労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第33号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年3月3日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が、会社との業務委託契約に基づきマンションの管理業務に従事するA1の組合加入を通知し、団体交渉を申し入れた翌日、当該契約を解除したこと、②団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和3年6月24日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が、貴組合が令和3年6月24日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である.と認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員A2は、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるか(争点1)

(1)労働組合法上の労働者は、労働組合活動の主体となる地位にある者であるから、雇用契約によって使用される者に限定されず、雇用契約下にある者と同程度の使用従属関係にある者又は労働組合法上の保護の必要性が認められる労務供給契約下にある者というべきである。本件も、業務委託契約の外形を取っているからといって、委託契約者の労働者性が直ちに否定されるものではなく、組合員A2が労働組合法上の労働者であるかどうかについては、同組合員と会社等との間で交わされた業務に関する合意内容や業務遂行の実態において、従属関係を基礎づける諸要素の有無・程度等を総合考慮して判断する必要がある。

(2)この場合、総合考慮の対象として従属関係を基礎づける諸要素には、「基本的判断要素」として、①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、「補充的判断要素」として、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、「消極的判断要素」として、⑥顕著な事業者性、の6要素があり、以下、A2の業務実態に即して、これら6要素についてみる。

ア 事業組織への組入れについて
 ①会社と業務委託契約を締結した管理員や清掃員がマンション管理や清掃等の業務に従事していたこと、②組合員A2が受託した業務は、「管理員業務」、「清掃業務」等の業務であったこと、③A2が本件マンションの管理業務に従事するに当たり、会社はマンション管理員心得帳(以下「心得帳」)という業務マニュアルを交付し、A2は心得帳を使用した研修を受けたこと、④A2は、毎週月曜日から土曜日までの週6日、午後3時から午後8時までの間、管理員として管理業務を行っていたこと、⑤A2は通常、午後3時前に制服に着替えた後、その日の管理業務に就き、午後8時になれば、フロント担当B2に対し、業務終了を報告するとともに、管理業務の実施内容を会社所定様式の管理日誌に記入することとなっていたこと、⑥A2の主な業務は、共用部分及び敷地を見回りながらの設備等の点検や清掃、管理員室内での待機、管理日誌の記入等であり、住民からの問合せ等があった場合は、B2に報告の上、指示を受けて対応していたこと、⑦A2は、会社から、携帯電話及びCグループ〔注〕の名称が記載された制服の貸与を受けていたこと、⑧A2と同様の会社との契約によりマンション管理業務に従事しているマンション管理員が306名存在し、このうち4名が制服の貸与を受けていなかったこと、がそれぞれ認められる。
 これらのことからすると、本件契約は、A2を労働力として確保する目的で締結されているものとみることができ、また、A2らマンション管理員は、最初に、会社から心得帳を使用した研修を受けた上で、マンション管理業務を行っており、会社が行っているマンション管理業務の中で不可欠ないし枢要な役割を果たす労働力として会社組織内に位置づけられているのといえる。さらに、A2らマンション管理員のほぼ全員がCグループの名称の記載された制服を着用して業務を行っており、会社は、マンション住民など第三者に対してマンション管理員を自己の組織の一部として扱っているものといえる。そうだとすれば、A2を含むマンション管理員は、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の組織に組み入れられていたとみるのが相当である。
 会社は、副業を可としていることを理由に、専属性、ひいては事業組織への組入れが否定される旨の主張をしているが、そのことをもって、労働組合法上の労働者性が直ちに否定されるものとはいえない。

〔注〕Cグループは、持株会社であるC会社の関連会社による企業グループであり、会社(C会社の100%出資子会社)のほかに、D会社(グループの基幹企業として分譲マンションの総合管理を行い、一部のマンション管理を会社に委託)、E会社(D会社とグループ外F会社が共同出資し、F会社が開発した分譲マンションの管理組合から管理業務の委託を受け、その一部をD会社に再委託)等が存在する。

イ 契約内容の一方的・定型的決定について
 本件契約書の内容については契約締結前に会社が一方的に決定したものであり、組合員A2は、そこに記載された「業務範囲及び内容」すら、明確には示されないままに契約書に署名押印したものであり、A2には、本件契約条項を個別に交渉して変更を加える余地はなかったといえる。
 この点、会社は、本件契約の内容は、E会社とマンション管理組合との間の管理委託契約を組合員A2に再委託するものであるところ、マンション管理員という業務の性質上、マンション管理組合との元契約により業務、内容が事前に決められでいるもので、会社が一方的に決定しているものではない旨など主張する。しかし、本件マンションの管理組合とE会社との間で交わされた契約の内容には、A2は関与できないことには変わりがないことなどから、会社主張は採用できない。
 これらのことからすると、会社はA2との契約内容を一方的・定型的に決定していたというべきである。

