労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委令和3年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月16日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の執行委員長A1、書記長A2及び組合員A3に対して懲戒処分を行ったこと、並びに会社がA1の定年後の継続雇用を拒否したこと、②これらの懲戒処分について、団体交渉に応じて組合に十分な理由を説明しないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A1に対する出勤停止処分がなかったものとしての取扱い及びバックペイ、(ⅱ)A2に対する懲戒解雇処分がなかったものとしての取扱い、原職又は原職相当職への復帰、及び退職金算定基礎となる勤続年数を不利益に取り扱ってはならないこと、(ⅲ)A3に対する出勤停止処分がなかったものとしての取扱い及びバックペイ、(ⅳ)A1の継続雇用を行わないとした措置がなかったものとしての取扱い、原職又は原職相当職での継続就労及びバックペイ、(ⅴ)A1及びA2に対し不当に懲戒処分するなどして、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅵ)組合から組合員に対する懲戒処分について団体交渉の申入れがあったときは、対応を代理人に委ねていると回答するなどして団体交渉を拒否してはならず、当該事項について具体的に説明するなどして誠実に応じなければならないこと、(ⅶ)文書の掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合員A3に対して行った令和2年11月20日付け出勤停止処分をなかったものとして取り扱い、同人に対して、同日から令和3年1月19日までの間、当該処分を理由に支給しなかった賃金相当額に各月例賃金の支払日の翌日から支払済みに至るまで年3分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

2 会社は、組合執行委員長A1に対して行った令和2年11月27日付け出勤停止処分をなかったものとして取り扱い、同人に対して、同月30日から令和3年1月29日までの間、当該処分を理由に支給しなかった賃金相当額に各月例賃金の支払日の翌日から支払済みに至るまで年3分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

3 会社は、組合書記長A2に対して行った令和2年11月27日付け懲戒解雇処分をなかったものとして取り扱い、同人を原職若しくは原職相当職に復帰させ、また、同人に対しての退職金算定基礎となる勤続年数を不利益に取り扱ってはならない。

4 会社は、組合から、組合員に対して行う懲戒処分について団体交渉の申入れがあったときは、団体交渉の対応を代理人に委ねていると回答する一方で、組合に約束した代理人との相談結果を伝えないなどして団体交渉を拒否してはならず、当該事項について具体的に説明するなどして誠実に応じなければならない。

5 会社は、A1及びA2に対し、不当に懲戒処分するなどして、組合の運営に支配介入してはならない。

6 会社は、A1に対して行った令和3年4月29日をもって定年退職とし、継続雇用を行わないとした措置をなかったものとして取り扱い、同人を原職若しくは原職相当職にて継続就労させ、当該措置から原職若しくは原職相当職に復帰させるまでの間の月例賃金相当額及び他に支払われるべき賞与・手当等並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みに至るまで年3分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

7 会社は、次の内容の文書を縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、会社本社の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
当社は、組合に対し、組合員A3に対して令和2年11月20日付けで出勤停止処分を行ったことに加え、組合執行委員長A1及び組合書記長A2を排除するため、A1に対しては同月27日付けで出勤停止処分を行った上、定年退職後の継続雇用を拒否し、A2に対しては同日付けで懲戒解雇処分を行ったことにより両名の雇用を終了させ、もって同支部を弱体化させる支配介入を行いました。
 また、当社は、A1及びA2に関する懲戒事由に関して申し入れられた団体交渉について、団体交渉の対応を代理人に委ねていると回答する一方で、同組合に約束した代理人との相談結果を伝えないなどして応じませんでした。さらに、当社は、当該懲戒事由となった組合休暇の取扱いについて、令和3年1月20日に実施された団体交渉において、懲戒事由とする根拠を具体的に説明しないなど誠実に対応しませんでした。
 当社のこれらの行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号ないし第3号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないようにします。

年 月 日

X組合 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
判断の要旨  Ⅰ 本件出勤停止処分①、本件出勤停止処分②、本件懲戒解雇処分(以下これらを「本件各懲戒処分」という。)及び本件継続雇用拒否は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)

1 本件各懲戒処分(に係る懲戒対象事実における事実誤認ないし就業規則の解釈適用の誤りの有無)について

(1)本件各懲戒処分

①組合員A3に対する「本件出勤停止処分①」は、本件修理〔注1〕における会社が認定した事実を懲戒対象事実として、令和2年11月20日付けで出勤停止2か月に処すものである。
②組合委員長代行A1に対する「本件出勤停止処分②」は、本件欠勤処理〔注2〕における会社が認定した事実を懲戒対象事実として、令和2年11月27日付けで出勤停止2か月に処すものである。
③組合書記長A2に対する「本件懲戒解雇処分」は、本件修理、本件欠勤処理及び本件発言〔注3〕における会社が認定した事実を懲戒対象事実として、令和2年11月27日付けで過去の懲戒処分も勘案して、懲戒解雇に処すものである。

