労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第51号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・個人X2 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年1月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①C大学を運営する法人が過半数代表者の選出に係る要領等を改正したこと、②解雇が撤回され退職した組合員について、法人がa離職理由を解雇とする離職証明書を交付したこと、b学報の人事発令に係る掲載について訂正を掲載しなかったこと、③a組合のウェブサービスへの投稿についての法人側代理人の発言、b組合役員A2が発信した電子メールについての法人側代理人の電子メールにおける記載、c法人がA2の電子メールを監視していること、④団体交渉申入れへの法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1
Y法人     
理事長 B1
 当法人が、貴組合との誠実協議を行わないまま、令和3年3月18日付けで、Hキャンパス及びNキャンパスの過半数代表者選出要領、過半数代表者選出に係る選挙管理委員会要項並びに過半数代表者の選出に関する実施細則を改正したことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

2 組合らのその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Hキャンパス及びNキャンパスの過半数代表者選出要項(以下「選出要領」)等の令和3年3月18日付け改正(以下「本件改正」)は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか。(争点1)

(1)(令和2年3月31日付けで組合と法人が締結した)第1次包括協定書第3条は、選出要領について改定の必要がある場合には、法人は、その時点における課題や労使双方の希望も踏まえて、誠実協議の上改定するものとする旨を規定しており、選出要領の改正に当たっては組合と誠実に協議を行う必要がある。

(2)本件改正の経緯をみると、法人は、令和3年3月11日の団体交渉(以下「3.11団交」)にて改正を組合に提案してから1週間で、提案どおりの改正を行っている。

(3)その間の労使間のやり取りをみるに、3.11団交において、組合が今年度の改正に反対していたことは明らかであり、また、改正に至るまでの間に団体交渉は開催されていない。一方、3月末〔注 三六協定の有効期間の満了〕までに過半数代表者が選出されない可能性があることにより、法人の提案どおりの内容で直ちに選出要項等を改正する必要があると認めるに足る疎明はない。

(4)この間、法人代理人弁護士(以下「法人代理人」)と組合役員との間のメールのやりとりでは、法人代理人は、選出要項等の改正に係る法人の考えを述べるにとどまり、組合役員が現在のやり方を変更せよとの申出は受けられない旨返信した後も、直ちに選出要項等を改正するとの前提に立ってメールを送信している。こうした経緯からすると、法人が本件改正に当たって、組合と誠実に協議を行ったということはできない。

(5)これらから、法人は、組合との誠実協議を行わないまま、一方的に本件改正を行ったというべきであって、かかる行為は、組合との協定を軽視し組合を弱体化させるもので、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 組合員X2の退職に際して、①離職理由を解雇とする離職証明書を交付したこと、②X2を諭旨解雇に処したとする学報の人事発令に係る掲載について訂正を掲載しないことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為に当たるか。(争点2)

(1)法人は当初からX2の意向を確認した後、正式の離職証明書を交付する考えであって、実際にX2の意向に従って(「事業主の退職勧奨に応じたため」への)訂正を行ったというのが相当で、(当初の)離職証明書の離職理由が解雇とされていたことは、意向確認の途上のことであり、X2に対し、嫌がらせを行うなどして不利益を与えたとまでみることはできない。
 したがって、法人の行為は、組合員であること等を理由として不利益な取扱いをしたものとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできない。

(2)次に、学報の訂正についてみるに、(X2が提起した訴訟において、令和3年2月17日にX2と法人との間で成立した)和解は、X2に対する解雇の意思表示を撤回し、法人都合で退職することを確認するものであるところ、同和解第13項は、法人がX2の処分に関する学報の記載を訂正し、X2が退職したことを周知する対応について検討することを約束するものにとどまり、学報の記載を訂正し、周知すること自体までは合意できなかったとみるのが相当である。
 そして、法人は、当該条項にしたがって検討を行った結果、訂正を掲載しないことにしたというべきで、かかる取扱いを不当であるとまでいうことはできない。
 したがって、法人が、組合員であること等を理由として不利益な取扱いをしたものとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできない。

3 ①令和3年4月23日の団体交渉(以下「4.23団交」)における法人代理人による組合のツィートに関する発言、②同月24日の法人代理人のメール(以下「4.24代理人メール」)における、組合員A2が発信したメールに関する記載は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか。
 また、法人はA2のメールを監視しているといえるか。いえるとすれば、このことは労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか。(争点3)

