概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)第107号
ワーナーブラザースジャパン不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和5年10月3日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、①組合と会社の間で行われた計10回の団体交渉のうち、a会社が事業を承継する前のC会社が昭和60年に組合と締結した事前協議協定の効力承継に関する計4回の団体交渉における会社の対応、b経営政策実施の事前協議に関する計1回の団体交渉における会社の対応、cA2の解雇等に関する計8回の団体交渉における会社の対応、d計2回の団体交渉における会社代理人の発言、②会社が本件協定について解約予告通知を組合に提示したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①のdについて労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
中央執行委員長 A1殿
Y会社
代表社員 B1
職務執行者 B2
令和2年12月7日及び3年2月4日の団体交渉における当社の発言は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件協定の効力承継に関する4回の各団体交渉における会社の対応について(争点1)
(1)組合は、第1回、第7回、第9回及び第10回団体交渉における「本件協定〔注1〕は本件営業譲渡〔注2〕によって会社に承継されておらず、事前協議協定が組合と会社の間で存続している事実はない」とする会社の対応が組合の運営に対する支配介入に該当すると主張するので、これについて判断する。
〔注1〕昭和60年11月8日、組合とC会社外5社は、事業所の縮小、閉鎖、会社の解散、合併、営業譲渡など、組合員の身分および労働条件に重大な影響を与える経営政策を実施する場合には、組合および会社に存する支部との間で事前協議を尽くすものとする。」との記載のある和解協定を締結した。
〔注2〕令和4年5月29日、Y0会社が設立され、その際にC会社から映画配給部門及びホームエンターテイメント部門(以下「映像部門」という。)の営業譲渡を受けた。
(2)組合は、(Y会社と商号変更し、株式会社から合同会社に組織変更する前の)Y0会社が、C会社から映像部門の全部の財産とともに本件協定を包括的に承継したと主張する。
しかし、本件協定の条項からは本件協定がC会社の映像部門に限定した協定であるとは解釈できないところ、本件営業譲渡においてC会社がY0会社に譲渡したのは映像部門に限られ、C会社は本件営業譲渡後も平成8年まで事業を継続している。
また、本件営業譲渡に係る譲渡契約書や目録が存在しておらず、C会社は、組合との間で事前交渉を行っているものの、両者の間で本件協定のY0会社への承継について明示的なやり取りをした形跡はうかがえない。
(3)また、組合は、C会社からY0会社への本件営業譲渡に当たってモノ、人及び人事制度が承継されており、C会社、Y0会社、組合の3者の間で、引継ぎを通じて本件協定のY0会社への承継を黙示で合意し、承諾したことは明白であると主張する。
しかし、本件協定締結から本件営業譲渡まで約7年が経過しており、この間、組合とC会社の団体交渉では賃金交渉等が行われたが、その賃金交渉等において本件協定の存在を前提とした交渉が行われていた様子もうかがわれない。また、本件営業譲渡に際しても、組合員の転籍に当たっての労働条件について、組合が本件協定の事前協議条項を示した上でC会社に事前協議を申し入れた事実は認められず、Y0会社に対する団体交渉申入れにおいて本件協定の承継を求めなかったことからすると、Y0会社が本件協定の存在と内容をよく知っていたと認めることは困難である。
また、Y0会社の就業規則にC会社の就業規則との関係についての記載はなく、その他に、Y0会社の就業規則にC会社の就業規則が引き継がれたことを示す事実も認められない。
(4)これらに鑑みると、会社が、本件営業譲渡によって本件協定が会社に承継されていないと判断したことも不合理とまではいえず、組合の運営に対する支配介入には当たるとはいえない。
2 経営政策実施の事前協議に関する団体交渉における会社の対応について(争点2)
(1)組合は、第2回団体交渉において、ホームエンターテイメント部門の廃止やA2の業務を縮小の上外部委託することは経営判断として決定したため、団体交渉の対象事項ではないとした会社の対応について、本件協定に定める事前協議の必要性を否定し事前協議を拒否する対応であり、団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に該当すると主張する。
しかし、会社が、本件協定は会社に承継されていないとする立場を組合に対して示したことが支配介入に当たらないことは前述1のとおりである。そうすると、会社が、第2回団体交渉で、本件協定は承継されておらず経営政策実施の事前協議の義務はないという前提で、ホームエンターテイメント部門の廃止やA2の業務を縮小の上、外部委託することについては協議事項ではないと述べたことは、それまでの本件労使関係の経緯等に基づくものであるということができ、それ自体不当なものとはいえない。
(2)なお、部門の廃止や業務の外部委託などの経営政策そのものは義務的団交事項に当たらないとしても、経営政策によって影響を受ける組合員らの解雇などの労働条件については義務的団交事項に当たるといえるところ、会社は、第2回団体交渉において組合員らの解雇に関連する範囲で相応の対応をしている。
(3)したがって、経営政策実施の事前協議に関する、第2回団体交渉における会社の対応は不誠実な団体交渉に当たるとはいえず、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。
3 A2の解雇等に関する8回の各団体交渉における会社の対応について(争点3)