〔注1〕本件修理
 令和元年5月、会社の整備係A3が、A2からの依頼により、会社の敷地内において会社に無断でA2の自家用車を私的に修理したこと。

〔注2〕本件欠勤処理
 組合員が有給休暇として申請した休暇を組合活動に利用した場合に無給の組休に振り替える処理のこと。

〔注3〕本件発言
 令和2年11月13日に車両係長Dが労働金庫の預金の払戻手続を行うために組合事務所を訪れた際の、対応した書記長A2による「B2〔バス事業部次長〕に言われて来たのか」との趣旨の発言。

(2)本件欠勤処理について(「本件出勤停止処分②」及び「本件懲戒解雇処分」関係)

ア A1及びA2あて通知書では、A1、A2及び労務課長Cの3名が「共謀し、従業員を組合活動に従事させる目的で、会社に目的を秘して有給休暇を取得させ、当該有給休暇日を組合活動に従事させ、その後会社に無断で当該有給休暇日を欠勤扱いに変更し、有給休暇を消化させない運用を図り、従業員の債務不履行を励行し、その人数16名、合計209日の欠勤を生じさせて会社の業務に多大な支障を与え」たと記載されている。
 また、処分の理由としては、上記認定事実が就業規則第60条第4号(素行不良にして職場の風紀又は秩序を乱したとき)及び第11号(不正不義の行為をなし、従業員としての体面を汚した時)に該当するものと記載されている。

イ しかし、無給の組休の使用は組合三役に限られていた旨の会社主張を裏付けるに足りる事情は認められず、当該合意の成立を前提とする会社の主張は採用できない。
 また、本件欠勤処理は、労務課長C、各営業所の所長等の管理職及び組合関係者等の関与のもと約1年8か月にわたって行われていたことなどの事情を考慮すると、A1及びA2が会社に目的を秘して無断で本件欠勤処理を行ったと評価することもできない。

ウ さらに、会社は、本件欠勤処理により、人数16名、合計209日の欠勤を生じさせて会社の業務に多大な支障を与えたとも主張する。
 しかし、①組合に本来認められるべき拠出有休〔注〕や無給の組休〔注〕が使用されていれば同様の事務処理上の負担は生じ得るし、②従来認められていた労働協約上の組休〔注〕の日数と比較しても、ことさら問題視されるべき規模の欠勤とはいえないことなどから、一定の事務処理上の負担が生じたとしても、会社の業務に支障を与えたとは評価できない。

〔注〕
①「労働協約上の組休」は、昭和35年締結の労働協約において、会社が組合員に対し申請による組休を58日間まで認めるとともに、年間延べ365日の休暇を組合に与えるとされていたもの(平成25年廃止)。
②「拠出有休」は、組合が平成16年に始めた運用で、組合による活動のため、組合員から有給休暇を年間1日ずつ拠出してもらい、使用内容は組合の執行委員会に一任するというもの。
③「無給の組休」は、①の「労働協約上の組休」を平成25年に廃止する代わりに会社と組合が合意したもので、会社は組合員に対し、申請によって無給の組合休暇を認めるとするもの(ただし、本件申立て当時、会社は、組合三役に限られると主張)。

エ これらから、就業規則に定める懲戒事由は認められず、したがって、本件出勤停止処分②及び本件懲戒解雇処分には、本件欠勤処理について事実誤認ないし就業規則の解釈適用の誤りがある。

(3)本件修理について(「本件出勤停止処分①」及び「本件懲戒解雇処分」関係)

ア 懲戒対象事実について、会社は、A3が認証工場ではないH営業所においてA2の自家用車の修理をした行為について、会社が道路運送車両法第78条第1項違反として監督官庁から事業停止命令を受けたり、罰則が適用されたりするような重大な事案であるから、就業規則第60条第4号及び第11号の懲戒事由に該当する上、同条第6号(許可なく私物を修理作成し…た時)にも該当する旨を主張する。
 また、A2に対する通知書では、H営業所が国の未認証工場であることを知りながら、労働組合の書記長の地位を利用し、自己所有の乗用車を従業員に修理依頼し、会社の許可なく会社敷地内で車両の分解整備及び修理をさせて、道路運送車両法第78条に違反する行為を行ったなどと記載されている。

イ しかし、上記条項は、自動車分解整備事業を経営しようとする者は、地方運輸局長の認証を受けなければならない旨を規定しているところ、会社からは、A3又は会社が自動車分解整備事業として本件修理を請け負ったといえるような具体的根拠や説得的な理由は何ら示されておらず、本件修理が同条項に違反すると認めることはできない。
 そうすると、会社は、本件修理をもって、監督官庁から事業停止命令を受けたりするような重大な事案に当たると主張するものの、これは単に会社の抽象的な危惧感のみをもって就業規則の懲戒事由に該当すると述べるにすぎない。
 加えて、処分が行われたのは本件修理からおよそ1年半もの長期間が経過してからであり、それまでの間に本件修理により職場の風紀や秩序が乱れたなどという事実は何ら主張立証されていない。
 以上より、本件修理について、就業規則に定める懲戒事由は認められない。

