労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第7号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年12月1日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2の加入を通知し、団体交渉を申し入れたところ、法人が、同人と面談を行い、上司のパソコンを無断で閲覧したこと等を理由に懲戒解雇を予定している旨述べた上で、退職を強要し、退職届を提出させたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、面談において、同人に組合へ相談する機会を与えず、団交を行わない旨の話を組合に行うよう述べた一連の行為について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y法人      
代表社員 B1

 当法人が、令和3年8月2日に、貴組合員A2氏を呼び出して面談を行い、同面談において、同氏に対し、貴組合へ相談する機会を与えず団体交渉を行わない旨の話を貴組合にするよう述べた一連の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

2 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  ○争点:法人が、令和3年8月2日をもって組合員A2を合意による退職としたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか

1 法人が、令和3年8月2日の面談(以下「3.8.2面談」)においてA2から退職届を受け取るに至ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか

 組合は、法人が、A2が労働組合への加入を検討し、実際に組合に加入し、その正当な行為をしたことの故をもって、刑事告訴と懲戒解雇の恫喝の下で本人の真意に反して退職届を提出させたことが不利益取扱いに当たる旨主張するので、以下検討する。

〔注〕A2は、令和3年7月15日など延べ4日にわたり、社員B2のパソコンを無断で起動し、B2の社内チャット(法人で使用している情報伝達システム)を立ち上げて閲覧しており(以下「チャット閲覧行為」)、このことは会社に発覚している。

(1)3.8.2面談に至るまでの状況について

 組合は、令和3年7月15日の代表B1、社員B2及び法人事務局長との面談(以下「3.7.15面談」)でA2が労働組合への加入を検討する旨を通知した直後から、代表B1がA2を排除するために露骨に動き始めた旨主張するので、以下検討する。

ア 3.7.15面談前の状況について

 A2の組合加入前の令和3年4月6日の面談(以下「3.4.6面談」)において、代表B1とA2は、お互いに信頼関係がない旨述べる等対立している様子がうかがわれ、その後の令和3年7月14日の面談におけるA2と社員B2とのやり取りをみても、〔B2による「顧問先を担当して窓口を持つという業務は今のところ持たせられないと考えている」旨の発言など〕法人はA2の就労態度等に問題があると考えているところ、その法人の評価とA2本人の認識には大きな隔だりがあるとみることができる。したがって、法人とA2の関係は、互いに不信感を抱いていたといえる。

イ 3.7.15面談とその後の状況について

 代表B1、社員B2及び法人事務局長との3.7.15面談において、A2は〔「組合も含めて考えないといけないかなっていうのは」との発言にて〕組合加入を検討している旨ほのめかしてはいるものの、具体的に組合に加入した旨を通知しているものではない。その他、代表B1が、A2が労働組合に加入する可能性を具体的に認識し、その対応を検討していたと認めるに足る事実の疎明はない。
 したがって、同面談のA2の発言のみをもって、法人が、A2が労働組合に加入すると認識していたとまではいえない。
 そうすると、法人は、令和3年7月28日に同月27日付け組合加入通知書(以下「3.7.27組合加入通知書」)を受け取ったところ、この通知(以下「3.7.28組合加入通知」)によってA2の組合への加入を認識したとみることができる。

ウ 3.7.28組合加入通知前後の状況について

 法人は、令和3年7月28日の組合加入通知があった後、(職場内に)小型防犯カメラを設置しているが、同通知の前の令和3年7月25日及び同月27日に同カメラが注文された等の経緯から、当該行為はA2の組合加入公然化と直接的に関係していたとまでいうことはできない。
 また、3.4.6面談以降、法人とA2には信頼関係がない様子がうかがえるところ、このような状況下において、令和3年7月21日のB2に係る社内チャットのログイン履歴があった時間に出社していたのがA2であったことが判明したことから、法人が、A2に対するチャット閲覧行為の疑いを持ち、その確証を得るために小型防犯カメラを設置したものとみることができ、法人の当該行為は不自然なものではないといえる。

エ 以上のとおり、法人がA2の組合への加入を認識したのは、令和3年7月28日に3.7.27組合加入通知書を受け取った時点であるといえ、また、小型防犯カメラを設置した法人の行為は不自然なものではないといえることから、組合の主張は採用できない。

