労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和4年(不)第3号
東輪ケミカル不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年11月16日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合の組合員A2、組合員A3及び組合員A4(以下「A2ら」)に対し、令和4年1月6日以降、残業が発生しないようなトラック等の配車を行い、給与を減少させたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2らに対し、組合員であることもしくは労働組合の正当な行為をしたことを理由として、時間外及び休日勤務を命じない配車差別をしてはならないこと、(ⅱ)A2らに対する、配車差別がなければ得られたであろう給与額と既に支払われた給与額との差額相当額の支払い、(ⅲ)文書掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員A2、同A3及び同A4に対し、同人らが労働組合の組合員であることもしくは労働組合の正当な行為をしたことを理由として、就業規則43条に基づく時間外及び休日勤務を命じない配車差別をしてはならない。

2 会社は、組合の組合員A2に対し、上記1の配車差別がなければ得られたであろう給与額400,514円と、令和4年1月分以降の既に支払われた給与額との差額相当額を支払わなければならない。

3 会社は、組合の組合員A3に対し、上記1の配車差別がなければ得られたであろう給与額388,451円と、令和4年1月分以降の既に支払われた給与額との差額相当額を支払わなければならない。

4 会社は、組合の組合員A4に対し、上記1の配車差別がなければ得られたであろう給与額354,753円と、令和4年1月分以降の既に支払われた給与額との差額相当額を支払わなければならない。

5 会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、A1判の大きさの白紙(縦約84センチメートル、横約60センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、会社本社内の従業員が見やすい場所に14日間掲示しなければならない。

令和 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社        
代表取締役 B1

 当社が、令和4年1月6日以降、貴組合の組合員A2氏、A3氏及びA4氏に対し、就業規則第43条に基づく時間外及び休日勤務を命じない配車差別をしたことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このようなことを行わないよう留意します。 
判断の要旨  1 会社が本件配車措置を行い、A2らの給与を減少させたことが労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」に当たるか否か

(1)本件における「不利益な取扱い」

 労働組合法第7条第1号の「不利益な取扱い」には、労働者としての地位の得喪に関する不利益及び人事上の不利益のほか、精神的不利益や生活上の不利益も含まれるものと解され、経済的不利益についても当然に含まれる。
 令和4年1月6日以降、会社はA2らに対し、就業規則第43条に基づく時間外及び休日勤務を命じない勤務としたこと(以下「本件配車措置」)が認められる〔注〕。よって、会社の本件配車措置により、A2らに給与の減少といった経済的不利益が認められる場合は、本件配車措置は労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」といえる。

〔注〕本件配車措置に先立つ令和3年12月18日、A2ら3名は、会社に対し、未払いの時間外割増手当、深夜割増手当、休日割増手当の支払を催告している。なお、本件配車措置を採った理由に係る会社の主張については、後出2(2)ア前段を参照。

(2)A2らが乗務により走行した距離の状況

 まず、A2らが乗務により走行した距離の状況をみるに、本件配車措置後におけるA2らが乗務により走行した距離は、本件配車措置前のそれと比較すると大幅に減少していることが認められる。

(3)A2らに支給された給与の状況

 次に、本件配車措置前後の給与の状況をみるに、A2らの走行距離が減少し、また、A2らに対し「長距離」乗務(2日行程以上の日数で走行距離が500キロメートル以上のもの)の走行距離により算定される乗務手当、「長距離」乗務により発生する宿泊補助手当、食事手当及び複合手当が支給されなくなり、休日出勤の指示を受けなくなったことにより休日出勤手当が支給されなくなった。その結果、A2らの給与支給総額は、本件配車措置前の直近3か月では、平均するとA2は400,514円、A3は388,451円、A4は354,753円であったものが、その後の3か月では、A2は256,094円、A3は230,609円、A4は247,989円と3名とも大幅に減少しており、A2らは経済的に不利益を被ったといえる。

(4)「不利益な取扱い」に当たるか否かについての結論

 よって、令和4年1月6日以降、会社がA2らに対し本件配車措置を行ったことは、労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」であると認められる。
 なお、会社は、「長距離」の仕事が配車されなければ、その分労働時間が減少し、会社を離れた自身の時間が増えること、また乗務員によって運行距離にばらつきが生じる以上、時間外業務の手当の支払についてもばらつきが生じるのは当然であることから、本件配車措置に不利益性はない旨主張する。
 しかし、①同月14日に開催された団体交渉における、C会社〔注会社の親会社〕の部長B2と委員長A1とのやりとりからすると、A2らの労働時間は、勤務を元に戻してほしいという組合及びA2らの意思に反して、会社の本件配車措置により減少させられたものといえ、また、②乗務員によって時間外業務の手当の支払にばらつきがあるとしても、本件配車措置によりA2らに経済的不利益が生じているのは明らかであるため、会社の主張は採用できない。

2 A2らに対する不利益な取扱いが、A2らが組合員であることもしくは組合の正当な行為をしたことを理由として行われたものであるか否か、すなわち、会社の不当労働行為意思によって行われたといえるか

(1)本件配車措置が組合員に対してのみ行われたこと

 会社の本件配車措置により「長距離」乗務の配車指示及び休日出勤の指示を受けなくなった乗務員はA2ら3名のみであり、非組合員である会社の他の乗務員に対し本件配車措置が行われた事実はない。よって、本件配車措置は、A2らに対する差別的取扱いであるといえる。

