労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和3年(不)第23号
あおぞら銀行不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年1月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合員A2に対し、①出勤停止3日間の懲戒処分を行ったこと、②非管理職層への降格及び人事部附への異動を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②のうち人事部附への異動について労働組合法第7条第1号及び3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2を速やかに人事部附以外の部署に配属させること、(ⅱ)文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合員A2を、速やかに人事部附以外の部署に配属させなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を5 5センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社本店の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
中央執行委員長 A1殿
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が貴組合の組合員A2氏を令和3年4月1日付けで人事部附に配置転換したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件降格について

(1)会社では、令和3年4月から、職務等級の再編により、M6及びM7等級はⅣ等級に移行することとなったところ、A2は、入社以来、M6又はM7等級の管理職層の職位にあったが、令和3年4月1日発令の非管理職層への降格(以下「本件降格」)によりⅢ等級の非管理職層となった。

(2)会社が問題視するA2の行動をみると、A2は、管理職層であったにもかかわらず、上司の命令に従わなかったり、周囲には非難、侮辱又は威圧的と受け取られ得る対応を行ったり、周囲との間であつれきを生むなどの数々の問題行動があったといえ、同人が管理職として、社内の模範となり、後進を指導・育成し、円滑なコミュニケーションを促進して組織をマネジメントしていくことはもはや困難であったと会社が判断したことにも、相応の根拠があったといえる。

(3)会社は、A2の管理職としての資質について、(令和2年8月13日の)同人の組合加入前から問題視していたことが認められ、その上で、会社が同人について、グループメンバーの模範となり、指導・育成やマネジメント能力が求められる管理職層にはふさわしくないと判断して本件降格を行ったことにはそれ相応の理由があるといえ、管理職を選任する上で認められる使用者の広範な裁量をも考慮すると、本件降格という帰結自体に限れば、著しく不合理な判断とまで評価することはできない。したがって、本件降格は、A2が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いであるということはできず、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。

2 本件配置転換について

(1) 令和3年4月1日、会社は、部署の再編を行い、A2が所属していたFPグループがFAO(ファイナンシャル・アドバイザー・オフィス)に統合され、FPグループが消滅した。A2は、総合職の一般行員として会社に入社し、FP業務に従事してきたが、令和3年4月1日発令の人事部附への異動(以下「本件配置転換」)により、同人は、週3日は出社、週2日は在宅勤務を基本とし、出勤時は来客用応接室に一人配置され、レポートを作成することとなり、他の社員とやり取りをしたり、交流をすることはなくなった。

(2)A2には、FPグループ内において周囲には非難、侮辱又は威圧的と受け取られ得る対応を行ったり、周囲との間であつれきを生むなどの数々の問題行動があり、会社が、同人を、周囲との人間関係が引き継がれるFAOに配属させることができないと判断したことにはそれなりの理由があるといえる。

(3)しかしながら、人事部附に配属したことについては、以下のとおりその必要性に疑問が生ずる。

ア A2は総合職として採用されており、これまでの人間関係が引き継がれない他の部署へ配属させることも制度上可能であったにもかかわらず、本件配置転換に当たって会社がその検討をしたことは認められない。

イ 会社では、同時期に人事部附となってA2と同様の職場環境で同様の業務を遂行していた社員は存在せず、また、過去においても人事部附となった事例は、次の配属部署が決まるまでの間や、退職を予定している場合など一時的なものであったと考えられるところ、会社は、A2に他の社員とトラブルが生じていたことから安易に他の部門に配属できず、ひとまず人事部附に配置転換するほかなかったと主張しながらも、本件配置転換後約1年半が経過する本件結審日時点までA2をその状況に据え置いており、他の事例と比べて異例の対応であるといわざるを得ない。

