労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第43号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1財団・Y2財団 
命令年月日  令和4年3月15日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、国立C施設の管理運営業務を受託していたY1財団が、受託期間の終了に伴い、組合員A1及びA2を雇止めし、入札により当該業務を受託することとなったY2財団が、採用試験において両名を不採用としたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労委は、Y2財団による両名の不採用について労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、Y2財団に対し、(i)両名の採用試験の不採用をなかったものとし、C施設の職員として採用したものとして取り扱わなければならないこと、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じるとともに、Y1財団に対する申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y2財団は、X組合の組合員A2及び同A3に対する採用試験の不採用をなかったものとし、同人らを令和2年4月1日付けで採用したものとして取り扱わなければならない。

2 2財団は、本命令書受領の日から1週間以内に下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を5 5センチメートル× 8 0センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、C施設内の職員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
年 月 日 
X組合
 執行委員長 A1殿
Y2財団    
理事長 B2
 当財団が、貴組合の組合員A2氏及び同A2氏を採用試験で不採用としたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 Y2財団は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

4 Y1財団に係る申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1財団とY2財団との関係について

(1)組合らは、Y1財団とY2財団とが一体であり、Y1財団がY2財団の意思決定を事実上支配していると主張する。
 確かに、Y1財団とY2財団との関係については、①Y1財団の前身であるY01財団がY2財団の前身であるY02財団を設立した経緯があり、②Y1財団の理事長B1がY2財団の評議員を務めていたり、Y2財団の理事長B2がかつてY1財団の常務理事を務めているなど、役員の兼務や交流があり、③Y2財団の収入の過半がY1財団からの助成金であり、④それぞれの会長が相互に「直轄」であるとか、「親財団」であると認識していることなどが認められるため、両財団は、極めて密接な関係にあることがうかがえる。

(2)また、C施設等の管理運営業務委託に限ってみると、Y2財団は、平成31年度(令和元年度)の入札への応札を見送ったものの、令和2年度にY1財団が応札しないことを決定した際には、Y1財団は、Y2財団に応札の検討を依頼している。これを受けたY2財団は、実際に応札している。この入札は、価格だけでなく入札参加者からの提案も受託者決定に当たっての評価の対象となるものであるところ、Y2財団が厚生労働省に提出した技術提案書は、Y1財団から元年度に提供を受けたものを基に作成されており、Y1財団のものと多くの共通点がある。そうすると、Y2財団は、極めて密接な関係にあるY1財団との関係に基づき、2年度のC施設等の管理運営業務委託の入札において、Y1財団からその業務運営方針やノウハウ等を引き継ぐ意思をもって応札したものとみることができる。
 さらに、Y2財団が受託者となった令和2年4月1日付けのC施設の組織と人事は、Y1財団常務理事B3がY2財団の顧問として引き続きC施設の運営に関与し、幹部職員の多くも出向関係等が変わるだけでY1財団時代と同じ者が引き続き担当しており、しかも、これらについては、Y1財団の専務理事B4が調整したというのであるから、Y2財団は、Y1財団の人的体制を基本的には引き継いだとみることができる。

(3)このようにY1財団とY2財団は密接な関係にあり、特にY2財団の受託に至る経緯において密接な関係が認められる本件においては、Y2財団による不採用が、従前の雇用関係であるY1財団との関係において、組合員であることを理由とする不利益な取扱いに当たるという事情が存在する場合には、不当労働行為に当たるというべきであり、Y2財団が、使用者としての責任を負う立場にあるというべきである。

(4)一方、Y1財団は、2年3月31日にA2及びA3を雇止めとしているが、これは、C施設の管理運営業務の受託期間終了に伴い、組合員であるか否かにかかわらず全ての職員に対して契約更新を行わなかったものであるから、同日での両名の雇止めそのものについて、不当労働行為の成立を認めることはできない。
 また、Y1財団とY2財団とは、別個に公益財団法人として認定された別法人であり、両団体に密接な関係が認められるとしても、両団体が事実上一体であるとか、Y1財団がY2財団の意思決定を事実上支配しているとまで認めるに足りる事情はうかがわれないため、Y2財団による4月1日からのA2及びA3の雇入れの拒否(不採用)について、Y1財団の行為であるとみることはできない。
 よって、Y1財団による両名の雇止めの撤回に係る申立てについては、棄却とせざるを得ない。

(5)したがって、以下、Y2財団が、2年4月1日からのC施設の職員の採用に当たり、A2及びA3を不採用としたことについて、不当労働行為の成否を判断する。

2 組合らとY1財団との関係について

(1)Y1財団におけるA2及びA3の状況

 Y1財団におけるA2及びA3の状況に関し、A2については、〔運営委員及び語り部である〕Kとの関係が悪化したことがきっかけとなって、遅くとも平成30年度後半までには、館長B5、直属の上司であるY1財団事業部長B6、事業部の学芸員らとの人間関係が悪化して、A2の業務遂行にも支障が生ずるようになった。
 A3については、30年11月半ば頃、館長B5から「辞めろ、辞めちまえ、辞めさせてやる。」などと言われている。
 A2及びA3は、これらを館長B5、Y1財団事業部長B6や事業部の学芸員らからのハラスメントの結果であると主張して、ハラスメントの中止と再発防止をY1財団に要求するべく令和元年9月24日に分会を結成した。

