労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第25号・第27号・第31号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年11月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合が、法人の職員が組合に加入し分会を結成した旨を通知するとともに、団体交渉の申入れを行ったところ、組合分会長に対し自宅待機を命じたこと、②組合が、賃金の支払や同分会長の懲戒解雇の撤回等に関する団体交渉の申入れを行ったところ、団体交渉の日程調整に応じず、事実上、団体交渉を拒否していること、③組合が法人の本部に出向き、速やかに団体交渉に応じること等を求める申入れを行ったところ、組合の行為について威力業務妨害事件として捜査機関への申告を検討する旨等記載した警告書を組合に対して送付したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y法人     
理事長 B1
 当法人が行った卞記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合員A2氏に対して、令和4年5月20日付けで自宅待機を命じたこと。(1号及び3号該当)
(2)貴組合が令和4年5月17日付け団体交渉申入書及び同日付け分会要求書により申し入れた団体交渉に応じなかったこと。(2号該当)
(3)貴組合が令和4年6月9日付け団体交渉申入書により申し入れた団体交渉に応じなかったこと。(2号該当)

2 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合は、本件申立てに関して申立人適格を有するか。(争点1)

(1)法人は、法人の副校長であった分会長A2を組合員とする組合は、労働組合法上の労働組合たりえず、不当労働行為救済申立てを行う資格がない旨主張する。そこで、A2が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるかについて検討する。

〔注〕A2の就業場所は、和歌山県にあるC1高校。なお、当時の校長は、法人(本部は静岡県)の理事長B2であった。

(2)法人は、(副校長は、所属職員を監督する校長を助け、命を受けて校務をつかさどることなどが定められている)学校教育法の規定からすれば、法人の副校長であったA2が、労働組合法第2条第1号の「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」や、「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者」に該当することは明らかである旨主張する。

(3)この点、A2が同号に規定する者に該当するか否かは、労働組合の自主性を確保するという同条の趣旨に照らし、同人が実際に担っていた職務内容や有していた権限等をみて判断すべきである。そこで、A2の職務内容や権限等についてみる。

ア まず、法人はA2の職務内容について副校長として、①和歌山県との連絡や、生徒募集など生徒に関わることを行っていた旨、②校長が不在の際には校長代理の業務を行っていた旨主張する。
 しかしながら、①の業務は、いわゆる管理監督者ではない者も行い得る業務であり、A2が行っていたとしても、人事に係る重要事項について最終的な決定権限を持っていた、あるいは、これらの業務が人事上の機密に関するものであったとまではいえない。また、②の業務については判然としないが、少なくとも校長を代理して、人事に係る重要事項について最終的な決定権限を行使したとの疎明はない。
 そうすると、いずれも、同人が組合員であることで組合の自主性を阻害するとまではいえない。

イ 次に、法人は、A2の職務権限について、①A2、事務長B4、教頭B5及び事務職員B6の4名で会議を行って学校に係ることの方針を決め、その後、理事長B2の決裁を得ていたのであり、会議体の構成員としての職務権限を有していた旨、②令和4年2月の会議において、今後の学校に関することは、A2、B4、B5及びB6で方針を決め、理事長の決裁を得ることを決めた旨、③同年3月の会議において、教職員の雇入解雇、査定、昇進又は異動、賃金その他労働条件について話し合われた旨主張する。
 しかし、令和4年1月28日又は2月上旬、及び3月に会議が開催され、A2もいたことは認められるものの、これら会議が、教職員の雇入解雇、査定、昇進又は異動、賃金その他労働条件に関するものであったとまではいえず、かかる会議に参加したことをもって、A2が労働組合法第2条第1号に規定する者に該当するとはいえない。

ウ また、法人は、A2は、教諭らに対して始末書の提出や顛末書の提出を求める処分を行っており、統括的な地位でなければできない職務を自ら行っていた旨主張する。

(ア)①令和4年3月23日にA2は、通達を職員室内に掲示し、処分と処分内容を全職員に周知したこと、②同通達には、教頭を含む教員3名に対して、「処分」として始末書や顛末書の提出を求める旨の記載があることなどからすると、確かに、A2は、自ら「処分」との表現を用いて、教員3名に対して、始末書や顛末書等の提出を求めている。
 しかし、法人の就業規則第55条において懲戒処分の方法に関して規定されているところ〔注 訓戒、譴責、減給、出勤停止、昇給停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇〕、A2が教員3名に対して始末書や顛末書の提出等を求めた行為が、ここで定められた懲戒処分のいずれに該当するのか判然としない。また、同条において、懲戒処分は任命権者がその処分を決定する旨規定されていることなどからすると、副校長であるA2には、懲戒処分を行う権限はなく、また、理事長B2からA2に対し、懲戒処分を行う権限を与えたとする疎明はない。
 これらから、A2が教員3名に対して始末書や顛末書の提出等を求めたことは、就業規則上の懲戒処分とみることはできず、教員3名の監督者の立場として行った事実上の行為であったとみるのが相当である。
 そうすると、確かにA2は人事に係る監督者の立場にあったとはいえるものの、人事に係る重要事項についての最終的な決定権限を有していたとはいえず、A2が組合員であることで、組合の自主性を阻害するとまではいえないのであるから、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるとはいえない。

