労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年9月29日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、会社と委託販売契約を締結して化粧品等の販売業務を行っていた組合員A2の契約内容や経費負担に関する事実関係を明確にすること等について団体交渉を申し入れたところ、会社が、A2は労働組合法上の労働者に該当しないとして拒否したことが、不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書手交を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和3年10月8日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなけれはならない。
年 月 日
X組合
 執行委員長 A1殿 様
Y会社        
代表取締役 B1
 当社が、貴組合が令和3年10月8日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  ○争点
 会社が、組合の令和3年10月8日付けの団体交渉申入れ(以下「本件団交申入れ」)に対し、組合員Aは労働組合法上の労働者に当たらないとして応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか

1 組合員Aは労働組合法上の労働者に当たるか否か

(1)労働組合法上の労働者は、雇用契約によって使用される者に限定されず、雇用契約下にある者と同程度の使用従属関係にある者又は同法上の保護の必要性が認められる労務供給契約下にある者をいう。
 本件も、委託販売契約の外形を取っているからといって、労働組合法上の労働者性が直ちに否定されるものではなく、Aが同法上の労働者であるかどうかについては、業務に関する合意内容や業務遂行の実態において、従属関係を基礎づける諸要素の有無・程度等を総合考慮して判断する必要がある。

(2)この場合、総合考慮の対象として従属関係を基礎づける諸要素には、「基本的判断要素」として、「事業組織への組み入れ」、「契約内容の一方的・定型的決定」、「報酬の労務対価性」、「補充的判断要素」として、「業務の依頼に応ずべき関係」、「広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束」、「消極的判断要素」として、「顕著な事業者性」、の6要素がある。
 以下、Aの業務実態に即して、これら6要素についてみる。

ア 「事業組織への組み入れ」について
 ①会社は、化粧品販売業務等を営む会社で、②Aとの委託販売契約書(以下「本件契約)には、目的として会社化粧品、化粧雑貨、エステ用商材等を販売することを委託する旨の記載があり、③会社の商品の売上は、「ショップオーナー」若しくは「ショップマネージャー」等と称する者(以下「販売受託者」)又は、販売受託者が販売の再委託をした「ビューティーディレクター」と称する者(以下「BD」)が約9割を占め、商品販売に従事する人数も、会社の従業員が約300人、販売受託者及びBDが約4万人であったことが認められる。
 これらから、本件契約は、会社が自社商品の販売を目的として、業務に従事する人員を確保するために締結されたものといえる。また、販売受託者及びBDは、会社の自社商品販売業務の遂行に不可欠ないし枢要な役割を果たす労働力として組織内に位置づけられているとみるのが相当である。
 また、販売受託者には、①毎月、BDの個々人を含めた販売目標額等を会社に報告したり、会社の会議に原則として出席する義務があり、②仕事着としての社名の入った制服等が準備され、③会社と同種の事業を行うことが禁止されていたことなどが認められる。このうち、①は販売受託者の会社組織への組入れを、②は会社組織の一部として扱っていることの第三者への表示を、③は会社への専属性を、それぞれ示すものといえる。
 したがって、(販売受託者である)Aは、会社の商品販売業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として、会社組織に組み入れられていたとみるのが相当である。

イ 「契約内容の一方的・定型的決定」について
 ①会社は、同じ時期であれば、どの販売受託者とも同じ内容で契約をし、②契約書には、顧客と直接対面してのカウンセリング販売以外の方法による販売は、一切、行わない旨の記載があり、③販売手数料の算出に用いる基準は会社が決定し、BDも販売受託者も全員一律で適用され、④ショップオーナー・マネージャー手当の算定基準等も会社が決定し、⑤販売受託者に支給される約20の手当等は、会社が決定した規定によることが認められる。また、会社自身、委託販売契約が、一方的・定型的に定められたことは争わないとしている。
 これらから、会社が、販売業務の方法、報酬の算定基準、算出方法も含んだ契約の内容を、一方的かつ定型的に決定していたことは明らかである。

ウ 「報酬の労務対価性」について

(ア)本件契約には、①会社は、販売額に応じ、基準表により算出した販売手数料をAに支払う旨、②Aは、カウンセリング販売以外の方法による販売は、一切、行わない旨の記載があることなどから、Aに支払われていた報酬は、商品の販売手数料との形式をとっているものの、実質的には、カウンセリング販売などの役務に対する対価とみるべきである。