ウ A2に作成を命じたレポートを会社がどのように活用していたかも不明であり、その業務上の必要性に疑問が残る。

エ 加えて、A2が会社において管理職としては適格性を欠くとしても、そのことから直ちに、同人が人事部附以外の非管理職の業務には適格性がないとまではいい難い。

(4)そこで、本件配置転換前後の組合と会社との関係について、以下検討する。

ア 組合と会社との間では、本件懲戒処分をめぐって第2回(令和2年11月6日)及び第3回団体交渉(同年12月7日)が行われ、組合がA2の処分の撤回を求めるなど、労使の間で鋭く対立していた。そして、会社は、A2に対する注意の具体的時期や内容といった未回答の部分もある中で、組合が更なる説明を求めて団体交渉を申し入れていたのに対し、これを軽視し、具体的な説明をせず、交渉を打ち切る姿勢をみせていた。

イ 令和3年2月24日、会社の人事担当部長B2らがA2と面談して退職勧奨を行い、A2が組合と相談するため即答は難しい旨応じた翌日に話をすることを持ち掛けるなど、会社は、退職勧奨についてA2が組合と相談し、組合が団体交渉を申し込んでいたにもかかわらず、A2と直接話をしようとする姿勢をみせていた。

ウ 加えて、第3回団体交渉までは対面で開催されていたが、その後、新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置の適用や緊急事態宣言はあったものの、感染症をめぐる状況は変動していたにもかかわらず、会社は、対面での団体交渉を拒否する姿勢をみせていた。

エ これらから、会社は、当初は解決に向けて組合とも協議を行っていたが、次第に、本件懲戒処分を受け入れようとせず、団体交渉を重ねて求めてくる組合を疎ましく思い、組合との更なる交渉を忌避していたことがうかがわれる。

(5)また、A2は、内部通報や東京労働局長への紛争解決援助の申出、社長へのメール送信により上司への不満等を訴えていた。その上で、A2は、さらに組合に加入し、本件懲戒処分の撤回を求めるなど組合の力を借りて精力的に活動している。
 これに対し、会社は、新たな懲戒処分をほのめかして反省の意思を明記した始末書の提出を求め、早急に収束させる方向で対応してほしいと通知するなどしており、同人の組合活動を疎ましく思っていたことは容易に推認できる。

(6)そして、会社は、本件配置転換前後において退職勧奨を重ねている。さらに、本件配置転換の態様は、A2一人を客用応接室に配置して、他の社員とのやり取りや交流のない中で、必要性に疑問のある調査レポートの作成を命ずるのみであるという異様なものであった。
 こうした経過からみると、会社は、A2を退職誘導し、会社から同人を排除しようとしていたことが認められ、本件配置転換の真の目的は、同人に退職勧奨を受け入れさせるために行われたのではないかとの疑いも否定できない。

(7)以上のとおり、会社がA2をFAOに配属させることができないと判断したことには相応の理由はあるものの、人事部附に配属したことについての業務上の必要性は疑問であり、同人を人事部附に配属したことは不自然であるといわざるを得ない。そして、本件懲戒処分をめぐって労使が鋭く対立していた中で、会社は、組合を軽視し、退職勧奨について組合が交渉を求めていたにもかかわらず、組合を通さずにA2と直接話をしようとするなど組合との更なる交渉を忌避しようとしていたことが認められる。また、本件懲戒処分に納得せず、会社からの始末書提出の指示に素直に従わず、組合の力を得て団体交渉で会社を追及しようとするA2を会社は疎ましく思い、同人を会社から退職させようとしていたことが認められる。
 そうすると、本件配置転換は、組合の存在を嫌悪していた会社が、組合員として自身の懲戒処分撤回等の活動を行っていたA2を退職誘導して職場から排除し、ひいては会社から排除することを企図して組合を弱体化させるために行ったものであったといわざるを得ない。
 したがって、本件配置転換は、A2が組合員であること及び組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たり、また、組合の運営に対する支配介入にも当たる。

3 救済方法について

 主文第1項及び第2項のとおり命ずることが相当であるが、主文第1項によりA2を人事部附以外の部署に配属させるに当たっては、同人の就労環境に十分配慮し、同人が社員として業務が遂行できるようにしなければならない。 
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