労働委員会命令データベース

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和3年(不)第35号
日医工不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2組合 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月22日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①組合員Aの退職金に関する団体交渉における会社の対応、②労働委員会のあっせん期日における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員Aの退職金に関する団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否かについて(争点1)

(1)Aに会社の退職金規程が適用されないことの説明について

 組合は、会社が、C5会社〔注〕に所属していたAに会社の退職金規程が適用されない理由を誠実に説明していないと主張する。
 しかし、第2回団体交渉では、①AがC1会社に入社した当初から会社で勤務していると仮定した勤続年数を用いて、会社の退職金規程をAに適用して支払うべきという組合の要求に対し、会社は、C5会社の退職金規程が会社の退職金規程よりも不利益ではないことについて、3社制度統合の経緯に触れるなどして説明したといえるし、②組合が要求する遡及適用は退職金制度の性質上困難である旨を、Aの勤続年数を具体的に用いたり、会計処理や年金基金の掛金負担に触れたりするなどして説明し、また、③税制面での従業員への配慮にも触れるなどして、C5会社の退職金規程が本件吸収合併後も承継されていることにつき相応の説明をしたといえるから、Aに会社の退職金規程が適用されない理由を説明したといえる。
 また、第3回団体交渉でも、会社は、Aに会社の退職金規程が適用されないこと及びその理由を改めて説明しているから、組合の要求に応じた相応の説明をしていると評価することができる。
 以上のとおりであるから、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

〔注〕関係する会社の合併等に係る経緯
 Aが平成9年に入社した申立外C1会社は、平成17年に申立外C2会社と合併。21年、C2会社、申立外C3会社、同C4会社(これらを合わせて「3社」又は「旧3社」)の合併(以下「3社合併」)により、申立外C5会社が設立された。さらに、24年6月1日、C5会社は、Y会社(「会社」)に吸収合併(以下「本件吸収合併」)された。

(2)第2回団体交渉における規定提示要求に係る会社の対応について

 組合は、第2回団体交渉で、会社は、AにC5会社の退職金規程が適用される根拠資料を提出せず、誠実に回答しなかったと主張し、旧3社各社の規程が、3社合併によって消滅したにもかかわらず、旧3社に在籍していた従業員に、いまだに適用される根拠を示すよう求めたが、会社は具体的な規定を示さず、その調査さえ確約しなかったなどと主張する。
 しかし、当該団体交渉では、会社が、組合の要求に対して、退職金の一部として運用している確定拠出年金の規約において「旧C5会社」という形で記載されていること、当時3社に在籍していた従業員の取扱いがそれぞれ記載されていることを回答するなど相応の回答を行ったと評価でき、組合が確定拠出年金の規約以外に根拠規定があるのであれば提示することを求めて自ら議題を変えたという流れからすれば、会社がその場で更なる回答を行わなかったのもやむを得なかったといわざるを得ず、調査する旨を確約しなかったことも不誠実であったとまではいえない。
 また、会社は、組合が求めた根拠規定を提示しなかったが、根拠規定は第2回団体交渉で初めて要求されたのであり、会社はこの要求に対して一定の回答をしているのであるから、会社の対応に問題があったとはいえない。

(3)第3回団体交渉における根拠規定の提示要求に係る会社の対応について

ア 組合は、第2回団体交渉から約1か月の期間があり、根拠規定の有無や内容を調査する時間があったにもかかわらず、第3回団体交渉でも、会社は根拠資料を提出せず、誠実に回答しなかったと主張し、組合が根拠規定の提出を求めたことに対し、「退職金の件について、夏の賞与の回答を見ていただければ。」と述べるなど全く関係のない回答を行い、組合の追及をはぐらかそうとしていると主張する。

イ しかし、第3回団体交渉で、会社は、根拠規定は示さなかったものの、第2回団体交渉で相応の説明をした点について再度説明を行い、C5会社の退職金規程が消滅しておらず、本件吸収合併によって会社に所属することとなったC5会社出身の従業員に適用されるという趣旨の説明をするなどしている。再度、組合が、根拠規定等の提出を求めた後、2番目の要求事項である再雇用の労働条件の議題に変えたため、会社側出席者は、根拠規定の提示要求に対して回答する機会がなかった。
 以上の経過をみると、会社は、組合の求める根拠規定については明確な説明をしておらず、そのことに問題がないとはいえないものの、C5会社の退職金規程が消滅していないことなどについて、会社の認識する根拠を具体的に説明していることから、会社の対応が不誠実であるということはできない。

