労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委令和4年(不)第1号・第2号
不当労働行為審査事件 
申立人  個人X1・X2組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年2月9日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員X1、A2、A3及びA4に対して配置転換命令を行ったこと、②X1及びA4に対して懲戒解雇処分を行ったことが不当労働行為に当たる、として、個人X1及び組合から救済申立て(X1からの申立ては、同人に対する配置転換に関するものに限る)がなされた事案である。
 北海道労働委員会は、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)X1及びA4に対する配置転換命令及び懲戒解雇処分をなかったものとすること、現職復帰及びバックペイ、(ⅱ)X1及びA2に対する通勤に要したガソリン代相当額の支払、(ⅲ)労働協約所定の組合との労使協議をせずに、X1、A2、A3、A4及びその他の組合員に対して、一方的に配置転換命令を行って、X2組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)同じく、X1、A4及びその他の組合員に対して、一方的に懲戒解雇処分を行って、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅴ)文書掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、X1に対して行った令和3年11月16日付け会社の鹿部出張所への配置転換命令及び令和4年12月19日付け懲戒解雇処分をなかったものとし、次の措置を講じなければならない。
(1)X1を会社の函館営業所の原職に復帰させること。
(2)X1に対して、上記配置転換命令及び上記懲戒解雇処分がなかったならば支給されるべきであった令和4年11月から原職に復帰させるまでの間の月例賃金相当額及び他に支払われるべき賞与・手当等並びにこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みに至るまで年3分の割合による金員を付加して支払うこと。
(3)X1に対して、同人が上記配置転換命令がなされてから令和4年10月22日までの間に会社の鹿部出張所への通勤に要したガソリン代相当額を支払うこと。

2 会社は、組合員A2に対して、同人が令和3年12月16日付け会社の森出張所への配置転換命令がなされてから令和4年4月20日までの間に会社の森出張所への通勤に要したガソリン代相当額を支払わなければならない。

3 会社は、組合員A4に対して行った令和4年2月1日付け会社の江差営業所への配置転換命令及び令和4年12月19日付け懲戒解雇処分をなかったものとし、次の措置を講じなければならない。
(1)A4を会社の函館営業所の原職に復帰させること。
(2)A4に対して、上記配置転換命令及び上記懲戒解雇処分がなかったならば支給されるべきであった令和4年3月から原職に復帰させるまでの間の月例賃金相当額及び他に支払われるべき賞与・手当等並びにこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みに至るまで年3分の割合による金員を付加して支払うこと。

4 会社は、労働協約第7条第2項所定の組合との労使協議をせずに、X1、組合の組合員A2、A3、A4及びその他の組合員に対して、一方的に配置転換命令を行って、組合の運営に支配介入してはならない。

5 会社は、労働協約第14条所定の組合との労使協議をせずに、X1、A4及びその他の組合員に対して、一方的に懲戒解雇処分を行って、組合の運営に支配介入してはならない。

6 会社は、次の内容の文書を縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、会社本社の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
 当社は、C氏の弾劾手続に関与するという正当な組合活動をしたことを理由に、X1氏、組合の組合員A2氏、A3氏及びA4氏に対する各配置転換命令を行いました。 また、当社は、A2氏及びA4氏が上記の各配置転換命令に従わなかったことが懲戒事由に該当しないにもかかわらず、両氏を懲戒解雇しました。
 当社の上記行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後は、組合との労働協約を遵守し、このような行為を繰り返さないようにします。
 年 月 日
X2組合
  執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1 
判断の要旨  1 会社が、組合員であるX1、A2、A3及びA4(以下総称して「X1ら」)に対して行った令和3年11月16日付配置転換命令(以下「本件各配転命令」)は、労働組合法(以下「法」)第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)

(1)組合は、本件各配転命令は会社の不当労働行為意思に基づき、X1らが組合の組合員として、会社と協力関係に立つC氏〔注1 後出(3)ア参照〕の弾劾請求又は選挙管理委員会〔注2〕に主導的に関与するという正当な行為をしたことを契機として、X1らを居住地から遠方の営業所等に配置転換させたもので、不利益な取扱いに該当する旨を主張する。

