労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第8号
日本交通不当労働行為審査事件 
申立人  X組合支部(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社(会社) 
命令年月日  令和5年9月5日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①Y1会社及びY2会社(共通の営業所を有し、申立外C会社らとタクシーグループを構成。以下、両社を合わせて「会社」。なお、これら3社は同じ法人名を用いている)が、団体交渉で組合がメーター検査手当の支給内容を労働協約として締結するよう要求したことに対し、応じられないと回答したこと、②会社の営業所長B2が書記長A3に対し、a無線を取らない乗務員の担当車を外すことに係る発言をしたこと、b餅つき及び旗開きにおける酒類の提供は営業所外で行うよう言い渡したこと、c右労働協約の締結に係る発言をしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が、メーター検査手当の運用内容の文書化について団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書の掲示及び交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社(通称:K第一営業所)及び会社(通称:K第二営業所)は、組合が、メーター検査手当の運用内容の文書化について団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。

2 会社らは、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を、K営業所の従業員らの見やすい場所に10日間掲示するとともに、組合に交付しなければならない。
年 月 日
X組合支部
支部長 A1殿
Y1会社(K第一営業所)  
Y2会社(K第二営業所)  
上記2社代表取締役 B1
 貴組合との、メーター検査手当の運用内容の文書化についての団体交渉における当社らの対応は、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社らは、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。
判断の要旨  1 団体交渉で組合がメーター検査手当の支給内容を労働協約として締結するよう要求したのに対し、団体交渉で会社がこれに応じられないと回答したことが、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点1)。

(1)団体交渉で確認された事項について

 組合と会社とは、令和元年11月15日の団体交渉において、メーター検査手当の運用について改めて確認し、現状、①車両の代替時は仮検査2,000円、本検査2,000円、メーター検査の場合は仮検査1,000円、本検査1,000円が支払われていること、②正規の時間に出勤した乗務員に代替えの車が用意されるまで長時間待たされる場合には手当が支給されることについて、双方の認識が一致し、その運用を維持することが確認されたといえる。

(2)団体交渉における文書化をめぐるやり取り

 令和元年11月15日及び11月26日の団体交渉において、組合が、メーター検査手当の金額や運用ルール等が従業員に理解されていないこと、給与規程にも明記されていないこと、営業所ごとに支給金額が異なること、したがって従業員に周知する必要があることなどを指摘し、相応の理由を示した上で文書化を要求しているのに対し、会社は、組合の指摘に具体的に応えることなく、協約化の必要はない、ルールは決まっている、多数組合であるC組合から話がないなどと述べるのみで、合理的理由を何ら示すことなく頑なに文書化を拒否する態度を示しており、このような会社の対応は、交渉を通じて合意形成を図り、将来の円滑な労使関係構築のための方策を模索する姿勢に欠けていたといわざるを得ない。

(3)本件手続における会社の主張について

 会社は、団体交渉においては、組合の文書化や労働協約化の要求に応じられない具体的な理由を余り述べていないが、本件手続において、主張しているので、以下、判断する。

ア 会社は、グループ内の乗務員の労働条件等については、労働組合本部と本社人事労務部の協議事項であり、そもそも営業所が交渉する事項ではないし、各営業所、各営業所長に協定・協約締結権限は与えられていないと主張する。
 しかし、K営業所がグループにおいては営業所の一つという位置付けであったとしても、同営業所は独立した法人格を有し、組合員との雇用契約の当事者であり、また、メーター検査手当の運用についてはK営業所長の判断で決定し、団体交渉においても所長の権限で回答している。
 このように、グループ内で営業所に労働協約締結の権限が与えられていないことは、いわばグループ内ルールにすぎないのであって、メーター検査手当の運用は営業所限りで処分可能な事項であり、当然K営業所長には、団体交渉の結果について協約を締結する権限があるといえる。

