労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和3年(不)第3号
上野学園不当労働行為審査事件 
申立人  X1ユニオン・X2組合(合わせて「ユニオンら」) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年7月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①X1ユニオン〔X2組合が組織加盟〕のビラ配布に関し、法人の教職員が生徒に対して行った発言及び学校内での掲示、②校長がX2組合の執行部に対し行ったストライキに関する発言、③法人が、組合に対し、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、厳正なる対応をする」旨通知したこと、④組合がストライキを限定的に解除する旨通知していたX2組合の組合員A3に対し、法人が、ストライキ期間中の就労を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①、②及び③について労働組合法第7条第3号、④について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A3を計画されていた生徒指導の業務に従事したものとして取り扱い、相当する時間の賃金相当額を支払わなければならないこと、(ⅱ)組合らに対する文書の交付及び文書の掲示等を命じた。 
命令主文  1 法人は、X2組合の組合員A3を、令和2年12月16日及び17日に、計画されていた生徒指導の業務に従事したものとして取り扱い、同人に対し、同業務の従事に相当する時間の賃金相当額を支払わなければならない。

2 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1ユニオン及びX2組合に交付するとともに55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、法人の中学校及び高等学校職員室の教職員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
年 月 日
X1ユニオン 執行委員長 A1殿
X2組合 執行委員長 A2殿
Y法人      
理事長 B1
 ①令和2年12月14日、当法人の教員が、法人の中学校及び同高等学校の生徒に対し、貴組合が配布するビラを受け取らず、捨てるように声を掛けたこと、及び当法人が、「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したこと、②当法人の校長B2が、貴組合の執行部に対し、12月14日及び15日に「ストライキをやめるなら今だよ。」、「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言したこと、③当法人が、貴組合に対し、12月21日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする。」と通知したこと、並びに④貴組合がストライキの限定解除を通知したにもかかわらず、当法人が、12月16日及び17日に、貴組合の組合員A3氏を生徒指導の業務に従事させなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 法人は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件ビラ配布に関し、法人の教職員が生徒に対して「ビラを受け取るな。」「そのビラはごみだから捨てなさい。」などと発言したか否か、当該発言があった場合、そのことは法人による組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か、また、法人が「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)令和2年12月14日、X1ユニオンは、学校周辺の公道上で、同校生徒らに対し、X2組合のストライキへの理解を求める旨を記載したビラ(以下「本件ビラ」)を配布した(以下「本件ビラ配布」)。これに関し、法人の教職員が生徒に対して「ビラを受け取るな。」「そのビラはごみだから捨てなさい。」という趣旨の発言をしたことがあった。
 そして、法人が、学校敷地外で直接的な妨害を行っていないとしても、本件ビラ配布を否定的に捉え、生徒が本件ビラを受領することを組織的に妨害するための対応をしたということはいえるし、裏門付近にごみ箱を置いたことも、職員の個人的判断ではなく、法人としての行為であるとみざるを得ない。
 一般に、正当な組合活動である労働組合のビラ配布行為について、使用者がそれをけん制したり、妨害したりする行為は、支配介入に当たるというべきところ、法人の教職員の上記発言や、法人が「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、本件ビラの内容が生徒に伝わることを妨害するものであるということができる。

(2)本件ビラ配布の態様に関しては、配布場所は、学校の校門前とはいえ、敷地外の公道上である。本件ビラ配布は、生徒の下校時間に、生徒を対象として行われたが、平成2年12月16日から22日までのストライキ(以下「本件ストライキ」)による影響を受ける生徒及び保護者に実施の経緯を説明するビラであるから、生徒を配布対象とするのは不自然なことではなく、このことが生徒への教育的配慮に欠けるということはできない。
 そして、ユニオンらは、配布の際、教員が、生徒にビラを渡そうとしたユニオンの組合員の前に立ちはだかって妨害したと主張しているものの、教員らは、学校敷地内に配置されていたのであり、敷地外に出たとの疎明はなく、教員らとユニオンの組合員との間でトラブルが生じた事実は認められない。一方、配布の態様についても、校門や通路をふさぐようにして教職員や生徒の通行を妨げたり、生徒らに本件ビラを押し付けようとしたりしたとの疎明はなく、ユニオンの組合員と生徒との間にトラブルが生じた事実は認められないことから、配布は平穏に行われたものと推定できる。
 このように、本件ビラ配布の場所、手段、態様は穏当を欠くものであったとまではいえないから、生徒に対する教育的配慮がなく不当であるとの法人の主張は、採用することができない。