ウ 次に、本件修理について就業規則に定める懲戒事由に該当する余地があるとしても、本件出勤停止処分①は、非違行為と処分量定との均衡を失している。
 すなわち、私的な自家用車の修理に対する懲戒処分の例は、執行委員A4に対して行われた出勤停止2か月があるが、これは、他人所有の自家用車を依頼に応じて一度だけ修理したという本件修理とは事実関係が異なることなどから、本件修理の処分量定の参考とすることは適切でない。
 そうすると、A3について、厳重注意や戒告等の軽い懲戒処分を科すことは格別、労働者の生活の糧となる給与不支給を含む出勤停止2か月という懲戒処分を直ちに科すことは、著しく重い処分であるといわざるを得ない。

エ したがって、本件出勤停止処分①及び本件懲戒解雇処分には、本件修理について事実誤認ないし就業規則の解釈適用の誤りがある。

(4)本件発言について

ア A2あて会社作成の通知書では、令和2年11月13日、従業員が労働組合事務所に赴いた際、事務所内において暴言等のパワーハラスメント行為を行ったと記載され、処分の理由としては、上記認定事実が就業規則第60条第14号(他人に対し…脅迫…した時)に該当すると記載されている。そして、会社は、A2が車両係長Dに対し、「B2に言われて俺がいるのか見に来たのか」と高圧的に大声で怒鳴って脅した旨を主張する。

イ 懲戒事由の存否について、会社と組合の主張には表現に差異があるものの、「B2に言われて来たのか」なる趣旨の発言であることが認められ、Dが翌日申し出た内容によれば、A2から身に覚えのない話を強い口調で高圧的にされ、非常に不愉快に感じたというものである。
 しかし、①同通知書によれば、いかなる行為がパワーハラスメントに当たるのかが特定されておらず、また、②相談記録票等においても、本件発言について、マニュアルの定義に従った認定が全く行われてないことから、A2による本件発言がパワーハラスメントに当たると認めるに足りる証拠はなく、脅迫にも該当するとは評価できないことからすれば、本件発言について、就業規則に定める懲戒事由は認められない。
 したがって、本件懲戒解雇処分には、本件発言について事実誤認ないし就業規則の解釈適用の誤りがある。

2 本件各懲戒処分の手続について

 従来の賞罰委員会の運用としては、会社側委員で策定した懲戒処分案を組合に示し、組合が必要に応じて意見を出して懲戒処分を確定させるという手続が慣行になっていたと推認するのが合理的であるところ、本件各懲戒処分においては、会社や賞罰委員会は、上記慣行を無視している。また、本件懲戒解雇処分では、労働協約に違反して組合との協議が行われていない。
 これらの事情に鑑みると、本件各懲戒処分は、会社が適正な手続を欠いて恣意的に判断したものといわざるを得ない。

3 本件継続雇用拒否について

 会社が、A1に対して行った令和3年4月29日をもって定年退職として継続雇用を行わないとした措置(「本件継続雇用拒否」)は、本件出勤停止処分②の懲戒事由を理由にするものであるが、会社に事実誤認ないし就業規則の解釈適用の誤りがあることから、本件欠勤処理は懲戒事由に該当しない。したがって、本件継続雇用拒否には正当な理由があるとは認められない。

4 不当労働行為の意思の存否について

 本件各懲戒処分及び本件継続雇用拒否は、いずれも適正な取扱いであるとは到底いえず、また、一連の経過等に照らすと、会社の継続する根強い反組合的意図ないし動機に基づくものであり、不当労働行為意思があったと推認できる。

5 よって、本件各懲戒処分及び本件継続雇用拒否はそれぞれ、A1、A2及びA3が組合員であることの故をもってなされた不利益取扱いであるから、いずれも労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

Ⅱ 本件出勤停止処分②、本件懲戒解雇処分及び本件継続雇用拒否は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)

 これらは、組合の中心的地位にあるA1及びA2を排除するために、組合の組合員であることの故をもってなされた不利益な取扱いであり、組合を弱体化し、組合員の組合活動に萎縮的効果をもたらすから、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。

Ⅲ 本件各懲戒処分に係る団体交渉に関する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか(争点3)

1 会社は、組合が速やかな団体交渉を求めていたにもかかわらず、会社は団体交渉の対応を代理人に委ねていることを理由に会社としては団体交渉に応じられないと回答するなどした。こうした対応は、本件団体交渉申入れを拒否したものといわざるを得ず、労働組合法第7条第2号に規定する正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

2 また、会社の交渉態度は、本件各懲戒処分を行った理由等について十分な説明を行うことにより、組合の要求への誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する意思が全くなく、本件各懲戒処分の受入れという結論を前提に交渉に臨むなど、極めて不誠実なものであった。したがって、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

Ⅳ 不当労働行為救済申立てをした労働組合が労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合するか否かについての審査(以下「資格審査」という。)は、救済申立ての審査手続の開始前に行わなければならないか(争点4)
 また、組合は、労働組合法第5条に規定する労働組合としての申立適格を有するか(争点5)

 労働組合が労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合することは、救済命令を発するための要件であって、審査手続に入るための要件ではない。このため、救済命令を発する時までに資格審査の決定がされておれば足りる。
 組合は、資格審査において労働組合資格要件に適合するものと認められ、その旨決定されており、申立適格を有すると認められる。 

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