労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第34号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年12月8日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合員1名(会社が雇用する派遣労働者)の退職等に係る合意書案の作成に関する電子メールのやり取りの中で、組合が話合いの場を持つよう求めたのに対し、会社が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書手交を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年6月21日、同月22日、同月24日及び同月27日に申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社       
代表執行役 B
 当社が、貴組合から令和4年6月21日、同月22日、同月24日及び同月27日に申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  ○争点
 組合は、会社に対し、令和4年6月21日、同月22日、同月24日(2件)及び同月27日の電子メールにより団体交渉(以下「団交」)申入れを行ったといえるか。いえるとすれば、同団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか

1 組合は会社に対し、令和4年6月21日、同月22日、同月24日及び同月27日の電子メールにより団交申入れを行ったといえるか

(1)会社は、これら電子メールが仮に団交を申し入れたつもりだったとしても、組合が団交申入れの根拠として日時の異なる複数の電子メールを挙げていることからも明らかなように、その内容が明確でなく、正式に団交を求めるような表現は一切使用されておらず、また、組合が主張する「解決金45万円からの相殺のA2組合員の負担分について」〔注〕という組合主張議題についても電子メール上どこにも表れていないので、団交申入れとしての体を有しておらず、団交申入れ自体がなされたとは到底いえない旨主張する。

〔注〕令和4年6月3日、会社は、組合に対し、メールにて、同年3月31日をもってA2が円満退職すること、会社による解決金45万円の支払い(A2が負担すべき費用は差引き)等を内容とする合意案(以下「4.6.3会社合意案」)を提示している。

(2)しかし、法令上、団交申入れの様式を定めた条項はない。したがって、組合が団交申入れを行ったといえるためには、使用者に対して労働者の労働条件その他の待遇や労使関係上のルールについて労働協約の締結その他の取り決めを目標とした交渉を行いたい旨の意思表示を行えば足り、意思表示中に「団体交渉」や「団交」等の文言を用いる必要はないと解される。

(3)そして、本件における労使間のメールによるやりとりの経緯からすれば、令和4年6月21日の組合メール(以下「4.6.21組合メール」)は、A2の退職に関し、会社が支払う解決金から控除する寮の清掃費用その他のA2の負担費用の金額について、(会社が4月分の家賃について「譲歩」したことで)6月13日までに到達した7万1,611円の(双方の主張の)差額をさらに縮め、最終的に合意するための交渉を、面談又はウェブ方式で行いたいとの申入れであるといえるから、団交申入れと認められる。

(4)なお、続く6月22日、同月24日及び同月27日の電子メールについても、それぞれの記載からすれば、4.6.21組合メールが団交申入れであるとの判断と同様の理由で、団交申入れであると認められる。

(5)これに対して会社は、上記電子メールには「団交の開催を正式に求める明確な文言や表現」が用いられていない以上、団交申入れに当たらないと主張する。しかし、団交申入れは要式行為ではなく、「団体交渉」や「団交」等の文言や「団交の開催を正式に求める明確な文言や表現」を用いる必要のないことから、会社の主張は採用できない。

(6)また、会社は、上記電子メールによる組合の要求は、その内容が明確ではないから、団交申入れと認められないと主張する。
 しかし、4.6.21組合メールが、解決金から控除するA2の負担費用の金額に係る双方の主張の差額をさらに縮めることを議題にしようとするものであることは、労使間において明確であったというべきで、会社の主張は、採用できない。

(7)会社は、組合の主張する団交申入れ行為が日時を異にする複数の電子メールにわたっていたことをもって、団交申入れがなかったことを裏付ける事実であると主張する。
 しかし、団交申入れといえる為には、労働者の労働条件その他の待遇等につき労使の取り決めを目標とした交渉の申入れであれば足り、その申入れが日時を異にする複数の電子メールにわたっていたとしても、全体として団交を求める意思表示であると解釈される以上は、団交申入れに当たる。

