労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第87号
青伸産業運輸事件不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年10月17日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が組合の委員長A1及び分会長A2を昇格させなかったこと、②会社が、「その他手当」を廃止したこと、及び賃金規程の改定により、本件勤続給を導入し組合員に対する協定昇給を停止したこと、③令和30年11月30日及び31年2月2日の団体交渉における会社の対応、並びに3月2日の団体交渉以降本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①、及び②のうち協定昇給の停止について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A1及びA2を指導員以上の職位に昇格させたものとしての取扱い、及び当該職位以上であれば支払われたであろう場合との賃金差額の支払い、(ⅱ)A1に対する平成31年4月賃金について、勤続給を加算した場合との賃金差額の支払い、(ⅲ)文書の掲示及び交付等を命じるととともに、②のうち「その他手当」の廃止に係る申立てについて申立期間を徒過した不適法なものとして却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合の委員長A1及び同組合員A2を平成30年11月27日付けで指導員以上の職位に昇格させたものとして取り扱い、上記各人に対し、指導員以上の職位であったならば支払われるべき賃金額と既に支払われた賃金額との差額を支払わなければならない。

2 会社は、組合の委員長A1に対し、平成31年4月に支給した賃金について、既に支払った賃金額と、勤続給を250円加算して支払った場合の賃金額との差額を支払わなければならない。

3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社のM営業所の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 委員長 A1殿
Y会社        
代表取締役 B1

 当社が、貴組合の委員長A1氏及び組合員A2氏を昇格させなかったこと及び貴組合との間で締結した「賃金暫定是正に関する協定書」に定める定期昇給を実施しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

4 会社は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

5 「その他手当」の廃止に係る申立てを却下する。

6 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が委員長A1及び分会長A2を昇格させなかったことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)申立期間について

ア 組合は、会社が組合に対して(運転手の役職者が果たすべき役割と昇格基準を定めた)「役割・昇格基準書案」を提示した平成25年10月12日を起算点として、申立日まで不当労働行為が継続していると主張する。しかし、これらの提示自体は、従業員を昇格させる行為とは性質が異なり、一体として一個の行為を構成すると評価することはできない。

イ 次に、会社における昇格の手続の取扱いについてみると、平成30年7月1日の新賃金規程の施行以前に昇格の手続に係る正式な根拠基準などは存在せず、また、新賃金規程にも明確な社内規定はなかったものの、団体交渉等の回答書からすれば、会社には昇格について、毎年検討がなされるといった一定の運用が存在し、少なくとも令和元年12月27日の本件申立て前の1年以内には、従業員の昇格機会が存在していたとみるのが相当である。
 そうすると、当該1年以内に組合員が昇格していないことは、本件審理の対象となるというべきである。

(2)会社が組合員A1及びA2を昇格させなかったことについて

ア 会社は、平成25年10月に「役割・昇格基準書案」を組合に提示し、平成30年7月施行の新賃金規程においても同様の「職務基準書」を定めている。
 上記基準書案は、正式施行されたものではなく、また、新賃金規程の「職務基準書」は、組合員に直接適用されていないとしても、会社が組合員の昇格判断を行う際には、他の従業員との公平性を損なわないようにするために、自ずと他の従業員に適用されている新賃金規程の職務基準に準拠することとなることが想定される。
 その上で「職務基準書」をみると、班長や指導員といった下級職制の役割として示されている事項は、従業員への指導・助言や会社の決定事項の周知、現場課題の会社への上申や業務に有用な情報収集といった内容であり、勤務態度の悪さや運転技術の欠如などの問題を抱える場合は別としても、少なくとも、班長や指導員については、相応の業務経験を有して業務に精通している従業員であれば担うことが可能な職責であった。

イ A1及びA2の所属部署をみると、全運転手の約2割ないし3割には何らかの役職が与えられている中で、勤続20年以上の従業員である両名は、入社以来全く昇格しておらず、一方で、両名の勤務成績や業務遂行能力が低いなど、役職者に不適任であることを認めるに足りる事実の疎明がなされていないのであるから、両名と非組合員との間には、昇格の取扱いについて不自然な差異が生じていたことを疑わざるを得ない。

ウ 会社は、平成31年2月から令和元年9月にかけて、組合に対して3回にわたって賃金シミュレーションを作成して提示しているところ、うち2回では、A1、A2ともに指導員以上の職位にて賃金額を提示している。このことからすれば、新賃金規程適用時の賃金試算のためとはいえ、この時点において、少なくとも会社は、両名が指導員の職責を担えると評価していたということができる。

エ 一方で、会社は、団体交渉や回答書においては、依然として、配車係等からの推薦がなければ昇格しないなどといった手続的部分を回答するにとどまり、両名の昇格について具体的に対応しようとしたことは窺われない。
 さらに、組合は、長年にわたって、組合員が昇格しないことを問題視し、会社に対し、組織図等の開示や組合員が昇格しない理由の説明を繰り返し求めてきたが、それに対して会社が積極的に対応してきたとはいい難い。

