労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和4年(不)第50号
バンドー産商不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年5月23日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が2回にわたって申し入れた、組合員A2の解雇問題、パワーハラスメント等8項目を協議事項とする団体交渉に会社が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)団体交渉に、速やかに、かつ、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠実に応じなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を、組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が、令和4年7月26日付け及び8月4日付けで貴組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 組合は、A2の加入を受け、同人の解雇問題、パワーハラスメント、解雇予告手当等について本件申立て前に令和4年7月26日付け及び8月4日付けの2度の団体交渉申入れを行った。しかし、会社は、組合の要求には一切応じない旨を7月27日付け及び8月4日付けの電子メールにより回答したのみで、団体交渉に応じることはなかった。
 そして、会社は、本件審査手続において、その理由について何ら具体的な主張をしていないが、不当労働行為は一切行っていない旨を答弁しているため、当委員会としては、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か、以下検討する。

(1)会社がA2の使用者であったこと及び会社が組合からの団体交渉申入れに応じていないことには争いがない。

(2)次に、4年7月26日付け及び8月4日付けの団体交渉申入書で組合が申し入れた協議事項(「その他」は除く。)が義務的団体交渉事項に当たるか否かについてそれぞれ検討する。
① 解雇問題に関して

 A2は、7月15日の社長との話合いにおいて、一旦は、社長のいじめがこのまま続くのであれば退職したいと述べたが、その後、「明日から立ち直って頑張りますので、どうか私の間違いを容赦してくださいますようお願い申し上げます。」などと記載した電子メールを送信しており、謝罪の上、翌日以降も就労する意向があることを社長に伝えた。
 それにもかかわらず、社長は、7月1 5日及び同月16日、A2に電子メールで「辞表」ないし「退職届」の提出、会社が用意したアパートからの退去等を求めた。これに対し、A2は、7月15日を最後に就労していないものの、会社に「辞表」や「退職届」は提出していない。
 その後、組合の団体交渉申入れに対し、会社は、A2が自主退職したと回答しており、A2の雇用終了が「解雇」であるかどうかについて労使の認識が一致していなかった。
 したがって、A2の雇用終了が「解雇」であるかどうかも含め、会社と同人との間には、雇用の終了という労働条件に関する未解決の問題が存在していた。

② パワーハラスメントに関して

 7月14日、社長はA2に対し2度電話を掛け、「バカ」、「バカ野郎」などと何度も発言した。A2はこれを苦にして、社長に対し、一旦は、社長のいじめがこのまま続くのであれば退職したいと述べ、また、社長に6月27日から7月15日まで毎日バカなどと何回も連発され侮辱された、違法行為や侮辱を告発するなどと電子メールで訴えた。
 これに対し、社長は、侮辱したのはA2の方である、3週間いじめられたなどと言っているが、私は叱咤、激励、訓練をしたのであり、そのことをA2はいじめと勘違いしたなどと電子メールで返信したのみであり、社長の言動に対する双方の認識には大きな隔たりがあった。その後、A2と会社との間で話合いがなされた事実は認められない。
 組合は、上記社長の言動をハラスメントと認識し、団体交渉での協議を申し入れたところ、ハラスメント問題は労働条件に関する事項であって、A2が就労できなくなった経緯からしてもこのことは重要な労働問題であったというべきであり、これについてA2と会社との間で話合いがなされず未解決の状態が続いていた。

③ 解雇予告手当の支払に関して

 A2の雇用終了が解雇であるか自主退職であるか、組合と会社の間で認識が対立しているところ、仮に解雇であれば労働基準法第20条第1項の解雇予告手当の支払義務が会社に発生していた可能性がある。そして、このことは組合員であるA2と会社との間の労働条件に関する未解決の事項である。

④ 健康保険証の解約に関して
⑤ 年金手帳の返還に関して
⑦ 退職証明書の発給に関して

 これらは雇用関係の終了に当たって発生する事務的な手続であり、雇用関係の清算に関する未解決の事項である。

⑥ 6月3 0日付け「返済額」に関して

 A2は、会社からの「A2宛の費用」という書面を見た上で、会社に対する航空券費用やアパート賃料等毎月の返済額が、自らが認識していた金額より高額であったことから、この金額の根拠や計算方法などについて疑問を持つに至ったと思われる。
 このことは労働契約の締結に伴い発生した会社とA2との金銭の負担額を巡る問題であり、雇用関係の清算に関する未解決の事項である。

 上記の①ないし⑥のとおり、組合の申し入れた協議事項は、全て会社と組合員A2との間の未解決の労働条件に係る事項であって義務的団体交渉事項に当たるから、会社は団体交渉に応ずべき立場にあったといえる。

(3)本件における会社の対応をみると、会社は、組合からの7月26日付団体交渉申入れに対し、同月27日付電子メールで、〔組合の〕認可官庁、該当する法律、執行委員長及び担当者の身分証明書並びにA2からの委任状を求め、さらに、組合からの8月4日付団体交渉申入書に対しても、「そもそも組合の法的立場、自身の身分も明かさず、あなたたちは何者か。」などと返信し団体交渉を拒否しており、組合が正当な団体であるのかどうかに強い疑義を持っていることが窺われる。
 しかし、本邦において労働組合は自由設立主義であり許認可の制度はないが、労働組合が不当労働行為救済申立てを行った場合には、労働委員会が資格審査を行い労働組合法上の労働組合であるか否かを判断する制度となっており、本件申立人である組合については、本件の合議に先立ち当委員会で資格審査が行われ、適法決定がなされたところである。
 そして、組合は、7月26日付及び8月4日付団体交渉申入書において、組合の名称、住所、電話番号、ファクシミリ番号及びメールアドレス、執行委員長の氏名、交渉の議題がA2の解雇問題等であることなどを明らかにして団体交渉申入れを行っており、会社がさらに執行委員長及び担当者の身分証明書まで確認しなければ団体交渉ができない理由は見いだせないし、会社が、組合がどのような団体であるのか疑問を持っているとしても、そのことは必要に応じて団体交渉の中で確認されるべきものであり、組合が会社の求めに応じないことをもって団体交渉を開催しない正当な理由には当たらない。

(4)上記(1)ないし(3)で検討したとおり、会社が本件申立ての調査手続終了時に至るまで組合からの団体交渉申入れに応じていないことについて、何ら正当な理由は見いだせない。
 したがって、組合が4年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

3 以上の次第であるから、組合が令和年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する。 
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