労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  熊本県労委令和3年(不)第1号
協業組合八代清掃不当労働行為審査事件 
申立人  X組合 
被申立人  Y協業組合(法人) 
命令年月日  令和6年3月1日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①申立外C組合(X組合に組織加入)の組合員A3に対し、従業員の退職に関する事情聴取を行い、精神的苦痛を与えたこと、②A3が右事情聴取後に体調不良となり欠勤したことに対し、給与、夏期賞与、年末賞与及び決算手当からの欠勤控除、満勤手当の不支給並びに次年度の昇給額の減額をしたこと、③右事情聴取に係る令和2年5月20日の団体交渉申入れに対し、団体交渉を遅らせ、その後に開催された団体交渉においても不誠実な対応を繰り返したこと、④社員の正社員化に関し、平成31年2月28日に行われた団体交渉以後、合意書の締結を拒否し続けるとともに、組合を介さず該当者と個別に面談を行い新たな契約を締結した上、正当な理由なく団体交渉開催を引き延ばしたことが不当労働行為に当たる、としてX組合から救済申立てがなされた事案である。
 熊本県労働委員会は、③について労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書掲示等を命じるとともに、①、②の一部、④について、申立期間を徒過したものとして却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、本命令書交付の日から10日以内に、JIS(日本産業規格)B0サイズ(短辺1030mm、長辺1456mm)の大きさの白紙全面に次の文書を明瞭に記載し、法人事務所及びM町事業所内の職員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。

令和 年 月 日
X組合
 代表者 執行委員長 A1様
C組合
 執行委員長 A2様
法人           
代表者 代表理事 B

 貴組合からの令和2年5月20日の団体交渉申入れ及びその後の団体交渉における当法人の対応は、熊本県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後は、労働組合の存在意義を理解し、誠実交渉義務を尽くして、二度とこのような行為を繰り返すことなく、健全な労使関係を構築いたします。

2 法人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に掲示状況の写真を添えて文書で報告しなければならない。

3 X組合の申立てのうち、次の事項に関する救済申立てを却下する。
(1)法人が、令和2年4月22日に行ったC組合組合員A3に対する事情聴取。
(2)法人が、C組合組合員A3に支給した令和2年5月分及び同年6月分給与から欠勤控除を行うとともに、両月の満勤手当を不支給としたこと並びに同年8月支給の夏期賞与から欠勤控除を行ったこと。
(3)X組合が申し入れた、雇用期間の定めはないが、労働条件の有効期間が1年とされている社員の正社員化に関する団体交渉申入れに係る法人の一連の対応。

4 X組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 申立期間(申立要件)について

(1)①法人が令和2年4月22日にA3に対して行った事情聴取(以下「本件事情聴取」)、②令和2年5月26日以降の本件欠勤控除等〔注〕及び③同年5月20日の団交申入れから令和3年7月12日までの団体交渉における対応は、「継続する行為」に該当し、事情聴取に係る申立てが行為の日から1年を経過していないと認められるか否か。(争点1(1))

〔注〕A3が、本件事情聴取後、体調不良となり、令和2年5月14日から25日までの間、欠勤したことに対し、法人が、同年5月分及び6月分給与から欠勤控除し、両月の満勤手当を不支給としたこと並びに同年8月支給の夏期賞与、同年12月支給の年末賞与及び決算手当から欠勤控除したこと並びに次年度の昇給額の減額をしたこと。

ア 本件事情聴取と本件欠勤控除等との関係について

(ア)X組合は、本件事情聴取がなかったら、欠勤もなく、欠勤を原因とする欠勤控除等も発生しておらず、したがって、本件事情聴取と本件欠勤控除等とは一体とした一個の継続する行為と判断すべきなどと主張する。

(イ)そこで検討するに、本件事情聴取は、E元職員の退職理由(A3がE元職員に対して「俺達のおかげで社員になれた。」という趣旨の発言をしたのかどうか)を把握するという目的で行われた1回限りの人事管理上の行為(面談)であり、その態様は上司二人により行われた約1時間52分にわたるヒアリングと言え、その効果はヒアリングによって得られた事実関係の把握と言える。
 一方、本件欠勤控除等は、A3が病気を理由に、年休を3日取得した後は服務上欠勤扱いとなったことに伴い、給与規程に基づき、欠勤時間に応じた各給与、各賞与、各手当及び昇給の減額を行うことを目的及び態様として実施された賃金支給に関する事務行為であり、その効果は減額された一連の給与等の支給である。
 このように、二つの行為は、全く違う目的、態様で行われた行為であり、得られた効果も異なるから、継続する行為とは言えない。