(イ)これに対して会社は、販売受託者は、他のBDによる販売活動を含む、総体としての営業体としての販売額に応じて会社から手当を受け取っており、報酬の労務対価性が認められない旨主張する。しかし、本件契約上、Aは、会社から傘下のBDの販売手数料として受け取った金額を、そのまま支払うよう定められており、この部分に関しては、他人の労働により利得を得たという関係にあったとみることはできない。
 次に、Aは、N店及びL店で、カウンセリング販売などにより労務を提供していたのであるから、少なくとも、A個人の販売実績に応じた販売手数料が、同人の労務に対する対価であるとの側面があることには変わりはない。
 さらに、会社がショップ全体の販売額に応じて支払っている販売受託者に係る「手当」や「奨励歩合」は、Aが傘下のBDに対する教育や指導・監督等のマネジメント業務を行ったことに対するものとみることができ、これらをもってAに対する報酬の労務対価性を否定することはできない。
 しかも、平成29年11月度の販売明細書によると、傘下のBDの売上は、Aのショップ全体の販売実績の20%に満たない割合でしかなく、Aの報酬の労務対価性が否定されるほどのものではない。

エ 「業務の依頼に応ずべき関係」について
 Aが会社組織に組み入れられているとみられる以上、当該破談要素については、検討の必要を認めない。

オ 「広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束」について

(ア)Aは、会社の商品のエステ販売等に当たり、マニュアルによって詳細な指示を会社から受けていたとみることができ、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督下において業務を行っていたといえる。

(イ)会社において、①販売受託者は、傘下のBDが、会社との間で、直接委託販売契約を締結して販売受託者になるとグループオーナー等の名称で呼ばれ、②元々傘下のBDであった者は、当該グループオーナーらを頂点とする「グループ」に入ることになっており、本件契約締結後、AはC氏を頂点とするグループに属することになった。
 C氏は、本件契約書において、会社を代行して、Aに対し、商品の販売やエステ業務等に関して何らかの指示を行う者と規定されており、販売受託者とその傘下のBDを従えるピラミッド型組織であるグループの頂点の地位にある人物であったのだから、AがC氏の指示に従わざるを得ないことは、会社によって用意されたこのような組織構造の中の販売員同士の関係性からすれば、無理もなかったと推認できる。
 そうであれば、C氏からの指示により、大坪組合員は時間的場所的拘束を受けていたと言わざるを得ず、自らの自由裁量により、働く場所や時間を決定していたとはいえない。

カ 「顕著な事業者性」について

(ア)「営業場所の指定や営業時間を指定されることはない」旨の会社主張について、Aは、C氏の指示により、働く場所や時間の拘束を受けているから、顕著な事業者性を有していたとまではいえない。

(イ)「他の事業活動を行うことも競業他社の販売活動でない限り、自由である」旨の会社主張について、原則として兼業を禁止されなかったことのみをもって、Aに顕著な事業者性があったとはいえないうえ、同種事業との兼業禁止は、上記「事業組織への組み入れ」の「専属性」を強く推認させる事情ともいえる。

(ウ)「販売する商品についても、会社の商品の中から販売受託者がそれぞれ考え、販売に適したものを販売している」旨の会社主張について、①入荷商品選定権限があったことをもって、直ちに、顕著な事業者性が認められるとはいえないこと、②Aには、商品の価格設定については裁量がないこと、③上記オの前段の事情に鑑みると、Aに独立した事業者としての広範な裁量があったとはいえない。

(エ)BDへの再委託に関する会社主張(「誰をBDとして再委託契約を締結するかは自由である」旨/「BDが販売した分も含めた売上に応じて会社から手当を受け取る」旨/「全ての販売活動をBDに再委託し、自らは全く販売活動をしなくても手当を受け取ることが可能である」旨)について

