労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  鹿児島県労委令和元年(不)第1号
鹿児島市(交通局)不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  鹿児島市(市) 
命令年月日  令和6年3月13日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が行った令和元年6月3日付けから5年4月1日付けまで計9件の団体交渉申入れに対する市の対応、②組合役員3名に係る勤務時間の変更願を(当該職員ではなく)交通局長がバス事業課あて提出するよう求める組合の要求書を受け取った市が、右変更願を提出しなかったこと、③令和2年4月1日から、4人の組合員からマイク、携行品等を取り上げ、勤務割表を配布せず、勤務並びに公休等を充当せずに仕事を失わせていることが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 鹿児島県労働委員会は、①のうち計7件の団体交渉申入れに対する市の対応について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、市に対し、(ⅰ)右7件について、一部の事項を除き、団体交渉に応じなければならないこと、(ⅱ)最初に開催する団体交渉への交通局長の出席と、その冒頭で団体交渉の出席者に係る市の原則的な考え方を示しての協議を命じるとともに、③に係る申立てについて申立期間を徒過しているとして却下し、その余の申立てを棄却した。

〔注〕本件については、令和元年8月2日に組合から救済申立てがなされて以降、同5年まで数次にわたり追加申立書等が提出され、労働委員会における整理を経て追加された申立事実について、同一の事件として審査することとされた経緯がある。 
命令主文  1 市は、組合の、令和元年6月3日付けの2件の団体交渉申入れ及び同月12日付けの団体交渉申入れ、令和2年11月30日付けの団体交渉申入れ、令和3年 7月27日付けの団体交渉申入れ、令和4年6月16日付けの団体交渉申入れ並びに令和5年4月1日付けの団体交渉申人れにおいて交渉事項とされた事項(令和3年7月27日付けの団体交渉申入れ及び令和5年4月1日付けの団体交渉申人れにあっては、組合員の勤務労働条件に係る部分に限る。)に係る団体交渉に応じなければならない。
 市は、この団体交渉のうち最初に開催するものには、交通局長が出席するとともに、その冒頭で、市側が団体交渉の出席者の選定に係る原則的な考え方を示して、組合との間で協議しなければならない。

2 組合の申立てのうち、市が、令和2年4月1日から、4人の組合員からマイク、携行品(財布)等を取り上げ、勤務割表を配布せず、勤務並びに公休等を充当せずに仕事を失わせていることに係る令和5年5月19日付けの救済申立てを却下する。

3 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和元年6月3日付けの2件の団体交渉申入れ及び同月12日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点1)

(1)令和元年6月3日付けの正規職員の未払賃金等に関する団体交渉申入れが労働条件に関するものであることは明白である。
 また、①同日付けの嘱託職員の労働条件通知書等に関する団体交渉申入れは、当該通知書における記載を「更新があり得る」から「更新なし(平成32年度から「会計年度任用職員制度」へ移行のため)」と変更した件などを協議事項とするものであり、②同月12日付けの人事評価制度に関する団体交渉申入れは、人事評価の給与反映を含むものであることなどから、いずれも労働条件に関するものであることは明らかである。

(2)市は、組合代理人弁護士に団体交渉の実施に係る調整を依頼していたが回答がなく、団体交渉の実施に至らなかったのだから、団体交渉拒否ではないと主張する。
 しかし、この後、当該弁護士とも、その辞任通知後に組合との間でも、市が団体交渉実施に向けた調整をした事実は認められず、結局、団体交渉は実施されなかった。したがって、団体交渉の拒否があったというべきで、そのことに正当な理由も認め得ないから、市の対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

2 令和2年11月30日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点2)

(1)(組合が提出した「団体交渉申入書」には、協議事項として、①嘱託職員4人の不当解雇に関する件、②右4人らに係る(休憩時間に係る)未払賃金に関する件が記載されていたところ)当該団体交渉申入れに係る交渉事項は、要するに休憩時間とされている時間における組合員に係る一般的な待遇に関することであり、地方公営企業等の労働関係に関する法律(以下「地公労法」)第7条における、同条第1号に掲げる賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日及び休暇に関する事項は団体交渉の対象とすることができるとの規定からすると、団体交渉を正当な理由なく拒否した場合、不当労働行為になる。