イ グループ各社では、賃金等の労働条件は専ら就業規則を制定、改定して定める方式を採用しており、組合の本部と本社との間でも、又は最大労組のC組合その他の労働組合と本社との間でも、労働協約を締結した事実はない。しかし、グループ内でそのような慣行があったとしても、労働組合は、団体交渉によって独自の労働協約を締結する権限を有しているのであるから、会社は、労働組合から文書化についての要求があれば、真摯に交渉に応じなければならないことはいうまでもない。
 会社は、もしメーター検査時の手当について協定を結ぶことになった場合は、原則として給与規程の改定が必要となるため、本社に交渉を依頼し、本社人事労務部による他の営業所との調整も必要となり、また、多数労働組合との交渉を行わなければならないことから、各営業所・各労働組合支部間の個別の交渉で解決できるものではないなどと主張する。
 しかし、メーター検査手当は、個々の営業所長の判断で、営業所からメーター検査場までの距離などを考慮した上で、給与規程上の「修理手当」を運用し支給しているのであるから、メーター検査手当の運用内容の文書化について、各営業所・各労働組合支部間の個別の交渉で解決することができないとする会社の主張には根拠がないというべきである。

(4)以上のとおり、令和元年11月15日の団体交渉において、メーター検査手当の運用について、組合と会社との認識が一致し、その運用を維持することが確認されたことを踏まえ、組合が相応の理由を示して文書化を要求したのに対し、会社は組合の要求理由に具体的に応えることなく、頑なに拒否する態度を示しており、そのことを正当化する会社の主張はいずれも採用することができないのであるから、メーター検査手当の運用の文書化に係る会社の交渉態度は不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。

2 令和元年11月15日の団体交渉終了後、所長B2が書記長A3に対し、「担当車外し」に係る発言をしたことが、組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

(1)11月15日の団体交渉後、所長B2は、書記長A3をその場に残し、本社の方針で、無線を取らない乗務員の担当車を外すことになり、同人もその対象となる旨を伝えている。

(2)グループでは、無線を取らない乗務員がいることについて、以前から問題視しており、平成31年2月16日に、無線了解率の低い乗務員への配車を止める「配車止め制度(指定NG制度)」を、また、令和元年7月16日には、無線了解率に応じた優先配車権付与施策を導入するなどの全社的施策を導入していた。
 11月13日には、無線戦略会議において、本社社長が、無線了解率を上げるために、無線を取らない人の担当車を外すくらいのドラスティックなことも考えるよう指示し、グループは、全社的施策として、無線を取らない乗務員の担当車を外す検討を重ねていた。

(3)「担当車外し」が検討されていた当時、無線を取らない乗務員は全営業所の乗務員約5,000人中195人存在しており、その中にはC組合の組合員も含まれ、11月14日には、本社の労務部長B4がC組合の本部役員である書記長C2に「担当車外し」の件を打診している。
 また、書記長A3の認識によれば、K営業所においても組合員以外で無線を取っていない乗務員が9名程度いた。
 以上のことから、所長B2が、組合やその組合員を狙い撃ちにして「担当車外し」発言を行ったとは認められない。

(4)また、所長B2は、過去の組合の支部長らから、何か本社から情報が入ったらすぐ組合に知らせるよう言われていたところ、上記のとおり、令和元年11月13日の無線戦略会議において、本社社長の指示を受け担当車外しの検討が開始されたため、同月15日の団体交渉の直後のタイミングで書記長A3に話をしたことは不自然ではないし、また、そのほかに嫌がらせや直前の団体交渉における組合の姿勢に対する報復などの意図をうかがわせる事実も認められない。

(5)上記(2)ないし(4)のとおりであるから、書記長A3が無線を取らないことが組合活動の一環であったか否かについては判断するまでもなく、令和元年11月15日の団体交渉終了後、所長B2が書記長A3に「担当車外し」に係る発言をしたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いにも、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。

3 令和元年11月15日の団体交渉終了後、所長B2が書記長A3に対し、餅つき及び旗開きにおけるアルコール飲料の提供は営業所外で行うよう言い渡したことが、組合に対する支配介入に当たるか否か(争点3)。

(1)所長B2は、C組合の副支部長C3(大川)から組合の旗開きのポスターについて苦情を受けたことに即座に対応し、組合のポスターを現認した上で、支部長A2(須貝)(当時)にこれを剥がすよう話をし、A2はこれに応じてポスターを撤去した。その後、所長B2、次長B3、支部長A2及び書記長A3とで話合いが行われ、所長B2は、営業所内での酒類の提供禁止を言い渡した。
 組合は、団体交渉で会社に対して一歩も引かない姿勢を鮮明にしていたことから、団体交渉終了後、会社が、書記長A3の嫌がらせとして「担当車外し」を告げたものの、同人が会社からの嫌がらせに屈しない姿勢を見せたため、次の手段に出た旨を主張する。
 しかし、C組合の副支部長C3からの苦情を受けてからの会社の一連の対応の流れに不自然な点はなく、直前の団体交渉における書記長A3の発言の報復であるとか、組合に対する支配介入の意図に基づく行為であったとは認め難い。