ウ 会社は、①(Aの実際の退職金額と組合の要求に応じて会社が行った〔会社の退職金規程を適用する場合の〕試算額との間に200万円を超える差額があることが)不利益ではないことについては、3社制度統合の経緯に触れるなどして十分説明したといえ、②Aの退職金の算出に適用される退職金規程についても、C5会社の退職金規程が適用される根拠を説明していることなどから、組合の要求に対して相応の対応をしたと認められる。
 会社は、その上で、第3回団体交渉後の12月25日、組合に対し、「回答書」を送付して、会社の団体交渉における説明を補足しており、事後的とはいえ、組合の理解を得ようとする姿勢を示している。このような説明を団体交渉において行っていれば会社の対応としてはより望ましかったといえようが、上記のとおり会社は組合の要求に対して相応の説明をしていることも併せれば、このことをもって会社の対応が誠実性を欠くとまではいえない。
 しかも、第3回団体交渉の経過をみると、根拠規定の開示要求に関しては、組合側が連続してほぼ一方的に発言するなどし、結局、過半数代表の選出に関する資料要求の発言が最後になされ、これに対して会社が「確認します。」と回答したものといえる。この発言の流れからすれば、会社が根拠規定の提示要求に対して特に発言しなかったことも不自然とはいえない。

エ 組合は、会社が、「退職金の件について、夏の賞与の回答を見ていただければ。」と述べるなど全く関係のない回答を行い、組合の追及をはぐらかそうとしていると主張する。
 しかし、会社が言及した「夏の賞与の回答」は、6月26日付「回答書」を指すものであるとみられ、その内容は、本件吸収合併の際に会社が東海北陸厚生局長に提出した申請資料に、平成24年5月31日時点でC5会社の従業員であったものには同社の退職金規程をする旨の記載があることを説明したものであるから、会社は、AにC5会社の退職金規程が適用される根拠を説明しているといえ、根拠規定は示していないものの、組合の要求には相応の対応をしたといえる。そうすると、会社の対応が組合の追求をはぐらかすものであったということはできない。

(4)会社による規程改定とAの認識について

 組合は、会社が本件吸収合併後の29年9月に退職金規程を改定し、その適用範囲を「従業員」(第一条)としたことを受けて、Aは自らの退職金も会社の退職金規程の適用を受けることになったと認識するに至ったのであるから、同人に同社の退職金規程が適用されないことを誠実に説明しようとするのであれば、本件吸収合併によりC5会社の退職金規程が当然引き継がれているという説明では不十分であると主張する。
 しかし、団体交渉の経過等をみれば、組合及びAは同人にC5会社の退職金規程が適用されることを前提としていたことは明らかであるから、29年9月の退職金規程改定により同人が上記のように認識するに至ったとは認められず、組合の主張はその前提を欠く。

(5)以上のとおり、会社がAの退職金の算出について同社の退職金規程を適用せず、C5会社の退職金規程を適用することについて、組合がその根拠規定の提示及び説明を求めたことに対し、会社は、組合と会社との認識の相違を把握した上で、これを是正するために、各合併の経過を踏まえた退職金規程の運用について、組合の要求の具体性に応じた相応の説明をしているといえる一方で、組合は、会社の説明を踏まえた追及をすることなく、根拠規定の提出を繰り返し要求しているにすぎないから、会社の対応が不誠実であるということはできない。
 したがって、Aの退職金に関する団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たらない。

2 令和3年3月18日のあっせん期日における会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点2)

 組合は、あっせん期日において、会社があっせん員に対して「団体交渉に、この問題で、応じる考えはない。」と発言したと主張する。
 しかし、組合が、第3回団体交渉終了後から第1回あっせん期日までの間に団体交渉の申入れをした事実は認められないし、あっせん期日において、会社が同手続に係る会社の見解をあっせん員に伝えたとしても、組合の団体交渉申入れに対する直接の意思表示ではなく、そのような会社の言動をもって、同社が正当な理由なく団体交渉を拒否したということはできない。
 したがって、3月18日のあっせん期日における会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たらない。

[先頭に戻る]