労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和4年(不)第5号
長啓会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年7月14日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2に関する解雇予告手当及び慰謝料の支払いを交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、法人が、法人の代理人弁護士に無断で組合が法人に対して連絡を取ったことは業務妨害に当たる等と述べて団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、誠実団体交渉応諾及び文書の交付を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合が令和4年2月21日付けで申し入れた団体交渉について誠実に応じなければならない。

2 法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に交付しなければならない。
 当法人が、貴組合から令和4年2月21日付けで申し入れのあった団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和5年 月 日
X組合  
 執行委員長 A1殿
Y法人     
理事長 B1
判断の要旨  ○争点
 法人が、①組合が、法人にファックス及び電話で直接連絡を行ったことに対して、謝罪及び交渉担当者の変更をしなかったこと、②組合が主張する組合員A2に対するハラスメント及び解雇について、具体的主張及び立証をしなかったこと、③組合が団体交渉の協議内容及び進行について連絡をしなかったことを理由に、組合からの、A2の労働問題等を議題とする団体交渉申入れに応じなかったか否か、応じなかったと認められる場合、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。

1 法人は組合からの令和4年2月21日付け団体交渉申入れに応じなかったと言えるか

 法人は、組合の団体交渉申入れから、わずかな日数しか経過しておらず〔注本件申立ては令和4年3月11日〕、組合に対して交渉の希望日を伝えていないからといって団体交渉拒否には当たらないと主張する。
 しかし、第1回団体交渉開催以降、組合は法人に対して、令和4年2月21日の団体交渉申入れから同年3月9日までの間に4回にわたり、具体的な団体交渉事項や質問事項を提示して、2回目の団体交渉の開催を求めているにもかかわらず、法人は団体交渉の具体的な候補日を示さず、結果として団体交渉に応じていないのであるから、団体交渉拒否に当たることは明らかであり、法人の主張は認められない。

2 団体交渉拒否に正当な理由があるか否か

 法人が主張する以下の理由が、団体交渉拒否の正当な理由と認められるかについて検討する。

(1)組合が法人に直接文書を送付したこと及び架電したことに対して、謝罪及び交渉担当者の変更をしなかったこと

 法人は、組合が法人に対して文書をファックスで直接送付したこと及び電話で連絡を取ったことは、法人側弁護士を窓口とすべき信義則上の義務及び合意に基づく義務に違反しており、不法行為に該当するとして、団体交渉拒否に正当な理由がある旨主張する。
 しかし、法人が代理人弁護士を選任したとしても、労使関係において、組合と法人間の直接のやりとりが一切否定されるものではない。また、組合との間で、法人に直接連絡をしない旨の合意が成立していたことを示す証拠はない。
 加えて、組合が法人側弁護士だけでなく法人に対して、令和4年3月4日付け「再度第2回団体交渉日程調整の促進について」と題する文書を送付し第2回団体交渉の日程調整にかかる回答を求めたのは、組合からの第2回団体交渉の早期開催の申入れと日程調整の重ねての連絡に対し、法人側弁護士が対応可能な日程を回答しなかったという事情があったことも認められる。
 さらに、法人は、労使間で組合員A2の健康保険の資格喪失等について争いがあるにもかかわらず、組合が、同人の社会保険加入期間について法人に直接架電し確認をすることは、法人の弁護士依頼権を侵害するものであるとして、団体交渉拒否に正当な理由がある旨主張する。
 しかし、法人からA2に源泉徴収票とあわせて送付された、令和4年1月31日付け「社会保険料支払いについて」と題する文書には、問合せ先として法人本部の担当者氏名が記載されていたことから、組合が、確定申告の手続きに際して源泉徴収票の記載内容について法人本部に電話で問合せを行ったことには一定の理由があると言える。
 以上のことからすれば、法人が挙げる理由は団体交渉を拒否する正当な理由には当たらない。

(2)組合が主張する組合員A2に対するハラスメント及び解雇について、具体的主張及び立証をしなかったこと

ア 法人は、第1回団体交渉において、組合が事前に優先的に交渉したいとしていた事項に触れなかったことをもって、組合の第2回団体交渉の申入れを拒否した旨主張するが、限られた時間の中で行う団体交渉において、いかなる要求事項を優先して交渉を行うかは組合が判断するものであって、そのことをもって、続く団体交渉を拒否する正当な理由には当たらない。

イ 法人は、第1回団体交渉後においても組合がハラスメントに関する事実を開示しないため、既に回答している以上の事実関係の調査ができなかったと主張する。さらに、法人は、A2を解雇していないと主張する理由を述べているにもかかわらず、組合は、A2が解雇されたとの事実が推認される新たな事情ないし客観的証拠を示さず、解雇があったことを前提とした和解に固執し、対案も示さなかったため、解決に向けた話合いが到底期待できなかったと主張する。
 しかしながら、組合は第1回団体交渉後において、A2が解雇されたことを示すものとして、同団体交渉で問題となったシフト表の写しを法人に送付し、同人に対するハラスメントの具体的内容及び解雇に関する見解を主張している。さらに、法人は第1回団体交渉において、次の団体交渉の開催を約しているのであるから、まずは団体交渉を開催した上で、組合に対して法人の主張を伝えればよいのであって、法人が挙げる理由は団体交渉を拒否する正当な理由には当たらない。

(3)組合が団体交渉の協議内容及び進行について連絡をしなかったこと

 法人は、組合から第2回団体交渉における協議内容及び具体的な進行について全く連絡がなく、第2回団体交渉の開催に向けて準備すること及び出席させるべき人物についても判断することができなかったことから、団体交渉日時について回答をしなかったと主張する。
 しかしながら、組合は、第2回団体交渉を申し入れる理由として、第1回団体交渉で解明されていない課題が残っていることを挙げ、これを解明するべく(A2が勤務する)C施設及び法人本部責任者の同席を求めており、法人の挙げる理由は団体交渉を拒否する正当な理由には当たらない。

3 以上のとおり、組合からの令和4年2月21日付け団体交渉申入れに法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

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