概要情報
事件番号・通称事件名 |
京都府労委令和5年(不)第1号
京阪バス不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年5月22日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合が、会社が申立外C組合に対して実施している就業時間中の組合活動に対する賃金に係る取扱い(以下「本件取扱い」)と同様の取扱いを要求したにもかかわらず、会社がこれを実施しないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である、
京都府労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
○争点
組合による要求〔注1〕がなされて以降、会社が、組合に対し、本件取扱い〔注2〕と同様の取扱いを実施していないことは、労働組合法(以下「法」)第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか。
〔注1〕認定によれば、組合は、前件申立て(本件取扱いが法第7条第3号の経理上の援助に該当し違法であるとして令和3年6月9日に京都府労働委員会に対して行った救済申立て)において会社が本件取扱いは正当である旨主張し続けたこと等から、執行委員会を開催し、本件取扱いと同様の取扱いを会社に要求するとの方針変更(以下「本件変更」)を行い、これに基づく要求(以下「本件要求」)を含む要求書を、令和4年4月22日付けで提出した。
なお、その内容は、団体交渉、協議・折衝、組合規約に基づく機関で決定した会合・行事等の組合活動に係る就業時間中の実施を認め、取扱い及び手続は別途協議決定するとのもので、本件取扱いと同様の取扱いを要求する旨は明記されず、要求書中に本件変更の経緯や理由等の記載もなかった。
〔注2〕会社は、組合が大会、執行委員会、中央委員会、団体交渉などの組合活動を就業時間中に実施することを認め、所定時間に係る賃金は控除しないが、C組合が会社に、組合員の平均基準賃金月額を「20.75×8」で除した額に「単価率」を乗じて得られた単価に離職時間を乗じて算定される「離職費」を戻し入れるというもの。
「単価率」は、令和2年時点では、原則、活動の内容に応じ100分の10又は100分の35であったが、令和4年2月9日以降毎年引き上げられ、令和8年2月9日以降は100分の60となるとされている。
1 本件のように、複数の労働組合が同一の使用者内に併存する状況では、使用者は中立保持義務を負う。その結果、使用者が一方組合にのみ労働条件や便宜供与を提供しつつ、他方組合に合理的理由なくこれを保障しないことは、法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入となる。
2 「合理的理由」に関し、組合は、合意の有無にかかわらず会社には中立保持義務に基づき本件取扱いと同様の取扱いを組合に対しても実施する義務があるから、合意のないことは合理的理由たり得ない旨主張する。
しかし、一般に就業時間内の組合活動は労使間の協議による合意に基づいて行われるべきもので、特に、本件のように、C組合と組合との間でその規模や活動内容に差異があるような場合においては、本件取扱いと同様に取り扱うにしても、その対象となる具体的な組合活動の範囲等については当事者間の協議の上で決定するほかないと解されるし、令和4年5月12日に組合と会社の間で成立した和解(以下「本件和解」)〔注3〕において、組合も誠実に交渉する旨合意していたのであるから、まずは当事者間で協議により実施内容について合意することが必要とされ、これを欠くことは合理的理由たり得ると解される。
〔注3〕①組合は、前件申立てを取り下げる、②会社及び組合は、組合員の就業時間中の組合活動の取扱いについて、法の趣旨に基づいて、①の経緯を踏まえ、双方誠実に交渉するものとするとの内容。
3 しかし、使用者が団体交渉に誠実に対応しない等の理由により合意が成立しないことも考えられることから、単に合意が成立していないことをもって合理的理由があると判断することはできず、合意に向けた当事者間の交渉の経緯及び内容について検討することが必要である。
そこで、組合と会社との本件取扱いに係る交渉の経過をみると、組合は、本件和解に先立ち本件要求を行っているが、(要求書において)本件取扱いと同様の取扱いを求める旨を明記しておらず、また、本件取扱いが違法であると主張して前件申立てを行った後、本件変更により同様の取扱いを要求するようになったにもかかわらず、経緯や理由について会社に説明していない。
4 組合は、その後も、令和4年5月12日の本件和解から約5箇月の間、書面による申入れを繰り返し、その内容も、単に、本件取扱いを組合にも認めるよう記載したものにすぎず、団体交渉を申し入れたのは同年10月になってからである。
そして、同年11月2日の団体交渉での対応も、会社が具体的な組合活動の内容について質問したのに対し、組合は、右要求書以上に具体的な承認を求める組合活動の範囲やその手続等について説明することもなく、また、C組合と協議中との会社の主張に対し、特に反論することもなく、継続交渉も求めないまま、書面回答を要求して団体交渉を終了させている。
その後、会社が本件取扱いの違法性についての見解を質問したのに対しても、組合が回答として提出した同年11月30日付け申入書には本件和解により前件申立てを取り下げた旨の記載があるだけで、本件和解には本件取扱いが不当労働行為であるとの前件申立てを取り下げるとの条項があるものの、これのみでは、本件取扱いの違法性そのものに対する組合の見解が変更されたのかどうかは不明であって、会社の質問に答えるものにはなっていない。
そして、会社との間で合意がないにもかかわらず、令和5年1月13日など3回の執行委員会について本件取扱いに準じて扱うよう求めるに至っている。
このような組合の交渉態度は合意形成に向けた努力を行ったものとはいえない。
5 確かに、単に「C組合との本件取扱いに関する協議結果等を勘案し改めて協議する」旨の回答を繰り返すのみの会社の対応にも、十分とはいえない面があり、本件和解の条項や経過から、組合が、より前向きな回答が得られるものと期待したであろうことも理解できなくはないが、一方で、現に会社はC組合との間で本件取扱いを縮小させてきており、上記のような交渉における組合の要求や提案内容、説明状況及び交渉姿勢に鑑みれば、組合と会社との間で合意が成立していない主たる原因は組合にあるというべきである。
6 そうすると、その余の事情について判断するまでもなく、会社が組合に対し、本件取扱いと同様の取扱いを実施していないことには合理的理由があると認められるから、法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入には該当しない。 |