(1)4.23団交における法人代理人の発言について

ア 4.23団交において法人代理人は、①組合の投稿のうち「法人本部長、教学本部長、副学長らは出てきても、代理人弁護士にしゃべらせ、自らは黙って座っているだけ。・・・あなた方にやる気がなければ意味ないんですよ」との記載について、名誉棄損に当たると思っている、②「現場がどれほどひどい状況であるかも知らず、自らは安全圏に身を置き、もはや誰がハンドルを握っているのかもわからぬ状態となったC大学を黙って走らせている」等の記載についても、説明を求めたい旨述べたことが認められる。
 また、当該ウェブサービスは世界中の人が見られるものである旨述べるとともに、組合活動における表現の自由の限界についての判例として、労働組合が労働者の解雇について、付近住民にビラを配布した事案を挙げ、判決は、使用者に不正行為があるとしても、これを付近住民に流布することは正当な行為といえず、その必要性もない等としたことに言及したことが認められる。なお、本件投稿は、「C大学教職員組合」名で行われ、大学名や理事長名が記載されているのだから、法人関係者以外の者も、法人のことであると認識して閲覧できる状態にあったといえる。
 これらから、発言は、組合の言論活動全般を抽象的に非難したものではなく、本件投稿について、法人関係者以外の者が閲覧可能な状況では不適切となる表現が含まれているとする使用者側の見解を、該当部分を具体的に適示した上で明らかにし、組合に再考を求めたものというべきである。そして、その発言は、労使双方がそれぞれの見解を明らかにし協議するという団体交渉の場で行われたことが認められる。
 以上から、上記の法人代理人の発言は、認められるべき使用者の言論活動の範囲内のものというのが相当である。

イ 法人代理人は、個人的な見解だが名誉棄損罪に該当すると思っている、法的な対応も考えている旨発言していることが認められるが、組合の投稿の具体的な内容について著しく不適切で問題があるとする法人側の見解を団体交渉の場で主張する中で行われたというのが相当で、直ちに問題があるとはいえない。

ウ また、法人代理人は、私たちも義務的団交事項の範囲を厳密に考えていきたいと思う、しばらくの間、義務的団交事項に限定した団体交渉をさせてもらいたいと思っている旨発言したことが認められる。しかし、法人内部の情報が法人の意図しない形で外部に流出することを防止する趣旨で、かかる発言をしたとみるのが相当であり、当該発言を不当であるとみることはできない。

エ これらから、法人代理人による組合のウェブサービスへの投稿に関する発言を組合に対する支配介入に当たるということはできない。

(2)4.24代理人メールについて

ア 4.24代理人メールには、①A2の件は、(同年3年4月16日から19日にかけての)文芸学部長あての一連のメールが(令和2年3月31日にA2と法人との間で交わされた)個別和解合意書(以下「合意書」)第4項違反に当たるのではないかとの問題提起であった、②「あなたに学部長の資格はありません」との記述はハラスメントにも該当すると思う、③長大で攻撃的な文章により周囲を強圧することがないよう改めてお願いする、旨の記載があったことが認められる。

イ 合意書第4項は、①A2と法人は、良好な職場環境の維持・向上のため互いに協力するよう努めること、②A2は、教授会等の会議や学内電子メールにおいては、他者に対する誹謗中傷的な発言及び対応は慎むこと、③A2は、メールの書き方について注意を払うこと、等を定めていることが認められ、学内におけるA2の個人としての言動について定めたものであることは明らかである。
 また、4.24代理人メールにあるA2の一連のメールについては、①文芸学部における授業の運営方針について、文芸学部長の対応を批判したものであること、②メールの文末にはA2の姓名のみが記載され、組合での役職等は記載されていないこと、が認められる。
 したがって、4.24代理人メールは、文芸学部に属する教授としてのA2個人の行為についてのものであることは明らかで、A2の組合活動についてのものということはできない。また、A2が送信したメールには「あなたに学部長の資格はありません」との記載が含まれていたことが認められ、本件文芸学部長あての一連のメールについて、法人が、誹謗中傷的な発言等は慎み、メールの書き方について注意を払うこと等を定めた合意書第4項違反に当たる可能性があるとしたことには理由がある。

ウ ところで、4.24代理人メールは、A2を含む法人と組合の関係者数名あてとして送信されたことが認められる。
 しかし、A2が、法人側から呼出があったことを組合の関係者数名が認識し得る状況で持ち出し、しかも個別の呼出に応じないとメールで返答したというべき経緯を考慮すると、4.24代理人メールが、A2を含む法人と組合の関係者数名あてとして送信されたことは特段不自然な対応ではなく、これをもって、法人が組合に対する支配介入を行ったとみることはできない。

