概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和4年(不)第3号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合(組合)・個人X2・個人X3 |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年3月18日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社による①組合員X2に対する譴責処分、②X2及び組合員X3に対する低い評価で査定した賞与の支給、③団体交渉における対応が不当労働行為に当たる、として組合並びに個人X2及びX3から救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第1号、③について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)X2に対する譴責処分がなかったものとしての扱い、(ⅱ)X2及びX3に対する令和3年度夏季賞与及び冬季賞与に係る正社員従業員の平均額と既に支払った額との差額の支払い、(ⅲ)当該賞与に関する団体交渉に係る誠実応諾、(ⅳ)X1組合、X2及びX3に対する文書手交を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、X2に対する令和3年6月25日付け譴責処分がなかったものとして扱わなければならない。
2 会社は、X2に対して、令和3年度夏季賞与及び同年度冬季賞与について、正社員従業員の平均額と既に支払った額との差額を支払わなければならない。
3 会社は、X3に対して、令和3年度夏季賞与及び同年度冬季賞与について、正社員従業員の平均額と既に支払った額との差額を支払わなければならない。
4 会社は、令和3年6月28日及び同年10月18日付けでX1組合から申入れのあった令和3年度夏季賞与及び同年度冬季賞与に関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
5 会社はX1組合、X2及びX3に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記 年 月 日
X1組合
執行委員長 A1様
X2様
X3様
Y会社
代表取締役 B
当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
記
(1)令和3年6月25日付けの貴組合員X2氏に対する譴責処分(1号該当)。
(2)貴組合員X2氏及びX3氏に対して、令和3年度夏季及び冬季賞与を他の正社員より低額で支給したこと(1号該当)
(3)令和3年7月1日、同年9月15日、同年11月10日及び同年12月2日に開催された団体交渉に、誠実に応じなかったこと(2号該当) |
判断の要旨 |
1 会社が、令和3年6月25日付けで、組合員X2を譴責処分としたこと(以下「本件譴責処分」)は、正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たるか
(1)組合と会社の関係や組合活動の状況について
①会社は平成28年1月20日付けで、既に組合に加入していたX2を解雇し、X2は地位確認等請求訴訟を提起したこと、②地位確認等請求訴訟において、同29年8月25日、X2の請求を認容した大阪高裁判決が確定したこと、③判決確定後、X2は再び、会社の工場にて勤務したこと、④その約1年後に会社、組合、X2らにより、X2の職場復帰をめぐる問題についての合意書(誠実団体交渉応諾に係る条項を含む)が交わされたこと、⑤平成30年に会社が作成し組合と共有したX2の処分通知書案〔注最終的に実施されず〕に、問題事象として業務時間内に労働組合活動を行いすぎている旨の記載があること、⑥令和元年5月21日に会社が労働局労災補償課に提出した文書に、X2が、常に組合活動ばかりしている旨などの記載があることが認められる。
これらから、この間、組合及びX2と会社は対立関係にあり、会社がX2の組合活動を嫌悪していたとみることができる。
(2)本件譴責処分について
ア 令和3年6月25日に会社がX2を譴責処分とした際に、X2に交付した譴責処分通知書(以下「本件処分通知書」)の内容をみるに、X2のどの行為に対し処分を行うのかが客観的に明らかな形で特定されておらず、会社は処分の原因となる行為を不明確にしたまま懲戒処分を行ったとみるのが相当で、そのこと自体、問題であるというべきである。
〔注〕本件処分通知書には、処分理由として、「2018年に懲戒処分をしようとした際に、行動を改める様に努めると言う事で、懲戒処分を踏みとどまりましたが、その後も変わらずに、言葉遣いだけにとどまらず、態度も悪く、会社代表取締役に悪態づく行為を辞めないどころか、労働基準監督署に虚偽の申請を行うのみならず、何度も何度も悪態行為を改める様に促し続けても一向に改まる姿勢が見られない為」などと記載されていた。