(2)組合らとY1財団との関係

 組合らは、Y1財団に対し、C施設において、A2、A3及びA4に対する館長B5、Y1財団事業部長B6や事業部の学芸員らからのハラスメントがあると主張し、その対応などを要求して6回の団体交渉を行うとともに、Y1財団の団体交渉における対応の問題点を記載した分会ニュースをD療養施設の入所者及びその自治会などのC施設の関係先に送付している。送付先の中でも全国のD療養施設の入所者は、E協議会の協力の下、C施設の前身のC0施設の設立に当たって中心となった存在であり、しかも10年近くその運営を自ら担っていたのであるから、C施設を運営するY1財団及び館長B5に与える影響は少なくないものと考えられる。また、全国のD療養施設の入所者の自治会は、E協議会を組織しており、C施設の名称(「C資料館」)がE協議会の意向を踏まえて決定されていることを考えれば、入所者の自治会が組織するE協議会もまたC施設の運営に対して強い発言力を有しているものと考えられる。
 そして、令和2年2月に厚生労働省がY1財団によるC施設の運営の在り方について学芸員を中心にヒアリングを行った結果をまとめた書面には、平成30年度の組織改編及び人事異動によってE協議会とのコミュニケーションがうまくとれておらず、信頼が失われる事態が生じている旨の記載があることから、当時のY1財団においては、E協議会との信頼関係の回復が課題となっていたことがうかがえる。
 そのような状況下で、2月1日付けのE協議会ニュースに「健全な運営を目指して」、「C施設に労働組合誕生」と題した記事が掲載され、現状のC施設運営への批判とともに、組合らの主張するハラスメントの問題等も取り上げられた。このことは、Y1財団のC施設運営を批判する組合らの活動がE協議会によって支持されていることを意味しているとみられ、E協議会との信頼関係の回復が必要なY1財団にとっては深刻な問題であったと考えられる。
 加えて、組合らは、3月9日に記者会見を行い、Y1財団のC施設等の運営に問題があるとして、組合らの主張するハラスメントの問題等を発表するとともに、その内容を分会のホームページにも掲載した。この記者会見を受けた記事が新聞に掲載され、Y1財団は、B3常務理事がC施設の職員を集めて説明を行うなどの対応を余儀なくされた。
 このように、C施設等の運営への批判を広く外部に訴える組合らの活動は、Y1財団にとって好ましくないものであったことがうかがわれ、特にE協議会との信頼関係の回復の妨げとなることを、Y1財団が強く警戒していたことが推認される。

3 Y2財団の採用試験について

(1)Y2財団は、令和2年度のC施設等の管理運営業務を受託するに当たって、C施設の職員として雇用するか否かを判断するために採用試験を実施することとし、その中で多面評価を実施した。多面評価は、一般には、既に雇用されている従業員の勤務成績評価として、上司、部下、同僚などから多面的に評価する手法であり、Y2財団がこの手法を採ること自体が、従前の雇用契約における人間関係を前提としているといえる。
 また、Y2財団が委託した事業者の「360度評価(多面評価)」では、通常50問の質問に回答するのがスタンダード版とされているところ、Y2財団は、理事長B2及びY1財団顧問B7の判断で9項目の質問にしており、しかもその設問の多くがコミュニケーションに関係するものである。C施設の業務にコミュニケーションが重要であるとしても、広い角度から評価する多面評価を採用しながら、評価(質問)項目をコミュニケーションに関係する9項目のみに限定するのは極めて不自然である。これを実施した場合、職場の人間関係に関わる主観的な評価が反映されやすくなり、評価が恣意的なものとなる可能性は否定できない。そして、実際、A2及びA3の多面評価点は、他の職員よりも極端に低くなっている。Y2財団は、このような結果が出ることを意図して多面評価を実施したのではないかと疑われるところである。また、Y1財団へ出向しているなど有期雇用ではないC施設の管理職等(Y1財団事業部長B6外3名)が、多面評価には評価者及び被評価者として参加していることからも、多面評価が純然たる採用試験とはいえず、従前の雇用関係において職場におけるハラスメントの中止などを求める組合活動を公然と行っていたA2及びA3が低評価となる結果を得ようとする意図のあったことが疑われる。