(2)そして、当該団体交渉申入れは、当該休憩時間の具体的な算定を交渉事項とするものではないから、市が、文書にて組合に、誰が、いつ、どの時間に、本来休憩であったところを勤務していたのかを示すよう求めたことは、交渉事項とは直接関係がないことを確認しようとしたと言わざるを得ない。また、市は、組合が、令和元年の研修資料にあるとされる「拘束時間・休息期間等について」が交渉事項であること等を記載した文書を提出した後も、当該休憩時間の具体的な算定に拘泥し、組合に同様のことを求めている。
 そして、結局、団体交渉は実施されていないから、当該団体交渉は拒否されたと言わざるを得ず、そこに正当な理由も認め得ないから、市の一連の対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

3 令和3年7月27日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点3)

(1)組合が提出した「団体交渉開催の申し入れ」文書には、交渉事項として、令和3年5月11日付け鹿児島県労働委員会審査委員長からの文書〔組合から本件(鹿児島県労委令和元年(不)第1号事件)に関し和解協議の意向が示されたこと等を通知し、和解協議を行う意向について市の考えを提出するよう依頼するもの〕等の日付及び番号が記載されていた。

(2)組合が和解案として提示している事項には、人事異動に関すること、嘱託職員を正規職員とすること、労働条件等の変更は団体交渉によること等、組合員の労働条件その他の待遇であって使用者に処分可能なものが含まれていないとは言えないから、市は、これらを交渉事項とする団体交渉の申入れには応じなければならない。

(3)市は、二重の交渉等を回避するためとして、審査手続外における団体交渉に応じなかったが、当委員会の審査手続に継続していることは、団体交渉に応じない正当な理由になり得ない。
 これらのことから、この市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

(4)なお、市は、本事件の審査手続の中で当該交渉事項に係る意見を申述することで当該申入れに対応するとしており、要するに、審査手続の中で団体交渉申入れに対応するから申入れを拒否したことにはならないというものであると思料されるが、一方で市は、審査手続の中で、和解に向けた協議を行う意向がないことを審査委員長に告げており、これによって実質的な団体交渉が審査手続の中で行われるには至らなかったことからすると、審査手続での市の対応が上記(3)の不当労働行為に該当することを治癒することになるものではない。

4 令和4年6月16日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点4)

(1)(組合が提出した「団体交渉開催の申し入れ」文書には、交渉事項として「定年制度について(地方公営企業等職員)」と記載されていたところ)地公労法第7条第4号において、同条第1号から第3号までに掲げる賃金等、労働時間、休憩、休日及び休暇、昇職、降職、転職、免職、休職等のほか、労働条件に関する事項は団体交渉の対象とすることができると規定されていることに照らすと、当該団体交渉申入れの交渉事項である定年制度に関することが、労働者の労働条件に関する事項であることは疑いを入れる余地がない。

(2)市が、令和4年6月24日付け文書で総務課職員係長により交渉事項の確認をしようとしたことは、その後の定年制度の変更が見込まれていたことからすると、必ずしも不合理とはいえない。
 しかし、組合から、義務的団体交渉事項でありそのような確認は必要ないとの主張がなされた後もなお、市が同様の確認をしようとし、交渉事項の内容が調整できれば団体交渉の場を設定するとの応答をしたことにより、調整できない場合に団体交渉の場を設定することは事実上困難になったと言わざるを得ない。
 よって、当該団体交渉申入れに係る団体交渉は拒否されたと言わざるを得ず、そこに正当な理由も認められないから、市の対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

5 令和4年8月10日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点5)