(2)本件配車措置には合理的理由が見出し難いこと

ア 会社は、本件配車措置の理由について、A2らによる未払賃金の請求額が極めて高額でありどのような労働時間の計算をしているのか見当がつかなかったので、A2らに対する令和4年1月以降の配車は、当面は極力所定内の時間で終了できるような勤務とすることに決めたにすぎないと主張する。
 しかし、未払賃金請求の積算方法の確認や解決のための協議もすることなく、一方的に会社が本件配車措置を行うことに合理性があるとはいい難い。

イ また、A2らの要求は、労基法の趣旨に沿った残業代を適正に支払ってほしいというものであり、その請求金額の積算が適切であるか否かは別として、A2らが会社の給与体系に不満があるとして賃金請求を行うこと自体は自由であると考えられる。
 一方、会社は、組合及びA2らから未払賃金請求を受けてから6日後の令和3年12月24日頃までに、本件配車措置を行うことを決定し、翌年1月5日に、A2らに対し本件配車措置の実施を告げている。
 しかも会社は、非組合員である乗務員に対しては、A2らが会社に未払賃金を請求した以降も、従来どおり「長距離」乗務の配車や休日出勤の指示を行っている。
 このように、会社が、本来自由である賃金請求に対し不利益を課し、A2らによる未払賃金請求を境に、組合員であるA2らと非組合員である乗務員の取扱いを異にすることに、合理性は認められない。

ウ さらに、本件配車措置後、A2らは、明らかに経済的な不利益を被っていることが認められる。また、組合の「要求書」及びA2らの「支払い催告書」の内容や令和4年1月14日に開催された団体交渉の内容からすると、A2らは、時間外業務を行わないとしているわけではないことが認められる。
 よって、会社の主張は、会社が本件配車措置を行い、A2らにこのような経済的な不利益を被らせることについての合理性を根拠づけるものとはならない。

エ 以上のことからすると、会社が本件配車措置を行ったことについて、合理性があるとは認められない。

(3)本件配車措置が団体交渉申入れを契機に行われたものであること

 令和3年12月17日付けで組合が会社に送付した「要求書」には、A2らの未払賃金の支払を求める内容が記載されており、組合は会社に対し、A2らの未払賃金の支払等を要求事項とする団体交渉を開催するよう求めている。また、翌18日に、A2らが送付した「支払い催告書」には、A2らが求める未払賃金の具体的な金額が記載されていた。会社は、同月20日から24日頃までの間に、これら書類の内容に関して協議を行い、同月24日頃までには本件配車措置を行うことを決定したことが認められる。
 これらのこと、さらに、令和4年1月5日に所長B3が、A2及びA3に対し本件配車措置を行うことを告げた際のやりとりからすると、会社は、組合に加入したA2らが未払賃金を請求し、それを要求事項として含む組合からの団体交渉申入れを契機に、本件配車措置を行ったものであるといえる。

(4)会社の組合(員)に対する嫌悪意思も存すること

 本件配車措置は、組合員に対してのみ行われた配車差別である。

ア 令和元年8月30日に、組合加入前のA2が会社に対し、乗務員約20名分の要望書を添付した「[乗務員の待遇改善]に関する要望書」を提出した際には、会社から乗務員に対し何らかの措置が行われた形跡は見当たらない。しかし、A2らが組合に加入し、未払賃金を請求するや、会社は本件配車措置を行っている。

イ 本件配車措置後のA2らの給与支給総額の減少は本件配車措置によってA2らがこれまで受けていた「長距離」乗務の配車指示及び休日出勤の指示を受けなくなったことに起因するものであり、会社が主張する取引先からの注文により生じた時間外業務の手当の支払のばらつきではない。

ウ 会社が本件配車措置を検討するに当たり、A2らに「長距離」乗務や休日出勤をさせないことによって給与支給総額が減少することは、会社にとって容易に想像できたと思料する。
 それでも本件配車措置を行い、その後開催された団体交渉で会社は、A2らの請求についての積算根拠を尋ねることもなく、残業代は支払っているとの会社の認識を示して本件配車措置を継続することを述べ、本件結審時においても同措置は継続されている。

エ 会社は、A2らのほかにも「長距離」乗務を受けない乗務員がいると主張するが、それらの者は、病気療養や当該乗務員の希望により「長距離」乗務を受けていないものであり、A2らのように「長距離」乗務や休日出勤を拒否しているわけではないにもかかわらず会社から「長距離」乗務や休日出勤の指示を受けていない者と同列に扱うことはできず、会社の主張は採用できない。

オ これらからすると、本件配車措置は、組合員であるA2らを狙い撃ちにし、経済的打撃を与えるものであったと評価でき、会社の組合(員)に対する嫌悪意思も認められる。
 なお、会社は、A2らは運行中の休憩時間や運行停止後の就寝時間もすべて拘束時間であると主張しているので、会社がA2らに対し従前の配車を行った場合、乗務員らに違反行為をさせることになり、A2らが自ら違反行為と主張する配車を同人らに行うことはできない旨主張するが、そもそも本件においては、会社の組合(員)に対する嫌悪意思が認められることから、会社の主張は採用できない。

(5)不当労働行為意思の有無についての結論

 以上から、会社が本件配車措置を行ったことについて合理性は認められず、本件配車措置は、組合に加入したA2らが未払賃金を請求し、それを要求事項として含む組合の団体交渉申入れを契機に行われたものであるといえる。また、会社の組合(員)に対する嫌悪意思も認められることから、本件配車措置は、会社の不当労働行為意思によって行われたものと認められる。

3 不当労働行為の成否について

 会社が、令和4年1月6日以降、A2らに対し行った本件配車措置は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する配車差別である。
 また、本件配車措置は、組合員を経済的に圧迫することで組合内部の動揺や組合活動の萎縮を図るものであると認められるので、労働組合法第7条第3号の不当労働行為にも該当する。 

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