労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第70号・令和4年(不)第24号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の会計に問題がある等とするビラの作成や組合員への配付に関与したこと、②組合執行委員長A1を雇止めにしたこと、③雇止め後、A1の団体交渉への出席を認めないとしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、②について同条第1号、③について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A1との嘱託雇用契約が更新されてきたものとしての取扱い、常勤のタクシー乗務員として就労させること及びバックペイ、(ⅱ)組合との団体交渉に、A1が出席することを拒んではならないこと、(ⅲ)文書の手交及び掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員A1に対し、同人との間の令和2年11月19日付け嘱託雇用契約が同3年11月1日以降も更新されてきたものとして取り扱い、常勤のタクシー乗務員として就労させるとともに、同日以降、同人を就労させるまでの間、同人が就労していれば得られたであろう賃金相当額を、同3年10月31日までの3か月間の同人の平均賃金額を根拠に算出して、支払わなければならない。

2 会社は、組合との団体交渉に、組合の組合員A1が出席することを拒んではならない。

3 会社は組合に対し、下記の文書を速やかに手交するとともに、縦2メートル×横1メートル大の白色板に下記の文書と同文を明瞭に記載して会社の正面玄関付近の従業員の見やすい場所に2週間掲示しなければならない。
 年 月 日
X労働組合
 執行委員長 A1様
Y会社      
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
( 1 )令和3年5月17日付けの「綱紀粛正」と題する文書の作成と配付に関与したこと(3号該当)。
( 2 )貴組合員A1氏との嘱託雇用契約を令和3年11月1日以降継続しなかったこと(1号該当)。
( 3 )令和3年12月16日の団体交渉に、貴組合員A1氏の出席を認めないとしたこと(2号該当)。 
判断の要旨  1 会社は、令和3年5月17日付けの「綱紀粛正」と題する文書(「本件ビラ」)の作成又は組合員への配付に関与することによって、組合に対して支配介入したといえるか。(争点1)

(1)本件ビラは、発行元は「X組合を元のように良くする有志の会」(以下「良くする会」)とされ、その内容は、組合員の立場から、委員長A1及び執行部の組合運営には会計面で不審な点があり、私的流用の可能性もあるとして非難し、他の組合員に対し、反執行部である自分たちの意見や活動に賛同するよう呼びかけるものとみるのが相当である。

(2)ー般に、労働組合内部で執行部と反執行部の対立がある場合には、使用者は、組合活動の自主性を重んじ、双方に対し平等に対応し、中立的な態度を保持すべきであって、一方の活動を支援し、他方の弱体化をもたらす行為は労働組合に対する支配介入に当たる。本件ビラの内容は、反執行部が委員長A1を中心とする執行部を非難するものであるのだから、仮に、本件ビラの原案を作成したのは組合員A2氏だとしても、会社が、レイアウトの編集作業や印刷、配付について助力すれば、中立保持義務に違反し、支配介入に該当し得るというべきである。

(3)本件ビラへの会社の関与についてみると、本件ビラが配付された約2か月前に当たる令和3年3月22日に、本件ビラに関連して営業部長(以下「本件部長」)から総務部係長(以下「本件係長」)に対するメール(以下「3.22部長メール」)が、4月19日に社長から総務部係長に対する「ハイタク関連の資料」と題するメール(以下「4.19社長メ一ル」)が、5月19日に社長から顧問社会保険労務士に対するメール(以下「5.19社長メール」)がそれぞれ送信されたことが認められる。
 これらメールの記載及び添付された文書の内容などからすると、会社は、組織として社長の指示の下、中立の立場を逸脱して反執行部の活動を支援ないしは誘導し、A1を中心とする組合執行部を非難する趣旨の本件ビラの作成や配付に深く関与したというのが相当である。かかる会社の行為は、組合に対して支配介入を行ったもので、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 会社が、委員長A1との嘱託雇用契約を令和3年11月1日以降継続しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点2)

(1)まず、会社がA1が執行委員長として組合活動をすることに対し、嫌悪意思を有していたか否かについて検討する。

ア 令和2年頃、新型コロナウイルス感染症の流行下での対応に関して、組合と会社との間で対立があったということができる。

イ また、上記1のとおり、令和3年5月に配付された本件ビラに関し、会社は、組合の反執行部の活動を支援ないしは誘導し、組合運営には会計面で不審な点があるとしてA1を中心とする組合執行部を非難するという行為に深く関与している。
 その後、①令和3年5月 26日頃、組合の金銭の流れが不明瞭でA1は組合を私物化している旨の記載を含む「良くする会」の文書が組合員個人あてに郵送されたこと、②同年7月11日以降、本件税理士に依頼して、組合の財務について調査を行うことになったとする「良くする会」作成の文書が会社施設内に掲示されたこと、がそれぞれ認められる。これらに関連して、社長、本件部長及び本件係長の間や、これら3名と組合員A2氏、本件社労士及び本件税理士との間での電子メールでのやりとりの内容からすると、本件ビラが配付された後も、会社は、組合運営には会計面で不審な点があるとしてA1を中心とする組合執行部を非難するという反執行部の活動を、専門家の助力を得るなどして支援ないしは誘導していたとみるのが相当である。

ウ 以上のことからすると、会社が、A1が執行委員長として組合活動をすることに対し、嫌悪意思を有していたことが推認できる。

(2)これに対して、会社は、A1が70歳に達したことに加えて、勤務状況・勤務態度が不良であり改善の見込みがないことから、本件雇止めを行ったと主張するので、この点についてみる。