(1)(組合が提出した「団体交渉開催の申し入れ」文書には「交渉事項:訓戒書(平成27年10月23日付け)について」などと記載されていたところ)本件のような訓戒は、地方公務員法に基づく懲戒処分には至らない程度の措置ではあるが、一般的には労働者の労働条件その他の待遇に影響を与えることは否定できず、これに関することは義務的団交事項の対象であると解される余地がある。
 しかし、訓戒に関する団体交渉の申入れが、6年9か月後の令和4年8月10日になされ、その間に対象職員の労働条件その他の待遇にどのような影響があったのか当該団体交渉申入れの内容からは不明であることから、市が、当該交渉事項が交渉の対象であるか否か不明であるとしてその内容を確認することには合理性が認められる。
 そもそも、団体交渉の申入れを受けた使用者による、交渉事項の明確化のための趣旨の確認は通常行われており、確認に応答しなければ団体交渉には応じないと告げたり、幾度もの確認と応答を経てなおも確認を繰り返すなどの事情があれば格別、当該確認行為のみをもって団体交渉の拒否と解することは、団体交渉の円滑な実施に与える影響を考慮すると、相当とはいえない。
 よって、この確認行為をもって団体交渉の拒否があったとすることは相当でない。

(2)なお、結局、当該団体交渉申入れに係る団体交渉は行われていないが、訓戒の6年9か月後であり、緊急性を伺わせる特段の記載はないこと、及び市が(1)の確認行為に対する組合の応答を団体交渉開催の条件としたものでもないことから、一連の対応をもって団体交渉の拒否があったとすることも、また相当でない。

6 令和5年3月3日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点6)

(1)団体交渉における使用者側の出席者は、交渉担当者が実質的な交渉権限を有していれば、最終的な決定権限までは必要ない。
 ①出席した交通局総務課長(以下「総務課長」)は、次長の命を受けて労働組合に関すること及び人事等に関することを処理する職責を有し、②職員係長は総務課長の命を受けて労働組合に関すること及び人事等に関することを処理する職責を有しているから、団体交渉事項の最終的な決定権限がないとしても、組合側の要求に応じて、市側の見解の根拠を具体的に示すなどの実質的な交渉権限が与えられている。
 また、令和5年3月31日の団体交渉では、組合側出席者の退席により、実質的な団体交渉は行われておらず、具体的な言動から総務課長らが実質的な権限を与えられていたか否かを判断する余地もない。
 よって、総務課長らが当該団体交渉に出席したことそれ自体が誠実交渉義務に違反するとの組合の主張は失当である。

(2)団体交渉に際して交通局長の委任状が必要との組合の主張には根拠が認められず、それを前提とした、市の対応が誠実交渉義務違反であるとの主張も、また失当である。

(3)なお、組合は、本事件の背景には、市が組合と別組合とを差別的に取り扱ってきたことがあり、その一環として、組合と市との団体交渉に交通局長及び次長が出席していないことがある、と主張しているものとも思料される。
 実際に、平成28年度以降、B2氏が交通局長を退任するまでの間については、市側の出席者の選定において、組合と別組合との間で顕著な差異が生じているなど、組合が差別的に扱われていたとの疑いを払拭できない。しかし、令和2年4月1日にB1氏が就任して以降、有意的な差異は認められず、当該団体交渉申入れに対する市の対応が、別組合との差別的取扱いの一環としてなされたとは認められない。

(4)したがって、市が総務課長らを交渉に当たる者としたこと、及び総務課長らに委任状を交付しなかったことが労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとは認められない。

7 令和5年4月1日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点7)

(1)(組合が提出した「団体交渉開催の申し入れ」文書には、交渉事項として「労働組合法第7条2号違反にかかる労働協約(確認書)の締結について」と記載されていたところ)市は、組合は当該団体交渉申入れにおいて本事件〔注鹿児島県労委令和元年(不)第1号事件〕における争点の追加を求めていると解しているが、申入れ文書中にそのような記載はなく、これに立脚した市の(労働委員会が手続の中で定めるものであり、団体交渉で定める事項ではないとの)主張は採用できない。