オ これらの事情を踏まえると、会社は、長年にわたり組合が組合員の昇格を要求してきたことに対し、A1及びA2を指導員に登用できると会社として判断していながら、組合が新賃金規程に合意していないことや、配車係の推薦という形式的部分にかこつけて、敢えて昇格を回避ないし先延ばししていたとみざるを得ない。

カ そして、本件申立てまでに5回にわたる不当労働行為救済申立てと当委員会又は中労委における和解が繰り返されてきたことなどからすれば、当時の労使間には恒常的に懸案事項が存在し、一定の緊張状態の下で労使関係が展開されていたといえる。

キ 以上を併せ考えると、会社は、反組合的な意図の下で、A1及びA2を昇格させない状態を意図的に維持しようとしたものであり、両名が昇格していないことは、組合員であること又は組合活動を理由とした不利益取扱いに当たる。
 また、組合員であるが故に賃金上昇を伴う昇格がなされないことは、組合活動や組合加入への意欲を削ぐこととなるから、組合運営に対する支配介入にも当たる。

2 会社が、「その他手当」を廃止したこと、及び賃金規程の改定により、本件勤続給を導入し組合員に対する協定昇給を停止したことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

(1)「その他手当」の廃止について

 会社は、(運転手が勤務時間中に休憩を取得できなかった場合に従前支払われていた)「その他手当」を平成30年8月25日以降支払わずに廃止し、それ以降は一切支払っていないのであるから、同手当の廃止は、遅くとも同日を終期とする行為とみるのが相当である。
 これらから、会社が「その他手当」を廃止したことは、本件申立ての1年以上前の事実であり、このことについての申立ては、申立期間を徒過した不適法なものとして却下を免れない。

(2)本件勤続給〔注〕を導入し組合員の協定昇給を停止したことについて

ア 平成15年9月、組合と会社とは「賃金暫定是正に関する協定書」を締結し、以降、会社は組合員に対し、年500円の定期昇給(以下「協定昇給」という。)を実施していた。
 その後、会社は、平成30年7月の新賃金規程の施行に先行する形で、平成29年 7月から、全ての運転手に対して、勤続年数に500円を乗じた金額(以下「本件勤続給」)の支給を開始した。

イ 会社は、新賃金規程に組合が合意していないことから、本来であれば、組合員らは本件勤続給の支給対象外であったところ、誤って昇給分の二重払をしたものであり、平成30年4月及び31年4月の協定昇給分は、本件勤続給をもって支払われたといえるから、定期昇給協定に何ら違反していないなどと主張する。
 確かに、(平成29年4月8日の)第160回団体交渉において、会社は、本件勤続給について、これまで運転手の基本給は勤続の長短にかかわらず同額であったため、勤続年数を加味した支給をすると説明しており、また、本件勤続給の組合員への支給状況をみても、協定昇給と同様に、勤続年数に500円を乗じた金額が毎月支給され、その勤続年数が増える平成30年及び31年の年度当初には一定額が増額されている。

ウ しかし、当該団体交渉において本件勤続給についてやり取りがなされた際に、会社は、例年4月に実施してきた協定昇給については何ら言及しておらず、しかも、同月14日に500円の定期昇給を反映させた労働条件通知書を組合員に交付した上で、同月25日の給与支給時に協定昇給を実施している。また、同年7月25日の本件勤続給の支給開始時にも、会社は、組合に対し、その計算方法を回答したのみで、協定昇給について何ら言及していない。
 そのような経緯を経て、会社は、平成30年4月25日の給与支給時から、従前の協定昇給を停止しており、しかも、会社は、31年2月の第169回団体交渉において、本件勤続給の支給開始時点では協定昇給の実施と勤続給の支給は別の給付として認識していた旨を発言している。

エ そうすると、会社は、平成29年4月8日開催の第160回団体交渉、あるいは本件勤続給の支給開始以降において、定期昇給協定の内容やその履行方法等について労使間での協議や合意がなかったにもかかわらず、会社が事後的に変更した(本件勤続給と協定昇給は同一のものであるとの)解釈のみを根拠として、何らの事前通知や説明も行わずに、いわば一方的に協定昇給を実施しなかったといわざるを得ない。
 このような会社の対応は、組合と締結した労働協約の存在とその履行を軽視した対応であり、組合運営に対する支配介入に当たる。

