労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和元年(不)第19号・令和元年(不)第31号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年5月6日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   ①組合の団体交渉申入れに対する法人の対応、②法人が、組合が不当労働行為救済申立て等をしない旨の誓約書を提出しなければ、組合員にのみ夏季一時金を支給しないとの条件を提示し固執したこと、③組合ニュースの学内便での配布に係る法人の対応、④法人が、入試手当に関する協約の締結を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて行わなければ、組合員に同手当を支給できない旨組合に通知したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労委は、①について労働組合法第7条第2号及び第3号、②及び④について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、下記文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
X組合
 執行委員長 A1 様
Y法人      
理事長 B1
 当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)法人が、組合の平成30年12月6日付け団体交渉申入れに対して、同31年3月11日付け書面で、団体交渉での発言等についての謝罪がない限り団体交渉に応じられない旨申立人に通知したこと。(2号及び3号該当)
(2)法人が、組合に対して、令和元年5月23日付け書面、同月28日付け電子メール及び同月29日の協議において、労働委員会への不当労働行為救済申立て、支配介入等の主張等を一切行わない旨の誓約書の提出を、申立人の意思決定過程を証する書面の提示と併せて求めたこと。(3号該当)
(3)法人が、組合に対し、令和元年7月17日付けの書面において、入試手当について、その支給に係る労働協約の締結を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて同月22日までに行わなければ、支給予定日に支給できない旨通知したこと。(3号該当)

2 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団交申入れ(平成30年12月6日付け「ベア及び一時金要求書」をいう。以下同じ)に対する法人の対応は、本件和解協定書(先行事件に係る平成28年6月2日締結の和解協定書をいう。以下同じ)に反し、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)

(1)正当な理由のない団交拒否に当たるか

ア 「本件団交申入れに対する法人の対応が、本件和解協定書に反し、正当な理由のない団交拒否に当たる」旨の組合の主張について

(ア)救済申立てに至るまでの間、本件団交申入れに係る団交が開催されていないことについて、当事者間に争いはない。

(イ)本件和解協定書第6項に「団体交渉の開催日時は、事前に年間スケジュールとして開催日時を定めた場合以外は、当事者双方は、団体交渉申し入れ後、概ね3週間程度で開催する。」との記載があることが認められる。
 しかし、本件団交申入れに対する法人の対応が正当な理由のない団交拒否に当たるかどうかは、申入れの具体的な内容、当事者間のやり取りの状況、団交における協議の状況等を総合的に考慮して判断すべきものである。

(ウ)本件団交申入れについては、
①法人は、本件団交申入れのわずか4日後に、メールにより団交開催に向けて具体的な対応に着手していること、
②本件団交申入れの13日後に行われた30年12月19日団体交渉(以下「30.12.19団交」)から31年2月27日団体交渉(以下「31.2.27団交」)までの3回の団交において、本件団交申入れよりも先になされた団交申入れの議題についての協議が行われていること、
②組合が、本件団交申入れの3日前に2件、また、本件団交申入れ後も、31年2月4日までに計5件の新たな団交申入れをしたこと、
を併せ考えると、法人の対応が本件和解協定書に直ちに反するとまでいうことはできない。

イ 「組合の謝罪がない限り団交を行わないとの平成31年3月11日付け通知書(以下「31.3.11通知書」)による申出は正当な理由に基づくものである」旨の会社の主張について

(ア)31.3.11通知書は、30年10月25日団体交渉(以下「30.10.25団交」)など4回の団交における組合側出席者の発言並びに31.2.21団交要求書の「詐欺的行為」、「偽証」等の文言の記載を理由に、法人が本件団交申入れも含めて組合との団交を実質的に拒否する意思表示をしたものとみるのが相当である。