(イ)なお、法人は、A2の行為は、就業規則第55条の訓戒処分である旨主張するが、仮に、訓戒処分であったとしても、A2は、就業規則上の懲戒処分について最終的な決定権限を有していないから、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるといえないことに変わりはない。

(ウ)また、法人は、A2の行為が法人の就業規則第55条に該当しなかったとしても、A2が統括的な地位でなければできない職務を行っていたとの法人の主張には何ら影響がない旨主張する。
 法人の主張する「統括的な地位」が、仮に、労働組合法第2条第1号に規定する者という趣旨であったとしても、A2には、就業規則上の懲戒処分について最終的な決定権限を有していたとはいえず、A2が組合員であることで、組合の自主性を阻害するとまではいえないのであるから、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるとはいえない。

オ 以上のとおり、A2が実際に担っていた職務内容や有していた権限等からは、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるとはいえない。

(4)したがって、組合は、本件申立てに関して申立人適格を有している。

2 法人がA2に対し令和4年5月20日付けで自宅待機を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)自宅待機通知書を受け取ったA2は、懲戒処分のための前措置として自宅待機を命じられたと受け取り、精神的苦痛を感じていたといえるから、本件自宅待機命令によって、A2は精神的な不利益を被ったといえる。

(2)そこで、法人が本件自宅待機命令を発したことと、A2が組合に加入したこととの関連性についてみるに、法人は、A2の令和4年5月11日の行為及び同月12日の言動について、同人の組合加入が通知される前から問題視していたことがうかがえるものの、組合から、A2は調査〔注〕に回答する意思を有しているが、期間が短く準備が間に合わない旨通知されていたにもかかわらず、その3日後に本件自宅待機命令を発している。
 このような法人の対応は、組合の要請を押し切った強引かつ性急なものであるといえ、令和4年5月17日付けのA2の組合加入通知、分会結成通知及び団体交渉申入れと、本件自宅待機命令は関連性があるといわざるを得ない。

〔注〕5月14日にA2に送付された法人文書には、速やかに書面にて回答するよう求める旨の記載とともに、7項目の質問事項が記載されていた。また、同月17日に送付された法人文書には、翌日午前中までに回答を求める旨などが記載されていた。

(3)次に、法人は、本件自宅待機命令は、A2による、①令和4年5月11日、C1高校の教職員会議において、同校においてストライキを行うことを和歌山県が容認しているとの事実がないにもかかわらず、「和歌山県も容認している」等の虚偽の説明を行った行為、②同日、C1高校の教職員会議において、同校においてストライキを行うことに反対意見を述べる教職員に対し、「ふざけたことを言うな」等と怒鳴りつけた行為、③同日、報道機関対応を行わないとの方針を伝えたにもかかわらず、同月12日、C1高校において、法人の許可なく報道機関対応を行った行為を踏まえ、適切に発出されたものである旨主張する。
 自宅待機命令については、法人の就業規則第56条第1項では、就業規則第54条〔注 懲戒事由〕に該当し、就業規則に対する違反行為があったと疑われる場合で、調査又は処分決定までの前措置として必要があると認められる場合には、法人は職員に対し自宅待機命令を命ずることができるものとする旨規定されており、また、①5月11日にはC1高校において正規の授業は行われず、また、同月12日にA2は報道機関への対応を行っていること、②令和4年5月14日及び17日の法人文書に記載されたA2に対する質問事項などからすると、法人が、A2について、就業規則に反する違反行為があったと疑われると判断したことについては、理由がなかったとはいえない。
 しかしながら、自宅待機通知書には、A2は、就業規則第56条第1項に該当するため、自宅待機を命じると記載するのみで、同人のいかなる行為が理由で発せられたのかについては具体的な記載がない。また、組合が、A2は調査に回答する意思を有しているが、期間が短く準備が間に合わない旨を法人に伝えた状況下において、法人は、この組合の要請を押し切って強引かつ性急に本件自宅待機命令を発したものとみることができる。さらに、法人は、分会長A2を就業させた状態で、同人の行為について調査または処分決定を行うとの手段も採り得たところ、なぜ自宅待機との手段を選択したかについて、法人からの主張も事実の疎明もない。
 以上のことからすると、自宅待機まで命じる必要があったかについては、疑問が残る。