オ また、会社は、(平成29年12月22日に)組合が求めた本件勤続給に係る協定〔注 同年6月を始期とし、給与支給日に「勤続年数×500円」の本件勤続給を行うこと等を内容とするもの〕の締結にも応じていないのであるから、本件勤続給は、協定昇給とは別に支払うべきものであるかなど、組合員に支給する根拠が必ずしも明確ではないままに支払われていたとみざるをえない。
 ただし、協定昇給と本件勤続給の算出方法をみると、ともに、勤続年数に500円を乗じたものが給与に加算されて支給され、それが毎年4月に増額されており、また、第160回団体交渉において、会社は、本件勤続給について、これまで運転手の基本給は勤続の長短にかかわらず同額であったため、勤続年数を加味した支給をすると説明している。このことからすれば、協定昇給と本件勤続給とは、勤続年数が増えることに伴って毎年増額される点においては、その支給趣旨を同じくするとみるのが相当であり、本件勤続給の毎年増額分(500円)の支給により、協定昇給を実施しないことに伴う組合員の経済的不利益は生じていなかったとはいえる。

カ しかし、会社は、本件申立て前1年以内である平成31年4月支給の給与において、A1及びA2に対して協定昇給を実施せずに、本件勤続給を増額しているものの、その金額は250円の増額にとどまっている。
 そうすると、会社は、両名に対し、協定昇給を実施せず、本件勤続給の毎年増額分についても協定昇給(500円)を下回る額(250円)しか支払っていないのであるから、たとえ翌月において、本件勤続給を更に250円増額し、その時点で前年に比して500円増額していることとなったとしても、31年4月支給の給与において、会社がA1及びA2に協定昇給を実施しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。

キ 以上のとおり、会社が組合員に対する協定昇給を実施せず、本件勤続給も適時に支給しなかったことは、組合運営に対する支配介入及び組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。

3 平成30年11月30日の第168回団体交渉及び31年2月2日の第169回団体交渉における会社の対応、並びに同年3月2日の第170回団体交渉以降本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)第168回団体交渉における会社の対応について

ア 執行役員B2は、問題となっている事案の詳細を把握できていない旨の発言を複数回にわたって行なうなど、前任者である専務B3からの引継ぎが十分になされていなかったことが窺われ、組合が会社の対応を問題視したことは理解できなくもない。

イ しかし、専務B3が急遽欠席した中での対応としてはやむを得ない部分もあったといえる。また、団体交渉におけるその他の会社の対応においても、B3が不在の中で可能な限り対応する姿勢にあり、また、その後の団体交渉にはB3も出席して組合との協議が行われていることからすれば、会社が、交渉する意思を欠いた姿勢で対応していたとまではいえない。
 よって、会社の対応が不誠実な団体交渉又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

(2)第169回団体交渉における会社の対応について

ア 組合が、前回の団体交渉において、会社が持ち帰って確認するとした事項についての回答を求めると、会社は、「分会長の方に11月26日に出した回答書」、「そのとおりです、内容的には。」と回答したり、組合が本件勤続給の支給の再考を要求したことに対し、会社は、「する気はない。」などと発言したことが認められ、この発言のみを捉えれば、協議を進める姿勢を欠いた発言とみえなくもない。

イ しかし、当該団体交渉において、会社は、組合の要求には応じられない旨を明確に回答する一方で、組合の理解や納得を得るべく、会社の主張の理由や認識、あるいは当時の会社の認識に誤りがあったことを説明していたとみるのが相当であるから、会社の対応は不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。

(3)第170回団体交渉以降、団体交渉が開催されなかったことについて

ア 平成31年3月2日の第170回団体交渉以降の経緯をみると、令和元年6月8日に組合が事務折衝又は団体交渉の開催を求めたが、実際に事務折衝が開催されるに至ったのは9月21日であり、その後、11月5日付け組合の団体交渉の申入れに対し、会社は、本件申立てと同日である11月27日に、団体交渉を12月7日に開催する旨を回答している。また、会社は、日程の調整過程において、組合から複数回にわたり回答の催促を受けており、事務折衝又は団体交渉が必ずしも速やかに開催されていたとはいえない。

イ しかし、会社は、組合からの事務折衝又は団体交渉の申入書を、組合から再送されるまでは、行き違いにより受領していなかったことが窺われ、また、その後の日程調整においては、社内行事である安全大会後の交渉開催を求め、組合はその旨を了承している。さらに、組合の上記申入書では賃金シミュレーションの再作成なども求めていたことも考慮すれば、会社が、直ちに事務折衝に応じられなかったとしてもやむを得なかったとみるのが相当である。
 そして、事務折衝は9月21日に開催されているところ、会社は、日程調整に係る回答を必ずしも速やかに行っていたとはいえないものの、事務折衝の前に、組合に対し、申入書への回答書や再作成した賃金シミュレーションを提出していることを踏まえると、会社が交渉日程を意図的に引き延ばしたとまでいうこともできない。

ウ また、11月5日の組合の団体交渉の申入れに対し、会社は、本件申立て日と同日である同月27日に回答しているが、その間に、組合からの要求資料を作成して組合に提出し、その後、12月7日には第171回団体交渉を開催している。

エ 以上のとおり、会社が直ちに開催に応じられなかったことにはやむを得ない事情もあったといえ、交渉を意図的に引き延ばしたとまではいえないから、第170回団体交渉以降本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことは、正当の理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。 

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