ア 会社はA1に対し、1乗務当たりの営業収入が他の乗務員に比べ極めて悪い状況であるとして、令和3年7月30日付け注意書、8月24日付け指導書及び9月13日付け指導書(以下「本件注意書等」)を交付した。
 しかし、会社は少なくとも令和3年4月までは、乗務員に対し注意書等を交付していなかったことが認められ、また、会社が、営業成績等がいかなる場合に注意書等の交付対象とするか、客観的な基準を定めていたとする疎明や、各乗務員について、時期を定めて1乗務当たりの営業収入を算出し、順位付けをしていたとする疎明はいずれもない。
 そうすると、会社は、本件注意書等を交付するに当たり、全乗務員の営業成績をもとに客観的な基準をもって交付対象者を決定していたとはいえず、相当恣意的に、A1に対し本件注意書等を交付したというべきである。
 なお、令和3年4月分から同年10月分の各月の70歳未満の常勤乗務員の営業成績順位表によると、A1の順位は本社約120名の乗務員中100位前後であって、A1と同程度又は下回る営業成績の常勤乗務員が20名程度はいるとみられるところ、会社はA1以外に注意書等を交付した乗務員として7名を挙げるのみで、しかもそのうち4名については、会社が最終陳述において、非常勤乗務員であると主張したことが認められる。

イ 会社は、本件審査手続において、A1以外に営業成績を理由に契約を更新しなかった乗務員として、乗務員C1、C2、C3、C4、C5、C6及びC7の計7名を挙げるが、これらの乗務員について、契約更新を希望したにもかかわらず雇止めされたと認めるに足る疎明はない。かえって、会社が挙げる計7名の従業員のうち従業員C2を除く6名は、自らの意思で退職したというのが相当である。
 さらに、従業員C5、C6及びC7の乗務実績からすると、ほとんど乗務実績のない70歳以上の乗務員を会社が雇用していたとみることもできる。加えて、会社が提出した、令和3年4月分から11月分の各月についての、70歳未満の常勤乗務員の営業成績順位表によれば、会社は、営業成績や乗務実績の如何にかかわらず、原則として乗務員の雇用を継続する方針を採っていたというべきである。
 これらのことからすると、会社がA1以外の乗務員に対し、営業成績の低迷を理由に、本人の意向にかかわらず雇止めをするとの取扱いをしてきたとは到底、みることはできない。

ウ なお、年齢に関しては、令和4年3月9日現在、組合は会社従業員90名を組織していたが、そのうち70歳以上の者は33名であったことが認められ、会社は70歳以上の乗務員を相当数、雇用している。また、会社のホームページのタクシードライバー求人情報と題するべージの記載から、会社は70歳以上の乗務員を雇用する姿勢を取っていたということができる。

(3)以上のとおりであるから、会社はA1に対し、他の乗務員に対するものとは均衡を欠いた差別的な取扱いをし、営業成績や勤務態度等を持ち出して雇止めにしたというべきで、かかる差別的な取扱いの差は、A1が執行委員長として組合活動を行ったことによるものとみるのが相当である。
 したがって、会社がA1との嘱託雇用契約を令和3年11月1日以降継続しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

3 会社が、令和3年12月16日の団体交渉(以下「本件団交」)に、委員長A1の出席を認めないとしたことは、不誠実団交に当たるか。(争点3)

(1)組合は、特段の事情がない限り、組合側の団体交渉出席者の人選を自由に行えるというべきところ、本件部長が組合書記長に対し、本件団交についてA1の出席を認めない旨口頭で通知したことが認められる。
 また、組合が会社に対し、令和3年12月13日付け組合申入書(以下「12.13組合申入書」)にて、A1について本件団交に出席しないようにとの申入れについて書面で提出するよう求めたが、会社は応じなかったことが認められ、会社は、理由を書面で明示せず、一方的に本件団交にA1の出席を認めないことを通知したというべきである。

(2)12.13組合申入書には、本件部長から、A1は会社の従業員ではなく組合の委員長とは認めておらず、〔臨時組合大会において、A1を組合専従者とすることを決議したとの令和3年10月29日組合通知書に対する〕令和3年11月9日付け会社回答書のとおり組合専従者とも認めていないので、本件団交に出席しないようにとの申入れがあった旨の記載があり、また、同回答書には、①組合規約第3条には、組合は会社の従業員を以って組織すると規定されているのだから、従業員でなくなったA1を専従者とすることは、組合規約に抵触する、②A1を専従者とすることは、申立外E組合との協定書(以下「別組合協定書」)の第1項にも違反する旨の記載があることが認められるので、これらについて検討する。

(3)まず、労働組合がどのような範囲の労働者に加入資格を認めるかについては、各労働組合が使用者から独立して自由に決定、変更できることは明らかであって、使用者が労働組合の加入資格に関与したり、意見を述べたりすること自体、労働組合の自主性、自立性を阻害する行為として問題となり得るものである。
 また、別組合協定書については、会社において本来、就労義務のある会社の従業員が組合業務に専従することに関して定められていることは明らかである。そうすると、仮に、組合についても別組合協定書と同内容での運用がなされていたとしても、会社はA1が既に従業員ではないとしている以上、A1の処遇はこの協定書の対象外であり、組合は組合専従者の人選を自由に行えるのであって、この協定書をもって、A1が専従者になることができないとは解せない。

(4)以上のとおりであるから、会社は正当な理由なく、一方的に、A1の団体交渉への出席を認めない旨通知したと判断され、かかる行為は、団体交渉における組合との協議に誠意を欠いた対応をしたものであって、労働組合法第7条第2号に該当する不当労行為である。 
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