労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪労委令和5年(不)第17号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y大使館(「大使館」) 
命令年月日  令和6年2月9日 
命令区分  却下 
重要度   
事件概要   本件は、在日C国大使館が、現地採用スタッフである組合員Aの雇用保険への遡及加入を議題とする団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、大使館は国家の一行政機関にすぎないため、不当労働行為の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできないとし、また、仮にC国が被申立人であったとしても、労働委員会は外国国家に対して不当労働行為救済命令等を発する権限を有しないから判断に変わりはないとして、申立てを却下した。 
命令主文   本件申立てを却下する。 
判断の要旨  1 不当労働行為救済命令の名宛人とされる使用者は、特段の事情のない限り、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要すると解すべきところ、被申立人である大使館は、国家としてのC国(C政府)の一行政機関にすぎないため、不当労働行為の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできない。
 このことは、たとえ大使館が労働保険の適用事業所として認定されたとしても、変わるものではない。すなわち、労働保険の適用単位は、経営上一体をなす支店、営業所、工場等を統合した企業体を指すものではなく、個々の本社、支店、工場のように経営組織の下に独立性をもった経営体をいうものとされている。そのため、労働保険の適用事業所として認定されたことをもって、法律上独立した権利義務の帰属主体に該当すると認めることはできない。
 したがって、本件申立ては、却下する。

2 なお、大使館がAに交付した通知書(勤務時間、初任給等の労働条件を記載した書面)の記載内容からみると、組合員Aと雇用関係にある使用者は、国家としてのC国(C政府)であると考えられるため、念のため、国家としてのC国を被申立人として本件申立てが行われた場合について、検討する。
 一般に、国際法上、国家には、外国の国家管轄権から免除されるという、いわゆる主権免除の原則が認められる。ただし、民事裁判権については、外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律(以下「対外国民事裁判権法」)第2章第2節において、「裁判手続について免除されない場合」として免除の例外が定められており、労働契約については、「外国等は、当該外国等と個人との間の労働契約であって、日本国内において労務の全部又は一部が提供され、又は提供されるべきものに関する裁判手続について、裁判権から免除されない」と規定されている(第9条第1項)。
 しかし、労働委員会が発する不当労働行為救済命令等は、その審査手続が準司法的性格を有するとはいえ、集団的労使関係を規律する労働組合法に基づいて発せられる行政機関による行政処分であり、上記労働契約に関する民事裁判に該当するものではない。
 また、対外国民事裁判権法において、勾引及び過料に関する民事訴訟法その他の法令の規定が適用されないこととされている(第22条)ところ、労働委員会が発する救済命令の全部又は一部が確定判決によって支持された場合について、違反者には刑罰が科せられる(労働組合法第28条)ことからすれば、労働委員会が発する救済命令が免除の例外に該当するとは解されない。
 以上のことからすると、当委員会が外国国家に対して不当労働行為救済命令等を発する権限を有するものとは考えられない。したがって、仮に国家としてのC国が被申立人であったとしても、上記の判断に変わりはない。 

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