(2)採用試験総括表におけるA2の不採用理由には、「洞察力やコミュニケーション力に欠けており、組織の中で様々な人間と連携して物事を進めていくという学芸員としての基本的資質も不足していると判断せざるを得ないため、不採用としたい。」と記載されているが、A2の面接試験におけるやり取りではC施設における同人とほかの職員との連携状況についての質問はなかったのであるから、同試験のやり取りのみからこのような具体的な評価を行うことは困難であるとみられ、上記記載は極めて不自然なものである。
 A3の不採用理由には、「ある特定の協力者や自分の考え方に同調する学芸員とは連携できるが、異なる考えを持つ人間と協調しながら、より質の高い業務に従事していくという資質に欠けている」、「物事を自分の感性のみで判断し、広く客観的な意見を受け入れる寛容性が感じられず、他者との協調にも支障をきたすのではという危惧があるため、不採用としたい。」と記載されている。A3の面接におけるやり取りではA4以外のC施設の職員との業務上の連携状況については質問されていないこと及び面接試験の時間はわずか20分程度であったことを考えると、面接のみからこのような具体的な評価を行ったとみるのは困難であり、上記記載は極めて不自然なものである。
 上記各記載は、A2及びA3が職場におけるハラスメント問題の解決や雇用の継続を求めて組合活動を行っていたという事情をY2財団が知った上で、それを踏まえて評価したものではないかとの疑いを禁じ得ない。

(3)以上のことを総合すると、Y2財団は、Y1財団との従前の雇用関係において組合活動を行っていたA2及びA3について、採用試験で不利になるように多面評価を実施するとともに、面接試験においても、面接内容だけでは必ずしも明らかになっていない点も加味して採否の検討をしたことが強く疑われる。

4 Y2財団がA2及びA3を不採用としたことについて

 Y1財団の常務理事B3は、Y2財団が2年度のC施設の管理運営業務の受託者として厚労省によって決定された2年2月27日以降、Y2財団の理事長B2に対し、Y1財団が組合らと団体交渉をしていること、その団体交渉において組合員らの雇用を継続してほしいという要求があったことを伝えている。
 Y2財団は、遅くともA2及びA3の面接試験日である3月15日の前までに、3月9日の組合らの記者会見やその内容を掲載した分会のホームページ、3月10日の新聞記事や組合委員長〔当時〕A5の理事長B2への電話によって、A2及びA3が組合員であることや、組合らが、Y1財団に対し、C施設の運営やハラスメント問題について、追及していたことなどを認識していたと認められる。
 また、Y2財団は、①Y1財団がC施設の管理運営業務を受託する以前からC施設や全国各地のD療養施設に併設されているF会館と連携して様々な事業を実施したり、助成金を交付したりするなどしていたこと、②元年度中からC施設等の管理運営業務委託の入札説明会に参加し、Y1財団から技術提案書の提供を受けて、自らの技術提案書を作成していたこと、③Y1財団とY2財団とは極めて密接な関係にあることからすると、元年9月24日の分会結成後、相当早い時期から、C施設の関係先に対する自らの情報収集や、Y1財団からの情報提供に基づき、分会の存在やその活動内容等を把握していたとみるのが相当である。
 そして、①Y2財団は、Y1財団のC施設の業務運営方針やノウハウ等を引き継ぐ意思をもって応札するとともに、基本的には、Y1財団の人員体制を引き継いだとみることができ、②C施設運営への批判やハラスメント問題等を広く外部に訴える組合らの活動は、Y1財団にとって好ましくないものであり、特にE協議会との信頼関係の回復の妨げとなることをY1財団が強く警戒していたのであり、③Y2財団の採用試験における多面評価の実施方法や、採用試験総括表におけるA2及びA3の不採用理由が極めて不自然であり、Y2財団は、Y1財団から同人らの消極的な評価についての情報の提供を受けて、それも加味して採否の検討をしたことが疑われる。
 さらに、2年3月29日のA2による私物の展示品(古銭)引取り〔注Y1財団は、当該行為が窃盗罪に当たるとして警察署に被害届を提出〕に係るY1財団やY2財団の対応から、Y1財団及びY2財団が、組合員であるA2、A3及びA4のC施設内における組合活動に対して極めて強い警戒心を有していたことがうかがわれる。
 これらのことを総合的に考慮すると、A2及びA3が分会を結成し、全国のD療養施設の入所者及びその自治会といったC施設の重要な関係先に対して、Y1財団のC施設等の運営を批判する組合活動を行っていることを、Y2財団が、Y1財団とほとんど一体となって警戒し、C施設の管理運営業務の受託に当たっての採用試験の不合格という形式を装い、同人らをC施設から排除したものであるといわざるを得ない。

5 したがって、Y2財団が、A2及びA3について、採用試験で不採用にすることで、2年4月1日からのC施設における雇入れを拒否したことは、従前の雇用関係のあるY1財団との関係において同人らが組合員であること及び同人らの組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるというべきである。
 そして、当該不当労働行為がなければ、A2及びA3は、 2年4月1日付けでY2財団に採用され、引き続きC施設の学芸員として勤務を続けていたと認められるので、主文第1項のとおり命ずることとする。 
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