 Aに支払われるショップオーナー・マネージャー手当は、販売受託者とその傘下のBDの売上金額の合計額に応じて支払われ、また、奨励歩合は、当該合計額の3%であったことから、Aは、他人を使用し、他人の労働により報酬の一部を得ていたといえる。
 しかしながら、①販売受託者となる審査条件として、申請後6か月の間に新人スタート支援制度活用BDが2名以上いること等が定められ、②契約書に、会社の指導・助言に従い、BDの増員・育成等に努める旨の記載があるなど、Aは、会社の制度に従ってBDを使用していたとみるのが相当である。また、BDへの報酬についても、報酬の算定基準や諸規定による支給の内容は会社が決定しており、この点でも、Aは、会社から独立して、自由にBDを使用していたとはいえない。
 以上のことを併せ考えると、Aが顕著な事業者性を有していたとまではいうことはできない。

(オ)「独立した事業者として確定申告も行っている」旨の会社主張について、Aが、確定申告をしたことがあったことをもって、顕著な事業者性を有していたとはいえない。

(カ)「店舗の立地、BDとの再委託販売契約の締結について自ら決定した上で、他のBDによる販売活動を含む、総体としての営業体による損益の帰属主体として、会社とは独立した立場で営業活動を行っている」旨の会社主張について、Aが、店舗の立地について自らの自由裁量で決定したとはいえず、また、会社の制度上、やむを得ずBDを使用していたのであり、その報酬の算定基準等も会社が決定していたことからすると、Aが、会社とは独立した立場で営業活動を行っているとみることはできない。

(キ)なお、Aは、〔C氏の運営に係る〕N店の家賃、光熱水費及び通信費並びにL店の家賃及び経費等を他のショップオーナーやショップマネージャーとともに負担していたことが認められるが、グループオーナーとして、ピラミッド型組織であるグループの頂点の地位にあるC氏の指示に従わざるを得なかったものである点を考慮すると、Aが顕著な事業者性を有していたとまではいえない。
 さらに、会社は、Aが(会社が支払う販売手数料に含まれる)消費税を受け取っていることをもって、同人が個人事業主の証左である旨も主張するが、会社が委託販売契約という外形に従い、Aに消費税を含めた形で報酬を支払っていることをもって、同人が顕著な事業者性を有していると判断することはできない。

(ク)以上のとおりであるから、Aが顕著な事業者性を有していたと認めるに足るような事情は存在せず、したがって、Aが顕著な事業者性を有していたとまではいえない。

(3)以上のとおり、Aが、会社との関係において、労働組合法上の労働者に該当するか否かの諸要素をみると、「基本的判断要素」については、①事業組織へ組み込まれていたとみるのが相当であり、②契約内容について、会社が一方的・定型的に決定していたというべきであり、③報酬についても、労務に対する対価であったといえる。また、「補充的判断要素」のうち、⑤広い意味での指揮監督下の、労務提供、一定の時間的場所的拘束についても認められた。そして、「消極的判断要素」としての⑥顕著な事業者性について、Aがこれを有していたとまでいうことはできない。
 これらのことを総合的に判断すると、Aは、会社との関係において労働組合法上の労働者に該当するとみるのが相当である。

(4)なお、会社は、C氏が労働組合法上の労働者に該当しないことは組合も認めるところ、C氏もAも同じ販売受託者で会社との権利関係は変わらない旨、C氏が労働組合法上の労働者でないのと同じように、Aも同法上の労働者ではない旨主張する。しかし、C氏が同法上の労働者であるか否かは、Aが同法上の労働者に該当するか否かの判断を左右するものではない。

2 本件団交申入書に記載の要求事項が、義務的団交事項に当たるか

 本件団交申入書に記載された要求事項には、Aがショップマネージャーとして勤務していた時期に同人が負担していた経費に関する事実関係等を明らかにすることや、Aの負担した金額について返済を求めるものが含まれている。これらの要求事項は、会社とAとの間の未精算の労働契約関係に係るものであるから、義務的団交事項に当たる。
 したがって、会社は、正当な理由がない限り、組合の本件団交申入れに応じるべきであるところ、会社は、Aが労働組合法上の労働者に当たらないとして、これに応じていないが、これが、団交拒否の正当な理由とはならないことは前記1の判断のとおりである。

3 以上のとおり、Aは、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるのであるから、会社が、本件団交申入れに対し、Aは同法上の労働者に当たらないとして応じなかったことは、団交拒否の正当な理由とはならず、会社は、正当な理由なく、組合の本件団交申入れに応じていないといえる。
 かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

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