労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  新潟県労委令和2年(不)第1号
学校法人帝京蒼紫学園不当労働行為審査事件 
申立人  個人X1・X2組合(組合)・X3組合連合(合わせて「申立人ら」) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年1月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、その運営する高校の教員である組合員X1を解雇したことが不当労働行為に当たる、として、個人X1、X2組合及びX3組合連合から救済申立てがなされた事案である。
 新潟県労働委員会は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)X1の解雇の撤回及びバックペイ、(ⅱ)X1及びX3組合連合に対する文書手交並びにX2組合に対する文書の手交及び掲示を命じた。 
命令主文  1 法人は、X1の解雇を撤回しなければならない。

2 法人は、X1に対し、解雇日の翌日から復帰するまでの間に同人が受けるはずであった賃金相当額を支払わなければならない。

3 法人は、本命令書受領の日から7日以内に、X1に対し、下記内容の文書を手交しなければならない。
 年 月 日
X1様
Y法人     
理事長 B1
 当学園があなたを令和2年3月31日付けで解雇したことは、新潟県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

4 法人は、本命令書受領の日から7日以内に、X2組合に対し、下記文書を手交するとともに、同一内容の文書を、A2版の白紙に楷書の黒い文字で大きく記載し、C高等学校の教務室内に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X2組合
 執行委員長 A1様
Y法人     
理事長 B1
 当学園が貴組合の組合員であるX1氏を令和2年3月31日付けで解雇したことは、新潟県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

5 法人は、本命令書受領の日から7日以内に、X3組合連合に対し、下記文書を手交しなければならない。
 年 月 日
X3組合連合
 執行委員長 A2様
Y法人     
理事長 B1
 当学園がX2組合の組合員であるX1氏を令和2年3月31日付けで解雇したことは、新潟県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 X1を令和2年3月31日付けで解雇したこと(以下「本件解雇」)の正当性について

(1)本件解雇について、法人は、X1には解雇通知書〔命令書別紙5〕記載の言動が認められ、令和元年に改定された就業規定第47条第1項第2号の「職務に必要な適格性を欠く場合」に該当すると主張する。そこで以下、法人が本件解雇理由として主張するX1の言動について検討する。

(2)解雇通知書の記載内容の要旨

ア 平成31(令和元)年度に担当した授業において、生徒に対し、不快感、不安感、嫌悪感、恐怖感、学習意欲を失わせるようなセクハラ、パワハラ発言を含む授業に無関係で不適切な言動を頻繁に行い、女子生徒1名が、以後、数学1の授業に出席できなくなった。これらの言動は、改善されず、依然として継続しており、真摯に反省しているとは見られない。

イ 不適切な言動の主なもの
①女子生徒C1に対する言動(髪型、眼鏡、リップの塗布等について、「今日もかわいいですね。」、同人が嫌悪感を示したことについて、「その嫌がる顔を見るのが、僕好きなんです。」などと発言した旨)(平成31年4月から令和元年11月末頃)
②男子生徒C2に対する言動(授業において特に指名し、問題が解けないと「ひとりだけ赤点」、「留年です」などと発言した旨)
③女子生徒C3に対する言動(②と同様の状況にて、「C4さんと顔は似ているのに、点数はぜんぜん違いますね」などと発言した旨)
④授業における言動(「校長ともめて裁判をして勝った」などと発言し、生徒から授業と関係がない話が多すぎるとの苦情があった旨)(平成30年度)
⑤女子生徒C5に対する言動(授業において、「あなたは周りからハブられていましたもんね」、「だって事実じゃないですか」、「あなたのお母さんは、誰かも分からない男を家に連れ込んでいるようだけどご家庭は大丈夫ですか」などと発言した旨)(平成29年7月20日)
⑥以上の言動は、当該女子生徒の容姿、容貌、外見等に関するセクハラ発言であり、不快感、不安感、嫌悪感を抱かせる。また、留年等に関する発言は、当該生徒らに対する恐怖感、学習意欲を失わせる言動であり、教諭として優位な立場を濫用したパワハラ発言であって、いずれも授業における言動として不適切。

