労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第13号・第22号・35号・40号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年6月9日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合員A2が行った施設職員のパワーハラスメントに係る相談対応等について、業務時間中の組合活動であるとして、同人に対し戒告処分として反省文の提出を指示したこと、②反省文を提出しなかったことが業務命令違反であるとして減給処分を行ったこと、③戒告処分に関する4回の団体交渉において、誠実に対応しないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 その後、組合は、④大阪府労働委員会による戒告処分に係る審査が行われている中、法人が、職員に対し組合への批判的意見を促し、当該意見を書証として同委員会に提出したことに係る追加申立てを行った。
 大阪府労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第1号及び第3号、③(平成25年2月9日団体交渉に係るものを除く)について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)戒告処分がなかったものとしての取扱い、(ⅱ)減給処分がなかったものとしての取扱い、(ⅲ)①から③までに係る文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合員A2に対する、令和2年3月13日付け指示書による戒告処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

2 法人は、組合員A2に対する、令和2年6月1日付け懲戒処分通知書による減給処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

3 法人は、会社に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y法人     
理事長 B1
 当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合員A2氏に対して、令和2年3月13日付け指示書を交付したこと(1号及び3号該当)。
(2)貴組合員A2氏に対して、令和2年6月1日付け懲戒処分通知書を交付したこと(1号及び3号該当)。
(3)令和2年4月28日、同年6月26日及び同年7月30日に開催された団体交渉における、元師長のパワーハラスメント問題に関する協議において、不誠実な対応を行ったこと(2号該当)。

4 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、組合員A2に対して令和2年3月13日付指示書(以下「指示書」)を交付したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)

(1)まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。

ア 指示書でA2が提出するよう指示された「反省文」は、就業規則第78条第1項第1号で規定されている「始末書」であると解され、その提出は、懲戒処分である戒告として指示されたものであるから、指示書の交付により、A2が不利益を被ったことは明らかである。

イ かかる不利益取扱いがA2が組合員であるが故になされたものか検討するに、A2は組合の法人分会結成当時の分会長で、また、指示書交付当時は組合の副執行委員長であったのだから、指示書による指示(以下「戒告処分」)は、組合活動の中心的人物に対する処分であったといえる。また、指示書交付当時の労使関係についてみるに、組合と法人との間は緊張関係にあった。

ウ 処分理由についてみるに、法人は、令和2年2月25日にA2が、①業務時間中に、②他部署の職員を業務権限を超えた用件で呼び出し、③他部署の職員を動揺させ不安を与えたことが就業規則に定める戒告処分に相当するとして、指示書を交付したといえるが、次のとおり、これらを処分理由としたことには疑問が残る。

 ①について、話合いの面談時間は判然とせず、また、仮に就業規則で定められた時間外に休憩時間を取得したとしても、法人がこれを黙認していたと解されてもやむを得ない状況にあった。

 ②について、A2が〔他部署の〕看護師Gを呼び出したことは、業務上の行為とはいい難い面があったことは否定できないものの、〔F師長のパワハラ問題に係る施設長への〕これまでの申入れと関連性があることなどからすると、一定の理由があったといえ、かつ、そのことを法人も認識できた。法人は、かかる経緯がありながら、ことさら、業務権限外であることのみを取り上げて問題視したものといわざるを得ない。

 ③について、看護師Gらが、A2の行為によって動揺したと認めるに足る疎明はない。

エ 次に、戒告処分に至る手続についてみる。
 まず、平成2年3月3日にC施設の施設長らがA2らと面談し、同年2月25日の話合いについて聞き取りを行ったこと(以下「2.3.3面談」)について検討するに、A2に対して〔処分事由の事実確認の場としての〕目的、趣旨を伝えておらず、その内容についても確認が不十分であるから、当該面談をもって、戒告処分の処分事由について確認したとはいえない。
 したがって、2.3.3面談をまとめた文書をもって(就業規則第78条第2項の)顛末書を不要とすることはできない。また、「顛末書提出を命じるものとする」との同項の規定からすると、面談の内容にかかわらず、本人に対して顛末書の提出を命じるべきであって、この点からも、法人の対応には問題がある。
 これらのことから、法人は、戒告処分に当たり、十分な事実確認を行ったとはいえないのであるから、戒告処分に至る手続には問題があった。

オ 以上のことを総合すると、戒告処分は、組合員A2が組合員であるが故になされた不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(2)次に、戒告処分は、組合活動の中心的人物に対して行われたものであることから、法人は、戒告処分により、法人における組合の影響力を低下させ、組合活動に影響を及ぼしたといえる。したがって、A2に対する指示書の交付は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 法人が、組合員A2に対して令和2年6月1日付け懲戒処分通知書(以下「2.6.1通知書」)を交付したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。

ア A2は、2.6.1通知書により減給を命じられたのであるから、同人が不利益を被ったことは明らかである。

イ そして、A2は、支部結成当時から、法人における組合活動の中心的な役割を担っていたのであるから、同日付け減給処分(以下「2.6.1減給処分」)は、組合活動の中心的人物に対する処分であったといえる。また、A2に2.6.1通知書を交付した当時の労使関係についてみるに、戒告処分当時よりも、さらに緊張関係が高まっていたといえる。

