労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第47号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年2月5日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①学校を運営する法人が、関係者のみが閲覧できるウェブサイトに組合との係争に関する声明文を掲載したこと、②校長が、法人の従業員を集めた定例集会において当該声明文等に関する発言を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人からの令和4年9月4日付けニュースレターを受け取った法人の関係者のみが閲覧できるウェブサイトに、法人が声明文を掲載したこと及び同月7日に行われた定例集会において、校長が当該声明文に関する発言を行ったことは、組合に対する支配介入に当たるかについて、以下判断する。

2 組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合しで判断する必要がある。また、使用者は、組合の情報宣伝活動に対して拱手傍観する義務はなく、使用者の見解を表明し、反論することは許されている。使用者の反組合的な言論はそれだけで直ちに支配介入にはならず、その内容が組合ないし組合員に対する強制、威嚇、報復、又は利益の誘導などが含まれている場合には、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものであるものとされ、支配介入に当たる可能性があるといえる。
 そこで、9.4法人声明文(令和4年9月4日頃、法人が、保護者・教職員・理事会メンバーなどの学校関係者のみが閲覧できるウェブサイトに掲載した「保護者とコミュニティーの皆様へ」と題する文書)及び9.7校長発言(令和4年9月7日午後2時半頃、毎週行われている学校の定例集会(以下「9.7定例集会」)において、学校の校長が、法人の従業員に対して行った発言)が、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものとして支配介入に当たるか、それぞれ検討する。

(1)9.4法人声明文について

ア 組合は、9.4法人声明文は組合の主張を公に否定しているもので、不当労働行為である旨主張し、法人は、事実に基づいて使用者の見解を公正に述べたものであり、支配介入ではない旨主張する。

イ そこで、法人が9.4法人声明文を掲載するに至るまでの状況についてみるに、組合は、2-4号事件〔注〕などに関し、自身のホームページ上での宣伝にとどまらず、法人の最寄り駅等でのビラ配りを行っており、活発に情報宣伝活動を行っていたといえる。
 そのような状況において、法人の従業員を含む関係者が不安感や不信感等を抱く恐れがあり、2-4号事件に関する意見表明を行わないことにより、関係者から法人が反論できないと受け取られるリスクがあったため、学校関係者らに対して、自らの見解を述べておく必要があった旨の法人の主張は一定理解できる。

〔注〕2-4号事件
 令和2年1月16日に、組合から、法人を被申立人とし、大阪府労委に対して救済申立てがなされた事案(令和2年(不)第4号)

ウ 組合は、9.4法人声明文の「当労働組合は、本校に対して様々な主張をしていますが、本校はそれら全てがことごとく、真実ではなく、また、証拠がないものであるとして」の部分が、組合の主張が信頼性のないもので、組合が偏った、誤った組合だとのメッセージを従業員に伝え、組合に入る意欲を萎縮させるので、そのような部分を含む9.4法人声明文のウェブサイトへの記載は支配介入に該当する旨主張する。
 確かに、9.4法人声明文に組合の主張する文言のあることは認められる。しかし、当該文章の結語は、「本校は(略)強く否定いたしております。」というものであり、また、「労働委員会において適切な手続き内で、この問題の解決に向けて懸命に取り組んでおります。」との記載もあることからすると、9.4法人声明文は、組合の主張が虚偽であると非難するというよりも、学校関係者らの不安感や不信感等を解消するため、2-4号事件における法人としての見解や態度を表明したものとみるのが相当である。
 また、組合員ないし組合に対する強制、威嚇、報復、又は利益の誘導などが含まれるとはいえず、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものとみることもできない。

エ 以上のとおり、従業員を含む学校関係者に対して行った9.4法人声明文を発表した行為については、背景事情からすると一定理解できるところであり、また、法人の見解の表明や説明範囲にとどまるもので、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものとみることもできず、組合の主張を公に否定し、非難・中傷するものともいえないことから、9.4法人声明文は、支配介入に該当するとはいえない。

(2)9.7校長発言について

ア 組合は、9.7定例集会における9.7校長発言が、従業員が集まっている会合を利用して組合を批判する発言を行い、組合から従業員を遠ざけようとするものであり、組合の正当な活動への支配介入に当たり、不当労働行為である旨主張する。

イ 9.7校長発言において、校長が、①組合が声明で公表した主張はすべて事実ではなく、証拠がないものとして拒否している旨、法的・倫理的な観点に基づき、すべての関係者の権利を尊重し、学校、地域社会、スタッフ、そして何よりも生徒優先の決断が必要である旨、反対する人たちの不評を買うこと等もあるが間違った決断とは言えない旨、②雇用契約終了で退職した従業員に再契約のオファーをしない決定に関し、X組合と係争中である旨、意思決定において、生徒とコミュニティへの注意義務は常に最優先される旨、組合に代表されている元職員に対しては同情以外なく、私たちの現在の状況に悲しみ以外ない旨、③この労働争議が私たち全員に異なる影響(混乱、同様、心配)を及ぼすことは承知している旨、④不安があれば、相談に来て欲しい。組合が発表している主張は事実ではないから、皆さんの権利と安全について安心してもらえればと思う旨、などの発言をしたことが認められる。
 これらの校長の発言は、2-4号事件に関して組合が公表した主張は事実ではないとして法人が拒否している旨の見解を表明し、法人の立場を説明したものとみることができ、組合員ないし組合に対する強制、威嚇、報復、又は利益の誘導などを含むとはいえず、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものであるとみることもできない。

ウ 組合は、定例集会のような、従業員が集まっている状況で組合を批判したことが不当労働行為である旨主張する。
 しかし、組合の法人に対する情報宣伝活動が活発な状況であり、法人が学校関係者らに対して、自らの見解を述べておく必要があった状況といえ、また、9.7校長発言は使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものとはみることができないことも併せ考えると、法人が、従業員に対し9.4法人声明文の発表について周知を行い、当該事項に関する説明を行うために、9.7定例集会の場で9.7校長発言を行ったことは、手段として不当であったとはいえない。

エ 以上のとおり、9.7校長発言が、使用者の言論の自由の範囲を逸脱したものとみることはできず、また、当該発言を9.7定例集会の場で行ったことは手段として不当であったとはいえないから、9.7校長発言が、従業員が集まっている会合を利用して組合を批判する発言を行い、組合から従業員を遠ざけようとするもので、組合の正当な活動への支配介入に当たるという組合の主張は採用できない。

3 以上から、9.4法人声明文のウェブサイトへの掲載及び9.7定例集会における9.7校長発言は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する不当労働行為に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。 

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