(2)組合は、会社が組合との協議の過程を無視し、一方的に酒類の提供禁止を言い渡したことは労使慣行を無視する行為であるとも主張する。
 確かに、会社から組合に対し、まず団体交渉や事務折衝の議題として協議を申し入れていれば、より丁寧な対応であったとはいえる。
 しかし、会社は、社内秩序の維持のため、C組合副支部長C3からの苦情を受け即座に対応し、旅客自動車運送業を営む会社として社内で飲酒することは不適切であるとの考えに至り、社内ルールの運用を就業規則のとおりに改めることを言い渡したものであり、飲酒運転の厳罰化など社会情勢の変化を踏まえれば、会社の対応には相応の理由があり、酒類の提供の禁止を告げたことが、組合活動の弱体化を企図した行動であったとは認められない。

(3)上記(1)及び(2)から、元年11月15日の団体交渉終了後、所長B2が書記長A3に対し、餅つき及び旗開きにおける酒類の提供は営業所外で行うよう言い渡したことは、組合に対する支配介入には当たらない。
 なお、組合は、酒類の提供禁止について、会社が一方的に協議の過程を無視したと認識していたのであれば、自ら団体交渉を申し入れるなどして会社と協議する余地も残されていたが、11月26日の団体交渉で議論になった後は、労使どちらからも団体交渉の申入れはなく、議論されることはなかった。
 このことからも、会社に対し、一方的に組合との協議の過程を無視したとして不当労働行為の責を負わせるのは相当ではない。

4 令和元年12月30日、所長B2が書記長A3に対し、「C組合さんから出てくれば話は考えます。」、「大多数の方が認めているのに」、「協定書を結ぶまでの話じゃない。」などと述べたことが、組合に対する支配介入に当たるか否か(争点4)

(1)K営業所においては、会社と多数派労組のC組合との間で、メーター検査手当の件が特に問題とはなっておらず、.また、グループ各社においては、本社であれ営業所であれ、いずれの労働組合とも労働協約を締結した前例がなかった。
 令和元年12月30日の話合いにおいて、所長B2が、「C組合さんから出てくれば話は考えますけども。」、「大多数の方が認めているのに、っていう状態です。これは協定書を結ぶまでの話じゃないです。」、「今のままで何か不具合がでていると僕は思っていませんので、結ぶ必要はないと思っています。」、などと発言した背景には、グループ内や会社内におけるこのような事情が念頭にあったものと推察される。
 所長B2の発言は、多数派組合であるC組合を優遇するようにも受け取られ得るものであり、不用意なものではあるが、その発言全体の趣旨は、多数の乗務員から労働協約の締結を望む声があれば考えるが、現時点ではその必要がないという見解を述べたものであって、組合をC組合に比して差別的に取り扱う意思に基づいた発言であるとまでいうことはできない。

(2)また、この話合いは、あらかじめ予定されていたものでも、正式な団体交渉の場でもなく、書記長A3が、在席していた所長B2に声を掛けて始まったニ人だけの非公式の場でのやり取りであり、所長B2は、この話合いを雑談と認識していた。
 このような経緯を踏まえれば、所長B2は、書記長A3に声を掛けられたためこれに応じ、二人だけの非公式の場で、自己の認識を忌憚なく率直に述べたものと理解され、若干、不用意な発言が含まれていたとしても、そのことをもって、組合運営に対する支配介入であるとみることは相当でない。

(3)上記(1)及び(2)のとおりであるから、12月30日の話合いにおける所長B2の発言は、組合活動に対する支配介入に当たるとまではいえない。

5 以上の次第であるから、令和元年11月1日の団体交渉で組合がメーター検査手当の支給内容を労働協約として締結するよう要求したのに対し、団体交渉で会社がこれに応じられないと回答したことは、労働組合法第7条第2号に該当するが、その余の事実は不当労働行為に該当しない。 

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