労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和4年(不)第6号
ほわいとりりぃ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年10月13日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2に関し①未払賃金の支払い、②解雇予告手当の支払い、③時間外手当の支払い、④上記①から③までの債務の履行に当たり、代表取締役が連帯保証人となること及び⑤会社店舗のアカウント名に係るツイッター(現「X」)上のA2に関する投稿の削除と謝罪のツイートの掲載を求めて行った、令和4年10月11日付け、同月28日付け、同年11月21日付け及び同年12月5日付けの団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、会社が①、②、③及び⑤に関する団体交渉申入れに応じなかったことについて労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年10月11日付け、同月28日付け、同年11月21日付け及び同年12月5日付け団体交渉申入れで申し入れた団体交渉事項のうち、「令和4年6月及び7月分のA2に対する未払賃金の支払い」、「A2に対する解雇予告手当の支払い」、「A2に対する時間外勤務手当の支払い」及び「ツイッター投稿によりA2の名誉を毀損したことへの謝罪」に係る団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
令和 年 月 日

X組合
 代表執行委員 A1殿

Y会社        
代表取締役 B1
 当社が、貴組合の令和4年10月11日付け、同月28日付け、同年11月21日付け及び同年12月5日付け団体交渉申入れで申し入れた団体交渉事項のうち、「令和4年6月及び7月分のA2氏に対する未払賃金の支払い」、「A2氏に対する解雇予告手当の支払い」、「A2氏に対する時間外勤務手当の支払い」及び「A2氏に関するツイッター投稿の削除とA2氏の名誉を毀損したことへの謝罪」に係る団体交渉申入れに応じなかったことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このようなことを行わないよう留意します。

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、組合による本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法7条2号に該当するかについて、以下検討する。

(1)不当労働行為成否の検討

ア 本件団体交渉申入れに対し、会社が3度書面による回答を行ったものの、団体交渉が開催されなかったことが認められる。

イ 使用者による団体交渉拒否が労働組合法7条2号の不当労働行為と認定されるためには、団体交渉事項が労働組合法上の使用者に団体交渉応諾を義務づけられている事項(義務的団体交渉事項)でなければならない。
 組合が、会社に対して申し入れた団体交渉事項は、①4年6月及び7月分のA2に対する未払賃金の支払い、②A2に対する解雇予告手当の支払い、③A2に対する時間外勤務手当の支払い、④上記①ないし③について代表取締役が連帯保証人となること、⑤A2に関するツイッター投稿の削除とA2の名誉を毀損したことへの謝罪であると解される。
 そこで、まず、上記①ないし⑤の事項が義務的団体交渉事項に該当するかについて、以下検討する。

(ア)義務的団体交渉事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと解するのが相当である。

(イ)組合が会社に申し入れた団体交渉事項のうち、上記①の未払賃金の支払い、上記②の解雇予告手当の支払い、及び上記③の時間外勤務手当の支払いについては、A2の労働条件その他の待遇に関する事項であるから義務的団体交渉事項に当たることは明らかである。
 また、上記⑤のツイッター投稿の削除と謝罪についてみると、アカウント名が本件店舗名である「N」における7月25日ツイッター投稿、及び、スタッフ名である「H」における7月31日ツイッター投稿(以下、併せて「本件各ツイッター投稿」)のいずれも、その内容は、A2の退職の理由や経緯など退職に係る労働問題を含んだ同様の内容であることが認められる。
 この点、前者のアカウントについて、会社が7月25日ツイッター投稿の削除の要否を検討する必要があることは当然ながら、後者のアカウントについても、キャスト〔注 ホールで接客業務に従事する者〕に対する接客指導等に従事するスタッフという立場の者による投稿であり、少なくとも、会社は事実関係を調査し、場合によってはスタッフに対して7月31日ツイッター投稿の削除を要請するなどの対応が求められることから、いずれにしろ、上記⑤のA2に関するツイッター投稿の削除については、A2の労働条件その他の待遇に関する事項といえる。
 さらに、組合は、ツイッター投稿によりA2の名誉を毀損したことへの謝罪を求めている。これは本件各ツイッター投稿が、退職の理由や経緯について当事者間に争いがあるにもかかわらず、本来ならば知り得ない不特定多数の者に対し、専ら会社側の見解を公表するものであるため、A2の名誉という人格的利益を毀損したものとして、これに対する対応を求めたものと理解される。この場合、少なくとも、会社は謝罪を含む対応について検討する必要があり、A2の労働条件その他の待遇に関する事項であるといえることから、謝罪の要否も含めて、上記⑤は義務的団体交渉事項に当たると解される。
 一方、上記④については、上記①ないし③について、会社の金銭を支払うべき債務に関し代表取締役が個人として連帯保証人となることを求める内容であり、会社が使用者としての立場で決定できるものとはいえず、義務的団体交渉事項に当たらないと解される。

(ウ)よって、本件団体交渉申入れに係る団体交渉事項のうち、上記①、②、③及び⑤については、義務的団体交渉事項に当たると解するのが相当である。

ウ また、本件において、会社は、組合が主張している事実が前提を欠くものであったため、会社はその旨を書面で通知し、言い争いを避けるために、組合に対し書面による回答(やりとり)を求めたと主張する。
 この点、会社は、4年11月4日付けの回答書により組合の各団体交渉申入れ事項に対して回答を行っているが、その内容は、結論のみの記載に留まり、回答の理由や説明の記載はなく、また、団体交渉開催に関する回答もなかった。
 その後も、会社は、組合の団体交渉申入れに対する4年11月29日付け回答書では、「当社は貴組合との団体交渉に応ずることはありません。」と回答し、また、同年12月9日付け回答書でも、「貴組合の団体交渉申入に対しては従前の回答どおり申入に応ずることはありません。」と回答しており、一貫して、組合からの団体交渉申入れには応じない旨回答している。
 以上のことからすると、結局のところ、会社は、本件団体交渉申入れに応じない理由を組合へ示しておらず、単に書面で団体交渉拒否を表明しているに過ぎないと認められ、会社の主張は採用できない。

エ なお、当委員会は、本件第1回調査において、会社に対し団体交渉に応じない理由を明らかにするよう釈明を求め、その後も、会社による主張立証の機会を幾度も設けたが、会社は応答しなかった。

オ これらのことからすると、会社は、団体交渉に応じるべき義務的団体交渉事項である上記①、②、③及び⑤に係る組合からの団体交渉申入れに対し、正当な理由なく応じなかったことが認められる。

(2)不当労働行為の成否

 よって、会社が、組合の本件団体交渉申入れで会社に申し入れた団体交渉事項のうち、①4年6月及び7月分のA2に対する未払賃金の支払い、②A2に対する解雇予告手当の支払い、③A2に対する時間外勤務手当の支払い及び⑤A2に関するツイッター投稿の削除とA2の名誉を毀損したことへの謝罪に係る団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。

2 救済の方法

 ⑤A2に関するツイッター投稿の削除とA2の名誉を毀損したことへの謝罪については、本件各ツイッター投稿は既に削除されているため、その救済方法としては、主文第1項及び第2項のとおり命じることとする。 

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