〔注2〕組合においては、組合支部規約(以下「規約」)に基づき、組合員の3分の1以上の連署による役員の弾劾請求があった場合、選挙管理委員会を設置して信任投票が実施される。

(2)不利益性について

 本件各配転命令は、会社が就業規則に基づき、他の乗務員の退職による欠員補充を理由に、X1を函館営業所から鹿部出張所に、組合員A2を日吉営業所〔注函館市内〕から森出張所に、組合員A3とA4を函館営業所から江差営業所にそれぞれ配置転換を命ずるものである。
 これにより、X1及びA2は、ともに片道通勤時間が約6分から約1時間に変わり、自家用車通勤となって、ガソリン代を自ら支弁しなければならない。A3は、自家用車による片道通勤時間約20分が1時間30分から1時間50分ほどに変わり、A4は、同じく約5分が1時間30分から2時間ほどに変わるから、ともにその通勤に掛かる負担や乗務員という担当業務を考慮すると転居せざるを得ないといえるが、A3には配偶者がいて単身赴任を強いられ、また、A4には病歴を有する高齢の母親の介護が困難になるという事情がある。
 このように、本件各配転命令は、①X1らにそれぞれ乗務員としての勤務面や生活面で相当の環境の変化をもたらし、経済的、肉体的、精神的負担を強いるものといえる一方、②会社からは、いずれにおいても相当な不利益回避措置が提示されていないから、X1らにとって不利益と認められる。

(3)不当労働行為意思の有無について

ア 会社は、本件各配転命令まで、委員長A1の組合員資格に係る疑義などを理由に、令和3年4月9日の団体交渉を最後に、団体交渉申入れに応じていなかった。
 一方、組合内部では、①副執行委員長であったC氏が同年10月13日に執行委員長代行を宣言した言動が副執行委員長として不適格であることなどを理由として、同月26日にX1、A2ら4名が代表者となってC氏の弾劾を請求し、②組合は弾劾請求成立に伴い、同日、C氏の副執行委員長としての権限を停止するとともに選挙管理委員会を設置し、③同月27日に選挙管理委員長にA4、選挙管理委員にA3が選任され、同委員会は、C氏の信任投票の実施を告示した。このように、X1らは組合員として弾劾手続に主体的又は直接的に深く関与しており、かかる行為は、規約に基づく組合活動として正当な行為に当たる。
 かかる状況において会社は、(執行委員長代行を宣言する)C氏から10月18日に三六協定等に関する団体交渉の申入れを受け、組合からの抗議を無視して同月29日にC氏との間で三六協定等を締結するなどした。そして、会社は、投票前日の11月2日にX1への配置転換命令をし、同月5日のC氏の不信任決定後も、A2、A3、A4にそれぞれ配置転換命令をした。なお、この間のX1ら以外の異動はほかに1名のみであった(X1の配置転換の欠員補充のため)。
 このように、会社は、X1らが弾劾手続に深く関与した直後から、近接した時期(令和3年11月から4年1月まで)に立て続けに本件各配転命令を行っている。

ウ また、会社とC氏との関係をみると、会社は、規約の解釈に基づいて委員長A1の組合員資格等に疑義を呈して同人を代表者とする団体交渉を拒否する一方、独自の規約の解釈に基づきこれとは逆に積極的にC氏の組合代表権限を認め、同人が申し入れた団体交渉に応じ、三六協定等を締結している。また、本件各配転命令から間もなく、令和4年1月30日に組合定期大会が開催されたが、その直前の同月26日、常務B2は、代議員として出席予定のC氏らとの会合で、同大会成立阻止の意思を表明し、C氏らが行う質問内容について協力を申し出、それを受けて、C氏はB2の発言に沿った意見を述べている。
 このことから、会社は以前から、組合から委員長A1を排除するために、C氏を利用してきたことがうかがわれる。そして、会社は令和3年4月以後、三六協定を締結しないまま労働者に時間外労働や休日労働をさせていたところ、三六協定の締結を実現する上で、(執行委員長代行を宣言する)C氏が会社に三六協定の団体交渉を申し入れて同協定を締結することは、会社の意向に沿うものであり、会社と協力関係にあるC氏に対する弾劾手続は、会社の企図に反するものであった。

