就労場所について提案するなどしており、その後、C法人はAとの間で、雇用終了の確認などを内容とする和解の合意書を締結するに至っているのであるから、本件雇止めは、Aの雇用主であるC法人が決定していたとみるほかない。
 したがって、Aの採用時の事情を踏まえたとしても、会社が、本件雇止めに関わる同人の雇用管理について、雇用主と同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配、決定していたと認めることはできない。

(6)以上のとおり、Aに対する会社の会場責任者の対応や、同人の採用時の事情を踏まえたとしても、会社がAの就労環境等を実態として支配、決定していたといえる事実を認めることはできず、また、本件雇止めはC法人が決定しており、会社が同人の雇用を実質的に支配、決定していたということもできない。
 したがって、本件パワハラ行為に係るAの就労環境等や本件雇止めについて、会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定する地位にあったと評価することはできず、会社は、Aとの関係において労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。
 そうすると、その余を判断するまでもなく、会社が、組合からの3回の団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。

2 AとC法人とが令和4年6月7日付けで和解合意している本件において、救済の利益は存在するか否か(争点2)

 争点1に係る事実が不当労働行為に当たらないことは、前記判断のとおりであるから、争点2については判断を要しない。 

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