労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第50号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、経営再建計画等を議題とする団体交渉において、経営状況の今後の見通しが出てから交渉すると回答しながら、交渉することなく合理化施策を実施したこと、②組合員A3の解体工事現場への異動命令を議題とする団体交渉で再度検討して回答するとしながら、会社代理人からの譲歩しないとの電子メールによる回答のみで終了したこと、③会社の総務部長が、組合と協議中の事項である組合員A5ら3名の労働条件について、各組合員らと直接個別に話をしたこと、④同部長が、組合員A3に組合脱退を求める発言をしたこと、⑤会社の代表者が、組合員A4との電話での会話で怒鳴るなどしたこと、⑥会社の統括部長が、工場において、トラックの中で作業をしていた組合員A5に対し、行動を監視していることを示唆する発言をしたこと、⑦会社の代表者が、朝礼において組合員A3について、自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしいなどと発言したこと、⑧会社の運転手が、出勤した組合員A6に対し、組合の活動を非難する内容の発言をしたこと、⑨会社が、分会長A2ら6名に対し、休業を指示するなどして給与を減額したこと、⑩会社が、A3に対し、建設部工事課への異動を命じ、さらに、同異動命令に従わないとして、けん責の懲戒処分をしたこと、⑪会社が、A5ら2名に対し、夜勤から日勤への異動を命じたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、③から⑧までについて同条第3号、⑨から⑪までについて同条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)会社の経営計画の今後の見通しを議題とする団体交渉に、交渉に必要な情報を秘匿することなく応じなければならないこと、(ⅱ)上記⑨の組合員6名に係る、休業指示又は欠勤扱いがなければ支払われたであろう額と既に支払った額との差額の支払、(ⅲ)上記⑩の異動及び懲戒処分がなかったものとしての取扱い、(ⅳ)上記⑪の異動がなかったものとしての取扱い、(ⅴ)文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和2年10月13日付け団体交渉申入書で申し入れた、会社の経営再建計画の今後の見通しを議題とする団体交渉に、交渉に必要な情報を秘匿することなく応じなければならない。

2 会社は、組合員A2、同A3、同A4、同A5、同A6及び同A7に対し、令和2年6月分から同年11月分までの給与について、休業指示又は欠勤扱いがなければ支払われたであろう額と既に支払った額との差額を支払わなければならない。

3 会社は、組合員A3に対する令和2年10月12日付けの建設部工事課への異動及び同年11月12日付けのけん責の懲戒処分をなかったものとして取り扱わなければならない。

4 会社は、組合員A5及び同A6に対する令和2年12月7日付けの夜勤から日勤への異動をなかったものとして取り扱わなければならない。

5 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなけれはならない。
年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
 当社及びその関係者が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、当社による労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)当社が、貴組合が令和2年10月13日付け団体交渉申入書で申し入れた、会社の経営再建計画の今後の見通しを議題とする同月28日の団体交渉に、誠実に応じなかったこと。(2号該当)
(2)当社総務部長B2が、令和2年12月9日に、貴組合員A5氏、同A6氏及び貴組合員であったC氏と、組合を通すことなく個別に、夜勤から日勤への異動に係る労働条件について話をしたこと。(3号該当)
(3)当社総務部長B2が、令和2年8月12日に、会社の倉庫において、貴組合員A3氏に対して組合からの脱退を促す発言をしたこと。(3号該当)
(4)当社代表取締役B1が、令和2年9月7日に、貴組合員A4氏に対して電話での通話において威嚇的な発言をしたこと。(3号該当)
(5)当社建設部統括部長B3が、令和2年9月7日に、会社の工場において、貴組合員A5氏に対し、組合活動をけん制する内容の発言をしたこと。(3号該当)
(6)当社代表取締役B1が、令和2年10月15日の朝礼において、組合に入って自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしいという趣旨の発言をしたこと。(3号該当)
(7)当社の工場への送迎車両の運転手が、令和2年12月7日に、出勤した貴組合員A6氏に対して貴組合の組合活動を非難する発言をしたこと。(3号該当)
(8)当社が、貴組合員A2氏、同A4氏、同A5氏、同A6氏及び同A7氏に対して休業を指示し、また、同A3氏を欠勤扱いとし、それぞれ給与を減額したこと。(1号該当)
(9)当社が、令和2年10月12日付けで、貴組合員A3氏を建設部工事課へ異動させたこと。(1号該当)
(10)当社が、令和2年11月12日付けで、貴組合員A3氏に対し、けん責の懲戒処分をしたこと。(1号該当)
(11)当社が、令和2年12月7日付けで、貴組合員A5氏及び同A6氏を夜勤から日勤へ異動させたこと。(1号該当)

6 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社の経営再建計画の今後の見通しを議題とする同年10月28日の団交(以下「10.28団交」)における会社の対応は、不誠実団交に当たるか。(争点1)