(2)当該交渉事項について、組合がどのような内容の労働協約を締結しようとしているのか等は判然としないが、申入れ文書には、市が団体交渉に応ずべきとする記載のほか、未払賃金の支払を求める旨の記載がある。
 そして、賃金の支払に関することは、少なくとも団体交渉の前においては交渉事項に該当しないとは言えないから、これを看過して団体交渉に応じないこととした市の対応は、正当な理由がない限り、労働組合法第7条第2号の不当労働行為とされることを免れ得ない。
 なお、市は、本事件が係属中であり、交渉事項は救済申立手続において対応することを、組合の要求に応じない理由としているが、団体交渉申入れに応じないことの正当な理由とはならない。

(3)よって、市の対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

8 勤務変更願を交通局長が提出するよう求める令和5年4月14日付けの要求書を受け取った市が勤務変更願をバス事業課に提出しなかったことは、労働組合法第7条第4号の不当労働行為に当たるか。(争点8)

(1)組合の主張は、要するに、組合員が(鹿児島県労働委員会の)調査期日に出席する必要があることを市に告げているのだから、そのための勤務変更願は市からバス事業課に提出されるべきで、そのように要求したにもかかわらず、組合が不当労働行為救済申立てをしたことを理由として、それを行わなかったというものと思料される。
 ー方、市は、従前から、職員から動務変更願が提出された場合には、業務に支障の生じない範囲でこれを認容して勤務時間を変更する取扱いを行っており、組合員の当該期日出席に際しても、従前と同様の手続を行うよう組合に告げている。

(2)結局、①組合が従前と同様の手続を行った事実も、②市において、組合が以前の調査期日に出席する際に行っていたのと同様の手続を拒んだり妨げたなどの事実も、③市が従前と異なる特段の取扱いをすべき理由も認められないから、市における勤務変更願の取扱いは、交通局において通常行われているところと異なるところはなく、組合が不当労働行為救済申立てをしたことを理由としてなされたと認めるに足る事情はない。
 したがって、市の対応は、労働組合法第7条第4号の不当労働行為に当たるとは認められない。

9 市が、令和2年4月1日から、4人の組合員からマイク、携行品(財布)等を取り上げ、勤務割表を配布せず、勤務並びに公休等を充当せずに仕事を失わせていることに係る令和5年5月19日付けの救済申立ては、労働組合法第27条第2項に規定する申立期間を経過しているものであるか。経過していないとした場合、これらの行為は、労働組合法第7条第4号の不当労働行為に当たるか。(争点9)

 組合員である嘱託職員4人は、①委嘱期間の終期である令和2年3月31日に至ったことにより同日付けで交通局の職員としての身分を失い、それに伴ってマイク等の携行品を市に返還すること等となったこと、②同年4月1日からを任用期間とする会計年度任用職員の募集に応募しなかったことにより同日以降は交通局の職員ではないことが認められる。
 そして、争点9に係る申立ては令和5年5月22日に受け付けたものであるから、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、却下を免れない。
 なお、当該申立てに係る各行為は、それ自体完結した1回限りの行為であって、当該行為による交通局に任用されない状態がこれ以降継続しているとしても、それは当該行為の結果が継続しているに過ぎず、労働組合法第27条第2項の「継続する行為」には当たらない。

第4 救済の方法

 救済の方法については、主文のとおりとする。
 なお、令和3年7月27日付けの団体交渉申入れ〔注 争点3〕及び令和5年4月1日付けの団体交渉申入れ〔注 争点7〕については、それぞれの申入れに係る団体交渉事項のうち、本事件の審査に関わる部分については、本命令の発出の後は団体交渉をする意義が認められないことから、勤務労働条件に関する部分のみに限定して応じることとした。
 また、主文1後段については、団体交渉における市側の出席者は、別組合との間で、差別的な取扱いであると断じることはできないまでも、差異が生じていた期間があり、その選定の考え方について共通認識が持たれていないことが認められることから、まずは、このことについて、交通局長が市側の考え方を示し、組合・市の間で協議することが、労使関係の安定化に資すると考えられるため、このように命じるものである。 

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