ウ 法人は、A2が戒告処分に従わず、反省文を提出しなかったことが職務上の指揮命令に従わず職場秩序を乱したとして、2.6.1減給処分を行ったとみるのが相当であるところ、戒告処分は不当労働行為に当たるのであるから、これに従わなかったことを理由になされた2.6.1減給処分は、合理性を欠く。

エ 2.6.1減給処分の手続についてみるに、法人は、就業規則の規定に反して、始末書の提出を求めていないとみざるを得ず、そうであれば、法人の就業規則の運用に、恣意的な面があることは否めず、手続に問題がないとまではいえない。

オ さらに、戒告処分から2.6.1減給処分までの経緯についてみるに、法人は、〔2.4.6団交における、コロナ感染拡大に関わる〕組合からの「休戦」提案を考慮することなく、また、令和2年6月2日午後に、令和2年5月21日の実効確保申立てに係る〔労働委員会の〕事情聴取があることを認識した上で、同日午前に、その前日付けの、2.6.1通知書を交付しようとしており、かかる法人の対応は、あまりに性急な対応である。

カ 以上のとおり、2.6.1減給処分は、A2が組合員であるが故になされた不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(2)次に、2.6.1通知書の交付が組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
 組合活動の中心的人物であるA2を、法人が二度にわたり処分することで、法人における組合の影響力を低下させ、組合活動に影響を及ぼしたといえる。したがって、A2に対し2.6.1通知書を交付したことは、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 2.4.28団交、2.5.29団交、2.6.26団交及び2.7.30団交(以下「本件団交」)における組合員A2の戒告処分に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるか。(争点3)

(1)組合は、組合員A2の戒告処分に係る、①F師長のパワハラ問題、②戒告処分に至る手続、③戒告処分が正当か否かに関して、(ⅰ)就業規則上の業務時間、(ⅱ)公平原則の観点、の各議題についての法人の対応及び本件団交の出席者が実質的な交渉権限を有していないことが不誠実団交に当たる旨主張する。

(2)各議題における法人の対応について

ア F師長のパワハラ問題について、2.4.28団交、2.6.26団交、2.7.30団交におけるやりとりをみるに、法人の対応は、組合からの質問に対して真摯に対応したものとはいえず、実質的な協議を行う姿勢を欠いた不誠実なものというべきであるから、不誠実団交に当たる。

イ 戒告処分に至る手続について、法人は一定の説明をしているといえ、本件団交での法人の対応が不誠実団交に当たるとはいえない。

ウ 戒告処分が正当か否かについて、①就業規則上の業務時間について、法人は一定の説明をしているのであるから、本件団交における法人の対応が、不誠実団交に当たるとまではいえず、また、②公平原則の観点について、2.5.29団交において、法人は、A2と看護師Gとで取扱いが異なる理由について一定の説明をしているとみるのが相当である。
 これらのことからすると、戒告処分が正当か否かとの議題に関して、公平原則の観点についての本件団交における法人の対応が、不誠実団交に当たるとまではいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件団交における各議題の法人の対応のうち、2.4.28団交、2.6.26団交及び2.7.30団交におけるF師長のパワハラ問題に係る法人の対応は、不誠実団交に当たる。

(3)本件団交の出席者について、法人は代表交渉員とされている者を出席させており、また、やり取りをみると、代表交渉員に対し、協議に必要な情報等を十分に与えていないとまでみることはできない。したがって、法人側出席者が実質的な交渉権限を有していなかったとまではいえず、法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

(4)以上のとおり、本件団交における法人の対応のうち、2.4.28団交、2.6.26団交及び2.7.30団交におけるF師長のパワハラ問題に係る法人の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

4 看護師Gが2.4.1書面〔注1〕を作成したのは、法人の働きかけによるものといえるか。いえるとすれば、かかる法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)

〔注1〕「・不当労働行為を構成する具体的事実(3)を読んで、全く事実と異なります。」以下の文章からなる令和2年4月1日付けG看護師名の書面

 2.4.1書面は、2-13事件〔注2 指示書の交付に係る申立て〕の申立書を読んだ上で作成されたものであり、当該申立書は法人がF師長に提供したものであるとはいえるものの、これらのみをもって、法人が、看護師Gに対し、2.4.1書面を作成するよう働きかけたとまではいえない。
 これらのことから、看護師Gが2.4.1書面を作成したのは、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

5 法人が、2.4.9書面〔注「在宅事業所意見会」と題する令和2年4月9日付けF師長名の書面〕を、2-13事件の書証として当委員会に提出したことは、組合員A2に対する組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5)

 法人には、本件審査において、組合の主張・立証に対して、反論・反証を行う権利があるのだから、仮に、2.4.9書面が提出されたことにより、法人の主張に有利に働いたとしても、それは、組合が受忍すべきことである。
 また、法人が、A2に対する処分を正当化するために、事実を歪曲して、2.4.9書面を作成したと認めるに足る事実の疎明はない。加えて、2.4.9書面が当委員会に提出されたからといって、直ちに、組合員A2に対する処分が正当化されるものではなく、同書面に疑義があれば、組合は、それに対して反論・反証すれば足りる。
 したがって、法人による2.4.9書面の提出は、A2に対する組合員であるが故の不利益取扱いにも、組合に対する支配介入にも当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。 
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