(2)3.8.2面談における法人とA2のやり取りについて

ア 組合は、A2と、代表B1及び会社顧問弁護士B3との3.8.2面談において、①法人が組合を嫌悪し忌避する不当労働行為意思を示した旨、②さらに、法人が、その意思に基づき、A2に懲戒解雇、刑事告訴する旨を告げて、退職合意の二択を迫り、その結果、A2が退職届を提出することになった旨、を主張する。
 しかし、3.7.28組合加入通知以前から、法人は、A2の就業態度等に問題があると考えていたといえ、法人とA2との間で相互に不信感がある状況下で、法人が、A2に対してチャット閲覧行為の疑いを持ち、小型防犯カメラの映像によってA2の行為であることを確信したところ、A2の当該行為を法人が重くみたとしても不合理とまではいえず、これを理由として、懲戒処分を説明し退職を求めるに至ったというのは、A2の当該行為が、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」における「不正アクセス」や就業規則上の懲戒処分に当たるか否か、また、法人の懲戒処分に関する手続きが適正か否かはともかく、不自然な対応とはいえない。
 そうすると、法人は、組合の存在を意識しつつも、A2個人の行為自体を問題視して懲戒処分に関する説明を行っていたとみることができる。

イ 以上のとおりであるから、3.8.2面談におけるやり取りは、法人の対応が退職強要に当たるか否かはともかく、令和3年4月以降のA2と法人との関係を併せ考えると、A2に対する不信感が増大する中で起こったチャット閲覧行為を法人が重くみて対応したものとみるのが相当である。また、後記2(2)判断のとおり、3.8.2面談における法人の発言には組合を排除するものがあったといえるものの、法人がA2個人の行為自体を問題視していたことを踏まえると、反組合的意図が決定的動機になって行われた行為であるとはいえないから、組合の主張は採用できない。

(3)以上のことを総合判断すると、3.8.2面談において法人がA2から退職届を受け取るに至ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

2 3.8.2面談における法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるか

 組合は、①A2の組合加入通知及び団体交渉申入れの直後に、組合に何ら連絡することなく、団体交渉も行わずにA2を呼び出したこと、②3.8.2面談において、(ⅰ)A2に対して退職強要を行い、退職届を提出させたこと、(ⅱ)法人がA2に対し、組合に相談する機会を与えなかつたこと、(ⅲ)法人が団体交渉申入れの取下げを促したこと、を挙げ、これらの法人の行為が支配介入に当たる旨主張するので、以下検討する。

(1)組合主張①について

 3.7.27組合加入通知書により、組合は、A2の労働条件等については組合との団体交渉において協議、決定することを申し入れており、また、チャット閲覧行為については直接的には(同通知書と同時に手交された)令和3年7月27日付け団体交渉申入書に含まれていないものの、現に組合からの団体交渉申入れが行われていた状況において、法人は、3.8.2面談でA2に対し懲戒処分について言及することを予定していたにもかかわらず〔組合に何ら連絡することなく〕、A2一人を呼び出して、3.8.2面談を行ったのであるから、法人の行為は、組合の軽視及び活動を阻害する行為であるといえる。

(2)組合主張②について

 法人は、第三者に相談することで弁明の機会を逃すこととなり、かつ、弁明の機会を当日しか設けない旨、チャット閲覧行為を事実と認め、懲戒解雇となる場合に組合は守れない旨述べ、さらにA2に対し、団体交渉を行わない旨の話を組合に行うよう述べており、これら法人の発言は、実質的に、A2に対して、組合へ相談する機会を与えず、A2の組合への相談意欲を失わせるものといえ、組合を排除し、A2に今後の組合活動を躊躇させたものとみるのが相当であり、組合の活動を阻害する行為であるといえる。

(3)以上のことを総合判断すると、法人がA2を呼び出して3.8.2面談を行い、A2に対し、組合へ相談する機会を与えず、団体交渉を行わない旨の話を組合に行うよう述べた法人の一連の行為は、組合の軽視及び活動を阻害するものであるといえ、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。 

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