エ さらに、平成28年4月1日から令和4年6月1日までの本件各配転命令以外の人事異動の状況をみると、管理職を除く56件の従業員の異動では、懲戒処分を契機に昭和営業所から知内出張所に配置転換を命じられた執行委員A5(これにより同人は退職)を除き、本人の意に反して行われた異動は見当たらない。
 一方、本件各配転命令の態様は、いずれも会社が異動に関する希望の聴取や丁寧な説明をせず、余裕のない日程で一方的に告知したもので、結果、X1らはその無効を主張して提訴し、A3は命令を受け入れずに退職し、A2は配置転換後間もなく退職していることからすれば、いずれも意に反するものであった。
 そうすると、本件各配転命令は、会社が慎重な手続を経ることなく、他の従業員(A5を除く)の異動とは異なり、一方的に本人の意に反する配置転換を命じている点で異例の取扱いといわざるを得ない。そして、労働協約では、組合員の異動等に事前の労使協議を定めているにもかかわらず、会社は労使協議に応じていない。

オ 加えて、経過をみると、会社は、組合やその北海道本部から本件各配転命令等に係る団体交渉申入れを再三受けながら、委員長A1の組合員資格等の疑義を理由に一切応じず、令和4年1月の組合定期大会のA1の組合員資格を確認する決議、〔先行事件に係る〕同年2月10日の当委員会の勧告、同年4月1日の函館地方裁判所の〔組合が会社に対し団体交渉を求める地位にあることに係る〕仮処分決定などにより、会社が組合との団体交渉に応ずるべき旨の判断が示されても会社の態度は変わらず、実施方法等について折り合いがつかないなどとして、結局、団体交渉が行われていない。

カ このような本件各配転命令の経緯・時期、労使関係の状況、右命令の態様や手続の不相当性、団体交渉の経過に加え、後述する本件各配転命令における業務上の必要性や人選の合理性等の諸事情を総合的に考慮して判断すると、本件各配転命令は、X1らが組合員として、会社と協力関係に立つC氏の弾劾手続に深く関与するという正当な組合活動をしたことに対し、会社の企図に反する行動をとったことに報復する反組合的意図又は動機に基づきなされたといえ、不当労働行為意思が認められる。

(4)会社の主張について

ア これに対し、会社は、本件各配転命令は業務上の必要性に基づくもので、人選も合理的なものと主張するところ、同主張は不当労働行為意思を否定する趣旨を含むと理解される。

イ 会社は、右業務上の必要性について、遠隔地の営業所等に退職による乗務員の欠員が生じ、鹿部出張所(10名)、森出張所(3名)、江差営業所(20名)が各1名減員したため、適正配置基準に従ってその補充をしたことが理由である旨を主張する。
 しかし、会社からは、過去に適正配置基準を理由に退職時の欠員補充がなされていたことを客観的に示す書証は提出されていないことなどからすると、適切な裏付けを欠く適正配置基準を根拠に本件各配転命令の業務上の必要性の理由とするのは、合理性に乏しい。
 そして、欠員時の当面の対応としては、鹿部出張所と森出張所では事業所間の連携を図ることや江差営業所では管理職の乗務等の措置による対応が可能であり、また、函館市内の営業所においても人員不足の状況であったことなどの事情をも踏まえると、業務上の必要性を認めることはできない。

ウ 次に会社は、本件各配転命令における人選の合理性について、①貸切バスの乗務経験(X1、A3及びA4)又は②運行係の経験(A2)があり、③事故や苦情の件数が少なく、④他の乗務員からの乗務の変更を受ける体力があることを人選基準にした旨を主張する。
 しかし、上記①については、本件各配転命令以外の人事異動で、人選の理由として貸切バスの乗務経験を重視した事例は見当たらない。また、函館市内全営業所の乗務員で貸切バスの経験者が相当数いることを踏まえれば、X1、A3及びA4を人選した具体的な説明にはならない上、会社は、結局、個々の人選に至る経緯の詳細を明らかにしていない。
 また、上記②については、森出張所では所長が運行管理者の資格を保有するとともに当時運行係長2名が在籍し、また、運行係への就任は短期間の講習で可能である上、A2の退所後に森出張所に異動した者は運行係ができないなど、人選を運行係経験者に限定したことの合理性には疑問がある。
 さらに、上記③については、A2及びA3に事故歴がある点で矛盾し、上記④については、主観的で選考基準としての客観性に欠ける。
 そうすると、会社からは何ら説得的な説明がなされているとはいえず、本件各配転命令びおける人選の合理性も認めることはできない。

