労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岡山県労委平成2年(不)第3号
岡山電気軌道不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年7月27日 
命令区分  棄却及び却下 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、バス運転者である組合員14名の令和元年度及び2年度の基本給の昇給並びに令和元年冬季賞与及び2年夏季及び冬季賞与について、他組合の労働者に比べ低く査定したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岡山県労働委員会は、令和2年冬季賞与に係る申立てについて、支払日から1年を経過してなされているから不適法であるとして却下するとともに、その余の申立てを棄却した。
命令主文  1 組合の令和2年冬季賞与の是正に関する申立てを却下する。

2 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 救済の対象期間について

(1)会社の賃金規程に基づく給与制度をみると、基準内賃金は、基本給及び家族手当等から成り、また、基準外賃金は、所定時間外労働割増賃金等の割増賃金及び通勤手当等から成り、会社は一定期間を対象期間とする人事考課に基づき、毎年3月16日をもって基本給の昇給を決定し、毎月25日を給与の支払日としている。
 こうした給与制度の下で、会社による各年度における基本給の昇給とこれに基づく給与の支払は、不当労働行為への該当性を判断するに当たり、一体として一個の行為を構成する。そうすると、各年度における基本給の昇給とこれに基づく給与の支払が行われている限りにおいて不当労働行為が継続することになるから、基本給の昇給に基づく最後の給与の支払時から1年以内になされた救済申立てに限り、労組法第27条第2項の定める期間内になされた適法なものと判断される。
 本件救済申立てについてみると、令和2年10月に申し立てた令和元年度の賃金、令和4年1月に追加で申し立てた令和 2年度の賃金については、いずれも適法なものと判断される。

(2)賞与については、賃金規程の規定からすると、会社は、賞与支給の可否、支給する場合の支給日及び支給対象期間をその都度、業績を勘案して決定しているのであるから、会社による各年度における賞与の決定とこれに基づく支払行為はその都度完結する1回限りの行為とみるのが相当である。
 本件救済申立てのうち、令和元年冬季賞与及び令和2年夏季賞与に係る申立ては、支払日から1年以内に申立てがなされているから適法であるが、令和4年1月31日付けで追加した令和2年の冬季賞与に係る申立ては、令和2年12月10日の支払日から1年を経過して申立てがなされているから不適法である。よって、令和2年冬季賞与に係る申立ては却下する。

2 令和元年度及び令和2年度に係る基本給に関して、会社は、組合員らに対し組合員であることを理由として賃金引上げを差別的に決定して当該期間の賃金を支給したか。また、これが、労組法第7条第1号に該当するか。(争点1)

(1)組合員ら全体に対する賃金引上げ査定に関する取扱いについて

 組合は、組合員らの賃金引上げの査定について、申立外E組合の組合員と比較して集団として低く査定される差別を受けたと主張するので、まず両集団間に外形的な格差があるか否かについて検討する。

ア 外形的格差の存在
 組合員らにつき、査定対象年度の最終評価をみると、「A」評価以上の者がいない一方、「C」評価以下の者が6割以上となっていることが認められるなど、組合員らの基本給の賃金引上げ査定結果はE組合の組合員と比べて客観的には低いとみることができる。
 しかしながら、組合員らには、「B」評価の者も一定数おり、一律に下位の評価とされているとは認められない。また、E組合の組合員のバス運転者が125名であるのに対して、組合員のバス運転者は13名と少数であり、比較可能な量的規模を有するとは言い難く、この比較のみで両集団間に外形的格差が存するとまで評価することはできない。

イ 比較対象集団間の均質性
 また、仮に集団間において賃金引上げに外形的格差が存すると評価した場合にも、不当労働行為としての査定差別を推認するためには、比較対象となる集団との関係で勤務成績・能力において劣っていない集団であると認められることが必要である。
 しかし、組合員がE組合の組合員との比較で勤務成績・能力において劣っていない旨の組合の主張については、認めるに足る証拠はなく、採用できない。

ウ 以上から、両集団間には外形的格差が存すると認めるに足る比較可能な量的規模がなく、さらに、両集団間の勤務成績・能力が同等であると認めるに足る証拠もないので、両集団間の賃金引上げ査定について外形的格差が存するとは認められない。