エ 以上から、4.24代理人メールを組合に対する支配介入に当たるということはできない。

(3)法人はA2のメールを監視しているといえるかとの点について

ア 4.24代理人メールには、「A2先生が発信されるメールの多くは私の方でも拝見していますので(私の方から関係各位にメールの転送をお願いしているのですが、これは和解合意書遵守モニタリングの一環になります。)」との記載が含まれている。
 そうすると、法人代理人がA2のメールの多くを見ている旨の4.24代理人メールの記載は、誹謗中傷的な発言等は慎み、メールの書き方について注意を払うこと等を定めた合意書第4項が遵守されているか否かを確認する趣旨であり、学内でやり取りされるA2のメールが受信者である関係各位から法人代理人に転送されることがあることを意味するとみるのが相当である。また、こういったメールの転送は、同項が遵守されているか否かを確認するための手段として想定され得るものといえる。
 一方、法人が、合意書第4項の遵守の確認の域を超えて、A2のメールの内容を調査対象としていると認めるに足る疎明はない。

イ 以上から、法人がA2のメールを見ていたのは、確認のための行為であって、監視していたとまではいえず、よって、その余のことを判断するまでもなく、この点に関する申立てを棄却する。

4 令和3年4月6日付け文芸分会交渉要求書(以下「4.6分会要求書」)及び同年6月4日付け団体交渉要求書(以下、合わせて「4.6分会要求書等」)への法人の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為に当たるか。(争点4)

(1)第1次包括協定書第2条により策定された団体交渉実施要領には、申入れ後、概ね3週間程度で団体交渉を開催する旨の規定があるところ、法人は、4.6分会要求書等に対し、令和3年5月20日及び同年6月14日にそれぞれ回答文書を提出しているが、本件申立てに至るまで、これら申入書について団体交渉での協議は行われなかった。
 しかし、組合は法人に対し、令和3年5月12日から12月7日までの間に、6.4団交要求書を含めて合計31通の要求書を提出しており、これらに記載された要求事項は合計131項目であった。
 また、令和3年7月7日の団体交渉の冒頭、法人代理人は、このペースで要求書が増えていくと優先順位を付けた方がよいと思う旨述べ、それを契機に要求事項に関する協議の進め方について調整が図られたということができる。そして、この団体交渉では、その後、同年6月4日の組合要求書より前に組合が提出した組合要求書の要求事項等について、協議が行われた。
 一方、組合が法人に対し、他の要求事項よりも、4.6分会要求書等の要求事項を優先して協議するよう求めたとする疎明はない。
 これらからすると、本件申立てに至るまで4.6分会要求書等について団体交渉での協議が行われなかった原因が、専ら法人側にあるということはできない。

(2)組合は、組合が分会交渉を求めたのに法人は応じなかった旨主張する。
 しかし、4.6分会要求書の「授業形態・感染対策」や「裁量労働制」について、法人が大学全体に関わるものであるとして、学部単位・分会単位で協議すべきではないとすることを直ちに不当とはいえない。
 また、法人代理人は、事務折衝において組合から、具体的に議題を挙げて、分会交渉と団体交渉のどちらで取り上げるべきかと聞いてもらえれば、法人として、どちらで交渉するかを返答するという流れはあると思う旨述べたことが認められ、法人は分会交渉の開催自体を拒否しているとはいえない。

(3)法人が、団体交渉において、義務的団体交渉事項に当たるか否かは厳密に判断し、当該事項に当たらないものは扱わないとしている点については、法人内部の情報が法人の意図しない形で外部流出することを防止する趣旨のものというのが相当で、直ちに不当とはいえない。
 また、4.6分会要求書等の「教学事項」や「学生対応」等に関する要求事項への法人の回答には、労働条件に関するものではないため団体交渉において取り扱うべきではない旨記載されたものもあるが、組合が、本件申立前に、こういった要求事項が義務的団体交渉事項に当たるとする具体的な理由を挙げて、再度、団体交渉での協議を求めたとする疎明はない。
 さらに、「人事」に当たる教員の採用や補充に係る要求事項については、法人の回答には、労働条件の不利益変更にはならないと理解している旨なども併せて記載されており、法人は、当該要求事項は組合員の労働条件に関するものではないとする見解を理由を付して一定明らかにしているというべきところ、組合がこれに対し、具体的に反論したと認めるに足る疎明はない。

(4)これらからすると、4.6分会要求書等への法人の対応を団体交渉拒否に当たるとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできないから、この点に関する申立てを棄却する。 

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