(イ)そこで、これら団交における組合の発言及び31年2月21日付け団体交渉要求書(以下「31.2.21団交要求書」)の記載が団体交渉拒否の正当な理由といえるかについてみる。
 確かに、組合による団体交渉での「職員の頭は筋肉」「職員は鉄砲玉」「給料泥棒」等の発言及び31.2.21団交要求書記載の「詐欺的行為」、「偽証」等の表現が適切なものであるかは、疑問の残るところである。
 しかしながら、30.10.25団交及び30年11月27日団体交渉(以下「30.11.27団交」)での発言についてはどのようなやり取りの中でなされたか不明である。そして、31年1月16日団体交渉(以下「31.1.16団交」)及び31.2.27団交での発言については、団交で労使の主張が対立する中で法人側の対応を批判する意図でなされたものとみられ、これら発言によって交渉が中断するなどの混乱が生じることもなく協議が進行している。
 また、31.2.21団交要求書記載の「詐欺的行為」等の記載についても、帰属収入に係る法人の予測と現実との乖離を指摘し批判したものとみられ、その後の団交を拒否する理由にはならない。
 そうすると、法人が当該発言等について組合に抗議するのはともかく、団交を拒否する必要まではなかったというべきであり、組合の上記発言等が団交拒否の正当な理由となるとはいえない。

(ウ)したがって、法人は、31.3.11通知書を組合に提出することによって正当な理由なく団交を拒否したものと言わざるを得ない。

ウ 「法人の対応について、組合からの謝罪がない限り団交に応じることができないとの通知を撤回していないことから労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する」との組合の主張について

(ア)法人の対応について
 法人は、31.3.11通知書を組合に提出して団交を拒否した後、候補日を具体的に特定した団交の開催を2回にわたって組合に提案し、団交の実施に応じられないとの回答が組合からなされた後も、本件団交申入れと関連する31.2.21団交要求書に対して書面で回答をし、団交実施の提案について組合の意向を再度確認するなどしており、本件団交要求書に係る団交の実施に向けた働きかけをしていた。
 確かに、法人は、救済申立てに至るまで、31.3.11通知書における組合に対する謝罪要求を撤回していない。しかし、現に、法人は本件団交要求書に係る団交の実施に向けた働きかけをしていたのであるから、一連の労務課長らのメールにおいて、組合からの謝罪がなくても団交に応じる旨が明記されていなくとも、法人は、謝罪要求を一旦保留した上で団交の開催を提案したものとみるのが自然である。

(イ)組合の対応について
 組合は、法人が31.3.11通知書で本件団交要求書に係る団交を拒否する意思表示に対して抗議をし、その後の団交実施に向けた法人の働きかけに対しては、団交に応じないという姿勢をみせていた。 また、仮に、開催した団交の場で法人が謝罪を要求したとしても、.組合はこれを拒否することができるのであるから、組合が法人の提案する団交に応じることに、特段の支障はない。

(ウ)以上を併せ考えると、法人が31.3.11通知書によって団交拒否の意思表示をした後に団交が開催されなかったのは、組合の対応に起因するものとみるのが相当であり、この時期の法人の対応が正当な理由のない団交拒否であるということはできない。

エ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する法人の対応のうち、31.3.11通知書で、団体交渉での発言等について組合の謝罪がない限り団体交渉に応じられない旨組合に通知したことは、正当な理由なく団交を拒否したものと言わざるを得ない。

(2)組合に対する支配介入に当たるか

 当該法人の対応は、団交拒否の正当な理由とはならない組合の団交での発言等をとらえて、組合に対して単に謝罪を求めただけでなく、団交実施の差し違え条件として謝罪を迫ったものであって、組合の運営に介入したものと言わざるを得ず、組合に対する支配介入に当たる。

(3)以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する法人の対応のうち、31.3.11通知書によって、組合の謝罪がない限り団交に応じられない旨、組合に通知したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

2 令和元年度夏期一時金の支給について、法人が、組合に対して、令和元年5月23日法人書面(以下「1.5.23法人書面」)、同月28労務課長メール及び令和元年5月29日協議において、労働委員会への不当労働行為救済申立て、支配介入等の主張等を一切行わない旨の誓約書の提出を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて求めたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか

 法人のこれら行為は組合に対して行われたものであって、個々の組合員に対して直接行われたものではないから、そもそも組合員であるが故の不利益取扱いと評する余地はない。したがって、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(2)組合に対する支配介入に当たるか

ア 令和元年度一時金を要求事項として含む本件団交申入れについて、組合の対応も一因となって団交が開催されていない状況において、団交を行わずに組合員に夏期一時金を支給した場合に、組合による不当労働行為救済申立て等新たな労使紛争に発展する可能性を想定することは、法人の対応として、理解できなくもない。
 しかしながら、不当労働行為救済申立ては、憲法第28条における団結権等の保障を実効的にするために労働組合法によって認められた権利であって、法人が労使紛争の回避を理由に、その権利を事前に放棄することを一方的に組合に迫ること自体、労働組合法を無視した行為というほかない。

イ しかも、法人は、そのように労働組合としての権利の行使を制約する内容の誓約書の提出を求めるにとどまらず、それが組合の正式かつ適法な意思決定手続を経た上で作成されていることを証する組合総会決議の議事録の写し等の提出をも求めている。
 かかる法人の対応は、平成31年4月24日の大阪地方裁判所判決(以下「31.4.24判決」)を根拠にしたものとみられるが、法人が組合に1.5.23法人書面を提出する1か月前に言い渡された同判決は、労働協約について組合の当時の執行委員長の締結権限の有無を判断したものであることが認められ、労働協約と性質の全く異なる上記誓約書の効力に関して、必ずしも根拠となるものではない。
 そうすると、法人の対応は、直近に出された判決の内容を自らに有利に解釈し、それを理由に組合の内部文書の提出を求めたものと評するほかなく、合理性は認められない。

ウ さらに、夏期一時金支給の条件として、労働協約の締結についての組合の意思決定過程という組合の内部手続について、それを証明する書面の提示を求めること自体、組合の自治を侵害するものと言わざるを得ない。

エ しかも、令和元年度夏期一時金の支給について、1.5.29昼協議において、組合が暫定協約を締結し、後日、総会で承認を得る努力をする旨表明しているにもかかわらず、法人は、組合に対し、暫定協約書の効力について組合執行部としては争わないことを約する執行委員長名の書面を自ら準備した上で組合に提示し、押印を一方的に求めたのであって、かかる法人の対応は、組合執行部、ひいては組合そのものを軽視するものというほかない。
 そして、組合は、法人からのかかる不合理な書面の提出要求を拒否した結果、令和元年度夏期一時金の要求を含む本件団交申入れを撤回することとなり、組合活動を大きく制約されたものと言わざるを得ない。

オ 以上のことからすると、法人の行為は、正当な理由がないばかりか、組合の自治を侵害するものであり、かつ、それによって組合は組合活動を大きく制約されたのであるから、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 令和元年6月24日組合ニュース(以下「1.6.24組合ニュース」)の配布に係る法人の対応は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)

(1)(組合ニュースの一部を教職員に配布せず無断廃棄した法人の行為が組合に対する支配介入に当たることの前提としての)「28.4.15団交において法人が総務課分室の各部署宛てメ一ルボックスを利用して組合ニュースを全教職員に配布することを認めていた」旨の組合の主張について

 平成28年4月15日団体交渉(以下「28.4.15団交」)において、法人は、協議の中で、協定なしで組合が組合ニュースを総務課に設置しているメールボックスを自由に利用して配布することを了承する旨述べてはいるものの、法人が責任をもって組合ニュースを各教職員に配布するとまでは明言しておらず、このことからすると、法人が組合ニュースを全教職員に配布するとの明確な取決めがなされたとはいえない。
 そして、組合ニュースの配布は、本来、組合自身が行うべきものであり、これを法人が教職員に配布することは特段の便宜供与に当たるというべきであるから、明確な取決めがなされていない状況において、組合ニュースを全教職員に配布することを法人が約したということはできない。
 以上のとおりであるから、28.4.15団交における労使間の合意は、組合が組合ニュースをメールボックスに投函することを法人が了承したにとどまり、法人が組合ニュースを全教職員に配布することまで含むものではなかったとみるのが相当である。