エ 以上のように、本件各配転命令について、業務上の必要性及び人選の合理性はないから、不当労働行為意思を否定する会社の主張は、採用できない。

オ そのほか、会社は、①A4及びA3は選挙の適法性を担保する単なる選挙管理委員にすぎず、弾劾請求に関与した者とはいえないこと、②弾劾請求の代表者4名のうち2名は配置転換の対象となっていないこと、③本件各配転命令は組合の幹部クラスを対象にしていないことを理由に、本件各配転命令は報復人事ではない旨を主張する。
 しかし、①について、選挙管理委員は、組合役員と良好な関係にある者が人選され、信任投票を実施する役割において弾劾手続に深く関与していること、②について、会社がその評価や諸事情から弾劾請求の代表者間で取扱いを異にしたとしても特に不自然とはいえないこと、③について、会社は本件各配転命令に先立って、委員長A1に対して出勤停止の懲戒処分を行った後に定年後の継続雇用を拒否し、書記長A6に対して懲戒解雇処分を行って、組合の中心的地位にある委員長A1らを会社から排除する取扱いを実行している〔注先行事件(北海道労委3不4号)参照〕ことから、会社の主張はいずれも失当である。

カ また、会社は、労働協約第7条第2項(「従業員の異動、配置、転換等、身分の変更については、事前に労使協議し、一方的に行なわない。」)の規定の死文化(その法的根拠を消滅時効又は信義則違反とする)を主張する。
 これは、労使協議が長期間行われてこなかったことを前提にすると解されるところ、(本件各配転命令までは)組合は会社から採用、異動等の人事の事前通知を受けて執行委員会内で検討するとともに、書記長A6と労務課長B3が事前協議を行うなど、実質的に労使協議と評価し得るやり取りが行われており、会社の主張はその前提を欠き、採用できない。

(5)よって、本件各配転命令は、X1らが正当な組合活動をしたことの故をもってなされた不利益な取扱いであるから、いずれも法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

2 本件各配転命令は、法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)

 上記1で判断したとおり、本件各配転命令は、会社の不当労働行為意思に基づき、X1らがC氏の弾劾手続に深く関与したことに対する報復人事であり、会社が引き続きC氏を利用することによって組合の自主的な運営に不当に干渉し、会社にとって不都合な行動をした組合員に不利益な取扱いをすることで組合を弱体化させ、組合員の組合活動に萎縮的効果をもたらすから、法第7条第3号の支配介入に該当する。

3 会社が、X1及びA4に対して行った令和4年11月19日付懲戒解雇処分(以下「本件各懲戒解雇処分」)は、法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点3)。及び、本件各懲戒解雇処分は、法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点4)

(1)本件各懲戒解雇処分の処分通告書では、処分理由として「就業規則違反(第60条第1号)長期に渡る無断欠勤」と記載されており、X1及びA4が各配置転換命令による就労をしなかったことのみを理由とするものと認められる。
 しかし、本件各配転命令は不当労働行為に該当するから、X1及びA4が右命令による就労をしなかったことは、懲戒事由に該当しない。そして、労働協約第7条第2項では、懲戒解雇処分を行う場合には労使で協議すると定められているにもかかわらず、会社が労使協議に応じていないことも併せて考慮すれば、正当な取扱いとは到底いえない。
 したがって、本件各懲戒解雇処分は、会社の不当労働行為意思に基づく本件各配転命令からの一連の不利益な取扱いといえる。
 なお、会社は、救済の内容変更の申立て却下、労働協約の死文化及び就労放棄による懲戒解雇処分の正当性を縷々主張するが、いずれも上記判断を左右しない。

(2)よって、本件各懲戒解雇処分は、正当な組合活動をしたことの故をもってなされた不利益な取扱いであり、組合の弱体化や組合員の組合活動に萎縮的効果をもたらすから、法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当する。 

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