(2)組合員ら個人の賃金引上げ査定に関する差別的取扱いについて

 会社の人事考課制度が査定を恣意的に運用できる仕組みとなっているとすれば、そのような制度に基づいて査定が行われていることが不当労働行為の存在を推認させる要素となりうるので、組合員ら個人の賃金引上げ査定に関する差別的取扱いの存在を検討するに先立って、まず会社の人事考課制度の合理性及び査定の公平性について検討する。

ア 評価制度の合理性
 会社の人事考課制度の仕組みについては、一次評価の評価項目、その着眼点、着眼点の内容、配点及び考課基準並びに一次評価に事故考課を加味して最終評価を決定するという枠組みが定められるなど、一応の合理性が認められる。
 また、人事考課制度の考課項目は、バス運転者として必要な安全運転及び車両管理に加え、服務規律や接客マナー、勤務態度及び勤怠状況といった職場規律の確立や乗客サービスの観点から設けられたものであり、不合理なものは認められない。

イ 査定の公平性
 会社は、評価基準を定めた上で評価を行っており、また、営業所間の評価を平準化するため、3つの営業所長の合議で査定を最終決定する仕組みを整備している。さらに、事故や苦情の評価については、ドライブレコーダー等で事故や苦情の状況を客観的に確認し、社外の者も参加する安全マネジメント委員会で検証した結果に基づき判断することとされ、接客マナーの項目の評価については、評価者以外に他団体の者も添乗調査を実施しており、査定を公平に行うことができる仕組みが一定程度整備されていると認められる。
 しかしながら、評価基準は従業員に示されておらず、被評価者に考課項目別の評価結果を開示した上で説明する制度も整備されていないため、会社において恣意的評価を行うことができる余地がないとはいえない。
 そこで、会社が不当な評価をしていると組合が主張する点について、組合間差別があるか否かを以下個別に検討する。

(ア)時間外勤務要請の偏り
 組合は、時間外の項目について、時間外勤務要請に組合間差別があり、相対的に組合員の時間外勤務時間数が少なくなっていると主張する。
 しかし、組合員らの中には時間外勤務が平均よりも多い者もおり、また、基本的に時間外勤務を行わないことをあらかじめ表明しているために時間外勤務時間数が少なくなっている者もいるので、組合員らの時間外勤務要請時間数がE組合の組合員と比較して組合間差別により一律に少なくされているとは認められない。
 また、組合は、会社は、負担の軽い時間帯や勤務内容の勤務はE組合の組合員に偏って要請するなど、評価だけでなく、時間外勤務の待遇において格差が生じているとも主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

(イ)事故の取扱い
 組合は、会社の事故に係る査定について、損害額が少ない事故が生じた場合、有責か無責か若しくは事故として扱わないかを判断する段階で、組合員が起こした事故の多くは有責事故として取り扱われるなどの組合間差別があると主張する。
 しかし、会社は、事故についてはドライブレコーダーで検証するとともに、当該運転者の弁明を聞き、安全CS室において事故原因などの検証を行い、さらに安全マネジメント委員会において事故内容を分析し原因を究明して、最終的に事故の扱いを決定しており、客観的に評価する仕組みを一応整備していることが認められる上、組合の主張を認めるに足る証拠はない。

(ウ)添乗調査
 組合は、査定評価にも使われるバス運転者の添乗調査について、主観的な評価であり、評価者の意図により容易に組合員を低評価とすることができ、会社は添乗調査を利用してE組合の組合員と比べ組合員を低く評価していると主張する。
 しかし添乗調査は乗客の立場で運転者の接客態度を評価するものであり、その結果を査定材料とすること自体に何ら不合理な点は認められず、会社が恣意的に組合員を低く評価していると認めるに足る証拠もない。
 また、組合は、添乗調査の頻度が高ければ評価は必然的に低くなると主張し、会社が優秀と認めている運転者への添乗調査は少なく、そうでない運転者に対して多いと会社が自ら述べていることをもって、不公平な調査方法であるとも主張するが、安全運転及び接客マナーの項目には加点評価の指標もあり、一概に査定に不公平が生じるとはいえない。

(エ)クレーム等の取扱い
 組合は、クレームがあったことを理由に評価を下げることも、クレームは乗客等の誤解や虚偽に基づくものとして評価を下げないことも、評価者次第であり、会社は、組合員には厳しく、E組合の組合員には甘く判断して評価していると主張する。
 しかしながら、会社は、苦情・クレームについても事故と同様に、客観的に評価する仕組みを一応整備していることが認められる上、組合の主張を認めるに足る証拠もない。