(ウ)X組合は、紅屋商事事件(最高裁第三小法廷平成3年6月4日判決)を引用し、本件事情聴取及び本件欠勤控除等の行為は継続する行為である旨主張するが、本件では、事情聴取そのものが単独で意味を持つ、具体化した法人の行為であり、そこに、本件欠勤控除等という別の具体化した法人の行為が続いた点で、上記事件とは前提が異なる。

イ 本件事情聴取と団体交渉との関係について
 X組合は、本件事情聴取に係る令和2年5月20日の団体交渉申入れ(以下「2.5.20団体交渉申入れ」)から令和3年7月12日の第4回団体交渉までの法人による不誠実な態度によって真摯な協議が行われておらず、本件事情聴取という法人の行為は今も継続していると主張する。しかし、本件事情聴取は1回限りの人事管理上の行為であり、その日に完結したものであることは明らかである。
 また、本件事情聴取と団体交渉における法人の対応とは、それぞれが異なる目的、態様、効果を持つ独立した行為であり、継続しているとはいえない。

ウ 法人の組合嫌悪の意思について

 X組合は、本件事情聴取、本件欠勤控除等及び団体交渉における法人の対応は組合嫌悪の意思に基づく一体として一個の不当労働行為が継続している旨主張するが、仮に、本件事情聴取の背景に組合嫌悪の情があったとしても、そのこと故に直ちにこれらの行為が継続する行為であるとは認められない。

エ 以上から、本件事情聴取と本件欠勤控除等及び団体交渉申入れ並びに団体交渉における法人の対応は、いずれも継続する行為であるとは認められず、本件事情聴取に係る申立ては、行為の日から1年を経過した後の申立てであるから、申立期間を徒過している。

(2)A3の欠勤に伴う下記①ないし⑥の各種欠勤控除等は、「継続する行為」に該当し、下記①ないし③の行為に係る申立てが行為の日から1年を経過していないと認められるか否か。
①令和2年5月分給与における欠勤控除及び満勤手当の不支給(欠勤控除①)
②令和2年6月分給与における欠勤控除及び満勤手当の不支給(欠勤控除②)
③令和2年8月支給の夏期賞与における欠勤控除(欠勤控除③)
④令和2年12月支給の年末賞与における欠勤控除(欠勤控除④)。
⑤令和3年3月支給の決算手当における欠勤控除(欠勤控除⑤)。
⑥令和3年4月実施の昇給額の減額(欠勤控除⑥)         (争点1(2))

(ア)欠勤控除①ないし欠勤控除③については、行為の日だけを見れば救済申立日(令和3年9月10日)から1年以上を経過している。

(イ)A3の欠勤をそもそもの原因として行われた点において、一見すると欠勤控除①ないし欠勤控除⑥は互いに密接な関連性のある一個の継続する行為であるかのようにも見えるが、これらの欠勤控除は、給与及び賞与計算を行うそれぞれの期間ごとに給与規程に基づき機械的かつ個別に独立して行われた行為であって、継続する行為には当たらない。
 したがって、欠勤控除①ないし欠勤控除③についての申立ては、行為の日から1年を経過した後の申立てであるから、申立期間を徒過している。

(3)本件事情聴取に係る団体交渉に関し、法人の「①2.5.20団体交渉申入れから同年9月9日(本件申立ての1年前の日の前日)までの行為」と、「②令和2年9月10日以降の行為」は、「継続する行為」に該当し、①に係る申立てが行為の日から1年を経過していないと認められるか否か。(争点1(3))

 本件の団体交渉申入れ事項は本件事情聴取についてであり、2.5.20団体交渉申入れから同年10月15日の第1回団体交渉までの団体交渉開催を巡る労使間のやりとりには時間的近接性があり、計4回の団体交渉における労使のやりとりも一貫して本件事情聴取についてのものであることが認められる。したがって、法人の行為①と行為②は継続する行為に当たると認められ、法人の行為①は申立期間を徒過していない。