(3)本件ビラや、ビラに添付された「Q&A」に記載された内容についてみれば、本件ビラが、「Y法人中高生・保護者の皆様へストライキの経緯のご説明」と題するにもかかわらず、法人や理事長一家の経営に対する批判の色合いが強く、法人の教職員の労働条件や組合と法人との労使関係に関する記述としては、行き過ぎの感が否めない。「中学、高校及び短大の廃止までもが予想される。」、「本学の死」などの記載は、学校の生徒や保護者の不安をあおるものであると法人が主張するのも理解できなくはない。

(4)しかし、大学募集停止により、学校の生徒が大学にそのまま進学できなくなることは明らかであることに加え、組合らが、「中学、高校及び短大の廃止」という事態をも想定して、組合員の雇用や労働条件に危機感を抱いていたものを表していると考えられ、それは不自然ではない。X2組合が、従前から法人に対し、財務諸表の開示や理事長らの経営責任などを団体交渉の議題として挙げていたことに鑑みれば、法人や理事長一家の経営に対する批判は、組合員の雇用や労働条件を脅かす原因を追及する趣旨のものであるとみることができる。また、法人や法人の理事の利益相反行為の疑いについて外部専門家の調査が行われたり、法人と理事との間で業務委託契約を締結していたりしたことがあり、これらのことについて法人が文部科学省への報告や説明を行っていたことなどを考慮すると、本件ビラの記載内容は、組合員の雇用や労働条件への危機感から、表現に行き過ぎたところがあったとしても、全くの虚偽や事実の歪曲があったとまではいえず、一定の事実に基づく組合らの認識又は評価を記したものであるとみることができる。

(5)本件ビラには、理事長らに関わるこれまでの事情に係る記載や、本件ストライキへの理解や協力を求める呼び掛けの記載もあることから、本件ビラを全体としてみると、組合員の雇用や労働条件を脅かすものと組合らが認識する法人の経営や理事長らの行為について、組合らの見解を述べて、本件ストライキの実施に至る労使関係の経緯を説明するものであるということができる。また、本件ビラに添付された「Q&A」の記載と併せても、本件ストライキによって何らかの影響を受けることが予想される生徒やその保護者に対し、労使関係の経緯を説明して本件ストライキ実施への理解を求める趣旨であることは十分に読み取ることができる。
 したがって、生徒を労使紛争に巻き込むことを直接の目的としていると認めることはできないし、生徒に対する教育的配慮がないとまでいうこともできない。

(6)上記のとおり、本件ビラ配布の場所、手段、態様は穏当を欠くものであったとまではいえず、本件ビラの全体としての趣旨は、本件ストライキに係る経緯を説明し理解を求めることにあることを併せ考えると、本件ビラ配布の目的、本件ビラの記載内容は、いずれも労働組合の正当な活動の範囲を逸脱しているとまではいえない。一方、法人による対応や行為は、正当な組合活動である本件ビラ配布への対応としては過剰なものである。

(7)よって、12月14日、法人が、その教員をして生徒に対して本件ビラを受け取らず、捨てるように声を掛けたこと、及び「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、正当な組合活動を妨害するものといわざるを得ず、組合らの運営に対する支配介入に該当する。

2 校長B2が、X2組合の執行部に対し、令和2年12月14日に「ストライキをやめるなら今だよ。」と、翌15日に「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)

