労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第58号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年4月5日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が有害廃棄物の処理や組合員の健康被害等について団体交渉を申し入れたところ、清算中である会社が、既に団体交渉を繰り返し実施したなどとしてこれを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  ◎争点
 令和4年7月5日の団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか

1 組合が令和4年7月5日に団体交渉申入書(以下「4.7.5団交申入書」)を送付して団体交渉申入れ(以下「4.7.5団交申入れ」を行い、これに対し、会社が団体交渉に応じていないことについて争いはない。

2 労働組合法第7条第2号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、原則的には、現に当該使用者が「雇用」している労働者を前提としているものと解される。
 しかし、現実に派生する労働条件等を巡る問題は様々で、雇用関係の前後にわたって生起する場合もあり、その加入する労働組合と使用者との団体交渉を是認することが、むしろ労働組合法の趣旨に沿う場合が多いと考えられる。
 そうすると、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争については、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当である。

3 そこで、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、4.7.5団交申入れがなされたか、以下検討する。

(1)4.7.5団交申入書の協議及び要求事項についてみる。
 4.7.5団交申入書には、「従業員の健康被害の恐れもあるところ、まずは事実確認のため、以下の点について協議を行いたい」との記載に続き、協議事項として、①会社の敷地内への有害廃棄物の廃棄とその後の形質変更、②上記①の事実確認に基づき、行政への届出等が適切に行われていたかどうかの確認、という記載があること、が認められる。
 協議事項の①②の記載についてみると、組合は、事実確認を目的として、有害廃棄物の廃棄とその後の形質変更や行政への届出についての協議を求めているのであり、その事実を確認することが、直ちに、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争であるとみることはできない。
 この点について、組合は、4.7.5団交申入れに係る要求事項は、業務との関連性が疑われる組合員Aの身体的・精神的疾患に関連する事柄である旨主張する。
 確かに、組合員の健康被害を協議する前提として、組合が有害廃棄物の廃棄等について明らかにするよう求めたと解する余地はあるが、そうであるのならば、組合は会社に対して、①組合員にいかなる健康被害が発生しているのか、②当該健康被害と有害廃棄物の廃棄等がどのように関連するか、③当該健康被害を解決するために、なぜ、有害廃棄物の廃棄等について明らかにする必要があるのか等を具体的に明示すべきであるといえる。
 しかし、4.7.5団交申入書にそのような記載は認められないから、同申入書の協議及び要求事項は、いまだ発生していない健康被害の恐れに関連して、有害廃棄物の廃棄とその後の形質変更や行政への届出についての協議を求めているに過ぎず、組合員Aの身体的・精神的疾患に関連する事柄であるとみることはできない。
 したがって、4.7.5団交申入書の記載からは、協議及び要求事項が、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争についてのものとみることはできない。

(2)組合は、①組合員Aは癌を発症している旨、②組合は4.7.5団交申入れより前の令和3年9月28日の団体交渉(以下「3.9.28団交」)、同10月14日団体交渉(以下「3.10.14団交」)及び同年11月15日の団体交渉(以下「3.11.15団交」)において、繰り返し健康被害とそのリスクや組合員Aがダイオキシン等の有害物質に長期にわたって曝露しながら作業してきたことについて説明した旨、③組合員Aも3.11.15団交において、癌発症と有害物質の不法投棄の因果関係について不安を表明している旨主張する。
 そこで、過去の団体交渉における組合の発言等を併せ考慮することで、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、4.7.5団交申入れがなされたといえるかどうかについてみる。
 それによれば、①3.9.28団交や3.10.14団交において、組合が、重金属の被害は10年後や20年後に出てくることもあり、現実に発症していないとしても、従業員の健康問題が将来生じ得る可能性がある旨などを述べたこと、②3.11.15団交において、組合員Aが、精神障害は発症していると医者に言われた旨や、今内臓関係に異変が生じているので、その因果関係も分からないから、知りたい旨述べたことなどが認められる、
 そうすると、組合は、有害物質の処理による健康被害のリスクについては繰り返し説明しているものの、組合員が患っている疾患の名称、当該疾患の発症時期や対象部位など、健康被害の具体的な事項すら会社に対して明らかにしているとはいえない。その他、4.7.5団交申入れまでに、組合が会社に対して、組合員の健康被害の内容について具体的に明らかにしたと認めるに足る疎明はない。
 さらに、本件審査においても、組合は、組合員Aに身体的な健康被害が生じたことについて、診断書等の書証を提出していない。
 これらからすると、組合は会社に対して、組合員が被った健康被害の具体的な事項すら明らかにしていないのであるから、Aの健康に関する組合の団体交渉での発言等を考慮しても、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、4.7.5団交申入れがなされたとはいえない。

(3)以上のことからすると、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、4.7.5団交申入れがなされたとはいえず、会社に団体交渉応諾義務を負わせることはできない。

4 以上のとおり、会社に団体交渉応諾義務がない以上、4.7.5団交申入れによる団体交渉に、会社が応じなかったことにつき、正当な理由があるというべきである。
 したがって、4.7.5団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえないのであるから、本件申立ては棄却する。 

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