(1)令和2年10月13日付け団体交渉申入れ(以下「10.13団交申入れ」)に至る経緯をみると、組合は、同年4月15日の団体交渉(以下「4.15団交」)において、会社が提示した会社の再建計画について、組合員の労働条件や雇用に影響を与える可能性があることから、途中経過についての継続的な交渉を求めたものということができ、10.13団交申入れも、4.15団交以来の継続的な交渉の一環としてなされたものとみることができる。
 次に、会社は、再建計画の一環をなす希望退職者募集について、10.28団交における協議では触れることなく、組合に一切の説明もせずに、同団交から1週間あまり後に、突然行ったものといえる。

(2)この点、会社は、組合と会社間には希望退職者を募集するに当たり、事前に協議を行う旨の労使協定はなく、過半数に満たない組合には過半数代表としての労使協議を行う権限もない旨主張する。
 しかし、10.13団交申入れが、会社再建計画の途中経過についての4.15団交からの継続的な交渉の一環としてなされたものとみられることからすると、10.28団交の時点で、例えば希望退職者の募集といった人員削減策の実施など、当該計画に係る新たな予定が具体的に決まっている場合、その内容についての情報がなければ実質的な交渉は成り立たないのであって、10.28団交において組合から会社再建計画の進捗状況についての質問があれば、会社は当然に説明すべき義務があった。
 しかも、会社が、10.28団交において、希望退職者募集の実施を含めた新たな予定について、当然にすべき説明をしなかった結果、組合は、希望退職者募集等の組合員の労働条件に影響を及ばす会社の経営再建計画について交渉する機会を逸したと言わざるを得ない。

(3)以上のとおり、会社の対応は、誠実な対応を通じて組合との合意達成の可能性を模索する態度に欠けるものと言わざるを得ず、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

2 令和2年10月12日付けで組合員A3を建設部工事課へ異動させたことを議題とする令和2年11月4日の団体交渉申入れ(以下「11.4団交申入れ」)に対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点2)

(1)11.4団交申入れに対する令和2年12月7日の団体交渉(以下「12.7団交」)では、会社が、一旦は拒否したものの、組合による再度のA3の賃金増額の提案に対して検討する意思を示した状況において、組合が、譲歩の余地がないのであれば交渉の必要はない旨発言したものということができる。
 この発言について、組合が主張するように、実質的な交渉ができなくなるような団交拒否の対応を取ることのないよう会社に警告する趣旨であったと解することは困難であって、会社が文字どおり、譲歩の余地がないのであれば交渉をしなくてもよいとの趣旨に解したとしても無理からぬところである。

(2)このような状況においては、協議の場を持つよう求める同月11日の組合からのメールの受信後も、会社が、そのように考えて、提案に応じられず譲歩の余地もないとメールで回答し、その後協議の場を持とうとしなかったとしても、あながち不当とまではいえず、会社の対応が不誠実団交に当たるとはいえない。
 したがって、会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとはいえない。

3 令和2年12月9日に総務部長B2が、組合員A5、A6及び元組合員Cと、個別に、夜勤から日勤への異動に係る労働条件について話をしたことは、不誠実団交及び組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)

(1)B2のこの行為は、そもそも団交におけるやり取りではないから、不誠実団交に当たるとはいえない。

(2)やり取りの具体的な内容は明らかではないが、そもそも、人事及び労務の責任者であるB2が、団交議題にもなり、会社が組合に回答を求めている事項について、組合が回答する前に、当該組合員らと個別に会って、直接、話をすること自体、組合員らに圧力を感じさせるものであり、組合としての交渉力を弱めるものであることは明らかである。したがって、B2の行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

4 会社関係者等による、①令和2年8月12日の総務部長発言、②同年9月7日の社長通話発言、③同日の統括部長発言、④10月15日の社長朝礼発言及び⑤12月7日の運転手発言、は会社の組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)

(1)総務部長発言について

 令和2年8月12日、総務部長B2が、会社の倉庫でA3に対し、組合に入っていると困る、人事異動その他の査定等に支障があるなどの発言をしたことが認められるが、この発言は、A3に対して組合からの脱退を促す発言であったとみざるを得ない。

(2)社長通話発言について

 令和2年9月7日、午後9時頃、社長が、工場の様子を自宅から防犯カメラで確認した後、携帯電話を通じて組合員A4と通話をした。
 これは、社長が組合員らの社内での動きを監視した上で、その活動をけん制する意図でなされた行為とみるのが相当であり、組合員に対して、組合の活動を「おんどれ」、「なめとんのか」などと威嚇的な表現を用いて非難したものであって、組合及び組合員の組合活動を萎縮させるものと言わざるを得ない。

(3)統括部長発言について

 令和2年9月7日、A5が工場のトラック内で作業をしていたところ、統括部長が、いきなりドアを開け、A5に対し、「降りろ」と大声で述べ、社長がA5の行動を監視していることを示唆する発言をしたことが認められる。当該発言は会社としての行為というべきで、A5に威圧感を与えるものである。
 この発言は、組合を意識し、組合員の活動をけん制する意図で、(2)の社長通話発言に続いてなされた一連の行為とみるのが相当であり、したがって、A5を狙い撃ちにし、組合活動をけん制するものであったというべきである。