ウ 報酬の労務対価性について
 組合員A2の報酬額は時間当たりの額を前提として計算されており、定められた業務時間数と比例関係にあったといえ、そうであれば、A2の報酬は、仕事の完成に対する報酬というよりも、業務量や時間に基づいて算出されたものであるということができ、よって、労務の提供に対する対価として支払われていたとみるのが相当である。
 なお、会社は、A2が業務を休んだ場合にも、報酬は満額支払っていた旨主張するが、そのような例外的な休務に対してたまたま報酬の減額がされなかったからといって、報酬の労務対価性が否定されることにはならない。

エ 業務の依頼に応ずべき関係について
 補充的判断要素としての「業務の依頼に応ずべき関係」については、「事業組織への組み入れ」を補強するものとして勘案される要素であるが、組合員A2の業務からすれば、「個別の業務依頼」といったものは存在しないのであるから、A2の労働者性を判断する上で、肯定的にも否定的にも影響しない。

オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について

(ア)広い意味での指揮監督下の労務提供について
 会社は、労務供給についての詳細な指示は存在せず、組合員A2はE会社とマンション管理組合との間の業務委託契約に関する業務を遂行すれば必要十分なので具体的指示は必要ない旨、心得帳による研修はISO9001の認証基準に基づき行ったもので業務の指示には当た-らない旨主張する。
そこで事実関係についてみれば、A2は、心得帳によってマンション住民への対応や作業手順等についての詳細な指示を会社から受けており、また、業務終了時の報告も行ったのであるから、会社の指定する業務遂行方法に従い、広い意味でその指揮監督下において業務を行っていたといえる。
 なお、A2の業務範囲及び内容は、本件契約書の第1条で「元契約記載の『管理員業務』」等として定められているが、そもそも「元契約」であるE会社とマンション管理組合との間の管理委託契約書自体が交付されていないのであるから、A2は、会社の指示なしに、本件契約書のみに基づいて、業務を遂行することは不可能であったといえる。

(イ)一定の時間的場所的拘束について
 組合員A2は、毎週月曜日から土曜日までの週6日、午後3時から午後8時までの間、本件マンションにおいて管理員として管理業務を行っていたことが認められる。
 この点、会社は、業務の中で具体的にどの時間に何をするなどの指定や、必ずこの日は業務を行うようになどの指示を行うことはなく、基本的にA2の裁量に任されていた旨、その他、足りない資材を購入する場合や食事をとる場合などには、本件マンションの敷地内から出ることも自由にしていた旨も主張する。しかし、会社が主張する程度の裁量や移動の自由は、雇用関係であってもありうるものであり、A2はその業務について、一定の時間的場所的拘束を受けていたといえる。

カ 顕著な事業者性について

(ア)会社は、マンション管理員の業務には特有の作業があるため、業務を委託する際にはマンション管理の経験者を優先して契約しているところが単なる従業員とは異なる旨、組合員A2はマンション管理の経験者であった旨主張する。しかし、会社では、未経験者であってもマンション管理員として契約することがあり、未経験者を歓迎する旨の募集広告も行っている。

(イ)会社は、組合員A2が業務を遂行するために必要な資材や事務用品及び機材は会社ではなくマンション管理組合が用意しているものを使う旨主張するが、いずれにせよ組合員A2自身が用意するものではない。

(ウ)会社は、顕著な事業者性を示す事実として、携帯電話や作業服にかかる費用は組合員A2が負担していた旨を主張する。確かにA2は、会社から貸与を受けた携帯電話及び制服の代金として、それぞれ500円及び600円を会社から支払われる金額の中から控除されていたことが認められるが、同時に、会社は、貸与の有無を問わず、携帯電話と制服のレンタル料金等の1,200円を諸経費として、月額委託料とは別に支給していたことからすれば、実質的には、組合員A2はこれらの費用について、負担していなかったとみることができる。

(エ)会社は、「事業組織への組み入れ」に係る「専属性」を有する根拠として、組合員A2に再委託が認められている旨を主張する。本来、再委託が可能であるか否かは顕著な事業者性を判断する要素であるといえるが、本件契約書に記載のある再委託は、個人のマンション管理員に関しては、実際には行われていなかったと推認される。

(オ)以上のことからすると、組合員A2が顕著な事業者性を有しているということはできない。

キ 以上のとおり、組合員A2が、会社との関係において、労働組合法上の労働者に該当するか否かの諸要素をみると、基本的判断要素については、①事業組織へ組み込まれていたとみるのが相当であり、②契約内容について、会社が一方的・定型的に決定していたというべきであり、③報酬についても、労務対価性があったとみるのが相当である。また、補充的判断要素のうち、④業務の依頼に応ずべき関係については、本件契約は、個々の業務を依頼するような内容ではないので、判断要素としでは積極的にも消極的にも影響することはなく、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束についても、これらがあったといえるところである。そして、消極的判断要素としての⑥顕著な事業者性について、A2がこれを有しているということはできない。
 これらのことを総合的に判断すると、A2は、会社との関係において労働組合法第3条の労働者に該当するとみるのが相当である。