(1)会社は、A2の解雇等に関わる団体交渉について、救済を求める利益が失われたことは明らかであると主張するので、以下検討する。
(2)本件申立て後の事情として、組合及びA2と会社との間で、令和5年1月26日の当委員会の調査期日において和解が成立し、「和解協定」を締結して、A2の雇用終了を確認するとともに、会社が組合に対して解決金を支払うこと、組合がA2に関する申立てを取り下げること、組合及びA2は、会社によるA2の雇用及びその終了に関連して、会社及びその役職員に対して、今後何らの請求をしないことを約束し、いわゆる清算条項によって同人と会社との間に何らの債権債務がないことを確認した。また、同じ調査期日において、争点3を含む争点を「主な争点」とする審査計画書が策定された。その後の4月5日、上記「和解協定」に基づき、組合が当委員会に対し、「A2に関する部分」の申立ての取下書を提出した。
(3)以上の結果、本件結審日において、A2と会社の間に雇用関係は存在せず、また、組合から上記(2)のとおり「A2に関する部分」の申立てが取り下げられ、さらに上記(2)の「和解協定」で、組合(及びA2)が、A2の雇用及びその終了に関連して今後何らの請求をしないと約束した以上は、A2の雇用及びその終了に関連する交渉過程のやり取りを含め、雇用に関する紛争は、全て既に当事者間で解決したものというべきである。
(4)なお、一般的に、A2の解雇等を議題とする団体交渉においても、A2個人の雇用、労働条件等に関連する部分のみならず、組合と会社との労使関係のあり方に関連する部分もあり得、後者に関して、不誠実な対応があった場合には不当労働行為が成立し得るが、争点4で判断する部分を除き、A2の雇用及びその終了に関連する部分以外で会社に不誠実な対応があったと認めるに足りる事実の疎明はない。
4 第6回及び第8回の各団体交渉における会社代理人の発言について(争点4)
(1)第6回団体交渉において、会社代理人は、「あなた(A3)の人生を破壊しかねないんですよ、この闘争は。(組合役員)A4さんと一緒にその口車に乗ってやったら。」などと発言している(以下「発言①」)。
これらは、A3と組合との間を離間させる効果をもたらす発言であり、会社が主張するような、組合との交渉で円満に解決しようと意図した発言とは到底いえない。
(2)第8回団体交渉において、会社代理人は、「X組合自体が、もう、非常に衰退の一途で、風前の灯火なんですよ。なぜ、なぜ、風前の灯火なんですか?世の中の産業の動きに対応してなかったから、こうなっちゃったわけですよ。」と発言している(以下「発言②」)。
これらは、客観的な事実の指摘にとどまらず、「世の中の産業の動きに対応してなかったから、こうなっちゃったわけですよ。」と述べるなど、組合の活動方針に踏み込んで一方的にその存在意義を否定するような発言であり、発言①と相まって、組合員に対して組合に対する不信感を抱かせ、組合の求心力を失わせる効果をもたらす発言といえる。
(3)したがって、これらの発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるといわざるを得ない。
(4)会社は、これらの発言を使用者の言論の自由の範囲内であると主張し、労使が意見を戦わせる団体交渉の場において組合活動についての意見を述べたものであり、組合がその場で反論すればよいなどと主張し、これらの発言により、組合を脱退したり、闘争をやめた組合員はいないため、支配介入に当たる余地はないとも主張する。
しかしながら、組合がその場で反論しても、これらの発言によって組合員にもたらされる上記効果が完全に払拭されるとはいえないし、支配介入の成立に当たり、現実に組合の組織や活動に影響が及ぶといった結果まで必要とされるわけではないから、会社の主張は採用することができない。
(5)さらに、会社は、会社代理人の発言①及び②は、組合員らに対する解雇等に関する団体交渉における発言であるとして、組合員らに係る各「和解協定」及び組合が各組合員に関する申立てを取り下げたことを理由に、救済利益が失われたと主張する。
しかしながら、争点4で問題とされる会社代理人の発言は、争点3で問題とされた会社の対応とは異なり、組合員らの解雇等に関する団体交渉における発言ではあるものの、組合員に対して組合に対する不信感を抱かせ、組合の求心力を失わせる効果をもたらす発言であり、上記各「和解協定」において組合員らの雇用に関する紛争が当事者間で解決したとしても、かかる発言により組合が受けた損害の是正についてまで当事者間で解決したということはできないから、和解により救済利益が失われたとする会社の主張は採用することができない。
5 4年1月31日付けで本件契約の解約予告通知(以下「本件通知」)を組合に提示したことについて(争点5)
組合は、本件協定が、現在も組合員の権利と労働条件を守る上で重要な役割を果たしているところ、会社が組合に対し、本件協定の解約についての事前協議を申し入れておらず、本件協定の弊害や解約の必要性を何ら説明していない、また、「会社の非劇場型業務の外部委託とバックカタログ業務の縮小」の際のA2の解雇を正当化するために解約したとして、本件協定を解約する行為は、組合弱体化を狙う支配介入であると主張する。
しかし、本件協定の承継に係る労使間の議論の経緯をみると、労使の主張は第1回団体交渉申入れに対する回答に見られるように当初から対立しており、第7回、第9回及び第10回の団体交渉においても本件協定の承継について労使の主張は平行線をたどっている。その後、会社は組合に対し、令和4年1月31日付けで本件通知を提示するに至っている。
本来、労使協定は、労使双方の合意に基づいて成立するところ、本件協定は、その存在自体という根幹について一貫して双方の見解が対立しており、団体交渉で協議を重ねてもなお見解の溝が埋まらない中において、会社は自らの立場を明確にするために、労働組合法の規定に基づいて、本件協定の解約予告である本件通知を提示したといえ、その過程において、会社が反組合的意図をもって本件通知をしたと疑われる事情も特に認められない。
以上を踏まえれば、会社が本件通知を提示したことは、組合の運営に対する支配介入には当たらない。 |