(4)社長朝礼発言について

 令和2年10月15日、社長は、朝礼という非組合員も複数いる場において、組合がA3の異動について撤回した上での団交開催を求めていることを念頭に置いて、組合員の活動をけん制する意図で、従業員に組合への加入をためらわせるような発言を意図的に行ったということができ、組合の主張どおり、自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしい旨の発言があったとみるのが相当である。
 当該発言は、組合に加入して自分の権利について主張をし、会社と交渉しようとすれば退職勧奨を受けることになるとの認識を生じさせ、加入をためらわせる効果を持ち、組合活動を弱体化させるものと言わざるを得ない。

(5)運転手発言について

 令和2年12月7日朝、運転手B4が、出勤してきたA6に対して、「お前ら、みんなそんだけユニオンユニオン言うんやったら、お前らユニオンの従業員なったらええねん。」などの発言をしたことが認められる。
 会社が同日付けでA5及びA6を夜勤から日勤へ異動させたことに係る協議が継続する中、日勤として最初の出勤日の送迎の場で、会社及び社長と近しい関係にあるB4によっていきなりなされた、組合の組合活動を非難する内容の発言が、A6の組合活動を萎縮させるものであることは、明らかである。

(6)以上のとおり、上記①から⑤までの各発言は、いずれも組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

5 会社が、分会長A2、A3、A4、A5、A6及びA7に対し、休業を指示して給与を減額したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点5)

 分会長A2並びにA4、A5、A6及びA7について、休業を指示し、給与を減額したことに係る会社の主張は、いずれも正当な理由とはいえない。
 また、A3について、会社は、同人が異動を拒絶したことから欠勤扱いをしたにすぎない旨主張するが、会社は、組合員であるが故の不利益取扱いと評価される異動を理由に欠勤扱いとしており、給与減額に正当な理由はない。
 したがって、会社の行為は、いずれも、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

6 会社が、A3に対し、①令和2年10月12日付けで建設部工事課へ異動させたこと、②同年11月12日付けでけん責の懲戒処分を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点6)

(1)建設部工事課への異動について

 A3の賃金に変化はないが、同人は、約18年にわたり事務職として勤務し、入社直後の1年半を除いて工事現場の業務の経験はなかったことなどから、当該異動は、体力面及び年齢面での負担増という不利益を伴うものといえる。また、当時、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったことなどから、異動は、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。
 会社は、令和2年8月20日に工事課に2名の退職者が出たことを受けて、工事部の労働力を増やすために行われた旨主張するが、会社はA3が当該2名の代替要員としての職務を十分に果たすことができないことを承知の上で、異動を命じたものといえるから、正当な理由があったとはいえない。
 以上のとおりであるから、会社によるA3の工事課への異動は、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(2)けん責について

 A3へのけん責処分は、A3が組合員であることを意識し、(令和2年8月に総務部長が行った)脱退勧奨の事実を組合に報告した同人を嫌悪し、その報復としてなされたものであるとみざるを得ない。また、懲戒処分通知書には、無関係な就業規則条文が多数含まれており、社内で適正な検討がなされたのかについて、疑問を感じざるを得ない。
 また、会社は、A3が、けん責処分の根拠事実とする工事課への異動について、組合との交渉が必要であることを理由に指示に従うことができず、けん責処分については納得できない旨を11月11日に会社に通知しているにもかかわらず、これに一切の返答をすることなく、その翌日、A3に処分を通知している。これらからすると、会社は組合との交渉を意識して敢えて性急な対応をしたのではないか,との疑念を生ぜざるを得ない。
 そして、当該処分は、A3が不当労働行為に該当する異動の指示に従わなかったことを理由に行われたものであり、不当労働行為に該当する指示に従わなかったことを就労拒否として懲戒処分を課すことに、正当な理由はない。
 以上のとおり、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

7 会社が、令和2年12月7日付けで、A5及びA6を夜勤から日勤へ異動させたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点7)

 A5及びA6は、日勤への異動によって、みなし深夜手当の分だけ賃金が減少したとみられ、経済的不利益を伴うものであった。
 A5及びA6の日勤への異動については、①組合員でない2名が対象の候補となった事実は認められないこと、②会社が日勤への異動を命じたのがA5、A6及び元組合員Cであること、③うちCは異動から3日後に組合に脱退を通知し、即日夜勤へ異動となっていること、④(対象とならなかった)A7については、組合からの脱退を期待して日勤を命じなかったといえることからすると、殊更に組合員を対象としたものとみざるを得ない。
 そして、労使が強い対立関係にあったとみられることなどを併せ考えると、日勤への異動は、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。
 一方、会社の主張を検討しても、この時点で、夜勤者を日勤に異動させなければならない切迫した事情はなく、真の理由が組合員に対する嫌がらせであったことが明らかである。
 以上からすると、会社がA5及びA6に日勤への異動を命じたことに正当な理由があったとはいえず、したがって、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。 
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