ウ 試験監督を担当した際に、それに専念せず、スマホを操作するなどした(令和元年5月16日)。

エ 学年末考査において、女子生徒C6の答案の採点につき、合理的な理由もなく、独断で、他の教諭等の成績評価を勝手に上積み改ざんし、自らの採点も根拠なく上積みした上で返還。さらに、当該答案用紙に、吹奏楽に入部するよう勧誘する記載をすることにより、生徒に義務なきことを求めた(平成30年2月27日の考査後)。

オ 上記の言動は、教諭が生徒に対して優越的な地位にあることを濫用し、授業中という逃げ場のない状況の下で、一方的に生徒の人権、人格を侵害する言動を反復継続したもので、また、授業とは全く関係がない言動をしたもの。教育を担当する教諭としてあるまじき不適切な言動と職務専念義務違反で、生徒に与えた弊害も大きく、教育環境を害した程度は著しい。

カ 以上から、貴殿は就業規定47条1項2号の「職務に必要な適格性を欠く場合」に当たる。

(3)解雇通知書に記載の解雇理由について

ア 解雇理由(2)イ①について
 事実関係はおおむね認められ、生徒からは不快感を持って受け止められかねないという点で慎重さや配慮に欠け、不適切と評価できる。
 しかし、当時の法人の対応をみると、X1に対し、この件についての事情聴取や注意指導を行っておらず、法人が、C1がX1の授業を欠課することを重大な問題と認識していたとはいえない。

イ 解雇理由(2)イ②及び③について
 事実関係はおおむね認められ、X1の言動の内容も不適切であることは否定できないが、内容が重大であるとの疎明はなされておらず、かつ、法人による注意指導等の改善措置が十分に行われたとはいえない。

ウ 解雇理由(2)イ④について
 法人が提出した他の教員らや当該生徒の作成等に係る書証については、作成時期とX1の言動があったとされる時点の時期的な隔たりが大きく、また、それらの記載内容を裏付ける証拠が法人から提出されていない。
 また、スクールカウンセラーの報告書から、クラス所属の生徒がX1の行為を訴えた事実が認められるが、生徒1人からの苦情のみでは、X1の当該言動を疎明するものとは評価できない。

エ 解雇理由(2)イ⑤について
 一部の言動〔「あなたは周りからハブられていましたもんね」〕は事実と認められるところ、当該言動に限っていえば、翌日の校長室でのやり取りにおいてX1が当事者に謝罪し、その報告書中で―応の反省の意を表していることがうかがわれ、以降、C5母子の不満が解消されなかった等の事情はうかがわれない。
 その余の言動については、①上記ウの前段と同様の理由、②他の教員が翌日に母親から聴取した報告書については、その聴取内容を裏付ける客観的な証拠がなく、またX1は発言を否認していることなどから、言動の存在を直ちに認めることは困難である。

オ 解雇理由(2)ウについて
 事実関係はおおむね認められるが、解雇理由を構成するほどの重大性があることを示す具体的事実の疎明はない。

カ 解雇理由(2)エについて
 事実関係はおおむね認められるが、加点から3か月後に報告を求められた際に加点の根拠を思い出せないとするX1の弁明に不自然な点はなく、また、加点が恣意的に行われたとまでは言い難い。また、答案の欄外へのコメントについても、一般的な雑談と呼べる内容にすぎず、ことさら問題ある内容とまではいえない。
 これらから、加点については、その手続において不適切であるとしても、解雇理由を構成するほどの重大性があるとまでは言い難い。