(2)「法人が1.6.24組合ニュースの一部を教職員に配布せず廃棄したことが、組合活動や組合ニュースの内容を嫌悪し、組合の情宣活動を妨害する不当労働行為意思に基づいて行われたもので、組合に対する支配介入に当たる」旨の組合の主張について

ア 法人が1.6.24組合ニュースの一部を教職員に配布しなかったことについて

 そもそも、法人に組合ニュースを全教職員に配布する義務はないことからすると、組合が総務課の各部署宛てのメールボックスに投函した1.6.24組合ニュースが全教職員に配布されなかったとしても、そのことについて法人が責めを負うとはいえず、法人の対応に不合理な点はない。したがって、法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

イ 法人が1.6.24組合ニュースを廃棄したことについて

 組合ニュースの配布に係る考え方の説明などの対応を取ることなく、1.6.24組合ニュースを廃棄した又は担当者らが廃棄するのを放置した法人の対応が、適切であったとは言い難い。
 しかしながら、組合ニュースの配布は本来組合自身が行うべきものであること及び法人に組合ニュースを全教職員に配布する義務があったといえないことを併せ考えると、1.6.24組合ニュースの一部を教職員に配布せず廃棄した法人の対応は、殊更に組合の情宣活動を妨害することになることを認識、認容してなされたものとまではいえない。
 したがって、法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。

(3)以上のとおりであるから、法人の対応は、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

4 入試手当について、法人が、組合に対し、令和元年7月17日法人書面(以下「1.7.17法人書面」)において、その支給に関する協約の締結を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて令和元年7月22日までに行わなければ、同月31日に支給できない旨通知したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)

(1)法人は、1.7.17法人書面において、労働協約を締結することとともに、組合の意思決定過程を証明する書面を5日以内に提示することを、入試手当を支給予定日に支給するための条件として求めたものとみることができる。そこで、法人のこの対応に正当な理由があるかについてみる。

(2)法人は、労働協約の締結について組合の意思決定手続を確認することは、31.4.24判決の内容を踏まえて当然のことであると主張する。
 しかしながら、そもそも、団体名義の書面の効力が争われるという事態は、同判決を引き合いに出すまでもなく、一般的に生じ得るものである。しかも、同判決が、組合の当時の執行委員長に労働協約の締結権限があったとはいえないと判断する一方で、最終的には労働協約が有効であると判断していることが認められる。
 そうすると、31.4.24判決の内容を理由に組合の意思決定過程を証明する書面の提示を求めた法人の対応は、同判決の内容のうち自らに有利な部分のみを殊更取り上げ、それを理由に組合の内部文書の提出を求めたものと評するほかなく、正当な理由があるとはいえない。

(3)さらに、入試手当の支給の条件として、組合の意思決定過程という組合の内部手続について、それを証明する書面の提示を求めること自体、組合の自治を侵害するものであるし、また、5日以内という通常では考え難い短期間での対応を一方的に求めたことは、組合を軽視するものと言わざるを得ない。

(4)しかも、令和元年7月17日協議において、法人が、1.7.17法人書面同様、労働協約の締結及び組合総会決議の議事録等の組合の意思決定過程を証明する書面の提示を、入試手当を支給予定日に支給するための条件として固執し続けた結果、組合は、平成30年12月3日(付け入試団交申入書による)団体交渉申入れを撤回せざるを得なくなったことが認められるのであり、組合は、法人のこの対応により、組合活動を大きく制約された。

(5)以上のとおり、法人の行為は、正当な理由がないばかりか、組合の自治を侵害するものであり、かつ、それによって組合は組合活動を大きく制約されたのであるから、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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