イ 本件処分通知書の内容には労働基準監督署(以下「労基署」)に虚偽の申告を行った旨の記載が含まれていることから、X2が労基署に申告を行ったことが原因であったとみることができる。しかし、労働者は自らの時間外労働等について疑義があると感じれば、使用者の意向に反しても自由に労基署に申告できるというべきで、しかも、労基署は会社に是正勧告書等を交付しているのだから、会社が、虚偽の申告が行われたとして処分を課すことは正当な行為とはいえない。
また、労基署への申告は、X2ら組合員3名により時間外労働に関する組合活動の一環として行われたといえるから、会社は、X2の組合員としての正当な行為を理由に処分を行ったと判断される。
そして、令和3年6月14日の団体交渉において、社長の工場訪問時刻に係るX2の発言に不正確な部分があったとしても、自らの認識によって述べたかかる発言が正当な組合活動の範囲内の行為であることは明らかで、処分理由とすることは不適切というべきである。
ウ 会社は、本件譴責処分の理由について、業務時間中の暴言や業務改善命令に対する反発、業務命令違反等を根拠とした旨主張し、令和3年5月17日の工場における経緯(以下「5.17経緯」)を挙げる。しかし、5.17経緯に係る事実について、組合及びX2の認識が会社と異なることは明らかであるところ、当該経緯の内容が同日に会社が組合に提出した抗議文に記載〔注〕のとおりであったと認めるに足る疎明はない。
また、会社は、平成30年のX2の行為についても主張し、本件処分通知書にも記載があることは認められるが、平成30年頃の経緯が会社の主張どおりであったと認めるに足る疎明はない。
〔注〕工場において社長BがX2に業務指示を出したところ、X2が激高し、「パワハラや!」、「裁判したる!」等の暴言をBらに吐き続けた旨
(3)よって、本件譴責処分は、処分の原因となる行為が不明確なまま、客観的に事実を明らかにする態度を欠き、一方的にX2の行為に問題があると結論付けたものといえる。また、会社がX2の組合活動を嫌悪しており、処分の原因というべき行為の中には組合員としての正当な行為が含まれている。
したがって、本件譴責処分は、正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
2 会社が、X2及びX3に対する令和3年度の夏季賞与及び冬季賞与(以下「本件賞与」)を、他の正社員より低い評価で査定し、支給したことは、正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たるか
(1)会社は、本件賞与に係る査定の平均点や平均支給額等を明らかにしていないが、①令和3年7月4日に会社が賞与考課内容について回答するとして組合に提出した文書(以下「7.4会社文書」)における記載や、②同年11月10日の団体交渉における委員長A1と取締役とのやりとりから、他の従業員に比べてX2及びX3に対する評価は低く、賞与額が低額であったと判断される。
(2)賞与額の決定方法について検討するに、会社は、査定の評価点や賞与額を、全従業員に対し均一の基準を設けて、客観的で透明性のある方法により決定していたとはいえず、恣意的に決定していたとみることができる。
(3)会社は、査定の根拠となるX2及びX3の行為を明確に示しているとは言い難いが、同年11月10日及び12月2日の団体交渉におけるやり取りをみると、会社が本件賞与の額を決定する際に着目した両名の行為は、概ね、7.4会社文書の記載のとおりであるといえる。
そして、当該文書においては、X2について、①労基署への申告、②5.17経緯、③令和2年12月の団体交渉における発言、④盗聴を行っていることなど、X3について、①知識や技術のレベルの低さ、②労基署への申告、③業務命令として求められた掃除に応じなかったことなどが記載されているが、いずれも査定の評価点や賞与額を下げる理由に当たるとは言い難い。
(4)これらから、会社は、X2及びX3に対する本件賞与に係る査定において、公平で客観的な手段を用いず、正当な理由なく低い評価としたというべきである。また、会社が両名の組合活動を嫌悪していることは否定できない上、査定に当たり、組合員としての正当な行為を問題行為としてとらえていることも明らかである。
したがって、会社の行為は、正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
3 令和3年7月1日、同年9月15日、同年11月10日及び同年12月2日に開催された団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応は、不誠実団体交渉に当たるか
(1)組合は、令和3年6月28日などに会社に提出した申入書にて団体交渉を申し入れたが、その要求事項には、本件賞与と本件譴責処分に関するものがあったと認められ、これらが義務的団体交渉事項に当たることは明らかである。
(2)会社は、本件団体交渉において、組合の求めにもかかわらず、X2及びX3に対する本件賞与の減額理由の具体的内容、どういった点がどの程度賞与額へ影響したかや、本件譴責処分の原因となった具体的な行為を明らかにせず、客観的な事実に基づいて協議を行う姿勢を欠き、根拠の不確かな発言を繰り返すなどした。
かかる行為は、団体交渉における組合との協議に誠実に応じなかったものと判断され、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 |