2 会社が、令和3年6月16日付けで、組合員A2との契約を解除したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点2)

(1)令和3年6月15日組合要求書(以下「3.6.15組合要求書」)による組合加入通知と団交申入れについて、①令和3年6月15日の昼頃、組合書記長及び組合員1名が会社を訪問し、社長に対し、組合員A2が組合に加入したことを通知するとともに、団交申入れを行ったこと、②要求事項として、「会社は、管理職であるB2氏が、A2に対し『辞めたかったら辞めろ』との契約解除(退職)勧奨やA2を無視するなどのパワハラ行為を直ちに止めさせ、A2に謝罪すること。」との記載があったことが認められる。

(2)会社から組合員A2あてに、令和3年6月16日付けの「2021年6月16日付けで業務委託契約を解除いたしますので、ここに通知します。」と記載された「業務委託契約解除通知書」と題する文書がファクシミリで送信されている。

(3)組合は、3.6.9トラブル(令和3年6月9日、フロント担当B2が用務で本件マンションを訪問した際の、組合員A2とB2の間での何らかのトラブル。以下同じ)の後、何らの話合いや指導等の過程を経ることなく、わずか1週間後に解雇してしまうというのは不自然であるなどとして、社長は、かねてB2から相談のあったA2が組合に加入して団交申入れを行っているという事態を受けて、本件契約解除をしたものである旨主張する。

(4)確かに、3.6.15組合要求書が提出されたときの社長の認識〔注 あて先がE会社であったことをもって、組合員A2はE会社に関係のある者で、E会社に対する申入れだと考え、会社が、A2が組合に加入したことをきちんと認識したのは、会社あてに団交申入書が送付された令和3年6月24日である旨〕や、3.6.9トラブル以降のCグループ内での意思決定の過程についての会社の主張〔社長がD会社に対し、A2との本件契約の解除について伺いを立て、令和3年6月15日、D会社から本件契約を解除するよう回答があった旨〕に疑わしい点があることは否定できないが、だからといって、そのことをもって、本件契約の解除が、A2が組合員であることを理由として行われたものであるとまで判断することは困難である。

(5)Cグループでは、会社が全ての事項について単独で意思決定をできるような体制ではなく、グループ全体で一つの企業体のような組織であると推認されることから、管理員との契約解除に関する決定権は社長にはなく、D会社との協議が必要になるとの社長の証言も、あながち不合理とまではいえない。そうだとすれば、たとえ令和3年6月15日の昼頃、組合が組合員A2の組合加入を通知した段階で、社長が、3.6.15組合要求書に記載されているA2はフロント担当B2から3.6.9トラブルの関係で相談のあった管理員のことであることを認識したとしても、それを理由に同日の夕刻頃に本件契約解除の決定をするというのは、会社が全ての事項について単独で意思決定をできないというCグループ内での組織的な意思決定のシステムを考慮すると、時間的に近接しすぎている。一方、同月9日か10日頃の相談の結果がこの時にD会社からもたらされたという可能性は否定できない。

(6)そして、3.6.9トラブルにおける組合員A2の態様〔注 その翌日である令和3年6月10日から15日まで業務に従事せず、会社にはその理由を腰痛のためと報告していながら、同月10日には組合事務所を訪問して組合に加入し、同月12日に組合書記長と会い、同月15日に組合が会社事務所を訪問するのに途中まで同行したこと等〕は、A2にとっても、本件契約解除が十分予想されるような深刻なものであったと推認されることからも、本件契約解除は、3.6.9トラブルを理由としてその手続に入り、一定の時間をかけてCグループ内で協議の上、同月15日に決定されたとみるのが相当である。

(7)したがって、会社が、令和3年6月16日付けで、本件契約を解除したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるということはできず、そうすると、組合に対する支配介入に当たるともいえない。

3 本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点3)

(1)①令和3年6月24日に組合が団交申入れ(以下「本件団交申入れ」)を行ったこと、②本件団交申入れの団交議題は、本件契約解除の撤回や3.6.15組合要求書の要求事項であるパワハラ行為の中止等であったこと、③同月25日、会社は3.6.25会社回答書により、組合員A2が労働者ではないこと辱を理由に団交に応じない旨の回答を行ったこと、が認められる。
 本件団交申入れの団交議題は義務的団交事項当たることは明らかで、会社は、組合が申し入れた団交に応じなかったといえる。

(2)会社は、本件契約において、組合員A2が労働組合法上の「労働者」であるとはいえないことは明らかであり、それを前提とした本件団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法上の「正当な理由のない団交拒否」には当たらない旨主張する。
 しかし、A2が、会社との関係において、労働組合法上の労働者に当たることは前記判断のとおりであり、上記会社主張は団交申入れに応じない正当な理由とは認められない。かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
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