労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第37号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年9月22日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合との団体交渉において、形式的な対応をし、誠実に交渉に応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和4年6月9日の団体交渉(以下「4.6.9団交」)において、法人が、団体交渉前に(組合員Aに)離職票を送付した理由について、申立外C組合〔注〕とは和解が成立していないとの認識があるにもかかわらず、C組合と交渉した結果であると一方的な主張を行ったことは、不誠実な団体交渉にあたるか。

〔注〕命令書によれば、Aは、少なくとも令和3年11月頃から令和4年3月頃までの間、申立外C組合に加入しており、C組合及び申立外D組合は法人に対し、①令和3年11月15日付け等で「要求書」と題する書面(Aが上司のハラスメントによって健康を害し、出勤できなくなったことについて、必要な措置をとるよう申し入れる旨等を記載)を、②令和4年1月18日付け等で、「要求書」と題する書面(Aに交付された休職通知書の内容等について、解決を図るよう申し入れる旨を記載)をそれぞれ提出し、法人はそれぞれ書面で回答していた。
 令和4年3月31日、組合は法人に対し、Aの加入を通知した。

(1)一般に、使用者が誠実交渉義務を果たしたかどうかは、他方当事者である労働組合の合意を求める努力の有無・程度、要求の具体性や追及の程度、これに応じた使用者側の回答又は反論の提示の有無・程度、その回答又は反論の具体的根拠についての説明の有無・程度、必要な資料の提示の有無・程度等を考慮して、使用者において労働組合との合意達成の可能性を模索したといえるかどうかにより決せられると解される。

(2)そこで、4.6.9団交についてみると、下記(ⅰ)から(ⅵ)が認められる。
(ⅰ)組合が、(令和4年4月20日付けでAに)離職票が送付されてきたことは、組合としては、法人が本人の病状悪化で復職を諦めさせようとしていると取れなくもない旨、組合加入通知を送った後にこのような事案が発生してひどい旨述べたこと等に対し、法人は、C組合と6か月間話合いをしており、休職期間を延ばしてきた旨及びC組合との話合いで、復職の意思はないと聞いていた旨述べたこと
(ⅱ)法人は、退職金20万円とAが負担すべき社会保険料を法人が負担する案をC組合に示していた旨述べたこと
(ⅲ)組合が、法人側の社労士は、何の交渉も通告もなく離職票を送付しており、法律違反である旨述べ、法人に対し、なぜそのようなことをしたのかと尋ねたところ、法人が、3月30日で話合いが進展しない場合は、退職扱いとし、退職金を支払うとの話を何回もC組合と行った旨述べたこと
(ⅳ)組合が、C組合と和解協定書は結んだのかを尋ねたところ、法人は持っていない旨答え、組合が、それは合意できていないということである旨等述べたところ、法人は「うん」と答えたこと
(ⅴ)組合が、繰り返し100万円で和解できないかという提案を行ったことに対し、法人は、持ち帰って返答すると述べたこと
(ⅵ)上記(ⅴ)の和解提案に対する回答期限について、組合が7月中旬ぐらいまでと述べたことに対し、法人が、「はい」と回答したこと

(3)これらのことからすると、4.6.9団交において、法人は、C組合とは何度も話し合いをしたと述べながら、最終的に和解協定書はなく、それは和解していないということである旨の組合の発言を否定していないことから、法人は、C組合とは和解が成立していないとの認識は持っていたといえる。
 また、組合が、Aが組合に加入した後に離職票が送付されたことについて抗議したことに対して、法人は、6か月間C組合と話合いをしていたため休職期間を延ばして対応したこと、復職の意思はないと聞いており、3月30日で話合いが進展していない場合は退職金も支払う話をしていたこと等を説明しており、少なくとも、4.6.9団交において、法人は、離職票を送付した理由について、一定説明を行っていたといえる。
 さらに、法人は、組合に対し、和解条件として、退職金や社会保険料の法人負担等を提案したり、組合が提案した和解案についても、持ち帰って検討する旨述べたりしており、「C組合と交渉した結果である」などと一方的な主張に終始していたわけではないといえる。
 組合も、団交前に離職票が送付されたことについて抗議はしているものの、4.6.9団交での組合の主な主張は、和解金の支払い要求であったといえ、法人に対して、離職票の送付理由について具体的にくわしい説明を求めたとまではいえない。そうすると、法人は、組合の追及の程度に応じて回答したとみるのが相当であり、むしろ法人は上記のとおり合意達成の可能性を模索したといえる。
 加えて、組合の和解提案に対する回答期限について、7月中旬とすることで、双方合意して円満に4.6.9団交は終了している。

(4)以上のことからすると、4.6.9団交において、法人は組合との合意達成の可能性を模索したといえることから、4.6.9団交が不誠実団交であったとはいえない。

2 4.6.9団交において組合が提示した和解案について、後日組合が問い合わせたところ、法人が、(労働基準監督署による)労災認定の結果後に回答するという回答に終始したことは、不誠実な団体交渉団交にあたるか。

 ①4.6.9団交において、組合の和解提案に対して、法人が7月中旬頃に回答することで合意したこと、②令和4年7月13日又は14日の回答(以下「4年7月中旬法人回答」)において、法人は組合に対し、電話で、組合からの要求については、労災認定についての労働基準監督署の判断が出てから回答することが法人の理事会で決定された旨を述べたこと、③令和4年8月31日付けで、Aは、労働基準監督署から労災に関する支給決定の通知を受け取ったことが認められる。
 そうすると、法人の理事会が、組合からの要求について、労働基準監督署による労災認定の判断が示された後に回答すると決定したことは、法人の意思決定機関である理事会の決定を踏まえた回答であり、労災認定の結果がAとの雇用契約の終了等について影響を及ぼす以上、一方的とまではいえない。また、そのことを電話で組合に伝えた法人の対応についても、実際に労災認定の結果が通知されたのは、4年7月中旬法人回答から1か月後のことであるため、当時、法人は組合に対し、そのように回答する以外なかったとみるべきである。
 したがって、法人は、4.6.9団交での合意に基づき、4年7月中旬法人回答において、その時点でできる限りの対応をしているといえ、法人の回答は不誠実とはいえない。

3 なお、組合は、Aに対する解雇撤回及びバック・ペイを求めるが、これらは本件の争点と関連するものではないから、この点に係る組合の請求は認めない。

4 以上のとおり、4.6.9団交に関する法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえないので、本件申立ては棄却する。 

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