(4)本件正社員化に係る団体交渉申入れ(平成31年1月24日)以降の法人の行為と本件申立てまでに確認書についての返答をしていない法人の不作為が「継続する行為」に該当し、行為に係る申立てが行為の日から1年を経過していないと認められるか否か。(争点1(4))

 X組合は、本件正社員化に係る団体交渉は、令和元年9月10日に実施された後は行われておらず、当該団体交渉の際に検討された「確認書」に対する法人の考え方も示されていないという不作為が継続している状態である等と主張する。
 しかし、法人の不作為を理由に本件申立てを容認することになれば、結局のところ、過去の不当労働行為についての救済申立てを、期間の制限なく認めることに等しい結果をもたらし、除斥期間が定められた制度的、公益的な趣旨を没却する。
 さらに、労働組合法第27条第2項の申立期間は法定されたものであり、申立期間を徒過した理由によって左右されるものではなく、労働委員会の裁量の余地はない。
 したがって、本件正社員化に係る団体交渉及び本件正社員化の実施等についての申立ては、行為の日から1年を経過した後の申立てであるから、申立期間を徒過している。

(5)以上のとおり、争点1(1)、争点1(2)のうち欠勤控除①ないし欠勤控除③及び争点1(4)は、いずれも申立期間を徒過したものとして、その余について判断するまでもなく、却下を免れない。

2 不当労働行為性について

(1)争点1(2)記載の各行為のうち「欠勤控除④ないし欠勤控除⑥」(以下「当該欠勤控除等」)が不当労働行為であると認められるか否か(争点2(1))

 当該欠勤控除等が、不当労働行為に該当するためには、組合員であるが故に非組合員とは異なる取扱いを受けたことがそもそもの成立要件となるが、従業員が欠勤した際に、組合員・非組合員を区別して欠勤控除が行われていることを示す証拠はない。
 X組合は、A3に対する勤務の取扱いや当該欠勤控除等は、新型コロナウイルス濃厚接触者に対する取扱いとは対照的であり、組合員であるが故の不利益取扱いと主張するが、当該接触者に関する取扱いは、極めて特殊な要因により定められた例外的な措置であるとともに、国が定めたガイドラインの趣旨に沿った取扱いというべきで、合理性がある。
 したがって、新型コロナウイルス濃厚接触者とA3の取扱いが異なるからといって、直ちに組合員又は組合活動をしたが故の不利益取扱いとはいえず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為とは認められない。
 また、X組合は、当該欠勤控除等は、欠勤の原因を問えば、本件事情聴取の正当性が揺らぎ、組合との間で面倒なことになるから、その面倒を避けるため機械的に行われた旨主張する。しかし、組合の運営等に対する干渉ないし組合の弱体化を図ったものと認めるに足る事情もなく、労働組合法第7条第3号の支配介入とは認められない。

(2)争点1(3)記載の各行為のうち、「団体交渉申入れに対する法人の対応」(法人の行為①)について

ア 法人は、2.5.20団体交渉申入れに対し、翌日の団体交渉日を指定した理由を納得のできる明確な理由で答えるよう求めている。これに対しX組合が、使用者側が不当労働行為を行った疑いが強く、一刻も早く事実の把握、事態の収拾のためにやむを得ず急遽の申し入れとなった旨釈明したところ、法人は、同月30日、今回組合が不当労働行為としている案件と過去の案件の違いについて、全てと比較して説明するよう、併せて、緊急を要する理由についても比較説明するよう求めている。
 確かに、当日付けの文書で翌日の団体交渉に応じるよう求められても法人側の都合や事情もあって、対応できない場合があることも十分考えられる。しかし、組合が自身の組合員の身を案じ、本件事情聴取におけるやり取りを把握すべく緊急の団体交渉を申し入れることは組合としてやむを得ない事情があり、法人においても、そのような事情も十分知り得たというべきである。
 法人は、そうした事情を斟酌することなく説明を求めるなどしているが、これらの行為は過度な要求と言うべきであり、労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって交渉に当たるべき使用者に求められる義務を果たしているとは到底認められない。

