労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和4年(不)第23号
TAKUMI不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年1月19日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、労働者派遣事業を営む会社が、①組合員Aに対し、雇用契約を更新しない旨の書面を提示したこと、②団体交渉において組合に対し、Aの新たな派遣先を提示しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和4年9月28日、Aに対し、(申立外C会社との)労働者派遣契約が終了となる旨伝え、雇用契約の更新をしない旨記載した契約書(以下「4.9.28契約書」)を提示したことは、労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為に当たるか否か。また、そのことが同条第3号に規定する不当労働行為に当たるか否か。(争点1)

(1)労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為に当たるか否か

 会社は、Aに対し、(雇用期間は令和4年10月1日から同月31日までの1か月間、雇用契約の更新はしない旨が記載された)4.9.28契約書を提示した際〔注1〕、(会社と)C会社との労働者派遣契約が終了すること及び新たな派遣先を後日紹介することを伝えており、組合に対しても、令和4年10月20日にその旨とAの雇用契約を更新する意思がある旨伝えていた。
 そして、会社は、組合に対し、令和4年10月27日、本件事故〔注2〕に関する損害賠償問題とAの雇用契約更新拒否問題を主な交渉議題とした団体交渉(以下「本件団交」)においてAの雇用契約を更新する旨及び新たな派遣先を提示する旨を回答し、その翌日の同年10月28日付けで、実際に新たな派遣先の労働条件等を文書で提示し、組合の要求に対応していたことからすれば、会社に組合の主張する不誠実な交渉態度があったとは認められない。
 加えて、組合は、団体交渉外での会社の対応がいかなる理由で労働組合法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるのかという当委員会の求釈明に対し、具体的な主張及び立証を行っていない。
 したがって、会社の対応は、労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為には当たらない。

〔注1〕会社とAは、令和3年8月31日、雇用契約を締結し、Aは、同年9月1日、派遣先であるC会社で就労を開始した。同契約は、その内容を変更することなく、同年11月までは雇用期間を1か月とし、同年12月からは雇用期間を2か月として更新されていた。

〔注2〕Aが、令和3年9月2日、C会社の工場で建機部品の糸面取り作業を行っていた際に、グラインダーの回転刃により左手首に裂傷を負った事故

(2)労働組合法第7条第3号に規定する不当労働行為に当たるか否か

ア 会社とC会社との労働者派遣契約の終了は、減産の影響というC会社側の事情によるものであり、これを受けた会社が、Aに対し、労働者派遣契約が終了する旨伝えたことには、合理性がある。

イ 会社が、Aに対し、4.9.28契約書を提示したことについては、Aを含めたC会社に派遣していた会社の従業員全員に同契約書を提示していることからすれば、会社の行為は、C会社との労働者派遣契約が終了することを契機とした事務手続きであったといえ、会社がAのみに対して直接働きかけたものとは認められない。
 また、会社は、Aに対し、4.9.28契約書を提示した際、C会社との労働者派遣契約が終了すること及び新たな派遣先を後日紹介することを伝えており、組合に対しても、令和4年10月20日にその旨とAの雇用契約を更新する意思がある旨伝えていた。このため、組合及びAは、会社から雇用契約が直ちに終了とはならないこと及び新たな派遣先が提示されることを同様に伝えられており、会社が、Aに対する組合の関与を排除しようとしていたとは認められない。

ウ 4.9.28契約書を提示した後の会社の手続きとしては、A以外のC会社に派遣されていた会社の従業員のうち、労働者派遣契約の終了に伴い、会社から新たな派遣先の紹介を受けることを希望した者は、改めて雇用契約を結び直しており、新たな派遣先の紹介を受けることを希望しなかった者は、雇用契約が終了し、退職扱いとなっている。
 会社からの新たな派遣先の紹介に組合が応答しなかったことで、Aは結果として新たな派遣先での就労の機会を得ることができなかったのであり、会社が、Aに対し、その他の従業員と格別異なる対応を行っていたとはいえない。
 会社は、Aを含めたC会社に派遣していた会社の従業員全員に対し、同様の記載をした4.9.28契約書を提示し、新たな派遣先を後日紹介する旨を伝えており、実際にAが新たな派遣先で就労することができるように会社として対応していたことが明らかである以上、会社がAに対して4.9.28契約書を提示したことは、反組合的な意思ないし動機に基づく行為であるとは認められない。

エ これらから、会社が、Aに対し、労働者派遣契約が終了となる旨伝え、4.9.28契約書を提示したことは、組合の関与の下に解決を図るべき問題について、組合の関与を排除して、組合員に直接働きかけたものとはいえず、組合の運営に対する支配介入には当たらない。
 したがって、会社の対応は、労働組合法第7条第3号に規定する不当労働行為には当たらない。

2 会社が、本件団交において、組合に対し、Aの新たな派遣先を提示しなかったことは、労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為に当たるか否か。(争点2)

 組合は、4.10.14団交申入書において、本件団交の主な交渉議題として、本件事故に関する損害賠償問題とAの雇用契約更新拒否問題を挙げており、事前に会社に対し、本件団交において新たな派遣先の提示を求めてはいない。したがって、本件団交において、初めて組合からAの新たな派遣先を文書で提示するよう要求されたことに対し、会社が団体交渉の場で同文書を提示できなかったことをもって、会社の対応が不誠実な交渉態度であったとは認められない。
 また、本件団交において、組合からAの新たな派遣先を提示するよう求められたことを受けて、会社は、組合に対し、本件団交翌日の令和4年10月28日付けで、新たな派遣先を提示しており、会社は、本件団交における組合の要求を踏まえて早急に対応していたと認められる。
 以上のことからすれば、会社の対応は、労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為には当たらない。

3 不当労働行為の成否

 組合の主張はいずれも認められないことから、本件申立ては理由のないものとして、棄却を免れない。 

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