(オ)以上から、会社の査定が組合間差別による不公平なものであったとの組合の主張は採用できない。

ウ 個人別の査定における差別的取扱いの存在の有無

(ア)上記のとおり、会社の人事考課制度の仕組みに不合理なものはなく、また査定において組合間差別があったものとは評価できないが、そうであるとしても、各組合員の個別の査定において、組合員であることを理由とする差別的取扱いがあれば、当該組合員に対する不当労働行為が成立する。
 そこで、会社が減点の理由として示す具体的な事実の評価において、E組合の組合員と比較して各組合員に対する差別的な取扱いがあったか否かについて、以下個人別に検討する。
 この場合において、各組合員の評価が差別的取扱いによるものと認められるためには、少なくとも、会社が低評価の理由として示す具体的事実が実際には存在しないこと、あるいは、高評価の理由となるべき具体的事実が評価に反映されていないことなど、各組合員に対する評価が恣意的に低くされたものであるということを組合が証明することが求められる。

(イ)会社は、当該評価となった理由として、個別の組合員ごとに、「勤務態度」(健康診断への対応、上司の指導への態度や姿勢、周囲に接する態度、販促協力など)、「時間外労働」(時間外勤務時間数、法定外休日の勤務など)、「服務規律」(春闘ワッペンの着用など)、「運転操作の項目」(信号無視や交通トラブル等に係る苦情、発車時の乗客の転倒、ミラーを調整せず事故を招いたこと、ブレーキ操作)、「接客マナー」(マイクの不使用、謝辞の不励行など)ないし「車両管理」(使用後の車両の汚れ)を主張する。

(ウ)組合はこれらについて、組合員に対する不当な差別的取扱いがあったなどと主張するが、それらを認めるに足る証拠はなく、組合の主張は採用できない。

(3)結論
 以上のとおり、令和元年度及び2年度に係る基本給の賃金引上げ査定に関して、組合員らとE組合の組合員らの両集団間に外形的格差が存するとは認められず、会社の人事考課制度が不合理であるとも認められず、査定において会社が不当な評価をしていると認めるに足る証拠はなく、また、各組合員の個別の査定において差別的取扱いがあったと認めるに足る証拠もないことから、会社の不当労働行為意思の有無を判断するまでもなく、会社が、組合員らに対し組合員であることを理由として賃金引上げを差別的に決定して当該期間の賃金を支給したと認めることはできない。
 したがって、上記基本給の査定が労組法第7条第1号に該当するとの組合の主張は採用できない。

3 令和元年冬季及び令和2年夏季に係る賞与に関して、組合員らに対し組合員であることを理由として精励手当及び成果配分支給(業績連動手当)を差別的に決定して当該期間の賞与を支給したか。また、これが、労組法第7条第1号に該当するか。(争点2)

(1)令和2年冬季賞与については、1の(2)でみたとおり、本件の救済対象としない。

(2)精励手当は、令和元年冬季及び令和 2年夏季賞与に支給されており、査定の方法は、基本給の昇給査定が準用され、考課項目、査定基準、着眼点は基本給の昇給査定と同じである。
 そして、基本給の昇給査定は、会社が、組合員らに対し組合員であることを理由とした差別的取扱いを行ったと認めることはできないのであるから、会社は、組合員らの当該期間の精励手当について差別的に決定したとまではいえない。

(3)成果配分支給(業績連動手当)は、令和元年冬季賞与に支給されており、査定の方法は、平成31年4月の基本給の昇給査定の最終評価を基礎として、対象期間中、会社に大きなマイナス要因となる事故や苦情等があった場合の評価を加味することとしている。
 本件においては、当該期間中にそうした事故や苦情等はなかったとして、平成31年4月の基本給の昇給査定の最終評価がそのまま準用されており、会社が、当該期間の成果配分支給(業績連動手当)について差別的に決定したとまではいえない。

(4)以上のとおり、令和元年冬季及び令和2年夏季に係る賞与に関し、会社が、組合員らに対し組合員であることを理由として精励手当及び成果配分支給(業績連動手当)を差別的に決定して当該期間の賞与を支給したと認めることはできない。
 したがって、上記賞与の査定が労組法第7条第1号に該当するとの組合の主張は採用できない。 
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