イ さらに、X組合が令和2年6月2日付けの文書で、法人が言う「過去の案件の全て」が何かにつき明示するよう求めたのに対し、過去の議事録を自ら参照すべき旨などを返答した法人の態度は、後に行われた団体交渉にて、組合が再三にわたり求める(本件事情聴取に係る)録音の聴取を拒否した自らの態度とは真逆の発言とも言うべきで、団体交渉に臨むに当たり真摯な対応が求められる使用者の回答として相応しいものとは到底言えない。
 また、法人は、いわゆる繁忙期で時間が取れないとして、7月になってからの連絡を求めているが、日程調整への対応は十分可能と考えられ、その対応に合理的理由は認められない。

(3)団体交渉における法人の行為(法人の行為②)について(争点2-2)

ア 法人は、団体交渉に臨むに当たり、使用者の当然の義務として、本件事情聴取の内容を十分把握した上で団体交渉に当たるべきところ、第1回団体交渉において、上司二人が何を言ったのか聞いていないのかとの趣旨の組合の質問に対し、質問はしたが具体的にどういう言葉で聞いたのかとまでは聞いていない旨返答した上、再度(上司二人から)聞き取ってもらえないかとの組合の要望に対しても、内容を把握しているのであれば、何が不当労働行為となるのか組合の方から話してもらった方が時間短縮になると発言するなど、使用者として必要な努力をしているとは到底言い難く、労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは到底認められない。

イ 法人は、本件事情聴取の録音を聞くよう求められ、第1回団体交渉から1か月ほどの時間があったにもかかわらず、録音を聞くことなく団体交渉に臨んでいる。また、法人は第2回団体交渉においても、本件事情聴取そのものが団体交渉事項であることを知りながら、「2時間近くの録音を聞くとなると仕事が暇な時でも1か月はかかる。」等と発言するなど、自らの態度に固執するのみで、組合の要求を真摯に受け止め、これを検討しようとする姿勢に著しく欠けていた。

ウ 第3回団体交渉において、本件事情聴取に至る一連の経過を時系列で整理し、使用者の認識との一致を見た上で交渉しようとする組合の姿勢には合理性、相当性があるところ、法人は組合の要求に真摯に応じようとせず、「いや、もう分かんないでしょうね。」などと曖昧な返答を繰り返し、確認にも消極的な態度を示しており、誠実な対応を通じ合意達成の可能性を模索しようという姿勢が見られない。
 また、法人は、組合からの複数の質問に「FAXで対応します。」と返答したにもかかわらず、回答したのは第3回団体交渉日から3か月以上過ぎた後で、その内容もE元職員の退職日のみの回答に止まり、その余の質問については第4回団体交渉時に回答している。仮に、質問事項の確認にそれなりの時間を要するとしても、猶予を求める旨の連絡を入れるなどの対応は十分可能であり、組合ないし団体交渉を軽視した態度と言わざるを得ない。

(4)X組合及び法人は、〔先行事件に関し、平成30年8月28日に〕団体交渉において、相手を不快にしたり交渉を妨げるような態度や言動を厳に慎み、十分に議論を尽くすことに努め、団体交渉が円滑に進むように、互いに配慮した誠実な態度で臨む旨の和解をし、十分に議論を尽くす円滑な団体交渉の実現に向けて努めるべきことを確認する機会を経ていた。
 しかるに、法人の団体交渉申入れ及び団体交渉における一連の対応は、組合の要求や具体的な質問の程度に応じて、十分に議論を尽くし、これに回答しようとする姿勢に欠けたものであり、誠実に団体交渉に当たるべき使用者としての義務を果たしているとは到底言えず、組合との合意達成を模索して、誠意をもって団体交渉に臨んでいるとも認められないから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 また、2.5.20団体交渉申入れに対する法人の不誠実な対応により、新型コロナウイルス感染拡大という特殊な事情があったとは言え、第1回団体交渉まで約5か月に及ぶ長期にわたり団体交渉が開催されなかったこと、各団体交渉において法人が不誠実な態度を示し続けたことは、組合の団結権ないし団体交渉権を軽視する態度の表れと言うほかない。
 これらの法人の不誠実な対応は、組合の団体交渉機能を阻害するとともに、組合員及び従業員の組合に対する信用を損ない、ひいては、組合を弱体化させ、存在意義を低下させるおそれがあり、法人もそのことを客観的に認識し、認容していたと認められるから、支配介入として労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 

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