(4)以上のことを総合すると、本件自宅待機命令は、A2が組合員であるが故に発せられた不利益取扱いに当たるとみるのが相当である。
 そして、A2は、分会の分会長であるところ、同人に自宅待機を命じたことにより、法人における分会活動を妨げるとともに、分会員が分会活動を行うことや他の教職員が組合に加入することを躊躇させ、もって、組合活動に影響を及ぼしたといえる。したがって、本件自宅待機命令は、組合に対する支配介入にも当たる。

(5)以上のとおりであるから、法人がA2に対し自宅待機を命じたことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

3 令和4年5月17日の団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか。(争点3ー1)
 令和4年6月9日の団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか。(争点3ー2)

(1)令和4年5月17日の団体交渉申入れに対する法人の対応について

ア 令和4年5月17日の申入れに係る団体交渉が開催されていないことについて、法人は、事業承継前の運営者において団体交渉を行ったとしても、そのことが事業承継後の運営者に法的には引き継がれることになり、事業承継への影響があることから、やむを得ず、事業承継後に団体交渉を行う旨の回答をせざるを得なかつた旨主張する。

イ しかし、同年8月26日に理事長に就任したDが保護者に配布した文書には、B2が理事長を退任し、新理事長が就任した旨、事業承継が完了した旨の記載があり、かかる記載からすると、法人のいう「事業承継」があったとしても、運営主体である学校法人としては継続性が確保されるものであったといえる。
 そして、組合と法人のやりとりに係る経緯からすると、法人は、組合が申し入れた協議事項について、個別に緊急性や事業承継への影響の有無を検討することなく、一律に、事業承継前の団体交渉開催を拒んでいるとみざるを得ず、かかる法人の対応は、団体交渉における説明責任を逃れ、団体交渉開催を引き延ばすものといわざるを得ない。
 これらからすると、法人の対応は、やむを得ないものとみることはできず、団体交渉に応じなかったことにつき、正当な理由があったとはいえない。

ウ なお、法人は、組合が法人に対して団体交渉を求め始めた令和4年5月17日頃は、法人においては事業承継の交渉の最中であり、A2もそのことを理解していた旨主張するが、それをもって、法人の団体交渉応諾義務が免ぜられるものではない。

エ 以上のとおりであるから、法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(2)令和4年6月9日の団体交渉申入れに対する法人の対応について

 令和4年6月9日に組合が法人に送付した団体交渉申入書には、令和4年6月分以降の賃金支払の見通しについての説明といった、緊急性が高く、かつ、事業承継にかかわらず対応すべき事項が含まれている。これに対する法人の回答は、法人の意見は同年5月20日に組合に送付した回答書のとおりであるというものであるが、かかる回答は、組合との団体交渉を引き延ばすものであって、団体交渉に応じなかつたことにつき、正当な理由があったといえない。
 以上のとおりであるから、法人の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

4 法人が組合に対し令和4年6月23日に警告書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)

(1)法人は、組合活動として限度を超えた行為に対して、生徒の学習環境を守る、という観点から令和4年6月23日に組合に対する警告書(以下「警告書」)を発した旨主張する。

(2)法人が警告書を発した経緯についてみるに、①令和4年6月22日水曜日午後1時20分頃から50分頃までの約30分間、組合は、15人から20人程度の人数で、C2高校の校門前から、法人本部に向けて、拡声器を用いて呼びかけを行ったこと、②法人本部はC2高校の1階にあったこと、③2階にはC1高校の通信制コースの授業を行う教室が設けられ、法人本部の概ね真上に位置していたこと、④時間割によると、水曜日の午後0時50分から午後1時40分まで3時間目の授業であったこと、⑤警告書には、威力業務妨害事件として捜査機関への申告を検討する旨の記載があったことが認められる。
 これらからすると、組合は、授業中に、校門からC2高校の教室のある方向に向かって、拡声器を用いて呼びかけを行ったのであるから、組合の行動が組合活動として限度を超えていたか否かはともかく、法人が、組合の行動により授業の実施が妨げられたと判断したことには、相応の理由があるといえる。
 そうすると、法人が、同日の組合の行動に対し、威力業務妨害事件として捜査機関への申告を検討する旨記載した警告書を組合に送付したことは不当であったとはいえない。

(3)次に、組合活動に対する影響についてみる。
 警告書の送付により、今後の組合活動に影響を与えたことは否定できないが、警告書で問題としているのは、組合活動全般ではなく、令和4年6月22日の組合の行動やこれと同様の行動であるのだから、組合活動への影響は限定的なものとみるのが相当である。

(4)以上のことを総合して判断すると、法人が組合に対して警告書を送付したことは、令和4年6月22日の組合の行動に対するものとして不当なものであったとはいえず、また、組合活動への影響も限定的なものであったことからすると、組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。
 したがって、この点に関する組合の申立ては棄却する。 

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