キ 注意指導の状況について
 解雇理由(2)イ①~④の各言動については、令和元年11月から12月にかけ、法人による事実確認が行われているが、その後令和2年2月14日までの間、X1に対しては事実確認や注意指導が行われていない。
 また、解雇理由(2)イ⑤、(ウ)及び(エ)については、それぞれX1から報告書を徴求する過程で注意指導を行っていると解され、X1は反省の意を表している様子がうかがわれる。さらに、これらのうち、少なくとも解雇理由(2)ウ及びエについては、同様の行為を繰り返している等の事情はうかがわれない。

(4)解雇通知書に記載のない解雇理由について

ア 法人は、X1の解雇は、①解雇通知書記載の不適切な言動が客観的合理的理由として認められるほか、②行為の重大性、本人の反省の有無、弁明の誠実性、業務上の注意を含む処分歴等の諸事情に照らし社会通念上の相当性が認められるとし、また、③X1は平素から勤務成績が悪かったほか、度々注意を受け、数度にわたり、始末書、弁明書、顛末書、報告書等を提出しているなど、その態度は、指導や教育、注意、降格や懲戒処分等の事前の改善措置によっても容易に是正し難い程度に達していた、などと主張する。

イ しかし、平成27年4月1日付けけん責及び謹慎処分(以下「本件懲戒処分」)〔注1〕〔注2〕については処分事由に係る事実調査が不十分であり、処分に正当性は認められない。
 また、当該懲戒処分に先立つ平成26年3月のクレーム〔注3〕に係る事実関係についても、弁明書作成過程でのX1と校長B2のやりとりなどから、法人は本件懲戒処分事由として考慮しない旨の判断をしていると思われ、本件解雇理由として重視することはできない。

〔注1〕「本件懲戒処分に係る通知書」(命令書別紙1)には、要旨、①平成26年1月19日、部活動のD運動部(以下「D部」)が他校に遠征した際、試合の間に、C7部員をステージに立たせ「N県男好き代表」と呼んだこと、②同年9月22日後の秋頃に部員らを「気持ち悪い」などと呼んだこと、③X1によるC7への指導(食事に連れて行ったこと、深夜にわたって施錠した車中で指導したこと等)について、隠蔽工作ととられる行為をしたことなどが記載されている。

〔注2〕平成27年10月、申立人らは、新潟県労委に対し、①本件懲戒処分、②X1をD部の監督から外したこと、③X1に対する教頭B3の発言及び校長B2の発言等〔後出〔注5〕参照〕が不当労働行為に当たる、として救済申立てを行っている(新労委平成27年(不)第5号。以下「平成27年事件」)。
 なお、当該事件に係る概要情報及び顛末情報も参照。

〔注3〕上記〔注1〕の③の指導に関する他の保護者からのクレーム

ウ さらに、その余の文書又は口頭による注意指導歴〔注4〕についても本件解雇から数年以上前の出来事であったり、言動の経緯や問題性が判然としなかったり、事実関係に争いがあるにもかかわらず追加の調査等を行うことなく放置していたものであり、本件解雇理由として考慮することはできない。

〔注4〕認定によれば、X1による①欠課時数の確認作業(平成22年度)、②生徒が入社選考試験を受験できなかったこと(24年10月)、③生徒C8に対する言動(25年5月頃)、④生徒C9に対する言動(25年度)、⑤考査の素点転記ミス(27年度)、⑥勤務時間中の無断外出(28年11月21日)、⑦他校の部活動参加(28年)について、口頭注意、始末書の提出、報告書の作成が実施されている。

エ 法人は、X1に対しては再三にわたり注意指導を繰り返してきた旨主張する。しかし、法人の主張するX1の非違行為は、法人による事実調査が十分尽くされているとはいえないものが多分に含まれ、注意指導の前提となる事実関係が不明確である。
 また、法人はX1に報告書や始末書等の書面を提出させているが、これらの中には、事実関係に争いがあるものがある上、提出させた後、事実調査等を行うことなく放置しているものが散見されるから、これらを提出させたことをもって、法人が注意指導を尽くしたと認めることはできない。

