概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)第98号
日本アイ・ビー・エム(シニア契約社員制度)不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合・同X2地方本部・同X3支部(「組合ら」) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社 |
命令年月日 |
令和5年11月21日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、シニア契約社員の給与、賞与及び有給休暇に関する3回の団体交渉におけるY1会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
その後、Y1会社は、Y2会社との吸収分割契約により、一部事業をY2会社に継承させている。
東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Y1会社に対し、(ⅰ)組合らが申し入れたシニア契約社員の給与等を議題とする団体交渉について、シニア契約社員をバンド3に位置付けて給与額等を決定した理由等を具体的に説明するなどして、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書掲示等を命じるとともに、Y2会社に対し、(ⅲ)組合らが、定年後再雇用者の給与等を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならないこと等を命じた。 |
命令主文 |
1 Y1会社は、組合らが申し入れたシニア契約社員の給与等を議題とする団体交渉について、シニア契約社員をバンド3に位置付けて給与額等を決定した理由、シニア契約社員と正社員との待遇の相違の理由、シニア契約社員制度導入以降給与を据え置いている理由を具体的に説明するなどして、誠実に応じなければならない。
2 Y1会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2ページ大)の大きさの白紙に楷書で明瞭に墨書して、同社本社内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
X1組合
中央執行委員長 A1殿
同X2地方本部
執行委員長A2殿
同X3支部
中央執行委員長 A3殿
Y1会社
代表取締役 B1
令和元年11月13日、2年3月13日及び5月28日に行われたシニア契約社員の給与等を議題とする団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 Y2会社は、組合らが、定年後再雇用者の給与等を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。
4 Y1会社は、第2項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 令和元年11月13日、2年3月13日及び5月28日に行われたシニア契約社員の給与、賞与及び有給休暇に関する団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか否か(争点1)
(1)組合らは、Y1会社がシニア契約社員制度〔注〕を導入した後の平成25年秋闘以降、同社員の処遇を問題視して改善を求め続け、Y1会社に対し、①シニア契約社員が賞与も福利厚生もなく年額204万円という低労働条件で、同社の50歳代の正社員の平均年収約850万円に対し、約75パーセント減となっていること、②厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインに従った賞与制度の整備が必要であること、③令和2年4月1日施行のパートタイム・有期雇用労働法に違反しないように処遇を改善する必要があることなど、社会情勢や定年後再雇用を取り巻く環境の変化に応じて、Y1会社に改善すべき根拠を示していた。
また、令和元年11月13日、2年3月13日及び5月28日に行われたシニア契約社員の給与、賞与及び有給休暇に関する団体交渉(以下「本件団体交渉」)においても、現役(正社員)の時とほぼ同じ業務を行っているにもかかわらず、シニア契約社員となると給与額が著しく減額となる例を挙げて、月額17万円という給与がどのように決まったのかを追及するなど、シニア契約社員の給与が低いことなどについて根拠を示した上で、パートタイム・有期雇用労働法の説明義務に基づく具体的な説明を求めていた。
〔注〕平成25年4月、Y1会社は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に対応する制度として「シニア契約社員制度」を設け、定年退職後に雇用継続を希望する社員をシニア契約社員として雇用を継続するようになった(給与 月額17万円、賞与 支給なし、有給休暇付与日数 20日)。
(2)これに対し、Y1会社は、組合らの質問に応じた具体的な説明や回答を行わず、シニア契約社員の処遇については、(組合が同一労働同一賃金の趣旨に沿って不合理な待遇差に係る説明を求めていたのであるから、Y1会社は、単に職務内容がバンド3相当であると述べるだけではなく、当該職務に対する月額17万円という待遇と正社員の待遇との相違の内容やその理由を説明する必要があったにもかかわらず)担当する業務の重要度・困難度を勘案し決定しているもので、現時点で組合らの要求に応じる考えはないなどと、抽象的な回答を繰り返していた。
このようなシニア契約社員の給与を議題とする本件団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ず、労働組合法第7条第2号に該当する。
(3)なお、組合らは、Y1会社の対応が支配介入にも当たると主張するが、Y1会社は、組合らの質問に応じた具体的な説明や回答を行っていなかったものの、組合らの存在を殊更に無視ないし軽視したり、組合らの交渉力を弱め、弱体化させることを企図して上記対応を行っていたとまで認めるに足りる疎明はないことから、本件団体交渉におけるY1会社の対応が支配介入にも当たるとまでいうことはできない。
2 Y1会社が不当労働行為責任を負う場合、Y1会社から事業の一部に関する権利義務を吸収分割により承継したY2会社は、Y1会社の不当労働行為責任を承継するか否か(争点2)
(1)令和3年9月1日、Y1会社とY2会社とは、同年7月5日付けの吸収分割契約により、Y1会社を分割会社、Y2会社を承継会社として、一部の事業(以下「本件承継事業」)をY1会社からY2会社に承継させており、同契約によって労働契約がY1会社からY2会社に承継された従業員の中には、組合に所属している従業員も含まれている。
本件承継事業に関連する債権債務は、Y1会社からY2会社に免責的に承継され、同事業に従事する従業員の労働契約は、本件吸収分割契約の定めるクロージング日(令和3年9月1日)に、Y1会社からY2会社に承継されている。また、雇用に関する会社と従業員間のすべての債務等もY1会社からY2会社に免責的に承継された。
(2)このような状況においては、Y1会社からY2会社に承継される権利義務の一つとして不当労働行為責任も承継されると解すべきである。 |