(8)以上のことから、組合は、会社に対し、令和4年6月21日、同月22日、同月24日及び同月27日の電子メールにより団交申入れを行ったといえる。

2 A2の退職に関し、会社が支払う解決金から控除するA2の負担費用の金額に係る事項は義務的団交事項といえるか

 上記事項は、A2の退職に伴って発生する事項であり、組合員の労働条件等に関する事項であるといえる。また、解決金から控除するA2の負担費用の金額については、会社が処分可能であることから、上記事項は義務的団交事項であるといえる。したがって、会社が正当な理由なく、組合からの令和4年6月21日、同月22日、同月24日及び同月27日の電子メールによる団交申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)に応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。

3 団交を拒否していないとの会社の主張について

 確かに、会社は組合に対して団交拒否の意図は全くない旨を記した電子メールを複数回送信した事実が認められる。
 しかし、会社は令和4年6月24日の第2メールにて、①A2が5月分の家賃を負担しないとの意思を表明した時点で、会社側の金銭解決の提案は白紙に戻す旨、②A2が5月分の家賃を全額負担する場合のみ、「(家賃以外の項目である)社保/給与関係の確認の場」の設定に応じる旨、を組合に通知している。これは、A2が5月分の家賃を全額負担する旨の意思表示を行わない限り、組合が4.6.21組合メールにて会社に求めた団交には応じないとの意思表示にほかならない。
 また、「5月分の寮費をA2が負担しないなら、和解提案(45万円の支払い)は白紙に戻すという回答を受けての交渉と設定されればいいと思います。」、「寮費についてそちらの根拠を再度整理して説明いただくこととし、当方はこのメールのやり取りで、概ね了承しているという前提で差し引くべき本人負担分についての合意をするという位置づけで話し合いの場を持ってください。」と記載されていた令和4年6月24日組合第2メールに対し、会社は同月27日会社第1メールにて、「『仮定条件付きで和解の話し合いをせよ』ということなら、それはお断りします。当方としては、ここで5月分寮費の負担関係を決めないまま話を進め、他の項目との交換条件にしたり、調整項目としたり、折半するようなことはするつもりはありません。」と回答しており、これは、組合からの団交申入れ事項に含まれる5月分の家賃の負担関係の問題について、組合が事前に折れない限り、団交に応じないとの意思表示をしたといえ、本件団交申入れにより組合が申し入れた団交事項に係る団交を拒否するものであるといえる。
 したがって、団交を拒否していないとの会社の主張は採用することができない。

4 会社が本件団交申入れを拒否したことにつき、労働組合法第7条第2号に定める正当な理由が認められるか否か

(1)この点につき会社は、4.6.3会社合意案は全体としてのパッケージ提案であり切り分けられないから、一部のみを切り取っての交渉の余地はなかった旨主張する。
 しかし、労使の主張が対立し、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団交を継続する余地はなくなっていたと認められる客観的事情がある場合は格別、そうでない場合に、会社が事前に自らの提案について「これ以上の譲歩はしない」旨宣言しただけで、爾後の団交拒否がすべて正当と認められるものでないから、会社が団交を拒否したことに正当な理由があったとは認められない。

(2)なお、解決金から控除するA2の負担費用の金額に係る両者の差額が金7万1,611円に縮まった後の両者の主張は、A2の「5月分の家賃」である金2万1,483円を労使どちらが負担するかの議論に終始し、決着に至らなかったことが認められる。よって、少なくとも当該家賃の問題については、交渉が進展する見込みはなく、団交を行う余地はなくなっていた、と見る余地がある。
 しかし、当該家賃は労使の主張するA2の負担費用の金額の差額の一部に過ぎない以上、差額を縮めて合意を目指すことは可能であったといえるから、当該家賃について双方の主張が対立していたことをもって、団交を拒否する正当な理由があったとはいえない。

5 以上のことから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

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