オ さらに、合理的理由が認められない本件懲戒処分以外、X1に対し戒告、けん責、減給、出勤停止、昇給停止、謹慎等の懲戒処分は行われていない。

(5)以上の事情を総合すると、①本件解雇に先立ち、X1の不適切な言動について法人による改善措置が尽くされたとは評価できず、②使用者による改善措置によっても容易に矯正し難い要因による不適格行為や、それらの行為によって生じる職務遂行への支障の重大さについて明確な疎明はないというべきであるから「職務に必要な適格性を欠く場合」に該当するとはいえない。
 よって、本件解雇の正当性は認められない。

2 本件解雇の不当労働行為性について

 法人は、本件解雇は客観的合理的理由に基づくもので、X1が組合員であることを理由に解雇したわけではないと主張するので、本件解雇の不当労働行為性について検討する。

(1)本件解雇は労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するか

ア 申立人らが平成19年11月に新潟県労委に申し立てた不当労働行為事件〔注その後、中労委において和解が成立〕以後、法人における労使関係は良好ではなく、法人は従前より組合を嫌悪する傾向があった。また、X1が組合員であることが公然化した平成26年9月以降、X1の組合加入に対する嫌悪感に起因する言動が複数繰り返されている〔注5〕。

〔注5〕認定によれば、
①平成26年10月21日、教頭B3がX1に対し、「お前組合に入ったのか?いったいどういうことなんだ」、「お前いま組合に助けを求めている場合じゃないだろ。なにか苦しいことがあれば組合に助けてもらうのか」「(特待生に認められる授業料の)減免が削られるよ」「先生がこんなことを組合に頼っていたら、枠なんかもらえないんじゃない」などと発言したこと
②平成27年度の(D部に係る)特待生5名を約束してきたと報告するX1に対し、枠がないことを告げ、承認を上申するための願書を提出させるなどしたこと
③平成27年3月21日、校長B2がX1に対し、組合に入って強化指定部を持てるわけがないという趣旨の発言をしたこと

イ さらに、平成27年4月の本件懲戒処分以後(本件解雇までの間に)、組合への嫌悪感等を示す直接的な証拠こそないものの、X1への嫌悪感が推認される管理職の言動〔令和元年6月のD部の保護者会における、X1が不適格教員である旨の校長B2の発言〕が見受けられるほか、平成27年事件の申立て後の係争状態が長期化し、本件解雇に至るまでの間、労使関係が改善されていなかったことが認められる。

ウ また、解雇理由とされるX1の言動については、法人は、令和元年12月頃までの段階で生徒らの訴えを認識していたにもかかわらず、令和2年2月14日の事情聴取までの間、事実確認や注意指導がなされた形跡がないことなどから、注意指導が十分に尽くされたとは言い難い。ー方、前出令和元年6月の発言によれば、校長B2は、当時、X1の学外への排除を望んでいた事情がうかがわれる。
 こうした事実経過からは、法人が、むしろ不適切な言動を改善することなく一定期間放置することで、形式上の解雇理由を積み上げた後に本件解雇を行ったことが疑われる。

エ これら事情を総合すると、X1の組合加入に嫌悪を抱いた法人がその嫌悪感を継続していたことが、本件解雇の決定的動機と認められる。

オ 以上から、本件解雇はX1が組合の組合員であること理由に行われたものであると認められ、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

(2)本件解雇は労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか

 本件解雇当時、X1に対する不当労働行為の有無を巡り〔注平成27年事件〕、法人と組合は係争状態にあったと認められる。本件解雇は組合員であることを理由に行われており、かかる解雇は、組合員を委縮させ、労働組合の影響力を弱める等の効果を持つから、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)本件解雇は労組法第7条第4号の不当労働行為に該当するか

 申立人らが主張する、平成27年事件の申立ての報復として本件解雇が行われたとの事情については疎明がなく、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為として救済すれば足ることから、組合のこの主張は採用しない。
 

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