 時間の長短に関わらず、人事上の権限があるB2が、本件ストライキ通知書がX2組合から法人に提出された 12月14日から、2日続けて、委員長A2らX2組合の執行部を校長室に呼び出し、団体交渉ではない場で、同委員長らX2組合の執行部に対して本件ストライキを行わないように働き掛け、組合員らに何らかの不利益が生ずることを示唆する発言を行ったのであるから、これらは、同校長の個人的発言とはいい難く、本件ストライキを抑制することを目的として行われた法人の行為であるというべきであり、法人に帰責するものといえる。そして、結果的に本件ストライキが行われたことは、上記各発言の評価を左右しない。
 よって、B2の各発言は、ユニオンらの運営に対する支配介入に該当する。

3 法人が、X2組合に対し、令和2年12月21日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする」と通知したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)本件ビラは、生徒やその保護者に対して本件ストライキの実施に至る労使関係の経緯を説明するものであったことや、X2組合の組合員は学校の教職員であることから、教職員が組織するX2組合が、本件ストライキに係る説明の実施という生徒の要望に応えようとすること自体に教育的配慮がないとまではいえず、生徒に対して本件説明会を行おうと計画したことは正当な組合活動の範囲を逸脱しているとまではいい難い。そして、本件説明会の目的が本件ストライキに係る生徒への説明であることは容易に推測できる。

(2)12月21日付「御通知」の記載からすると、本件説明会が計画されていることを法人が知った際に、X2組合に対して、説明内容を尋ねるなどして「教育的配慮の有無」を確かめた様子はうかがわれない。法人は、本件説明会の具体的な内容を確認しないまま、X2組合に対し、本件説明会そのものの中止を求めた上で、万一、生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする所存である、と通知しているのであるから、これは、労働組合としてのユニオンらの活動に対するけん制とみることができる。

(3)以上のとおり、ユニオンらが本件説明会を計画したことが正当な組合活動の範囲を逸脱するものであるとまではいえないのであるから、法人が、X2組合に対し、12月21日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする」と通知したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に該当するといわざるをえない。

4 X2組合が本件ストライキを限定的に解除するとしたA3に対し、法人が、その就労を拒否したことは、組合員としての行為を理由とする不利益取扱い又は組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)

(1)一般に、労働組合が、ストライキに際し、実施日に重要な業務を担当する組合員をストライキ実施者から外すことはあり得ることであり、それは、労働組合やその組合員の便宜的な要求ではなく、むしろ、使用者の業務やその取引先との関係等に配慮した措置と解され、そのような限定的なストライキも正当な争議行為の態様として認められるものである。
 本件におけるA3の生徒指導の業務も、学級担任であるA3、生徒指導主任の教員及び学年主任の教員の3名が、対象の生徒を1名ずつ学校に呼び出して指導を行うものであるから、X2組合は、教員3名のうち、最も日常的に生徒に接している学級担任のA3が指導業務に加わらないことの生徒への影響等に配慮して、同業務に限り、従事するA3を本件ストライキの対象から除外したと解するのが相当である。

(2)このように、X2組合が、本件ストライキに先立ち、A3の生徒指導の業務を本件ストライキの対象としないストライキ限定解除通知を行っていたにもかかわらず、校長B2は、A3に対し、本件ストライキに専念するように述べて、ストライキの対象外であった生徒指導業務にも従事させず、その理由として、ストライキをやっているから、生徒指導主任の教員は労働組合が嫌いだからなどと述べているのであるから、法人は、A3が、正当な組合活動である本件ストライキに参加することを理由として、労働組合を嫌う生徒指導主任らの意向を受け入れ、A3を、本件ストライキの対象外である生徒指導の業務に従事させなかったものといわざるを得ない。

(3)以上のとおり、法人は、A3が、正当な組合活動である本件ストライキに参加することを理由として、12月16日.及び17日、X2組合が本件ストライキの対象外であると通知していた生徒指導の業務にも同人を従事させず、その分の賃金を支払わなかったのであるから、法人の対応は、A3が組合員としてストライキを行ったことを理由とした不利益取扱いに該当するとともに、ストライキという組合らの組合活動の運営に対する支配介入にも該当する。

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